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- 若者消費の現在地(4)推し活が映し出す、複層的な消費の姿~データで読み解く20代の消費行動
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2025年10月10日
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1――はじめに~推し活が映し出す、若者消費の複層性
これまで本シリーズ1では、若者の消費行動を多角的に分析してきた。第一弾では、限られた予算の中で「ここには積極的に投資する/抑える」という意識的な選択を行う「メリハリ消費」の実態を明らかにした。第二弾では、情報や選択肢があふれる時代における「選ばない消費」に注目し、若者が状況に応じて「自分で決める/任せる」を柔軟に使い分けている様子を捉えた。第三弾では、「自分で積極的に選びたい消費」に焦点を当て、消費ジャンルごとに異なる主体性の表れ方を分析した。
これら三回の分析を通じて一貫して見えてきたのは、若者の消費行動が単純なコスパ・タイパ志向では括れない複層的な構造を持つという点である。そして、その複層性を象徴する存在として、分析の随所で浮かび上がってきたのが「推し活」だった。
前回の分析にて、推し活は趣味とは異なる「合理・社会複合型」の消費スタイルに分類され、推し活が単なる娯楽消費にとどまらず、自己表現、コミュニティ形成、情報収集、そして経済活動が絡み合う領域であることが示唆された。
最終回となる本稿では、この「推し活」に焦点を当て、その実態を分析する。実際に若者は推し活にどの程度の金額を費やしているのか。そして、推し活は彼らの価値観やライフスタイルにどのような影響を与えているのだろうか。シリーズの締めくくりとして、推し活の輪郭を描き出したい。
なお、分析にはこれまでと同様に、ニッセイ基礎研究所が2025年6月に1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に住む20代を対象に実施したインターネット調査2のデータを用いる。
1 久我尚子「若者消費の現在地(1)メリハリ消費の実態~データで読み解く20代の消費行動」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/9/22)、「若者消費の現在地(2)選択肢があふれる時代の「選ばない消費」」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/9/29)、「若者消費の現在地(3)こだわりが生む選択の主体性」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/10/8)
2 「若者の消費行動に関する調査」、調査時期は2025年6月、調査対象は1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に住む20代、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答数318、基本属性は性別は男性50.9%、女性49.1%、年齢は20~24歳48.7%、25~29歳51.3%、属性の詳細は付表参照。
これら三回の分析を通じて一貫して見えてきたのは、若者の消費行動が単純なコスパ・タイパ志向では括れない複層的な構造を持つという点である。そして、その複層性を象徴する存在として、分析の随所で浮かび上がってきたのが「推し活」だった。
前回の分析にて、推し活は趣味とは異なる「合理・社会複合型」の消費スタイルに分類され、推し活が単なる娯楽消費にとどまらず、自己表現、コミュニティ形成、情報収集、そして経済活動が絡み合う領域であることが示唆された。
最終回となる本稿では、この「推し活」に焦点を当て、その実態を分析する。実際に若者は推し活にどの程度の金額を費やしているのか。そして、推し活は彼らの価値観やライフスタイルにどのような影響を与えているのだろうか。シリーズの締めくくりとして、推し活の輪郭を描き出したい。
なお、分析にはこれまでと同様に、ニッセイ基礎研究所が2025年6月に1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に住む20代を対象に実施したインターネット調査2のデータを用いる。
1 久我尚子「若者消費の現在地(1)メリハリ消費の実態~データで読み解く20代の消費行動」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/9/22)、「若者消費の現在地(2)選択肢があふれる時代の「選ばない消費」」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/9/29)、「若者消費の現在地(3)こだわりが生む選択の主体性」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/10/8)
2 「若者の消費行動に関する調査」、調査時期は2025年6月、調査対象は1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に住む20代、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答数318、基本属性は性別は男性50.9%、女性49.1%、年齢は20~24歳48.7%、25~29歳51.3%、属性の詳細は付表参照。
2――推し活経験の有無~東京圏20代の6割超が経験あり、女性・未婚・20代前半で多い傾向
若者が特定の「推し」(アイドル、俳優、アニメキャラ、Vtuber、スポーツ選手など)に対して推し活3をした経験の有無をたずねた結果を見ると、全体では「現在している」割合は約半数(49.4%)であり、「以前していた」割合(13.5%)をあわせると、東京圏に住む20代の62.9%に「推し活」経験があることになる(図表1)。
属性別に見ると、推し活経験者が全体と比べて多いのは、女性(現在している53.2%、以前していた20.5%、両者をあわせた経験ありは73.7%)や未婚者(同52.0%、同13.9%、同65.9%)であり、未経験者が多いのは男性(47.5%)や既婚者(55.6%)である。また、経験のある層は20代後半(60.7%)より前半(65.2%)で、子あり(48.3%)より子なし(64.4%)で、職業別には公務員・会社員(64.6%)で多い傾向がある。ただし、個人年収別には600万円未満では大きな違いは見られない(個人年収600万円以上はサンプル数が少ないため参考値)。
つまり、推し活は女性や20代前半、未婚や子どもがいないといった時間や可処分所得の自由度が高い層で積極的に行われる一方で、経済的条件に大きく左右されない点に特徴があり、若者に広く根付いた消費スタイルと言える。
属性別に見ると、推し活経験者が全体と比べて多いのは、女性(現在している53.2%、以前していた20.5%、両者をあわせた経験ありは73.7%)や未婚者(同52.0%、同13.9%、同65.9%)であり、未経験者が多いのは男性(47.5%)や既婚者(55.6%)である。また、経験のある層は20代後半(60.7%)より前半(65.2%)で、子あり(48.3%)より子なし(64.4%)で、職業別には公務員・会社員(64.6%)で多い傾向がある。ただし、個人年収別には600万円未満では大きな違いは見られない(個人年収600万円以上はサンプル数が少ないため参考値)。
つまり、推し活は女性や20代前半、未婚や子どもがいないといった時間や可処分所得の自由度が高い層で積極的に行われる一方で、経済的条件に大きく左右されない点に特徴があり、若者に広く根付いた消費スタイルと言える。
3 「推し活」とは関心や愛着を持つ特定の対象に対して、時間・お金・気持ちなどのリソースを注いで応援する活動全般とし、ファンクラブへの加入、ライブ・イベント参加、グッズ購入、SNSでの応援、配信視聴、投げ銭などを例示した。
3――推し活費の水準~半数は月5千円未満、3割は1万円以上
「現在、推し活をしている」との回答者に対して、月平均支出額をたずねると、全体では幅広く分布しているが、最も多いのは「月千円~5千円未満」(28.7%)であり、次いで「月5千円~1万円未満」(22.3%)、「月1万円以上」(21.0%)、「月千円未満」(19.7%)が約2割を占めて続く(図表2)。なお、「月3万円以上」(8.3%)をあわせると、月1万円以上(29.3%)は約3割存在する。
属性別に見ると、公務員・会社員を除くと、いずれも「月千円~5千円未満」が最も多く、次いで「月5千円~1万円未満」が続く層が多い。公務員・会社員では「月5千円~1万円未満」(29.6%)が約3割を占め、さらに「月3万円以上」(11.1%)も比較的多いことから、背景には安定した収入があると考えられる。
つまり、推し活への支出は月千円未満から3万円以上まで幅広く分布しており、それぞれの経済状況や関わり方に応じて柔軟に調整されている。また、約半数が月5千円未満に収まる一方で、約3割は月1万円以上を投じており、推し活が若者にとって一定の価値を持つ支出項目として位置づけられている様子が読み取れる。
なお、前稿で見た主体性、すなわち「自分で積極的に選びたい」消費ジャンルとして「推し活」を選択した回答者の月平均支出額を見ると、5千円未満が38.1%(全体では48.4%)にとどまり、全体と比べて支出額が多い傾向がある。つまり、より強い主体性を持って推し活に関わる層ほど、より多くの金額を投じる傾向があり、「自分で選ぶ」という意識が支出額にも表れている。
属性別に見ると、公務員・会社員を除くと、いずれも「月千円~5千円未満」が最も多く、次いで「月5千円~1万円未満」が続く層が多い。公務員・会社員では「月5千円~1万円未満」(29.6%)が約3割を占め、さらに「月3万円以上」(11.1%)も比較的多いことから、背景には安定した収入があると考えられる。
つまり、推し活への支出は月千円未満から3万円以上まで幅広く分布しており、それぞれの経済状況や関わり方に応じて柔軟に調整されている。また、約半数が月5千円未満に収まる一方で、約3割は月1万円以上を投じており、推し活が若者にとって一定の価値を持つ支出項目として位置づけられている様子が読み取れる。
なお、前稿で見た主体性、すなわち「自分で積極的に選びたい」消費ジャンルとして「推し活」を選択した回答者の月平均支出額を見ると、5千円未満が38.1%(全体では48.4%)にとどまり、全体と比べて支出額が多い傾向がある。つまり、より強い主体性を持って推し活に関わる層ほど、より多くの金額を投じる傾向があり、「自分で選ぶ」という意識が支出額にも表れている。
4――推し活の価値観・ライフスタイルへの影響~出費増、楽しみの拡張、人間関係の変化
さらに、「現在、推し活をしている」・「以前していた」との回答者に対して、推し活によって価値観やライフスタイルにどのような変化があったかをたずねると(複数選択)、全体で最も多いのは「出費全体が増えた」(41.0%)であり、次いで「趣味や楽しみ方が広がった」(36.5%)、「(推し活を通じて)新しい友人や仲間ができた」(24.0%)、「(推し活のために節約意識が高まり、)他の出費を抑えるようになった」(21.5%)と2割台で続く(図表3)。
属性別に見ると、男性では「(推し活を)理解してもらえず、関係に摩擦が生じた」(16.5%、全体より+7.5%pt)が、女性では「出費全体が増えた」(49.6%、同+8.6%pt)や「趣味や楽しみ方が広がった」(43.5%、同+7.9%pt)が多い。また、20~24才でも「趣味や楽しみ方が広がった」(47.5%、同+6.5%pt)が多い。
個人年収別には200万円未満では人間関係の形成や深まりが、200~400万円未満では趣味の広がりが、400~600万円未満では人間関係の深まりに加えてSNS発信や自己表現の変化が、それぞれ全体より多い傾向が見られる。ただし、各層で「特に変化は感じない」との回答も一定数存在する。
つまり、様々な層で「趣味の広がり」や「新しい友人づくり」といったポジティブな変化が目立つ一方で、男性では「理解してもらえず摩擦が生じた」との回答が比較的多く、推し活に対する社会的受容の度合いに性別差がうかがえる。また、年収水準によって影響の現れ方にも違いが見られ、収入が高い層ほどSNS発信や自己表現といった能動的な変化が見られ、経済的余裕が推し活を通じた自己実現の幅を広げている様子が確認できる。
属性別に見ると、男性では「(推し活を)理解してもらえず、関係に摩擦が生じた」(16.5%、全体より+7.5%pt)が、女性では「出費全体が増えた」(49.6%、同+8.6%pt)や「趣味や楽しみ方が広がった」(43.5%、同+7.9%pt)が多い。また、20~24才でも「趣味や楽しみ方が広がった」(47.5%、同+6.5%pt)が多い。
個人年収別には200万円未満では人間関係の形成や深まりが、200~400万円未満では趣味の広がりが、400~600万円未満では人間関係の深まりに加えてSNS発信や自己表現の変化が、それぞれ全体より多い傾向が見られる。ただし、各層で「特に変化は感じない」との回答も一定数存在する。
つまり、様々な層で「趣味の広がり」や「新しい友人づくり」といったポジティブな変化が目立つ一方で、男性では「理解してもらえず摩擦が生じた」との回答が比較的多く、推し活に対する社会的受容の度合いに性別差がうかがえる。また、年収水準によって影響の現れ方にも違いが見られ、収入が高い層ほどSNS発信や自己表現といった能動的な変化が見られ、経済的余裕が推し活を通じた自己実現の幅を広げている様子が確認できる。
なお、月々の推し活費別に、推し活による価値観・ライフスタイルの変化を見ると、支出額によって影響の現れ方に段階性が見られる(図表4)。
月千円未満では「特に変化は感じられない」(22.6%、全体より+9.1%pt)が多い。月千円~5千円未満では出費増の認識が、月5千円~1万円未満では生活リズムや自己肯定感、節約意識の変化が見られる。「自己表現の方法が変わった」(17.1%、同+5.6%pt)が多い。
月1万円~3万円未満では「他の時間や予定が減った」(48.5%、同+30.0%pt)が全体を大幅に上回るほか、自己表現、人間関係、SNS発信など幅広い項目で全体を上回っている。
つまり、支出額が多いほど価値観やライフスタイルへの影響は大きく、その変化も多面的になる。少額では「変化なし」との回答が多い一方、一定額を投じる層では節約意識や生活リズムの変化につながり、高額層では自己表現や人間関係、時間の使い方にまで広がっている。特に月1万円以上の層では「他の時間や予定が減った」が約半数に上り、推し活が生活の中で大きな位置を占めている様子がうかがえる。
月千円未満では「特に変化は感じられない」(22.6%、全体より+9.1%pt)が多い。月千円~5千円未満では出費増の認識が、月5千円~1万円未満では生活リズムや自己肯定感、節約意識の変化が見られる。「自己表現の方法が変わった」(17.1%、同+5.6%pt)が多い。
月1万円~3万円未満では「他の時間や予定が減った」(48.5%、同+30.0%pt)が全体を大幅に上回るほか、自己表現、人間関係、SNS発信など幅広い項目で全体を上回っている。
つまり、支出額が多いほど価値観やライフスタイルへの影響は大きく、その変化も多面的になる。少額では「変化なし」との回答が多い一方、一定額を投じる層では節約意識や生活リズムの変化につながり、高額層では自己表現や人間関係、時間の使い方にまで広がっている。特に月1万円以上の層では「他の時間や予定が減った」が約半数に上り、推し活が生活の中で大きな位置を占めている様子がうかがえる。
5――おわりに~若者消費の現在地が示すもの
本稿では、「若者消費の現在地」シリーズの最終回として「推し活」に焦点を当て、その実態を分析した。東京圏に住む20代の6割超に推し活経験があり、支出額は月千円未満から3万円以上まで幅広く分布していた。推し活は性別やライフステージによって経験率に差はあるものの、経済的条件に大きく左右されない点に特徴があり、若者に広く根付いた消費スタイルと言える。
さらに、推し活がもたらす影響は幅広く、出費が増える一方で、趣味の広がりや新しい友人づくり、自己肯定感の向上といったポジティブな変化が多く見られた。支出額が多いほど影響は大きく、高額層では自己表現や人間関係、時間の使い方にまで変化が及んでいる。推し活は単なる娯楽消費にとどまらず、若者の生活に多様な影響を与える行動として位置づけられる。
本シリーズ全体を振り返ると、現代の若者消費には一貫した特徴が浮かび上がってくる。第一弾で明らかにした「メリハリ消費」は、限られた予算の中で「ここには積極的に投資する/抑える」という意識的な選択を示していた。第二弾の「選ばない消費」では、情報や選択肢があふれる時代において、若者が状況に応じて「自分で決める/任せる」を柔軟に使い分けている様子が見えた。第三弾の「選びたい消費」では、ジャンルごとに異なる主体性の発揮のされ方を分析し、若者の消費行動はジャンルによって「日常・こだわり型」「合理・社会複合型」「流行・社会参照型」「基盤的・慎重型」の4類型に整理できることを示した。
そして、最終回となる本稿で取り上げた「推し活」は、これら全ての要素を併せ持つ、若者消費の複層性を象徴する存在だった。推し活は、自分で選ぶ主体性と、コミュニティを通じた社会性の両面を持ち、少額からでも参加でき、深く関われば生活の中心にもなる。物質的な豊かさとは異なる価値を消費行動に組み込みつつある点で、若者消費の新しい局面を映し出している。
シリーズの冒頭で問いかけたように、若者は「ただ節約する」のではなく、自分なりの価値基準を持って消費対象を選択している。その選択は時に戦略的であり、時に柔軟であり、時に主体的である。本シリーズを通じた分析は、若者の消費行動が単なる支出行動にとどまらず、価値観やライフスタイルの変化と密接に結びついていることを示している。
足元の経済環境は改善傾向にはあるものの、若者が将来を思い浮かべた時に決して楽観できるものではない。物価上昇や将来に対する不安を抱えながらも、若者は限られた資源の中で、自分らしい生き方や楽しみ方を見出そうとしている。推し活への支出は、単なる消費行動にとどまらず、生活を充実させるための投資と見る視点が、若者消費を理解する上でも重要だろう。
データは時に厳しい現実を映し出すが、同時に新しい可能性の芽も教えてくれる。本シリーズが、若者の消費行動の変化を読み解く一助となり、今後の市場や社会を考える際の手がかりとなれば幸いである。
さらに、推し活がもたらす影響は幅広く、出費が増える一方で、趣味の広がりや新しい友人づくり、自己肯定感の向上といったポジティブな変化が多く見られた。支出額が多いほど影響は大きく、高額層では自己表現や人間関係、時間の使い方にまで変化が及んでいる。推し活は単なる娯楽消費にとどまらず、若者の生活に多様な影響を与える行動として位置づけられる。
本シリーズ全体を振り返ると、現代の若者消費には一貫した特徴が浮かび上がってくる。第一弾で明らかにした「メリハリ消費」は、限られた予算の中で「ここには積極的に投資する/抑える」という意識的な選択を示していた。第二弾の「選ばない消費」では、情報や選択肢があふれる時代において、若者が状況に応じて「自分で決める/任せる」を柔軟に使い分けている様子が見えた。第三弾の「選びたい消費」では、ジャンルごとに異なる主体性の発揮のされ方を分析し、若者の消費行動はジャンルによって「日常・こだわり型」「合理・社会複合型」「流行・社会参照型」「基盤的・慎重型」の4類型に整理できることを示した。
そして、最終回となる本稿で取り上げた「推し活」は、これら全ての要素を併せ持つ、若者消費の複層性を象徴する存在だった。推し活は、自分で選ぶ主体性と、コミュニティを通じた社会性の両面を持ち、少額からでも参加でき、深く関われば生活の中心にもなる。物質的な豊かさとは異なる価値を消費行動に組み込みつつある点で、若者消費の新しい局面を映し出している。
シリーズの冒頭で問いかけたように、若者は「ただ節約する」のではなく、自分なりの価値基準を持って消費対象を選択している。その選択は時に戦略的であり、時に柔軟であり、時に主体的である。本シリーズを通じた分析は、若者の消費行動が単なる支出行動にとどまらず、価値観やライフスタイルの変化と密接に結びついていることを示している。
足元の経済環境は改善傾向にはあるものの、若者が将来を思い浮かべた時に決して楽観できるものではない。物価上昇や将来に対する不安を抱えながらも、若者は限られた資源の中で、自分らしい生き方や楽しみ方を見出そうとしている。推し活への支出は、単なる消費行動にとどまらず、生活を充実させるための投資と見る視点が、若者消費を理解する上でも重要だろう。
データは時に厳しい現実を映し出すが、同時に新しい可能性の芽も教えてくれる。本シリーズが、若者の消費行動の変化を読み解く一助となり、今後の市場や社会を考える際の手がかりとなれば幸いである。
(2025年10月10日「基礎研レポート」)
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03-3512-1878
経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/10/10 | 若者消費の現在地(4)推し活が映し出す、複層的な消費の姿~データで読み解く20代の消費行動 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2025/10/08 | 若者消費の現在地(3)こだわりが生む選択の主体性~データで読み解く20代の消費行動 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2025/09/29 | 若者消費の現在地(2)選択肢があふれる時代の「選ばない消費」~データで読み解く20代の消費行動 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2025/09/22 | 若者消費の現在地(1)メリハリ消費の実態~データで読み解く20代の消費行動 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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若者消費の現在地(4)推し活が映し出す、複層的な消費の姿~データで読み解く20代の消費行動
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【若者消費の現在地(4)推し活が映し出す、複層的な消費の姿~データで読み解く20代の消費行動】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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