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2025年10月07日

株主資本コストからみた米国株式~足元の過熱感の実態は?~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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1――はじめに

2022年下旬以降、米長期金利が4%前後で推移するなど高金利下が続いているにも関わらず、米国株式は高パフォーマンスが続いている。S&P500種株価指数は2023年7-9月や2025年2-4月など一時的に下落する場面があった。それでも直ちに値を戻す展開となり、おおむね右肩上がりで上昇し、史上最高値を更新し続けてきている【図表1】。

S&P500種株価指数は足元、6,700ポイントに乗せている。初めて3,300ポイント台をつけたのがちょうど2020年1月であった。つまり、5年8カ月程度で株価が2倍以上になるほど上昇したわけである。
【図表1】 S&P500種株価指数 と 長期金利
その一方で、米国株式は過熱感も懸念され続けてきた。実際に2023年以降、米国企業の業績拡大が続き、S&P500種株価指数の予想EPSも上昇基調が続いていたが、それ以上に株価が上昇していたため、予想PERの水準が切りあがっている【図表2】。

S&P500種株価指数の予想PERは、2022年に一時16倍を下回っていたが、足元では23倍を超えている。現時点では来期2026年14%、さらに再来期2027年13%の大幅増益が期待されているが、足元の2027年の予想EPSをもとに予想PERを計算しても、20倍程度までしか下がらない状況である。

コロナ・ショック後の2020年から2021年にかけても20倍台を超えていたが、当時は米長期金利が2%未満の低金利下にあり、低金利によって高PERが許容されていた面がある。そのことを踏まえると、足元では2020年から2021年以上に割高感が意識されやすいといえる。

そこで本稿では、このように過熱感が懸念されていながらも高パフォーマンスが続いている米国株式の株価に織り込まれている株主資本コスト(以後、株主を省略して単に資本コストと表記)について確認し、今後の動向を考えていく。
【図表2】 S&P500種株価指数の予想EPSと予想PERの推移

2――資本コストと成長率の同時推計

2――資本コストと成長率の同時推計

2020年以降の米国株式を考えるうえで、高PERにも表れているように成長期待がポイントとなっている。そこで、残余利益モデル:
残余利益モデル
を変形した益回りとPBRの逆数の関係式(式2)から、資本コストと成長率を同時推計した:
変形した益回りとPBRの逆数の関係式
実際には、2025年9月時点のS&P500種株価指数構成銘柄を対象に予想益回りを被説明変数、予想PBRの逆数を説明変数としてクロスセクションの回帰分析を各月末に行った。ただし、S&P500種株価指数の構成銘柄といえども、時価総額(ドットの大きさ)に偏りがある【図表3】。特に最近は高成長期待の超大型ハイテク銘柄が米国株式をけん引してきた。そのため通常の回帰分析を行うと、成長期待を過小評価する可能性があり、そもそもS&P500種株価指数自体も時価総額加重であるため、各月末時点の時価総額で加重して回帰分析を行った。
【図表3】 2025年9月末時点のS&P500種株価指数構成銘柄の縦軸「予想益回り」と横軸「予想PBRの逆数」の分布
なお、(式2)の左辺の予想益回りの時価総額加重平均(紫線)は、実際のS&P500種株価指数の予想益回り(青線)、つまり予想PER(【図表2】の青線)の逆数とほとんど差異がなかった【図表4】。本推計は簡便的であるが、S&P500種株価指数の傾向ととらえて問題ないと考えている。
【図表4】 S&P500種株価指数の予想益回り

3――推計結果と考察

3――推計結果と考察

S&P500種株価指数に織り込まれている資本コスト(【図表5】紺線)は、やはり2022年下旬以降は先ほど確認した益回りと同様に低下基調であった。ただし、益回りは2012年以降で最も低水準になっていたが、資本コストの水準は時系列にみて足元でもそこまで低水準になっていなかった。

これは株価に織り込まれている成長率(【図表5】緑線)が、2018年以降は上昇していたためである。それまで4%程度だったのが2018年頃に5%に上昇し、さらにコロナ禍(ハイライト部分:2020年2月から2021年2月)を経て、2021年以降は6-7%ともう一段上昇している。つまり、米国株式は成長期待を考慮した資本コストで見ると、予想PERや益回りほどは過熱感がないことが分かる。
【図表5】 同時推計した資本コストと成長率の推移
そのことは、資本コストと長期金利のスプレッドの推移からもうかがえる【図表6】。米国株式のリスク・プレミアムとも呼べる資本コストと長期金利のスプレッドは概ね5%から9%の範囲内で推移している。長期金利とのスプレッドが以前は3%以上あったものの、足元ではなくなってしまった益回りほどは、スプレッドが縮小していないことが分かる。
【図表6】 同時推計した資本コストと長期金利のスプレッド

4――最後に

4――最後に

ただし、2025年に入ってから資本コストの低下が顕著で、資本コストと長期金利のスプレッドが5%を下回ってきている。米国では9月のFOMCで実際に利下げが実施されるなど、利下げ期待が高まっており、今後の利下げやそれに伴う長期金利の低下を見越して株価が上昇したため、スプレッドが縮小した面が大きいと思われる。

その一方で、米国株式に織り込まれた成長率は2025年に入ってから低下し、株価が上昇に転じた4月以降も上昇していない。成長期待が高まらない中で株価が上昇したため、米国株式の割高感が高まっているようにも見ることができる。

米国株式の利益成長期待は、S&P500種株価指数のEPS長期成長予想やサステナブル成長率の推移を見ても2018年以降、特に2021年以降に一段と高まっている傾向があることがうかがえる【図表7】。しかし、実際の予想増益率(【図表7】面グラフ)はEPS長期成長予想やサステナブル成長率より劣後している場面が多く、米国株式全体だと必ずしもその期待に応えられているとはいえない状況である。2021年以降、定常的に米国株式の利益成長力が高まっているのかは、現時点で分かりかねる。

そのため、再び2024年以前のように利益成長期待が高まるのか、それとも落ち着いてきてしまうのか注目される。このまま成長期待の低下と株価の上昇という乖離が続けば、足元の米国株式は振り返ってみたときにプチ・バブルであったといわれることになるかもしれない。
【図表7】 S&P500種株価指数のEPS長期成長予想とサステナブル成長率の推移
いずれにしても、米国株式は米国での利下げやそれに伴う長期金利の低下による下支えが、今後も続くことが見込まれる。ただ、成長期待が再び高まってこないと割高感も意識され、長期金利が低下している割には株価が上昇しない、上値の重い展開が続く可能性もあるだろう。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月07日「基礎研レポート」)

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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

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