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図表でみる世界の出生率-出生率が高い国・地域と低い国・地域、それぞれにどんな特徴があるのか?

三尾 幸吉郎
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1――低迷する日本の出生率

これまでの経緯を簡単に振り返ってみると、戦後の第一次ベビーブーム(1947~49年)・第二次ベビーブーム(1971~74年)を経て、1970年代後半から住宅や教育コストの増大、育児と仕事の両立困難性、非正規雇用の増加、「子は少なくても質を高く育てる」と考える家族観の主流化などから、非婚化・晩婚化・晩産化が徐々に進展、日本の合計特殊出生率は下がっていった。そして1990年代に入ると、毎年のように過去最低を更新するようになったため危機感が強まり、1994年には「エンゼルプラン」、1999年には「新エンゼルプラン」と少子化を食い止めるための対策が本格化していった。その後、2010年前後には第二次ベビーブーム世代(団塊ジュニア)が出産のラストチャンス期を迎えたのに加えて、リーマンショック後の景気回復や子ども手当(現在の児童手当)など経済的な育児支援による後押しにより、日本の合計特殊出生率は反転上昇した。但し、それも一時的なものにとどまり、再びじりじりと低下している。他方、日本の人口は、合計特殊出生率が人口置換水準を下回った後もしばらくは、栄養、衛生、医療などの改善により増加を続けていたが、2010年をピークに減少に転じている。
1 15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、一人の女性が一生の間に産むと推定される子供の平均数を示す指標。
2――世界の出生率~少子化に悩む国・地域を中心に

一方、欧米諸国で最も低いウクライナは、ソ連崩壊後の経済低迷で人口流出が起きたことや非婚化・晩婚化・晩産化など家族観の変化、2014年以降の紛争・2022年以降の全面戦争などを背景に、合計特殊出生率は急低下した。2番目に低いイタリアは若者の高い失業率や非正規雇用の多さなど経済的要因や「マンマ文化」と呼ばれる母親を中心とした家族観を背景に、非婚化・晩婚化・晩産化が進んだのに加え、保育施設の不足など制度的対策の不足もあって低い。3番目に低いスペインはイタリアに似た構造で、「若者が親元を離れにくい→独立が遅れる→出産が遅れる→子供が少ない」という状況にある。
近隣アジアの合計特殊出生率を概観して見ると(図表-6)、一人当たりGDPが日本とほぼ同水準にある韓国は0.734 人、台湾は0.863人と、日本よりさらに低い。韓国や台湾で合計特殊出生率が低下した要因は日本とほぼ同じである。出産奨励金、育児休業制度、児童手当・保育費支援など経済・制度面での対策を積極化しているものの、合計特殊出生率に目立った改善は見られない。「子は少なくても質を高く育てる」といった家族観が根付いてきたことも、合計特殊出生率の改善を阻む一つの要因となっているようだ。
3――おわりに
出生率が高い国・地域と低い国・地域、それぞれにどんな特徴があるのかをみると、ルーマニア、フランス、米国など経済・制度面の少子化対策に加えて「子だくさん」を肯定的に評価する家族観を持つ国・地域の合計特殊出生率は相対的に高い。一方、経済・制度面の少子化対策をしていても「マンマ文化」のイタリアや「儒教文化」の韓国などのように「女性は家庭で子育てを担うもの」との家族観が一部に根強く残る国・地域の合計特殊出生率は相対的に低い。また一頃「少子化対策の模範」と持て囃された北欧諸国では、手厚い経済・制度面の少子化対策で一時的に人口置換水準を視野に入れる改善を見せたものの、その後は失速し持続的な改善とはなっていない。ちなみに北欧諸国に「女性は家庭で子育てを担うもの」との家族観も「子だくさん」を肯定的に評価する家族観もほとんど見られない。
このように出生率の高低を決める要因は、経済発展度や経済・制度面の少子化対策に加えて、文化面の影響も大きいと言えそうである。
(2025年10月01日「基礎研レター」)
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