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- バランスシート調整の日中比較(後編)-不良債権処理で後手に回った日本と先手を打ってきた中国
2025年07月09日
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1――はじめに
中国では、2020年のデベロッパー向け融資総量規制に端を発する不動産不況が長期化の様相を呈している。加えて、25年からは米中摩擦も再び激化し、景気への下押しが強まる恐れがある。かつての日本と同様、中国が今後長期停滞に陥るか否かを展望するにあたり、バランスシート調整の観点で当時の日本と現在の中国を比較し、中国の特徴を考えてみたい。前回の「前編」における実体経済のバランスシート調整に関する分析に続き、今回の「後編」では銀行の不良債権処理を巡る動向について考察する。分析にあたっては、一般的な不良債権関連の統計に加え、普段はあまり取り上げられないデータや銀行の財務データなども用いることで、中国の不良債権処理の実態を明らかにできるよう試みた。
2――日本におけるバブル崩壊後の不良債権処理のあらまし
その間における金融システム不安定化や、安定化に向けた取り組みに関する主な出来事を時系列で整理したものが図表2だ。90年に不動産業向けの融資総量規制が導入され、91年にバブルが崩壊した後、土地等の資産価格下落や景気悪化に伴い不良債権が増加し始め、地方の中小金融機関で破たんが散発するようになった。しかし、90年代前半の時点では、金融システム安定に関する動きは、まだ本格的なものではなかった。例えば、不良債権の規模に関しては、93年に統一開示基準が設けられ、大手行で残高等の公表が始まった程度であった。また、銀行の破たん処理に関しても、法制度が未整備の状況下で個別に救済合併を進める等、その場しのぎの対応にとどまっていた。
90年代半ばに入ると、徐々に救済合併の受け皿となる銀行が表れなくなり、公的資金の投入による破たん処理が必要な局面へと移行していった。この頃から、安定化に向けた対応が本格化し始めた。例えば、95年6月に大蔵省が発表した「金融システムの機能回復について」で、不良債権処理強化の必要性が強調されたほか、金融機関の破たん処理の基本原則が定められた。その後、北海道拓殖銀行や山一證券など大手金融機関の破たんが相次いで発生し、金融危機を回避することは結局できなかったものの、98年の金融再生法(金融機能の再生のための緊急措置に関する法律)や金融早期健全化法(金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律)の成立に代表されるように、破たん処理体制の構築や早期是正措置の導入、資産の適正な査定と開示の強化、公的な資本注入実施などに向けた制度整備は進んだ。
90年代半ばに入ると、徐々に救済合併の受け皿となる銀行が表れなくなり、公的資金の投入による破たん処理が必要な局面へと移行していった。この頃から、安定化に向けた対応が本格化し始めた。例えば、95年6月に大蔵省が発表した「金融システムの機能回復について」で、不良債権処理強化の必要性が強調されたほか、金融機関の破たん処理の基本原則が定められた。その後、北海道拓殖銀行や山一證券など大手金融機関の破たんが相次いで発生し、金融危機を回避することは結局できなかったものの、98年の金融再生法(金融機能の再生のための緊急措置に関する法律)や金融早期健全化法(金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律)の成立に代表されるように、破たん処理体制の構築や早期是正措置の導入、資産の適正な査定と開示の強化、公的な資本注入実施などに向けた制度整備は進んだ。
それでも、90年代を通じて不良債権問題は解消しなかった。この間の不良債権問題に関して、資産査定方法の変化に伴い認定された不良債権残高が膨らんだことに加え、不良債権の処理が遅れたこと、不良債権処理コストを収益で負担できていないこと、引当金が不足していること、信用コストが高まったことなどが指摘されていた1。なお、資産査定方法については、最終的に、金融再生法に基づく査定および開示、銀行法に基づく査定および開示、そして金融検査マニュアルに基づく各金融機関の自己査定の3種類となった(図表3)。
その後、2000年代に入り、不良債権問題は改善へと転じた。02年に、資産査定に関する基準の見直しや「平成16年(04年)度までに主要行の不良債権比率を半分程度に低下させる」との処理目標などを盛り込んだ「金融再生プログラム」が発表された後は、景気の回復も追い風となり、不良債権は着実に減少した。そして、05年にはペイオフ解禁に象徴される金融システムの正常化が実現した。
その後、2000年代に入り、不良債権問題は改善へと転じた。02年に、資産査定に関する基準の見直しや「平成16年(04年)度までに主要行の不良債権比率を半分程度に低下させる」との処理目標などを盛り込んだ「金融再生プログラム」が発表された後は、景気の回復も追い風となり、不良債権は着実に減少した。そして、05年にはペイオフ解禁に象徴される金融システムの正常化が実現した。
1 内閣府(2001)、日本銀行(2002)。
(2025年07月09日「基礎研レポート」)

03-3512-1787
経歴
- 【職歴】
・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
・2009年:同 アジア調査部中国室
(2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
・2020年:同 人事部
・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
三浦 祐介のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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