2025年07月24日

「縮みながらも豊かに暮らす」社会への転換(2)-SDGs未来都市計画から読み解く「地域課題」と「挑戦」の軌跡

生活研究部 准主任研究員 小口 裕

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3――「SDGs未来都市」選定計画の概観(2) 取り組みは「関係人口」「生活基盤サービス」が上位

1|経済・社会・環境三位一体の取り組み─関係人口・GXが牽引
それでは、それぞれの課題に対して、未来都市はどのような「取り組み」を掲げているのだろうか。

先程の「課題」と同様にSDGs未来都市計画の各自治体の「取り組み」方針についても同様の解析を行い、その詳細と全体の傾向を見ていくことにする(図表2)。
図表 2:SDGs未来都市の各都市「取り組み」分析(テキストマイニング)結果
「課題」の分析と同様に、SDGs未来都市が掲げる各計画の取り組み方針をテキスト分析すると、経済・社会・環境を横断する統合的なアプローチが主流となっている様子が見えてくる。
 
まず、最も多かった取り組みは「人材・関係人口」分野を含む計画であり、全206計画中146件、約7割を占めている。UターンやIターン、副業・兼業人材の活用を通じて、単なる人材確保にとどまらず、「地域の持続可能性」を念頭にコミュニティへの参加やローカルビジネスへの貢献といった「関係のデザイン」に軸足を移し始めていることが地方創生SDGsらしい特徴である(数表2)。
数表 2:SDGs未来都市」選定都市 取り組み別件数(図表2の「テキストマイニング結果」に基づく計画件数のカウント集計)
次いで「生活基盤サービス」(同121件)と「GX・脱炭素・環境」(同117件)が上位に挙がる。

生活基盤サービスでは、医療・交通・買い物など日常機能の再構築が焦点となり、遠隔医療やスマートストア、ドローン配送といったDX施策と組み合わせて、人口減少下でも生活インフラを維持する「社会適応型のスマート化」を軸に計画が検討されている様子が伺える。
GX分野では、再生可能エネルギーの導入やゼロカーボン宣言など、環境施策を新たな地域産業と結びつける動きが広がっている。
 
さらに「観光・交流」(同92件)や「農林水産・6次化」(同87件)に取り組む計画も多く見られており、体験型ツーリズムや地域ブランド化を通じて域外からの需要を取り込み、地域経済に波及させる多層的な取り組みが展開されている。いずれの計画も単独分野にとどまらず、観光と人材、農業とGXといった複数分野の交点で新たな価値を創出する姿勢が顕著である。

一方、「スタートアップ・イノベーション」(同25件)や「財政・行政効率」(同48件)は比較的少なく、地方創生2.0が掲げる「高付加価値型自立経済」や行政の持続可能性といったテーマへの取り組みが今後の強化ポイントであることが伺える。

4――まとめ──多様化する地方創生の兆しと、地方創生2.0の接続に向けた課題

4――まとめ 多様化する地方創生の兆しと、地方創生2.0の接続に向けた課題

SDGs未来都市の取り組みは、地域ごとの個性や課題を出発点とし、経済・社会・環境の三側面を統合しながら、企業や多様なステークホルダーと連携して新たな価値創造を目指すものである。これは、持続可能な地域経営や新規事業の創出を志向する企業にとっても大きな機会となり得る。

また、実態分析の結果、従来の「観光偏重」や「雇用創出一辺倒」といった単一的なアプローチでは捉えきれない、多層的な課題認識と、その対処方法の多様化が明らかとなった。

GX(グリーントランスフォーメーション)や関係人口の創出といった領域が横断的に重要性を増す一方で、DX(デジタルトランスフォーメーション)や財政効率化への取り組みには温度差が見られる。こうした分野別の傾向が、今後、地方創生2.0の指針とどのように接続されていくのかは、注視すべきポイントであると言えるだろう
 
そのような点を踏まえて、次回(最終回)は、自治体別・年度別・地域別の分布とその変遷に着目し、地方創生の構造的な変化の兆しと、地方創生2.0への接続について具体的に考えていきたい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月24日「基礎研レター」)

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生活研究部   准主任研究員

小口 裕 (おぐち ゆたか)

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴
  • 【経歴】
    1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

    2008年 株式会社日本リサーチセンター
    2019年 株式会社プラグ
    2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

    2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
    2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
    2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
    2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

    【加入団体等】
     ・日本行動計量学会 会員
     ・日本マーケティング学会 会員
     ・生活経済学会 准会員

    【学術研究実績】
    「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
    「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
    「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
    「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
    「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
    「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

    *共同研究者・共同研究機関との共著

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