2025年07月24日

「縮みながらも豊かに暮らす」社会への転換(2)-SDGs未来都市計画から読み解く「地域課題」と「挑戦」の軌跡

生活研究部 准主任研究員 小口 裕

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1――はじめに 各地域が何に悩み、何に挑戦してきたのか

本稿では、地方創生1.0で顕在化した構造的課題を踏まえ、その政策の要の1つであったSDGs未来都市政策における認定自治体の経済・社会・環境の課題認識、さらにその取り組み内容について、全国206件の計画を俯瞰し、この取り組みを題材にしながら、各地域が何に悩み、何に挑戦してきたのか、その全体像を分析していく。

結論から先に言えば、分析の結果、従来型の「観光」や「雇用創出」といった一面的な枠組みでは捉えきれない、地域ごとの多層的な課題認識と多様なアプローチが浮かび上がった。特にGX(グリーントランスフォーメーション)や関係人口の創出といった領域が、都市・地方を問わず横断的に重要性を増している。一方で、DX(デジタルトランスフォーメーション)や財政効率化への取り組みには、都市ごとに温度差が伺える。これらの分析を踏まえ、今後の地方創生2.0基本構想の実装に向けた実効性ある戦略や、地域発イノベーションの可能性を検討していく。

2――「SDGs未来都市」選定計画の概観(1)

2――「SDGs未来都市」選定計画の概観(1) 課題は「人口と暮らしの持続可能性」「地域経済の再生」

1|SDGs未来都市の課題分析─地域の危機感は何に向いていたのか
SDGs未来都市として採択された206件の計画を分析すると、地方自治体が直面する課題は大きく「人口と暮らしの持続可能性」と「地域経済の再生」という二つの軸に集約され、それぞれに対する多様な処方箋が浮かび上がる。ここからは、各自治体の課題(テキスト)や取り組みの内容(テキスト)を解析1した結果から、SDGs未来都市計画のそれぞれの傾向を分析していく。
 
1 内閣府「SDGs未来都市計画」の選定自治体(2018~2024 年度、206 件)計画をニッセイ基礎研究所で、KH Coderを用いてテキスト解析(形態素解析)を行い、課題カテゴリーを分析者が付与して、それぞれの提案を最多一致カテゴリーに割り付けた。地方区分は旧総務省地域メッシュ(8地方区分):を適用。市区町村種別は、自治体名末尾の表記で4類型:政令・中核市(「市」で人口20万超)、中小市(その他の「市」)、区(東京23 区)、町村で分類している。1件の計画が複数カテゴリーに該当すると、それぞれのカテゴリーで 1件ずつカウントしており、キーワード例は課題として最も頻出した語形を列挙。語尾揺れを正規化し、名詞・複合語を中心に抽出している
図表 1:SDGs未来都市の各都市「課題」分析(テキストマイニング)結果
最も多かったのは「人口減少・少子高齢化」への課題を含む計画であり、全体(総計)の166件がこの点を課題として言及していた。これらの都市では移住・Uターン施策に加え、多極集住といった新たな都市モデルの模索が共通課題となっている様子が伺える(数表1)。

次いで多いのが、生活基盤サービス(同143件)となった。医療・交通・子育てなど、地域の暮らしを支えるインフラの持続性が多くの自治体で深刻な課題となっており、「公共交通再編」や「子育て支援」といったキーワードが頻出している。

また、GX・脱炭素・環境も同122件に上っている。カーボンニュートラルや再生可能エネルギーの導入を、単なる環境政策にとどまらず「地域経済の再構築」の一環と位置付ける動きが広がっている。これに対し、産業衰退や「稼ぐ力」を課題とする計画は同75件であり、商店街の空洞化や産業衰退に直面する自治体が、付加価値向上や経済循環の再設計を目指している。

さらに農林水産業や食(同100件)、観光・交流(同83件)の分野を課題とする計画も多い。

観光では、体験型コンテンツや関係人口戦略、一次産業の6次化やブランド化を課題として、それらを組み合わせた取り組みが目立つ。

さらに、スタートアップ・イノベーションを課題に掲げる計画も同36件あり、東京一極集中型ではない、地域発の起業支援や新興ビジネスの芽が生まれつつある様子が伺える結果となった。
数表 1:「SDGs未来都市」選定都市 課題別件数 (図表1の「テキストマイニング結果」に基づく計画件数のカウント集計)
2|三分野で読み解く課題構造─問われる「人口・暮らし・経済」の再設計
SDGs未来都市の計画分析においては、経済・社会・環境というトリプルボトムラインの三分野ごとに、地域が直面する課題とその解決アプローチを多角的に捉える必要がある。三分野に共通しているのは、「減りゆく社会」を前提とし、地域の暮らしと経済の再設計が根本課題となっている点である。 とりわけ「人口減少・少子高齢化」や「生活基盤サービス」が上位課題であることは変わらないが、各分野の傾向や先進的な個別事例にも注目したい。
3|経済分野─地域発のイノベーションや新市場の創出を目指す動きも
経済分野では、農林水産・食(89件)、観光・交流(77件)、産業衰退・稼ぐ力(75件)といったテーマを含む計画が多くなっている。地域内での雇用創出や経済循環の回復が最大の論点であり、地方創生2.0が掲げる「高付加価値型の自立経済」に向けて、スタートアップ支援や農林水産資源の活用といった新たなビジネスモデルの端緒が各地で生まれている。これらは、単なる補助金事業にとどまらず、地域発のイノベーションや新市場の創出を目指す動きとして期待される。
4|社会分野・環境分野─AIを用いた在宅支援やMaaS(Mobility as a Service)の活用
社会分野では、「暮らしの安心」が中核テーマとなり、教育・医療・移動手段の格差是正が多くの計画で課題として捉えられている。生活基盤サービス(137件)の維持は、豊かな生活圏づくりという地方創生2.0の柱とも重なる。たとえば、過疎地での医療アクセス課題に対しては遠隔診療やドローン配送の導入、高齢化地域では見守りセンサーやAIスピーカーを活用した在宅支援システムの構築といった先進的な取り組みが計画を通して進められている。

また、公共交通の維持が困難な地域では、自動運転車やMaaS(Mobility as a Service)を活用した移動最適化が検討されており、移動困難層への新たな支援策が模索されている。これらのアプローチは、自治体・企業・大学・地域住民が連携し、サービス設計から実装までを一体的に進める「社会実装」を志向している点が特徴である。
 
環境分野では、GX・脱炭素・環境(61件)に加え、農林水産・食(20件)、防災・レジリエンス(19件)が主な課題となっている。地産地消型エネルギーや防災インフラの再設計など、環境課題への対応が経済・社会と連動して重視されている様子が伺える。カーボンニュートラルや再生可能エネルギーの導入を、単なる環境対策にとどめず、地域経済の再構築やレジリエンス強化と結びつける動きが広がっている点が、地方創生SDGs政策らしい特徴の1つであるとも言える。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月24日「基礎研レター」)

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生活研究部   准主任研究員

小口 裕 (おぐち ゆたか)

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴
  • 【経歴】
    1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

    2008年 株式会社日本リサーチセンター
    2019年 株式会社プラグ
    2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

    2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
    2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
    2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
    2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

    【加入団体等】
     ・日本行動計量学会 会員
     ・日本マーケティング学会 会員
     ・生活経済学会 准会員

    【学術研究実績】
    「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
    「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
    「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
    「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
    「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
    「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

    *共同研究者・共同研究機関との共著

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