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- 基礎年金底上げ策の賛成派が指摘する法案修正の甘さ~年金改革ウォッチ 2025年6月号
2025年06月10日
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1 ―― 先月の動き
先月は、年金改革に関係する審議会等は開催されなかった。
2 ―― ポイント解説:基礎年金底上げ策が盛り込まれた修正の概要と賛成派からの指摘
年金改革法案は、5/16(金)に国会へ提出された後、5/27(火)に与党と立憲民主党が修正に合意し、5/30(金)にこの修正を反映した法案が衆議院で可決された。報道では修正に賛同する論評が見られるが、それらは同時に甘さも指摘している。本稿では、修正の概要と指摘された甘さを確認する。

修正に盛り込まれた底上げ策が導入されると、基礎年金(1階部分)と厚生年金(2階部分)の調整期間が揃うことで(図表2の点線)、基礎年金(1階部分)の給付調整が現行制度を続けた場合よりも早く終わり、基礎年金(1階部分)の給付水準が現行制度を続けた場合と比べて底上げされる。
*1 国民民主党が提出し委員会で否決された修正案にも同様の規定が含まれている(同案は他の事項も含んでいる)。
2|指摘1:底上げ策の導入時期が遅い
この修正に対する第1の指摘は、導入時期の遅さである*2。図表1で(1)を付した規定により、底上げ策の導入は2029年までに公表される次の将来見通しの結果で判断される。そのため、楽観的なシナリオに基づいて導入が先送りされることへの懸念が示されている。
確かに、今回の改正で底上げ策を導入すれば、見直しの効果を確実に得られる。しかし、後述する国庫負担の確保策が現時点では決まっておらず、この決着まで法案成立を延ばせば、他の改正項目の施行が遅れる。修正された規定は、妥協策の1つと思われる。
この修正に対する第1の指摘は、導入時期の遅さである*2。図表1で(1)を付した規定により、底上げ策の導入は2029年までに公表される次の将来見通しの結果で判断される。そのため、楽観的なシナリオに基づいて導入が先送りされることへの懸念が示されている。
確かに、今回の改正で底上げ策を導入すれば、見直しの効果を確実に得られる。しかし、後述する国庫負担の確保策が現時点では決まっておらず、この決着まで法案成立を延ばせば、他の改正項目の施行が遅れる。修正された規定は、妥協策の1つと思われる。

第2の指摘は、底上げ策の導入を判断する基準のあいまいさである*3。図表1で(2)を付した規定により、底上げ策の導入は基礎年金と厚生年金の給付調整期間に著しい差がある場合に限られる。
確かに、修正された規定では、どの程度の差を著しいと認めるかや、どのような前提に基づく見通しで判断するかなどが、不明瞭である*4。現在は審議会で意見を聞いて将来見通しの前提や改正案を策定していることを踏まえれば、底上げ策の導入の判断も審議会で意見を聞くのが妥当と思われる。
*3 例えば、朝日新聞の6月1日付社説。
*4 同法案の附帯決議には、出生率、経済成長、女性の社会進出などに、より厳しい前提を使うことが盛り込まれた。

第3の指摘は、基礎年金給付費の半額をまかなう国庫負担の財源確保策が、検討されていない点である*5。
確かに、修正された内容には図表1で(4)を付した検討規定があるのみで、国庫負担の財源確保の必要性は明示されていない*6。図表1で(1)を付した規定に基づいて底上げ策の導入が判断されうる2029年頃までに、国庫負担の財源確保策が政府横断的に検討されることを期待したい。
*5 例えば、読売新聞の5月28日付社説、毎日新聞の5月31日付社説、朝日新聞の6月1日付社説。
*6 同法案の附帯決議には、高額所得者への老齢基礎年金の国庫負担相当分の支給停止や、底上げ策の導入に当たって安定した財源を確保するための方策について検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずることが盛り込まれた。
(2025年06月10日「保険・年金フォーカス」)
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経歴
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
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