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2025年05月13日

貸出・マネタリー統計(25年4月)~現預金離れが強まるなか、定期預金には一部資金がシフト

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:都銀の貸出が急減速

(貸出残高)                                                                  
5月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、4月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.56%と前月(同3.01%)から大きく低下した(図表1)。前月から伸びが大きく鈍化したとはいえ、円高による外貨建て貸出の円換算額目減りに加え、過去の大口融資の回収が影響したと推測され、貸出の実勢に大きな変化が生じたわけではないとみられる。今のところは、各種コスト増加に伴う運転資金需要、M&A・不動産向けの資金需要などが牽引する形で底堅い推移が続いていると考えられる。

業態別では、都銀等の伸びが前年比1.34%と前月(2.39%)から大きく低下した。伸び率の水準は2022年6月以来の低水準にあたる。都銀等は大口貸出や為替の影響を受けやすい。一方、地銀(第2地銀を含む)の伸びは前年比3.61%(前月は3.55%)とやや上昇している(図表2)。

4月にトランプ政権が自動車関税や相互関税を発動し、先行きの不透明感も大きく高まったことから、今後、貸出(企業の資金調達)に影響が現れるかが注目される。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金

2.マネタリーベース:資金供給量の前年割れが定着

5月2日に発表された4月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲4.8%と、前月(同▲3.1%)からマイナス幅を広げた。前年割れは8ヵ月連続で、マイナス幅は拡大傾向となっている(図表5)。

前年割れの主因は、従来同様、マネタリーベースの約8割を占める日銀当座預金の前年割れである。金融政策正常化の一環として、日銀が昨年8月から資金供給要因である長期国債買入れの減額を開始し、減額幅を徐々に拡大していることが日銀当座預金の伸び率押し下げに働いている(図表7)。

これに加えて、日銀券発行高の伸び率が同▲2.0%(前月は▲1.8%)、貨幣流通高が同▲1.4%(前月は▲1.3%)とそれぞれマイナス幅を広げたことも、マネタリーベースのマイナス幅拡大に繋がっている(図表5)。キャッシュレス化の進展に加え、インフレによるタンス預金の目減り懸念等により、現金離れが進んでいるものと考えられる。

なお、季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、4月のマネタリーベースは前月比8.2兆円減と前月に続いて大幅なマイナスになっており、今年に入ってから減少ペースが速まっている(図表8)。

今後も資金供給要因である長期国債買入れの減額が緩やかに進められることで、マネタリーベースはじわじわと減少幅を広げていくと見込まれる。
(図表5)マネタリーベースと内訳(平残)/(図表6)マネタリーベース残高の伸び率/(図表7)日銀の長期国債買入額と保有残高/(図表8)マネタリーベース残高と前月比の推移

3.マネーストック:現金に続き、普通預金も前年割れに

5月13日に発表された4月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比0.47%(前月は0.83%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同0.11%(前月は0.36%)と、ともに低下した(図表9)。貸出(による信用創造)の伸び鈍化や財政赤字の縮小、とりわけリスク性資産等への資金シフトが通貨量の押し下げに働いているとみられる。
 
M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月0.4%→当月▲0.5%)の伸びが大きく低下、前年割れに転じ、全体の伸び率を大きく押し下げた。伸び率の低下は13カ月連続で、前年割れは2009年3月以来となる。また、現金通貨(前月▲2.6%→当月▲2.6%)の伸びも17カ月連続で前年を割り込んでおり、全体の重石となっている(図表10)。インフレが続く中で、低金利の普通預金やゼロ金利の現金を回避する動きが強まっているとみられる。現金についてはキャッシュレス化の流れも逆風になっていると考えられる。

一方、主に定期預金を意味する準通貨の伸びは前年比2.3%(前月は同1.9%)と引き続き順調に上昇し、M3の下支えになっている。伸び率は2010年2月以来の高水準にあたる。判明している3月までの内訳では、一般法人(企業)が前年比15.1%(前月は13.2%)と急増しているほか(図表11)、個人の伸びも前年比▲1.9%(前月は▲2.2%)と、依然前年比ではマイナスながら、マイナス幅を縮小している。

日銀による金融政策正常化の進捗を受けて、多くの銀行が預金金利の段階的な引き上げに動いた結果(図表14)、定期預金金利の水準が上がったうえ、従来はほぼゼロであった普通預金との金利差も広がったことで、企業や一部家計において、普通預金から定期預金へ資金をシフトする動きが広がっていると見られる。
(図表9) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表10) 現金・預金の伸び率/(図表11)法人・個人別預金の伸び/(図表12) 店頭表示預金金利(300万円未満)
なお、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比1.95%(前月は3.23%)と大幅に低下した(図表9)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下したうえ、規模の大きい金銭の信託(前月13.2%→当月6.8%)の伸びも急低下したことが響いた。なお、預金よりも高い金利が得られる国債(前月43.4%→当月41.8%)の伸びもやや低下したものの、極めて高い伸びを維持している。投資信託(私募やREITなどを含み企業保有分も合わせた元本ベース、前月▲0.7%→当月0.1%)の伸びもわずかながらプラスに転じている。

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(2025年05月13日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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