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- AlphabetにDMA違反暫定見解-日本のスマホ競争促進法への影響
コラム
2025年04月11日
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2025年3月19日、欧州委員会はGoogleに関して2つのデジタル市場法(Digital Market Act、以下「DMA」)違反行為が存在するとの暫定的な見解をAlphabet(Googleの親会社)へ通知した1。
DMAとはEUにおける規則(加盟各国に対して直接的に拘束力が及ぶもの)であり、欧州委員会によって指定された巨大デジタルプラットフォーム企業(DMAでは、Gatekeeper(GK)という。いわゆるGAFA)に適用がある。DMAは従来から存在する事後規制である欧州競争法(日本の独禁法に相当)ではGKの競争制限的な行為を防止できないとして、競争可能性(contestability)を歪めることとなるGKの各種行為を具体的に列挙して禁止し、違反には制裁金を科すこととしたものである2。
暫定的見解の出された違反行為は、(1)Google検索において、自社サービスを他社のサービスより優遇して表示していること、および(2)アプリストア(Google Play)内のアプリにおいて、アプリストア外にある音楽やゲームを購入できるアプリ運営業者等のサイトへの誘導(ステアリングという)を禁止(アンチステアリングという)していることの2点である。
より具体的には、(1)について、Alphabetの提供するショッピングサービス、ホテル宿泊予約・旅行予約サービス、投資サービス、スポーツの結果表示について、他社サービスよりも上位に、かつ目立つようにGoogle検索結果において表示していることが問題視されている。
このような行為はDMA6条5項の「GKはGK自身によって提供されるサービスや製品に対するランキング(中略)について、類似する第三者のサービスや製品より有利に取り扱ってはならない」という規定に違反するおそれがある。
(2)については、Alphabetのアンチステアリングを問題とするとともに、アプリストア内の販売手数料を正当化できる水準よりも多く徴収していることを問題視している。
このような行為はDMA5条4項の「GKは、ビジネスユーザー(=アプリ事業者)がGKのCPS(=プラットフォーム)で獲得したエンドユーザーに対して、CPSあるいは他のチャネルを利用して(中略)エンドユーザーと通信し、勧誘を行って契約を締結することを無料で認めなければならない」という規定に違反するおそれがある。なお、Alphabetのアプリストア内での手数料の高額さ自体はDMA違反行為にはならないが、アンチステアリングの不当性を強調する狙いが欧州委員会にあると想定される。
今後、Alphabetは暫定的見解に反論することができるが、仮に暫定的見解が確定されれば、欧州委員会は不遵守決定(DMA29条)を下すこととなる。不遵守決定があった場合、欧州委員会はAlphabetに対して、前年の全世界売上高の最大10%の制裁金を科すことができる(DMA30条1項)。
さて、日本でも「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(以下「競争促進法」)」が制定されている(全面施行は2025年12月19日)3。競争促進法9条はDMA6条5項に、競争促進法8条はDMA5条4項に相当する規定となっている。
競争促進法の規制対象となるのは「指定事業者」であり、その指定が2025年3月31日に行われた。具体的には、Google LLC、Apple Inc.およびApple日本子会社であるiTunes株式会社の3社が指定された4。EUにおける動きを前提とすると競争促進法の全面施行後は欧州と同様の調査をGoogleに対し実施することが想定される。
なお、競争促進法そのものが日米通商問題になるおそれがあるとの報道がある5。競争促進法はDMAに倣った法律であり、先進国という範疇では特異な法律ではなく、日本政府として通商問題になること自体が不本意であろう。ただ、日米間には交渉力の格差が存在するものと考えられ、政府は難しい問題に直面する可能性がある。
さらに言えば、公正取引委員会はGoogleに対して、自社アプリ(Chrome)を優先搭載することをスマホメーカーに求めた行為に対して、独禁法に基づく排除命令を出す方針であるとの報道があった6。仮に、このような日本国内の行政行為に米国が影響を及ぼすとすれば、極めて懸念すべき状況である。日本政府には毅然とした対応が求められるが、今後の動向を注視する必要がある。
1 https://digital-markets-act.ec.europa.eu/commission-sends-preliminary-findings-alphabet-under-digital-markets-act-2025-03-19_en 参照。
2 基礎研レポート「EUのデジタル市場法の公布・施行-Contestabilityの確保」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72386?site=nli 参照。
3 基礎研レポート「スマートフォン競争促進法案-日本版Digital Markets Act」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=78607?site=nli 参照。
4 公正取引委員会 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/mar/250331_smartphone.html 参照。
5 2025年3月26日日経新聞朝刊
6 NHKニュースhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20241222/k10014675581000.html 参照。
DMAとはEUにおける規則(加盟各国に対して直接的に拘束力が及ぶもの)であり、欧州委員会によって指定された巨大デジタルプラットフォーム企業(DMAでは、Gatekeeper(GK)という。いわゆるGAFA)に適用がある。DMAは従来から存在する事後規制である欧州競争法(日本の独禁法に相当)ではGKの競争制限的な行為を防止できないとして、競争可能性(contestability)を歪めることとなるGKの各種行為を具体的に列挙して禁止し、違反には制裁金を科すこととしたものである2。
暫定的見解の出された違反行為は、(1)Google検索において、自社サービスを他社のサービスより優遇して表示していること、および(2)アプリストア(Google Play)内のアプリにおいて、アプリストア外にある音楽やゲームを購入できるアプリ運営業者等のサイトへの誘導(ステアリングという)を禁止(アンチステアリングという)していることの2点である。
より具体的には、(1)について、Alphabetの提供するショッピングサービス、ホテル宿泊予約・旅行予約サービス、投資サービス、スポーツの結果表示について、他社サービスよりも上位に、かつ目立つようにGoogle検索結果において表示していることが問題視されている。
このような行為はDMA6条5項の「GKはGK自身によって提供されるサービスや製品に対するランキング(中略)について、類似する第三者のサービスや製品より有利に取り扱ってはならない」という規定に違反するおそれがある。
(2)については、Alphabetのアンチステアリングを問題とするとともに、アプリストア内の販売手数料を正当化できる水準よりも多く徴収していることを問題視している。
このような行為はDMA5条4項の「GKは、ビジネスユーザー(=アプリ事業者)がGKのCPS(=プラットフォーム)で獲得したエンドユーザーに対して、CPSあるいは他のチャネルを利用して(中略)エンドユーザーと通信し、勧誘を行って契約を締結することを無料で認めなければならない」という規定に違反するおそれがある。なお、Alphabetのアプリストア内での手数料の高額さ自体はDMA違反行為にはならないが、アンチステアリングの不当性を強調する狙いが欧州委員会にあると想定される。
今後、Alphabetは暫定的見解に反論することができるが、仮に暫定的見解が確定されれば、欧州委員会は不遵守決定(DMA29条)を下すこととなる。不遵守決定があった場合、欧州委員会はAlphabetに対して、前年の全世界売上高の最大10%の制裁金を科すことができる(DMA30条1項)。
さて、日本でも「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(以下「競争促進法」)」が制定されている(全面施行は2025年12月19日)3。競争促進法9条はDMA6条5項に、競争促進法8条はDMA5条4項に相当する規定となっている。
競争促進法の規制対象となるのは「指定事業者」であり、その指定が2025年3月31日に行われた。具体的には、Google LLC、Apple Inc.およびApple日本子会社であるiTunes株式会社の3社が指定された4。EUにおける動きを前提とすると競争促進法の全面施行後は欧州と同様の調査をGoogleに対し実施することが想定される。
なお、競争促進法そのものが日米通商問題になるおそれがあるとの報道がある5。競争促進法はDMAに倣った法律であり、先進国という範疇では特異な法律ではなく、日本政府として通商問題になること自体が不本意であろう。ただ、日米間には交渉力の格差が存在するものと考えられ、政府は難しい問題に直面する可能性がある。
さらに言えば、公正取引委員会はGoogleに対して、自社アプリ(Chrome)を優先搭載することをスマホメーカーに求めた行為に対して、独禁法に基づく排除命令を出す方針であるとの報道があった6。仮に、このような日本国内の行政行為に米国が影響を及ぼすとすれば、極めて懸念すべき状況である。日本政府には毅然とした対応が求められるが、今後の動向を注視する必要がある。
1 https://digital-markets-act.ec.europa.eu/commission-sends-preliminary-findings-alphabet-under-digital-markets-act-2025-03-19_en 参照。
2 基礎研レポート「EUのデジタル市場法の公布・施行-Contestabilityの確保」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72386?site=nli 参照。
3 基礎研レポート「スマートフォン競争促進法案-日本版Digital Markets Act」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=78607?site=nli 参照。
4 公正取引委員会 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/mar/250331_smartphone.html 参照。
5 2025年3月26日日経新聞朝刊
6 NHKニュースhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20241222/k10014675581000.html 参照。
(2025年04月11日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/04/28 | 欧州委、AppleとMetaに制裁金-Digital Market Act違反で | 松澤 登 | 研究員の眼 |
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2025/04/16 | 公取委、Googleに排除命令-その努力と限界 | 松澤 登 | 研究員の眼 |
2025/04/11 | AlphabetにDMA違反暫定見解-日本のスマホ競争促進法への影響 | 松澤 登 | 研究員の眼 |
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【AlphabetにDMA違反暫定見解-日本のスマホ競争促進法への影響】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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