2025年04月08日

グローバル株式市場動向(2025年3月)-トランプ米大統領の関税政策によるアップダウンが続く

金融研究部 准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任 原田 哲志

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1――トランプ米大統領の関税政策によるアップダウンが続く

2025年3月、世界の株式市場は米国や日本の株式市場が下落した一方で、中国やドイツが上昇した。トランプ米大統領は世界各国への相互関税の導入を発表、大幅な関税強化を打ち出した。これにより米国自身や自動車をはじめ輸出関連企業への悪影響が懸念された日本が下落した。一方でウクライナ紛争の停戦協議の進展が期待された欧州、AI・テック関連企業への期待が高まった中国など上昇した国もあった。代表的な世界株指数(含む新興国)であるMSCI All Country World Index (MSCI ACWI)の騰落率1>は2025年3月▲4.1%、過去1年(2024年4月-2025年3月)では+5.6%となっている(図表1)。

先進国と新興国を比べると、先進国が下落する一方で、新興国は上昇した。先進国(MSCI World Index)が▲4.6%、新興国(MSCI Emerging Markets Index)が+0.4%となった(図表2)。
図表1 世界株指数の推移/図表2 先進国・新興国指数の推移
グロース・バリューでは、グロース指数(MSCI ACWI Growth Index)が▲6.9%、バリュー指数(MSCI ACWI Value Index)が▲1.3%とバリュー優位となった(図表3)。企業規模別では、大型株(MSCI ACWI Large Cap Index)が▲4.4%、中型株(MSCI ACWI Mid Cap Index)が▲2.8%、小型株(MSCI ACWI Small Cap Index)が▲3.5%と中型株の騰落率が高かった(図表4)。
図表3 グロース・バリュー指数の推移/図表4 企業規模別指数の推移
 
1 以下、特に断りのない限り騰落率は米ドル建、配当を除いた指数値の変化率を示す。

2――国・業種別の動向

2――国・業種別の動向

国別の動向はまちまちであった(図表5)。主要国について見ると、米国(▲6.0%)、中国(+2.0%)、ドイツ(+1.8%)、日本(▲1.2%)となった。騰落率が高かった国・地域はチェコ(+14.7%)、ノルウェー(+11.0%)、ギリシャ(+10.0%)だった。一方で、デンマーク(▲16.2%)、台湾(▲11.7%)、トルコ(▲6.7%)の騰落率が低かった。

米国では、トランプ米大統領が主導する相互関税や自動車関税の導入といった関税強化策が進められたことにより、高関税が景気悪化につながると懸念され下落した。

日本では、月中は上昇が続いていたが、月末31日には米国の相互関税や自動車関税への警戒、また米国のテック関連銘柄の下落もあり下落した。米国が導入する25%の自動車関税について、日本は対象から除外することが期待されていたが、対象に含まれたため自動車関連銘柄などの下落につながった。

中国では、全人代2で改めて積極財政が確認されたことや生成AIを開発する中国の新興企業DeepSeekの台頭から中国のAI・テック関連銘柄が注目されたことから上昇した3。フランスの大手金融機関ソシエテジェネラルは中国のテック関連主力である騰訊控股(テンセント)、アリババ集団、小米(シャオミ)、中芯国際集成電路製造(SMIC)、比亜迪(BYD)、京東集団(JD.com)、網易(ネットイース)の7銘柄を「セブン・タイタンズ(巨人7銘柄)」と呼び、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる米国の主要テック企業7銘柄と対比しており、これらの銘柄の動向が注目される。

トランプ米大統領がロシアのプーチン大統領との停戦交渉の取組みを進めたことからウクライナ紛争の終結への期待が高まった。このことから、紛争終結の恩恵を受けると見られるチェコやポーランド、ハンガリーといった東欧諸国が上昇した。

デンマークの製薬大手ノボノルディスクは同社の肥満治療新薬「カグリセマ」の臨床試験結果が予想を下回ったことや肥満治療薬市場の競争激化によって下落が続いている4。デンマーク株式市場はノボノルディスクの下落の影響を受けて下落した。
図表5 各国の株式市場の騰落率
業種別に見ると、エネルギー(+4.5%)、保険(+3.3%)、公益事業(+2.8%)の騰落率が高かった。一方で、半導体・半導体製造装置(▲12.1%)、耐久消費財・アパレル(▲9.1%)、メディア(▲8.2%)の騰落率が低かった(図表6)。半導体・半導体製造装置をはじめ多くの業種が下落する中、ディフェンシブ業種が上昇した。
図表6 グローバル株式市場の業種別騰落率
 
2 全人代とは中国の立法機関である「全国人民代表大会」の略称で、日本での国会に相当する。
3 日本経済新聞、「中国株『セブン・タイタンズ』、AIで評価一転 米M7を圧倒」、2025年3月14日
4 日本経済新聞、「ノボ株が急落、1年間で4割安 肥満症新薬が『期待外れ』」、2025年3月25日

3――世界の主要企業の株価動向

3――世界の主要企業の株価動向

世界の主要な企業の株価は多くの銘柄で下落した(図表7)。時価総額上位30位までの企業では、ユナイテッドヘルス・グループ(+10.8%)、エクソンモービル(+6.8%)、テンセント・ホールディングス(+3.8%)のリターンが高かった。一方で、オラクル(▲15.8%)、ブロードコム(▲15.8%)、メタ・プラットフォームズ(▲13.7%)のリターンが低かった。

ユナイテッドヘルス・グループは医療費の不正請求(メディケア詐欺訴訟)での責任について、米国司法省から訴訟を受けていたが、裁判所は証拠不十分との判断を示し訴訟は棄却される見通しとなったことから上昇した5。米国株式市場が下落する中、業績・株価の安定性が比較的高いとされるディフェンシブ業種が買われたことも同社の株価上昇の要因となった。

オラクルは米国防総省が経費削減の一環として同社のソフトウェアの利用を中止するとしたことから下落した6
図表7 世界の主要企業の株価動向
 
5 CNBC, “UnitedHealth wins favorable ruling in U.S. fraud case”, 2025/3/4
6 Bloomberg, “Oracle, Leidos Contract Targeted by US Pentagon Cost-Cutters”, 2025/3/28

4――今後の見通しと注目されるテーマ

4――今後の見通しと注目されるテーマ

世界の株式市場は米国のトランプ大統領の関税政策に左右される状況が続いている。発表された相互関税の内容は当初予想された以上に厳しいものであり、世界の貿易や株式市場に大きな影響を与えた。

関税を導入した米国自身もトランプ米大統領の強気の発言とは異なり株式市場は下落する状況となっている。米国でも産業のサプライチェーンは国内で完結しておらず、関税強化は自国の産業にも悪影響がおよぶと考えられる。

相互関税の内容について、各国に課せられた税率は一律ではなく、中国は34%など高い税率を課せられた。また、中国からの迂回輸出が警戒されたベトナムも46%の高い税率を課せられている。

こうした米国の措置を受けて、中国やEUなどは米国への報復関税の導入を表明しており、今後の世界の貿易・経済の先行きは一段と不透明な状況となっている7

日本については相互関税の税率は24%となっており、自動車など輸出関連業種への悪影響が懸念されている。また、景気後退懸念から上昇が続いていた長期金利は下落に転じている。

トランプ米大統領の関税引き上げの動機は貿易赤字だけでなく、米国の同盟国が米国の軍事力にただ乗りしているとの不満なども影響しているとも言われている。様々な要因が関連していると見られ真意は複雑・不透明だ。

ただし、トランプ米大統領はカナダ・メキシコとの関税の導入を一部猶予するなど、交渉などにより関税政策が変更される可能性もあり、トランプ米大統領の方針や発言が注目される8。トランプ政権のグローバル株式市場への影響に引き続き注目したい。
 
7 ロイター通信、「EU、米国への対抗関税第1弾を数日以内に発表へ」、2025年4月7日
8 日本経済新聞、「メキシコ・カナダへの関税、一部猶予継続 トランプ政権」、2025年4月3日

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月08日「基礎研レター」)

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金融研究部   准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、ESG

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

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