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トランプ政権の時間軸-世界や米国の有権者はいつまで我慢できるのか

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也
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1――世界が変わった相互関税の発表
これは、貿易相手国の関税率や貿易障壁を加味するといった当初の方針とは異なり、各国の対米貿易黒字をその国の輸出額で割るといった計算が行われたことが要因となっている。トランプ政権の理屈では、貿易の不均衡が生じる背景には、関税や非関税障壁(規制障壁や環境審査、消費税など)があり、それが貿易収支を歪ませる要因になっているため、貿易赤字を考慮すれば当初方針との矛盾はないというものである。短期間で各国の税制や非関税障壁を比較評価することが困難であったことが理由であると思われるが、理論など無いに等しい根拠となっている。各国にディールを仕掛けるための口実として、無理やりひねり出した強引さが感じられる。
一方で、鉄鋼やアルミニウム、自動車などの品目別関税には、今回の相殺関税は適用されない。輸出業者の急激な負担増加に一定の配慮を示した形であるが、影響が極めて大きいことには変わりない。
2――トランプ大統領の思考を読む (ミラン論文)
この考え方に基づけば、トランプ大統領がドル安発言を繰り返している背景には、短期的な株価の下支えを期待する面と、中長期の時間軸に沿って国力を押上げるという面の2つがあると考えれば理解できる。過剰なドル高の是正は、ドルの信認を傷つけるとの懸念もあるが、この点は多国間協定により調整することで、基軸通貨としての地位は維持できるとされる。関税の目的は「不均衡の是正」「ディールの手段」「経済安全保障」であり、単に保護主義的な措置に留まらず、関税を戦略的に自国の利益につなげる構想となっている。
ただ、関税を自国の優位性を確保するために使う今回の措置は、経済的な手段を用いて自国の地政学的な利益を確保しようと試みる「エコノミックステイト・クラフト」そのものであり、他国にとってみれば経済的な攻撃である。最後に多国間協定によって過剰なドル高を是正するのは、攻撃された相手国が米国に協力する形となるため、実現には相当な外交努力が必要になると思われる。もちろん、ミラン氏自身も、この論文を思考実験的なものとの扱っており、実際に政権の政策ロードマップになっている訳ではないが、このような背景を理解しておくことは有用である。
3――世界はトランプ大統領の時間軸に付いて行けるか
ただ、懸念される点が2つある。1つは、不確実性が高まることでセンチメントが悪化し、本格的に経済が腰折れしてしまうことである。前回のトランプ1.0では、2018年に米中対立が本価格化し、先行きの不透明感が高まったことで、企業の設備投資や生産が鈍化し、景気後退へとつながった。今回も不透明感が高まっている。世界の経済政策不確実性指数[図表5]は、過去10年で最高水準にあり、恐怖指数(VIX指数)[図表6]にみられる金融市場の不透明感も高まっている。世界がトランプ大統領のディールの成果を待てるかは予断を許さない。仮に、待てないとすれば景気後退の可能性は高まる。
いずれにしても先行きは不透明であり、トランプ大統領が追加関税を撤回して、世界経済が急回復という可能性もない訳ではない。しばらくは朝令暮改の政策展開が続く可能性が高く、日々の動向に注意を払うことが必要になる。
(2025年04月08日「研究員の眼」)

03-3512-1790
- 【職歴】
2011年 日本生命保険相互会社入社
2017年 日本経済研究センター派遣
2018年 ニッセイ基礎研究所へ
2021年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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