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2025年04月01日
欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-
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1―はじめに
欧州大手保険グループの2024年決算の発表が2月下旬から3月中旬にかけて行われており、それに伴い、ソルベンシーII制度等に基づく各種数値等も開示されている。このレポートでは、各社の公表資料に基づいて、各社の2024年末のSCR比率1等のソルベンシー比率の状況について、それらの水準や感応度及びそれらの推移、さらには関係するその他の事項、加えて、2024年における各社の資本管理等に関するトピックについて報告する。
なお、各社とも、2023年1月1日から、新たな会計基準であるIFRS第17号(保険契約)の適用を開始したことに伴い、2023年決算から、各種の資料や数値の見直し等が行われている。これにより、これまでのレポートで報告してきた内容の一部について、今回のレポートでは必ずしもカバーされていない点があることは述べておく2。
1 SCR比率(=自己資本/SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件))は、「ソルベンシーII比率」、「ソルベンシー比率」とも呼ばれる。
2 Allianzは、2022年から、それまで公表していた「Own Funds Report」の発行を止め、これに含まれていた情報については、Annual Report(年次報告書)やSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)に統合したが、2023年からは、AXAが「Embedded Value and Solvency II Own Funds」、Generaliが「Own Funds & Life New Business Supplementary Information」を公表しなくなった。
なお、各社とも、2023年1月1日から、新たな会計基準であるIFRS第17号(保険契約)の適用を開始したことに伴い、2023年決算から、各種の資料や数値の見直し等が行われている。これにより、これまでのレポートで報告してきた内容の一部について、今回のレポートでは必ずしもカバーされていない点があることは述べておく2。
1 SCR比率(=自己資本/SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件))は、「ソルベンシーII比率」、「ソルベンシー比率」とも呼ばれる。
2 Allianzは、2022年から、それまで公表していた「Own Funds Report」の発行を止め、これに含まれていた情報については、Annual Report(年次報告書)やSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)に統合したが、2023年からは、AXAが「Embedded Value and Solvency II Own Funds」、Generaliが「Own Funds & Life New Business Supplementary Information」を公表しなくなった。
2―欧州大手保険グループのソルベンシー比率の推移
欧州大手保険グループのSCR比率等のソルベンシー比率について、ソルベンシーII制度導入時の2016年末から2024年末の推移は、次ページの図表の通りとなっている。
Avivaは英国のソルベンシーII制度(いわゆるソルベンシーUK)に基づいているが、開示資料の説明では主として会社ベースの数値を使用しているので、監督ベースと会社ベースの2つの数値を掲載している。また、Aegonはオランダでの保険事業等のa.s.r.(以下、ASRと表記)への移管等に伴い、2023年10月からバミューダが法的本籍地の会社Aegon Ltd.となっており、その意味では欧州の保険グループということではなくなっている。ただし、引き続き、英国やASR持分といった欧州事業からの影響が大きなウェイトを占めており、本社がオランダに置かれていることや、IAIS(保険監督者国際機構)のIAIG(国際的に活動する保険グループ)に指定されており、バミューダのソルベンシー制度はEU(欧州連合)のソルベンシーII制度と同等とみなされていること等から、従前と同様な形で、欧州大手保険グループの一員として、今回の報告対象に加えている。さらに、ZurichはソルベンシーII制度の対象ではないが、同じくソルベンシーII制度と同等とみなされているスイスのソルベンシー制度であるSST(スイス・ソルベンシーテスト)に基づく数値を掲載している。
下記の図表によれば、過去からの各社のソルベンシー比率の推移の概要は以下の通りとなっている。
・2016年末から2017年末にかけては、市場環境が良好(金利の上昇、クレジットスプレッドの縮小、株価の上昇等)であったこともあり、各社ともソルベンシー比率が大きく上昇した。特に、内部モデル適用範囲の拡大等のソルベンシー比率の算出方法の変更等もあり、Generaliは29%ポイント、Aegonは44%ポイントと大幅に水準を上げた。
・2017年末から2018年末にかけては、市場環境の悪化(金利の低下、株価の下落等)もあり、AXAのSCR比率とZurichのZ-ECM比率が低下した。
Avivaは英国のソルベンシーII制度(いわゆるソルベンシーUK)に基づいているが、開示資料の説明では主として会社ベースの数値を使用しているので、監督ベースと会社ベースの2つの数値を掲載している。また、Aegonはオランダでの保険事業等のa.s.r.(以下、ASRと表記)への移管等に伴い、2023年10月からバミューダが法的本籍地の会社Aegon Ltd.となっており、その意味では欧州の保険グループということではなくなっている。ただし、引き続き、英国やASR持分といった欧州事業からの影響が大きなウェイトを占めており、本社がオランダに置かれていることや、IAIS(保険監督者国際機構)のIAIG(国際的に活動する保険グループ)に指定されており、バミューダのソルベンシー制度はEU(欧州連合)のソルベンシーII制度と同等とみなされていること等から、従前と同様な形で、欧州大手保険グループの一員として、今回の報告対象に加えている。さらに、ZurichはソルベンシーII制度の対象ではないが、同じくソルベンシーII制度と同等とみなされているスイスのソルベンシー制度であるSST(スイス・ソルベンシーテスト)に基づく数値を掲載している。
下記の図表によれば、過去からの各社のソルベンシー比率の推移の概要は以下の通りとなっている。
・2016年末から2017年末にかけては、市場環境が良好(金利の上昇、クレジットスプレッドの縮小、株価の上昇等)であったこともあり、各社ともソルベンシー比率が大きく上昇した。特に、内部モデル適用範囲の拡大等のソルベンシー比率の算出方法の変更等もあり、Generaliは29%ポイント、Aegonは44%ポイントと大幅に水準を上げた。
・2017年末から2018年末にかけては、市場環境の悪化(金利の低下、株価の下落等)もあり、AXAのSCR比率とZurichのZ-ECM比率が低下した。
・2018年末から2019年末にかけては、市場環境の悪化(金利の低下等)により、AllianzとAegonのSCR比率が大きく低下したが、AXA(米国のIPOによるプラスの影響)やGenerali(規制上のモデル変更によるプラスの影響)等のSCR比率は上昇した。
・2019年末から2020年末にかけては、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大による市場の大きな変動があったものの、Zurichを除く各社のSCR比率自体に大きな変化は見られなかった。一方で、ZurichのSST比率は市場リスクのウェイトがより高くなっていたことから、金利の低下と市場の変動の影響を大きく受けて、222%から182%へと40%ポイントと大きく低下した。
・2020年末から2021年末にかけては、市場環境の好転の影響等により、各社ともソルベンシー比率が上昇した。特に、AXA、Aviva、Aegon、Zurichのソルベンシー比率は2桁台の大幅な上昇となった。
・2021年末から2022年末にかけては、各社とも主として経済変動の影響(金利の上昇、クレジットスプレッドの拡大、株価の下落等)を受けて、自己資本のうちの調整準備金(reconciliation reserve)3の残高が大きく減少したことを主因として、Zurichを除く各社のソルベンシー比率は低下した。Zurichの場合、金利の低下が大きくプラスに影響して、SST比率は大幅に上昇した。
・2022年末から2023年末にかけては、AXAとAllianzのソルベンシー比率は上昇したものの、Generaliはほぼ横ばい、Aviva、Aegon、Zurichのソルベンシー比率は低下した。
これに対して、2023年末から2024年末にかけては、各社の資本管理戦略等の差異も反映して、AllianzとZurichのソルベンシー比率は上昇したものの、AXA、Generali、Aviva、Aegonのソルベンシー比率は低下した。
このように、ソルベンシー比率の推移については、各社の資本充実やリスクテイクへの方針の差異等を反映して、その動向は一律ではなく、また必ずしも市場環境に応じて類似のトレンドを示しているわけではない。
さらには、以下の理由等から、各社間の絶対水準や年度間の比率の推移の単純な比較ができないことには注意が必要になる。
(1) 各社の生命保険と損害保険等の事業や地域別の構成比の差異等から、目標とするソルベンシー比率が異なっている(例えば、Aegonは生命保険事業が中心だが、AXA、Allianz、Generali、Aviva、Zurichは生命保険事業も損害保険事業も大きな位置付けを占めており、さらにはAllianz、Generali等では資産管理事業も営業利益のうちの大きなウェイトを占めている)。
(2) 事業の地域構成の差異からくる為替等の影響の程度が異なっている(例えば、Avivaはポンド、Zurichは米ドルと主要通貨や新興国通貨との為替レートが公表数値に大きな影響を与える)。
(3) 引き続き、事業の再編等に伴い、内部モデルの算出方法の変更等を行ってきている場合もあり、一時的な要因による影響が大きなものとなっているケースもある。
・2019年末から2020年末にかけては、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大による市場の大きな変動があったものの、Zurichを除く各社のSCR比率自体に大きな変化は見られなかった。一方で、ZurichのSST比率は市場リスクのウェイトがより高くなっていたことから、金利の低下と市場の変動の影響を大きく受けて、222%から182%へと40%ポイントと大きく低下した。
・2020年末から2021年末にかけては、市場環境の好転の影響等により、各社ともソルベンシー比率が上昇した。特に、AXA、Aviva、Aegon、Zurichのソルベンシー比率は2桁台の大幅な上昇となった。
・2021年末から2022年末にかけては、各社とも主として経済変動の影響(金利の上昇、クレジットスプレッドの拡大、株価の下落等)を受けて、自己資本のうちの調整準備金(reconciliation reserve)3の残高が大きく減少したことを主因として、Zurichを除く各社のソルベンシー比率は低下した。Zurichの場合、金利の低下が大きくプラスに影響して、SST比率は大幅に上昇した。
・2022年末から2023年末にかけては、AXAとAllianzのソルベンシー比率は上昇したものの、Generaliはほぼ横ばい、Aviva、Aegon、Zurichのソルベンシー比率は低下した。
これに対して、2023年末から2024年末にかけては、各社の資本管理戦略等の差異も反映して、AllianzとZurichのソルベンシー比率は上昇したものの、AXA、Generali、Aviva、Aegonのソルベンシー比率は低下した。
このように、ソルベンシー比率の推移については、各社の資本充実やリスクテイクへの方針の差異等を反映して、その動向は一律ではなく、また必ずしも市場環境に応じて類似のトレンドを示しているわけではない。
さらには、以下の理由等から、各社間の絶対水準や年度間の比率の推移の単純な比較ができないことには注意が必要になる。
(1) 各社の生命保険と損害保険等の事業や地域別の構成比の差異等から、目標とするソルベンシー比率が異なっている(例えば、Aegonは生命保険事業が中心だが、AXA、Allianz、Generali、Aviva、Zurichは生命保険事業も損害保険事業も大きな位置付けを占めており、さらにはAllianz、Generali等では資産管理事業も営業利益のうちの大きなウェイトを占めている)。
(2) 事業の地域構成の差異からくる為替等の影響の程度が異なっている(例えば、Avivaはポンド、Zurichは米ドルと主要通貨や新興国通貨との為替レートが公表数値に大きな影響を与える)。
(3) 引き続き、事業の再編等に伴い、内部モデルの算出方法の変更等を行ってきている場合もあり、一時的な要因による影響が大きなものとなっているケースもある。
3 調整準備金は、ソルベンシーII貸借対照表の負債に対する資産の超過分を表し、財務諸表の資本項目 (株式資本、劣後債務を除く名目価値を超える資本) 及び支払見込みの配当金を差し引いたもの
3―各社のソルベンシー比率や感応度の推移及び資本管理等に関係するトピック
この章では、各社のソルベンシー比率の推移の要因分解及び感応度の推移について、報告する。
欧州の保険グループ各社は、2016年1月からのソルベンシーII制度の実施に向けて、SCR比率の充実や適正な感応度水準の維持に向けた対応を行ってきていたが、2016年の制度導入後も、着実に営業利益を積み上げること等で資本の充実を図ってきている。
なお、以下のソルベンシー比率の推移の要因分解において、例えば「経営行動(management action)」に何を含めるのか等が、必ずしも統一されているわけではない。さらには、感応度の対象内容やシナリオも各社各様である。加えて、要因分解に関する情報提供が行われている時期や感応度の対象時期も必ずしも統一されておらず、各社の考え方に基づいている。このレポートの報告内容は、各社の公表資料に基づいているが、その解釈やその概要のまとめ等については、筆者の理解に基づいていることを述べておく。
なお、2024年上期末の状況については、基礎研レポート「欧州大手保険グループの2024年上期末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」(2024.9.4)で報告しているので、こちらも参考にしていただきたい。
欧州の保険グループ各社は、2016年1月からのソルベンシーII制度の実施に向けて、SCR比率の充実や適正な感応度水準の維持に向けた対応を行ってきていたが、2016年の制度導入後も、着実に営業利益を積み上げること等で資本の充実を図ってきている。
なお、以下のソルベンシー比率の推移の要因分解において、例えば「経営行動(management action)」に何を含めるのか等が、必ずしも統一されているわけではない。さらには、感応度の対象内容やシナリオも各社各様である。加えて、要因分解に関する情報提供が行われている時期や感応度の対象時期も必ずしも統一されておらず、各社の考え方に基づいている。このレポートの報告内容は、各社の公表資料に基づいているが、その解釈やその概要のまとめ等については、筆者の理解に基づいていることを述べておく。
なお、2024年上期末の状況については、基礎研レポート「欧州大手保険グループの2024年上期末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」(2024.9.4)で報告しているので、こちらも参考にしていただきたい。
(2025年04月01日「基礎研レポート」)
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中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/04/01 | 欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
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【欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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