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2025年04月01日
欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-
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5|SCRのリスク別及び地域別内訳
SCRのリスク別及び地域別内訳の開示については、次ページの図表が示すように、各社の事業構成等を反映する形で、リスク分類の方式等が異なっている。なお、会社によっては、このレポートの作成時点では2024年末数値が開示されていないことから、AXAとAllianzとAegonについては、2023年末数値を掲載している。また、Zurichについては、(参考)として、SSTによるRisk Capital(Target Capital)のリスク別及び事業別内訳を掲載している。
これによると、リスク別では、各社とも市場リスクや信用リスクのウェイトが高くなっている。ここで、図表の「信用」に、(1)デフォルト、スプレッド拡大、格付変更のリスクを全て含めている会社と、(2)これらを一部区分して開示している会社、がある点には注意が必要となる。
生命保険と損害保険のウェイトが共に高い会社を中心に、保険引受けリスクの構成比も高いものとなっている。オペレーショナル・リスクについては、各社によって異なるが、ほぼ1割前後の構成比となっている。
また、地域別内訳は、各社の地域別事業展開を反映したものとなっている。
SCRのリスク別及び地域別内訳の開示については、次ページの図表が示すように、各社の事業構成等を反映する形で、リスク分類の方式等が異なっている。なお、会社によっては、このレポートの作成時点では2024年末数値が開示されていないことから、AXAとAllianzとAegonについては、2023年末数値を掲載している。また、Zurichについては、(参考)として、SSTによるRisk Capital(Target Capital)のリスク別及び事業別内訳を掲載している。
これによると、リスク別では、各社とも市場リスクや信用リスクのウェイトが高くなっている。ここで、図表の「信用」に、(1)デフォルト、スプレッド拡大、格付変更のリスクを全て含めている会社と、(2)これらを一部区分して開示している会社、がある点には注意が必要となる。
生命保険と損害保険のウェイトが共に高い会社を中心に、保険引受けリスクの構成比も高いものとなっている。オペレーショナル・リスクについては、各社によって異なるが、ほぼ1割前後の構成比となっている。
また、地域別内訳は、各社の地域別事業展開を反映したものとなっている。
5―まとめ
以上、各社のプレスリリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2024年末におけるソルベンシー比率の水準や感応度及びそれらの推移、さらには関係するその他の事項、加えて、2024年における各社の資本管理等に関するトピックについて報告してきた。
決算公表時点でのソルベンシーに関する情報提供は、必ずしも十分なものとはいえない面もある。
「1.はじめに」で述べたように、2023年1月1日から、新たな会計基準であるIFRS第17号(保険契約)の適用が開始されたことに伴い、各社において、各種の資料や数値の再編・見直しが行われている。例えば、これまでAXA、Allianz、Generali等は、「Own Funds Report」等の名称のレポートを作成してきていたが、IFRS第17号の適用開始とともに、これらのレポートの公表は廃止されている。これらのレポートで公表されていた内容については、一部は他の資料等でカバーされてはいるが、さらに詳しい内容等については、今後公表されてくるSFCRで報告されていくことになる。一方で、IFRS第17号の適用に伴い、CSM(契約上のサービスマージン)に関する情報提供19やIFRS第17号とソルベンシーIIにおける資本の差異の説明等、新たな説明資料の追加等も行われてきている。なお、これまでのレポート20で述べてきたように、IFRS第17号の適用自体は実質的にソルベンシーに影響を与えていない。
EUにおいては、2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして9年が経過したが、この間、各社は、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、またここ数年は、COVID-19の感染拡大やそれに伴う市場への大きな影響、さらにはその後の急激な金利上昇等、グローバルベースで変化の激しい不確実性の高い時代を迎える中で、各社各様の考え方に基づいて、リスク管理や資本管理等で各種の対応を行い、態勢等の充実を図ってきている。
資本管理の面では、今回のレポートで報告したように、2024年に入ってからも、将来の劣後債務等の償還時期等を見据えた上で、必要に応じて、償還時にその一部等に関して、新たな劣後債務の発行等を行ったり、あるいは内部留保の充実等により、劣後債務への依存を低下させたりしてきている。また、積極的に地域別の事業展開や事業領域そのものの見直しを行って、新たな会社の買収や子会社の売却等を行うことで、資本の効率的な活用を進めてきている。
こうした各社の資本管理やリスク管理の考え方等については、年間の決算発表時だけでなく、四半期毎の決算発表時、SFCR公表時、投資家向けの説明会等において、各種の報告書やプレゼンテーション資料を提供することで、適宜、開示や説明がなされてきている。ただし、各社によって、その開示方法や説明方式等は異なっており、必ずしも統一されているわけではない。
ソルベンシーII制度の下での各種の開示や報告の問題については、これまで行われてきたソルベンシーIIの見直しにおいても、いくつかの提案等が行われてきたところである。これらの提案等を踏まえた上での最終結果が反映されたEUのソルベンシーII指令の改正については、2025年1月8日にEU官報に掲載され、1月28日に発効しており、2027年1月30日から、各種措置が適用されることになっている。ソルベンシーIIの改正指令の概要については、基礎研レポート「EUにおけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向2024-ソルベンシーIIの改正指令が最終化-」(2025.1.21)で報告している。一方で、このレポートの中でも述べたように、改正の具体的内容については、実施規則等の「レベル2以下」の規定に委ねられている部分も多く、これについては、現在、欧州委員会やEIOPAにおいて検討が進められているところであり 、今後さらなる具体的な内容が明らかになってくることになる。
これに対して、英国におけるソルベンシーIIの見直しであるソルベンシーUKの改革については、既に見直しが行われて、新たな制度がスタートしている。この改革の内容の一部については、Avivaの今回の決算数値にも反映されており、Aviva自身もその影響等について説明していることはこのレポートでも報告している。また、英国におけるソルベンシーIIの見直しの内容については、基礎研レポート「英国におけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向(その8)-2024年における動き(Brexit後の4年間の取組みが最終化)-」(2024.12.3)で報告している。
さらにソルベンシー規制に関しては、グローバルなレベルで、IAISによるICS(保険資本基準)が2024年12月に最終化されており、これを受けての、EIOPAやPRAやFINMAといった欧州の保険監督当局や欧州の保険会社の対応も注目されるところとなってくる。
今後はこれらの見直しの内容や方向性等も踏まえて、今後の決算時の開示資料や説明資料において、さらなる情報提供の工夫や充実が図られていくことが期待されることになる。
IAISによるICSの導入等を受けての、日本における2025年度からの経済価値ベースのソルベンシー規制の導入等に向けての動きの中で、過去の数年以上にわたって、実際に監督基準として機能してきた経済価値ベースのソルベンシー制度の代表的なものとして位置付けられている(EUにおける)ソルベンシーIIや英国におけるソルベンシーUK、さらにはスイスにおけるSSTを巡る動向と、それへの欧州の大手保険グループの各種対応については、日本の保険会社等にとっても大変興味・関心が高いものになっており、参考になるものも多いことから、今後とも継続的にウォッチしていくこととしたい。
19 CSMの残高等の状況については、欧州大手保険グループの決算に関する別途のレポートで報告することにする。
20 欧州大手保険グループのIFRS第17号の適用を巡る状況については、基礎研レポート「IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について-欧州大手保険グループの対応状況-」(2022.10.4)で、欧州大手保険グループが 2022年8月に公表した 2022年上半期報告時の資料等において説明している、IFRS第17号の適用方針や取組状況等の概要について報告した。さらに基礎研レポート「IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について-欧州大手保険グループの対応状況(その 2)-」(2022.12.16)で、欧州大手保険グループが、2022 年 11 月から 12 月にかけて、2022 年第 3 四半期報告時や投資家やアナリスト向けの説明会等において、IFRS 第 17 号及び IFRS 第 9 号(金融商品)の適用による影響度等を開示したことから、この概要について報告した。さらに、基礎研レポート「IFRS 第 17 号(保険契約)を巡る動向について 2023 -欧州大手保険グループの開示の状況と FRC のレビュー-」(2023.12.22)で、2023 年上半期報告における IFRS 第17号の開示情報の状況やこれらに対する英国のFRC(財務報告審議会)の意見を紹介した。
決算公表時点でのソルベンシーに関する情報提供は、必ずしも十分なものとはいえない面もある。
「1.はじめに」で述べたように、2023年1月1日から、新たな会計基準であるIFRS第17号(保険契約)の適用が開始されたことに伴い、各社において、各種の資料や数値の再編・見直しが行われている。例えば、これまでAXA、Allianz、Generali等は、「Own Funds Report」等の名称のレポートを作成してきていたが、IFRS第17号の適用開始とともに、これらのレポートの公表は廃止されている。これらのレポートで公表されていた内容については、一部は他の資料等でカバーされてはいるが、さらに詳しい内容等については、今後公表されてくるSFCRで報告されていくことになる。一方で、IFRS第17号の適用に伴い、CSM(契約上のサービスマージン)に関する情報提供19やIFRS第17号とソルベンシーIIにおける資本の差異の説明等、新たな説明資料の追加等も行われてきている。なお、これまでのレポート20で述べてきたように、IFRS第17号の適用自体は実質的にソルベンシーに影響を与えていない。
EUにおいては、2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして9年が経過したが、この間、各社は、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、またここ数年は、COVID-19の感染拡大やそれに伴う市場への大きな影響、さらにはその後の急激な金利上昇等、グローバルベースで変化の激しい不確実性の高い時代を迎える中で、各社各様の考え方に基づいて、リスク管理や資本管理等で各種の対応を行い、態勢等の充実を図ってきている。
資本管理の面では、今回のレポートで報告したように、2024年に入ってからも、将来の劣後債務等の償還時期等を見据えた上で、必要に応じて、償還時にその一部等に関して、新たな劣後債務の発行等を行ったり、あるいは内部留保の充実等により、劣後債務への依存を低下させたりしてきている。また、積極的に地域別の事業展開や事業領域そのものの見直しを行って、新たな会社の買収や子会社の売却等を行うことで、資本の効率的な活用を進めてきている。
こうした各社の資本管理やリスク管理の考え方等については、年間の決算発表時だけでなく、四半期毎の決算発表時、SFCR公表時、投資家向けの説明会等において、各種の報告書やプレゼンテーション資料を提供することで、適宜、開示や説明がなされてきている。ただし、各社によって、その開示方法や説明方式等は異なっており、必ずしも統一されているわけではない。
ソルベンシーII制度の下での各種の開示や報告の問題については、これまで行われてきたソルベンシーIIの見直しにおいても、いくつかの提案等が行われてきたところである。これらの提案等を踏まえた上での最終結果が反映されたEUのソルベンシーII指令の改正については、2025年1月8日にEU官報に掲載され、1月28日に発効しており、2027年1月30日から、各種措置が適用されることになっている。ソルベンシーIIの改正指令の概要については、基礎研レポート「EUにおけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向2024-ソルベンシーIIの改正指令が最終化-」(2025.1.21)で報告している。一方で、このレポートの中でも述べたように、改正の具体的内容については、実施規則等の「レベル2以下」の規定に委ねられている部分も多く、これについては、現在、欧州委員会やEIOPAにおいて検討が進められているところであり 、今後さらなる具体的な内容が明らかになってくることになる。
これに対して、英国におけるソルベンシーIIの見直しであるソルベンシーUKの改革については、既に見直しが行われて、新たな制度がスタートしている。この改革の内容の一部については、Avivaの今回の決算数値にも反映されており、Aviva自身もその影響等について説明していることはこのレポートでも報告している。また、英国におけるソルベンシーIIの見直しの内容については、基礎研レポート「英国におけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向(その8)-2024年における動き(Brexit後の4年間の取組みが最終化)-」(2024.12.3)で報告している。
さらにソルベンシー規制に関しては、グローバルなレベルで、IAISによるICS(保険資本基準)が2024年12月に最終化されており、これを受けての、EIOPAやPRAやFINMAといった欧州の保険監督当局や欧州の保険会社の対応も注目されるところとなってくる。
今後はこれらの見直しの内容や方向性等も踏まえて、今後の決算時の開示資料や説明資料において、さらなる情報提供の工夫や充実が図られていくことが期待されることになる。
IAISによるICSの導入等を受けての、日本における2025年度からの経済価値ベースのソルベンシー規制の導入等に向けての動きの中で、過去の数年以上にわたって、実際に監督基準として機能してきた経済価値ベースのソルベンシー制度の代表的なものとして位置付けられている(EUにおける)ソルベンシーIIや英国におけるソルベンシーUK、さらにはスイスにおけるSSTを巡る動向と、それへの欧州の大手保険グループの各種対応については、日本の保険会社等にとっても大変興味・関心が高いものになっており、参考になるものも多いことから、今後とも継続的にウォッチしていくこととしたい。
19 CSMの残高等の状況については、欧州大手保険グループの決算に関する別途のレポートで報告することにする。
20 欧州大手保険グループのIFRS第17号の適用を巡る状況については、基礎研レポート「IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について-欧州大手保険グループの対応状況-」(2022.10.4)で、欧州大手保険グループが 2022年8月に公表した 2022年上半期報告時の資料等において説明している、IFRS第17号の適用方針や取組状況等の概要について報告した。さらに基礎研レポート「IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について-欧州大手保険グループの対応状況(その 2)-」(2022.12.16)で、欧州大手保険グループが、2022 年 11 月から 12 月にかけて、2022 年第 3 四半期報告時や投資家やアナリスト向けの説明会等において、IFRS 第 17 号及び IFRS 第 9 号(金融商品)の適用による影響度等を開示したことから、この概要について報告した。さらに、基礎研レポート「IFRS 第 17 号(保険契約)を巡る動向について 2023 -欧州大手保険グループの開示の状況と FRC のレビュー-」(2023.12.22)で、2023 年上半期報告における IFRS 第17号の開示情報の状況やこれらに対する英国のFRC(財務報告審議会)の意見を紹介した。
(2025年04月01日「基礎研レポート」)
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中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/25 | 欧州大手保険グループの2024年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/14 | 欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/01 | 欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/03/18 | EUがIRRD(保険再建・破綻処理指令)を最終化-業界団体は負担の軽減とルールの明確化等を要求- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
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【欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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