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2025年04月01日
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4|独立性(銀行と保険会社のみ)について
(1)現行の要件
APRAの健全性基準であるCPS 510は、銀行と保険会社の取締役会に対し、独立した議長と過半数の独立取締役を置くことを求めている。独立取締役は「業務上の関係やその他の関係(大規模な株式保有、過去の経営への関与、サプライヤー、顧客、アドバイザーとしての関係など)から、独立した判断の行使を実質的に妨げられる可能性のない非執行取締役」と定義されている。
CPS 510では、親会社またはその子会社の取締役会の独立取締役が、規制対象会社の取締役会の独立取締役を兼任することを認めている。また、規制対象企業やグループの主要株主である取締役を独立取締役とみなされない。
銀行や保険のAPRA規制対象事業体では、取締役会の過半数が独立取締役でなければならないことが一般的だが、親会社が健全性規制を受けている企業の子会社である場合には、若干異なる要件が課される。これらの子会社の取締役会は、過半数が非常勤取締役でなければならないが、全員が独立取締役である必要はない。CPS510では、7名以下の取締役会では3名(議長を含む)、それ以上の取締役会では4名(議長を含む)の独立取締役を要求している。
(1)現行の要件
APRAの健全性基準であるCPS 510は、銀行と保険会社の取締役会に対し、独立した議長と過半数の独立取締役を置くことを求めている。独立取締役は「業務上の関係やその他の関係(大規模な株式保有、過去の経営への関与、サプライヤー、顧客、アドバイザーとしての関係など)から、独立した判断の行使を実質的に妨げられる可能性のない非執行取締役」と定義されている。
CPS 510では、親会社またはその子会社の取締役会の独立取締役が、規制対象会社の取締役会の独立取締役を兼任することを認めている。また、規制対象企業やグループの主要株主である取締役を独立取締役とみなされない。
銀行や保険のAPRA規制対象事業体では、取締役会の過半数が独立取締役でなければならないことが一般的だが、親会社が健全性規制を受けている企業の子会社である場合には、若干異なる要件が課される。これらの子会社の取締役会は、過半数が非常勤取締役でなければならないが、全員が独立取締役である必要はない。CPS510では、7名以下の取締役会では3名(議長を含む)、それ以上の取締役会では4名(議長を含む)の独立取締役を要求している。
(2)問題意識
グループ内利益相反
APRAの見解では、現行の健全性規制では、グループ内の異なる事業体間の利益相反が生じる可能性について十分に考慮されていないとしている。こうした利益相反の程度はグループによって異なるが、その一端として、利害が十分に一致しているグループの場合には、独立取締役は複数の取締役会を兼務しても重大な利益相反に陥ることはないと考えられる。一方、利害があまり一致していないケースもあり、そのような場合には規制対象となる企業と他のグループ企業との利害が対立する可能性が非常に高くなる。特に、親会社と子会社間の利益相反が存在する場合、APRAは、取締役会の再編、利益相反に対処するための具体的な措置、独立取締役の追加選任などにより、これらの利益相反に対処するよう事業体に求めてきた。
その他の利益相反
CPS 510 は、規制対象企業やグループの主要株主である取締役を独立取締役とみなすことを禁 止しているが、取締役会の判断を妨げる可能性のある同様の利益相反が、株式以外の有価証券を 保有することによっても生じる可能性がある点については言及できていない。
取締役会の構成に関する一貫性のない要件
CPS 510では、銀行と保険会社の取締役会に一貫性のない要件を設定している。10年以上前には、APRAや海外の同等の団体の規制下にある親会社を持つ子会社の取締役について、取締役確保に関する懸念があったためだが、現在では異なる扱いを支持する根拠は乏しい。
グループ内利益相反
APRAの見解では、現行の健全性規制では、グループ内の異なる事業体間の利益相反が生じる可能性について十分に考慮されていないとしている。こうした利益相反の程度はグループによって異なるが、その一端として、利害が十分に一致しているグループの場合には、独立取締役は複数の取締役会を兼務しても重大な利益相反に陥ることはないと考えられる。一方、利害があまり一致していないケースもあり、そのような場合には規制対象となる企業と他のグループ企業との利害が対立する可能性が非常に高くなる。特に、親会社と子会社間の利益相反が存在する場合、APRAは、取締役会の再編、利益相反に対処するための具体的な措置、独立取締役の追加選任などにより、これらの利益相反に対処するよう事業体に求めてきた。
その他の利益相反
CPS 510 は、規制対象企業やグループの主要株主である取締役を独立取締役とみなすことを禁 止しているが、取締役会の判断を妨げる可能性のある同様の利益相反が、株式以外の有価証券を 保有することによっても生じる可能性がある点については言及できていない。
取締役会の構成に関する一貫性のない要件
CPS 510では、銀行と保険会社の取締役会に一貫性のない要件を設定している。10年以上前には、APRAや海外の同等の団体の規制下にある親会社を持つ子会社の取締役について、取締役確保に関する懸念があったためだが、現在では異なる扱いを支持する根拠は乏しい。
(3)対応
まず、独立性の定義を以下のように改訂予定11である。
「事業体又はその属するグループの従業員ではなく、客観的な判断の行使又は規制対象事業体の利益のために行動することを妨げる、又は妨げると合理的に認識され得るいかなる業務上又は個人的な関係からも自由である非常勤取締役」12。
グループ内の利益相反
APRAが健全性規制でこの問題に対処する方法はいくつか考えられる。どの選択肢も、監督上の効率性、規制対象事業体の適用しやすさ、リスク軽減、業界の混乱とのトレードオフを伴うものである。これらの選択肢は、取締役が複数の取締役会に所属し、独立した地位を保持することを認める現行の条項を削除するものから、規制対象事業体の取締役会の独立取締役はグループ内の他の取締役会の取締役と兼任できないと義務付けるものまで様々である。前者は、どの取締役が“独立”であるかを判断するために、APRAと協議しながら、事業体による相当な検討と判断が必要となる。後者は、事業体とグループの利害が高度に一致している場合であっても兼任が不可となるため、かなりの混乱と取締役の入れ替わりを引き起こすことが想定される。
これらトレードオフの現実的なバランスをとるため、APRAは、各規制対象事業体の取締役会において、独立取締役のうち少なくとも2名(議長を含む)は、関連するグループ内の他の取締役会の取締役であってはならないことを義務付けることを提言している。
最終的にどの選択肢が選ばれるかに拠らず、APRAは、規制対象事業体が取締役会の各メ ンバーのグループ内利益相反を効果的に管理することを期待している。
その他のコンフリクト
APRAはまた、規制対象企業またはその属するグループが発行する証券の保有者が独立とみなされないようにするため、現在CPS510の添付書類Aにある基準を更新することを提言している。当初の意図である、重要な財務上の利益相反を防ぐという点は変わらない。この改正は、例えば、実質的な債券保有者が、実質的な株式保有者と同様の影響力を持つ可能性があることを認めるだけのものである。
取締役会の構成に関する一貫した要件
APRAは、銀行や保険会社に適用している「取締役会の過半数を独立取締役で構成する」という要件を、APRAや海外の同等組織の規制下にある親会社の子会社にも適用することを提言している。APRAはこの変更を行うことで、独立取締役を新たに追加で採用する必要性が生じる混乱に対して、合理的な移行期間を設ける必要があることを認識しており、適切な経過措置を組み込むことに言及している。
11 APRA はこの定義に関する意見を公募している。
12 ‘a non-executive director who is not an employee of the entity, or the group to which it belongs, and who is free from any business or personal relationship that interferes, or could reasonably be perceived to interfere, with their exercise of objective judgement or acting in the interests of the regulated entity.’
まず、独立性の定義を以下のように改訂予定11である。
「事業体又はその属するグループの従業員ではなく、客観的な判断の行使又は規制対象事業体の利益のために行動することを妨げる、又は妨げると合理的に認識され得るいかなる業務上又は個人的な関係からも自由である非常勤取締役」12。
グループ内の利益相反
APRAが健全性規制でこの問題に対処する方法はいくつか考えられる。どの選択肢も、監督上の効率性、規制対象事業体の適用しやすさ、リスク軽減、業界の混乱とのトレードオフを伴うものである。これらの選択肢は、取締役が複数の取締役会に所属し、独立した地位を保持することを認める現行の条項を削除するものから、規制対象事業体の取締役会の独立取締役はグループ内の他の取締役会の取締役と兼任できないと義務付けるものまで様々である。前者は、どの取締役が“独立”であるかを判断するために、APRAと協議しながら、事業体による相当な検討と判断が必要となる。後者は、事業体とグループの利害が高度に一致している場合であっても兼任が不可となるため、かなりの混乱と取締役の入れ替わりを引き起こすことが想定される。
これらトレードオフの現実的なバランスをとるため、APRAは、各規制対象事業体の取締役会において、独立取締役のうち少なくとも2名(議長を含む)は、関連するグループ内の他の取締役会の取締役であってはならないことを義務付けることを提言している。
最終的にどの選択肢が選ばれるかに拠らず、APRAは、規制対象事業体が取締役会の各メ ンバーのグループ内利益相反を効果的に管理することを期待している。
その他のコンフリクト
APRAはまた、規制対象企業またはその属するグループが発行する証券の保有者が独立とみなされないようにするため、現在CPS510の添付書類Aにある基準を更新することを提言している。当初の意図である、重要な財務上の利益相反を防ぐという点は変わらない。この改正は、例えば、実質的な債券保有者が、実質的な株式保有者と同様の影響力を持つ可能性があることを認めるだけのものである。
取締役会の構成に関する一貫した要件
APRAは、銀行や保険会社に適用している「取締役会の過半数を独立取締役で構成する」という要件を、APRAや海外の同等組織の規制下にある親会社の子会社にも適用することを提言している。APRAはこの変更を行うことで、独立取締役を新たに追加で採用する必要性が生じる混乱に対して、合理的な移行期間を設ける必要があることを認識しており、適切な経過措置を組み込むことに言及している。
11 APRA はこの定義に関する意見を公募している。
12 ‘a non-executive director who is not an employee of the entity, or the group to which it belongs, and who is free from any business or personal relationship that interferes, or could reasonably be perceived to interfere, with their exercise of objective judgement or acting in the interests of the regulated entity.’
5|取締役会のパフォーマンス評価について
(1)現行の要件
APRAの現行基準では、規制対象となるすべての事業体の取締役会は、少なくとも年1回、取締役会および個々の取締役の業績を評価する手続きを設けることが求められている。また、医療保険者(health insurers)およびRSEライセンシーの取締役会に対するAPRAのガイダンス13では、取締役会のパフォーマンス評価は少なくとも3年ごとに外部の第三者によって実施されるべきであると規定している。
13 HPG 510およびSPG 510
(1)現行の要件
APRAの現行基準では、規制対象となるすべての事業体の取締役会は、少なくとも年1回、取締役会および個々の取締役の業績を評価する手続きを設けることが求められている。また、医療保険者(health insurers)およびRSEライセンシーの取締役会に対するAPRAのガイダンス13では、取締役会のパフォーマンス評価は少なくとも3年ごとに外部の第三者によって実施されるべきであると規定している。
13 HPG 510およびSPG 510
(2)問題意識
APRAの監督上の経験に照らすと、取締役会のパフォーマンス評価は、事業体によってその範囲と深度において大幅に異なる。徹底的かつ将来を見据えたレビューもあれば、厳格性と信頼性に欠けるレビューもある。外部委託による取締役会レビューを実施する機関もあるが、それでも依然として十分な結果が得られていない場合もある。 APRAによるパフォーマンス評価のレビューでは、レビューの改善余地がある3つの主要分野が特定された。それは、以下の3点である。
・取締役会全体に焦点が当てられ、委員会や個々の取締役のパフォーマンスは評価されない
・確固とした証拠に基づくものではなく、自己評価や同業者からの意見のみに依存している
・議長が評価プロセスにおいて、あるいは浮上した提言が対処されることを確保する上で、リーダーシップを発揮できていない
APRAの監督上の経験に照らすと、取締役会のパフォーマンス評価は、事業体によってその範囲と深度において大幅に異なる。徹底的かつ将来を見据えたレビューもあれば、厳格性と信頼性に欠けるレビューもある。外部委託による取締役会レビューを実施する機関もあるが、それでも依然として十分な結果が得られていない場合もある。 APRAによるパフォーマンス評価のレビューでは、レビューの改善余地がある3つの主要分野が特定された。それは、以下の3点である。
・取締役会全体に焦点が当てられ、委員会や個々の取締役のパフォーマンスは評価されない
・確固とした証拠に基づくものではなく、自己評価や同業者からの意見のみに依存している
・議長が評価プロセスにおいて、あるいは浮上した提言が対処されることを確保する上で、リーダーシップを発揮できていない
(3)対応
これらの問題に対処し、適切な対応を取るため、APRAは、SIFsに対して以下を義務付けることを提言している。
・適切な資格を有する専門家による、取締役会、委員会、および個々の取締役に対する第三者の独立したパフォーマンス評価を3年ごとに実施する
・パフォーマンス評価の適切な遂行および提言事項が適切に対処されることを確保するために、議長が主導的かつ説明責任のある役割を担う
・3年ごとの第三者による報告書をAPRAに提出する。
3年ごとのレビューの厳格さを考慮し、APRAは、SIFの年次パフォーマンス評価の範囲を狭め、第三者による評価の提言事項の進捗に焦点を当てることを予定している。APRAは、外部委員会による評価の委託が小規模な事業体にとっては過剰なコストとなる可能性があることを認識しており、非SIFsの事業体に対してこの評価を義務付けることは求めない。しかし、APRAは依然として、非SIFsの事業体に対して、年次パフォーマンス評価の全体的な質と厳格性の向上を求めており非SIFsの事業体の議長は、このプロセスと結果として生じるプログラムに対して積極的なリーダーシップを発揮することが期待されている。これはガイダンスにも反映される予定である。
なお、APRAは、SFIの3年ごとの外部評価には最低限、以下の事項を含むことを提言している。
・取締役会、委員会、および個々の取締役のパフォーマンス
・取締役と上級管理職との関わり合い
・議長の有効性
・取締役会および委員会の業務量と会議の頻度
・リスクに基づく意思決定と監督を可能にする報告の質
・利益相反の管理
・現状に対するスキル・マトリックスとギャップ分析の戦略的整合性
・意思決定全体の有効性
これらの問題に対処し、適切な対応を取るため、APRAは、SIFsに対して以下を義務付けることを提言している。
・適切な資格を有する専門家による、取締役会、委員会、および個々の取締役に対する第三者の独立したパフォーマンス評価を3年ごとに実施する
・パフォーマンス評価の適切な遂行および提言事項が適切に対処されることを確保するために、議長が主導的かつ説明責任のある役割を担う
・3年ごとの第三者による報告書をAPRAに提出する。
3年ごとのレビューの厳格さを考慮し、APRAは、SIFの年次パフォーマンス評価の範囲を狭め、第三者による評価の提言事項の進捗に焦点を当てることを予定している。APRAは、外部委員会による評価の委託が小規模な事業体にとっては過剰なコストとなる可能性があることを認識しており、非SIFsの事業体に対してこの評価を義務付けることは求めない。しかし、APRAは依然として、非SIFsの事業体に対して、年次パフォーマンス評価の全体的な質と厳格性の向上を求めており非SIFsの事業体の議長は、このプロセスと結果として生じるプログラムに対して積極的なリーダーシップを発揮することが期待されている。これはガイダンスにも反映される予定である。
なお、APRAは、SFIの3年ごとの外部評価には最低限、以下の事項を含むことを提言している。
・取締役会、委員会、および個々の取締役のパフォーマンス
・取締役と上級管理職との関わり合い
・議長の有効性
・取締役会および委員会の業務量と会議の頻度
・リスクに基づく意思決定と監督を可能にする報告の質
・利益相反の管理
・現状に対するスキル・マトリックスとギャップ分析の戦略的整合性
・意思決定全体の有効性
(2025年04月01日「保険・年金フォーカス」)
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03-3512-1777
経歴
- 【職歴】
2007年 日本生命保険相互会社入社
2024年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・年金数理人
植竹 康夫のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/04/01 | APRAによるガバナンス強化の提言について-オーストラリアの健全性規制 | 植竹 康夫 | 保険・年金フォーカス |
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【APRAによるガバナンス強化の提言について-オーストラリアの健全性規制】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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