2025年03月28日

OPECプラスの軌跡と影響力~日本に対抗策はあるのか?

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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2―OPECプラス内の不協和音と体制の行方

OPECプラスは協調生産体制を長期に保っているが、内部では不協和音もたびたび高まっている。

象徴的な動きとしては、「OPECからの相次ぐ脱退」が挙げられる。OPECから脱退すれば、OPECプラスの枠組みからも外れることになる。具体的には、2019年1月にカタール、2020年1月にエクアドル、2024年1月にアンゴラがそれぞれ脱退に踏み切った。カタールについては、原油よりも天然ガスの生産大国であることやサウジとの政治的な対立といった特殊な事情もあるが、各国ともにOPECプラス加盟に伴って課せられる生産抑制の長期化に対する不満があったとみられる。

脱退した国々は生産量が小規模であったため、脱退がOPECプラス全体の生産動向や市場に与える影響自体は限定的ながら、脱退が相次いだことはOPECプラスの結束の緩みをうかがわせる。 

また、協調減産の合意破りが横行していることもOPECプラスの協調を揺るがしている。

各加盟国に割り振られた合意生産枠と実際の生産量との乖離を確認すると(図表8)、イラク、UAE、カザフスタン、ロシアなどで合意枠以上の生産が目立つ。他の加盟国は過剰生産国に対してその補償のための追加減産も含めて是正を求め続けているのだが、合意破りは収まっていない。とりわけ、イラクについては長年にわたって殆ど合意を守ったことがない。
 
このような合意破りが横行する背景には国際的な生産調整が抱えるジレンマがある。各加盟国にとって、自国の利益を最大化する方法は抜け駆けすることであるためだ。「他国が減産して原油価格を底上げしてくれている状況下で自国は増産する」ことが最も原油輸出収入を稼げる(図表9)。むろん、合意破りに対する強力な制裁など強いペナルティがあれば話は別だが、OPECプラスにはそのような仕組みはない。逆に各加盟国にとって最悪なのが、「自国は合意を順守して減産を実施しているにもかかわらず、他国が抜け駆け的な増産を行って原油価格が低迷してしまう」ケースだ。

イラクやカザフスタンなどでは外資系石油会社が生産を行っており、政府による制御が難しいという事情もあるとみられるが、合意した以上は「問題なし」とはならない。

実際、今月初旬のOPECプラス会合で、原油価格が弱含みで推移しているにもかかわらず、「4月からの減産縮小を予定通り開始する」との決定が為された一因に、カザフスタンによる2月の記録的な合意破りがあり、他国が減産の意義に疑問を呈したことがあるとの報道9もある。
(図表8)OPECプラス参加国の生産状況(目標比)/(図表9)OPECプラス参加国のジレンマ
このように、減産が長引く中で、OPECプラス内部では不協和音や不満が燻っているとみられ、今後も枠組みから離脱する国が出てくる可能性があるが、生産協調の枠組みは今後も長期にわたって存続する可能性が高い。米国などと異なり、経済・財政の原油への依存度が高いOPECプラスの各加盟国にとっては、各国が無秩序な増産に走って原油価格が急落する事態を何としても回避したいためだ。

現にコロナ禍初期にあたる2020年3月のOPECプラス会合では、意見の対立から減産の拡大で合意できなかったばかりか協調減産も延長できす、サウジが即座に増産姿勢を打ち出したことで原油価格が急落する事態となった(そして、その翌月に大規模減産での合意が成立した)。
 
従って、一部加盟国の離脱や非OPEC諸国の生産拡大に伴って影響力を削がれることはあるものの、今後も長期にわたってOPECプラスの生産協調体制は継続され、原油価格の底上げ・下支えを図り続けると考えられる。

ちなみに、米国では原油安によるインフレ率引き下げを志向するトランプ新政権がOPECに増産を要求しており、4月からの減産縮小決定の一因になった可能性は否定できないが、OPEC(プラス)が今後も要求を簡単に受け入れる可能性は低い。

実際、第1次トランプ政権(2017年1月~2021年1月)時にも政権はOPECに増産を求め続けたが、OPECプラスはたびたび意に反する形で減産を拡大した(図表3)。OPECプラスを主導するサウジやクウェートなどにとって、米国は同盟国かつ安全保障の提供国でもあることから同国の意見を考慮はするものの、自国経済の柱である原油の価格を急落させるような対応は取らないと考えられる。
 
9 2025年3月4日ロイター報道。

3―日本への影響と採り得る対抗策

3―日本への影響と採り得る対抗策

1OPECプラスによる協調減産の日本への影響
OPECプラスの生産調整(すなわち協調減産)の日本に及ぼす影響を考えると、マイナス面が大きい。

原油の国内消費量の99.7%(2024年実績)を輸入に頼るわが国にとって、OPECプラスの協調減産による原油価格の底上げ・下支えは原油輸入額の増加に直結する。原油価格が上がれば、関連製品である石油製品やLPG(液化石油ガス)の輸入価格も押し上げられる。さらに、わが国の場合、LNG(液化天然ガス)についても輸入の7~8割が原油価格を参照する方式での価格決定となっているため、原油価格上昇がほぼ直接的に価格へ波及する。

このため、近年の日本の化石燃料の輸入価格は、原油価格が主導する形で、コロナ禍時を除いて上昇・高止まりしている(図表10)。こうした化石燃料の輸入価格上昇は、国ベースでは産油国への日本の富の流出を意味し、その負担は、国内において、企業利益の押し下げ(価格転嫁されない場合)、物価の上昇(価格転嫁される場合)、財政負担の増加(政府が補助金などで価格抑制を図る場合)といった形で課されることになる。
(図表10)化石燃料の輸入価格(単価)/(図表11)日本の貿易収支と主要燃料輸入額
また、原油高が円安に繋がり、物価を幅広く押し上げる要因になる点にも留意が必要だ。原油価格上昇によって化石燃料の輸入額が膨らんだ結果、日本の貿易収支が赤字化し、円安の一因になった(図表11)。円安進行には日米金融政策の格差や企業・家計の対外投資なども作用しているが、貿易赤字は買戻しを伴わない一方向の円売りを通じて持続的な円安要因となり、幅広い品目の円建て輸入物価を押し上げてきた(図表12)。そして、輸入物価の上昇を受けた企業が価格転嫁を行ったことで幅広い品目の消費者物価が押し上げられた。

この構図は、原油自体の輸入にも当てはまる。2024年の原油輸入額(10.9兆円)は2016年から5.3兆円増加しているが、この間の輸入量減少が1.6兆円の輸入額の減少要因になっているものの、ドル建て原油価格上昇の影響が3.9兆円の増加要因となったことに加えて、円安による円換算額押し上げの影響が3.1兆円の増加要因になっている(図表13)。
(図表12)輸入物価とドル円レートの推移/(図表13)原油輸入額の増減と変動要因(2016年比)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年03月28日「基礎研レポート」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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