2025年03月12日

2025年中国全人代のポイント-米中摩擦のなか、内需拡大で「+5%前後」成長とデフレ回避を目指す

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介

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1――経済政策の目標 : 成長率目標は据え置き。物価目標はインフレ対応からデフレ対応に変化

2025年の政策運営に関して、数値などで具体的に示されたものは図表1、取り組む政策として挙げられたものは図表2の通りだ。このうち、最も重要となる成長率目標は「+5%前後」と、24年の目標から据え置きとされた。この目標は、事前に巷間で予想されていた通りであり、サプライズはなかった。一方、物価目標は「+2%前後」と、24年の「+3%前後」から引き下げられた。中国の物価目標は、高度経済成長期の物価上昇を抑制する意味合いで長らく+3%~+4%台の水準とされてきたが1、近年は不動産不況や過剰生産能力によりデフレ懸念が強まっており、「+3%前後」という目標は事実上形骸化していた。今回、目標がより現実的な水準に引き下げられたことは、指導部がインフレへの警戒からデフレへの警戒へと認識を改めたことの表れといえよう。
図表1 全人代で示された主な今年の数値目標と昨年の目標・実績
図表2 2025年の政策
これらの目標達成は、「報告」でも強調されているように、必ずしも容易ではない。24年は+5%ちょうどの成長率を達成したが、これは好調な外需によるところが大きい。これに対して、25年はトランプ関税による下押しなどから、外需の寄与は低下する可能性が高い。中国政府は、財政出動の強化で消費を中心とした内需拡大や、過当競争の是正による供給圧力の緩和、株式や不動産市場の活性化など、様々な対策を組み合わせ、+5%前後の成長と物価上昇の実現を目指す考えだ。ただ、25年中に物価下押し圧力が完全に払拭されるとは考えづらく、26年にもまたがる取り組みとなるだろう。需要が十分に改善しないにもかかわらず、目標達成のために生産を強化すれば、需給バランスが一段と悪化し、物価を押し下げる恐れがある。需要を持続的に押し上げることができるかが、経済好転の可否を左右するポイントとなるだろう。
 
1 アジア通貨危機等の影響で現在と同様、需要不足やデフレが課題となっていた1999年から2003年にかけては、「+1~2%」など、+3%以下の目標とされていたが、2004年以降の物価目標は、+3%以上の水準で設定とされている。

2――財政・金融政策の方針

2――財政・金融政策の方針

図表3 財政赤字の規模 1|財政政策 : 財源を総動員して需要喚起やリスク対策に充当
財政政策については、「より積極的な財政政策」とされ、規模に関しては、様々な財源を総動員し、2024年から3.5兆元(24年のGDP比で2.6%)増の14兆元で経済政策に臨む構えだ。財源のうち、財政の積極性をみるうえで注目される財政赤字の規模は、GDP比4%の5.66兆元とされ、これまでの慣行であった同3%を1%上回る水準とされた(図表3)。財政赤字引き上げの方針はかねてより示されていたため、想定の範囲内であった。他方、特別国債は、合計で1.8兆元と、事前に予想されていた規模(2~3兆元)に比べて控えめな規模であった。
用途に関しては、需要喚起とリスク対策の2つに大別できる。具体的には図表4の通りだ。現時点で予算配分が決まっているものだけをみると、経済不振が続く中で注目される需要喚起策については、「両重」と総称される重点領域におけるインフラ建設や公共サービス強化に対して8,000億元、24年9月以降、支援の重点とされている家計向けの買い替え支援に対して3,000億元、そして企業の設備更新支援に2,000億元を投じることとされた。24年からの積み増し分は3,000億元と、地方財政支援(8,000億元)と大手国有銀行への資本注入(5,000億元)と比べても小さく、やや力不足の印象だ。24年中は、対象となった設備投資や家電販売などで顕著な効果が表れたものの(図表5)、需要の先食いに過ぎない面もある。25年に、財政出動がどの程度内需の改善に結びつき、予想される外需の押し下げを相殺できるか、毎月の経済指標で確認していく必要がある。

なお、「報告」では、「情勢の変化に応じてタイムリーな政策調整を行う」とも述べており、米中摩擦等による経済下押し圧力が強まった場合には、23年にみられたように補正予算を組み、対策を強化するという展開もあり得る。
図表4 特別国債・地方専項債の主な使途と割当額/図表5 家電販売と設備投資
2|金融政策 : 利下げは為替等の動向をにらみつつ実施。不動産・株式市場対策も打ち出される可能性
金融政策については、「適度に緩和的な金融政策」とされ、適時に利下げ、預金準備率の引き下げを行う方針や、不動産・株式市場対策も強化する考えなどが示された。

利下げに関しては、経済、物価目標の達成に向け、実施が既定路線だが、人民元や国債市場、銀行の利ざやなど、利下げの副作用も考慮する必要がある。金融市場に関しては、足元では、24年10月以降進展した人民元安が一服しているほか、24年以来続く国債金利の低下にも歯止めがかかっているなど(図表6・7)、一時に比べれば利下げを実施しやすい環境にあるが、米中の摩擦や経済情勢の先行き不透明感が強い。金融市場とのコミュニケーションや介入、監督管理とを組み合わせながら、タイミングを見計らって利下げを実施していくことになるだろう。

不動産・株式市場に関しては、今年の「報告」で、経済政策の基本方針の中に新たに盛り込まれるなど、重視する姿勢が鮮明だ。後述するように、不動産市場に関しては目新しい政策は示されなかったものの、全人代に参加した代表からは、不動産市場安定化基金と、24年から議論が本格化した株式市場安定化基金について、それぞれ10兆元規模で設立すべきとの提言も出されている。今後、一歩踏み込んだ対策が発表されるかが注目点となる。
図表6 人民元レート/図表7 国債利回り

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月12日「基礎研レター」)

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経済研究部   主任研究員

三浦 祐介 (みうら ゆうすけ)

研究・専門分野
中国経済

経歴
  • 【職歴】
     ・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
     ・2009年:同 アジア調査部中国室
     (2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
     ・2020年:同 人事部
     ・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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