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- 気候変動問題に関連するアクチュアリーの研究活動について
コラム
2025年02月28日
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現在、気候変動は世界的に重大な問題となっている。台風やハリケーンの被害の拡大や巨大な山火事の発生については、温暖化を背景として語られることも多く、影響は深刻なものとなっている。これに対して、政府、企業、NGOなど各層でさまざまな取り組みが行われている。保険会社等で活動するアクチュアリーもこの課題に対して取り組み始めており、研究活動も報告されるようになってきている。リスク評価と管理の専門家として、いったいどのような研究活動に取り組んでいるのであろうか。
◆ 日本アクチュアリー会の年次大会における報告
昨年11月の日本アクチュアリー会の年次大会において、気候変動問題におけるアクチュアリーの役割、これまでの成果と今後の展望がテーマとして取り上げられていた。
その内容としては、大気と海洋、陸面などの相互作用をシステムとしてとらえて計算機でシミュレーションする気候モデルに関する調査、気候変動シナリオに基づき将来の影響を予測するシナリオ分析に関する情報収集、および気候変動が人間の生死や健康に与える影響を定量的に把握するための気候インデックスに関する研究などが含まれていた。
たとえば気候インデックスについては、洪水や土砂災害などの急性リスクについては目に見えて分かりやすいが、長期にわたる環境変化が及ぼす慢性リスクについては、影響をどのようにして定量的に把握するのかは難しい問題となっていることから、北米や豪州での研究事例を参照しつつ、日本の特性に合わせた気候インデックスの開発を試みようというものであり、多くの資源を投入して研究が進められている印象を受ける報告だった。
しかしながら、年次大会では30以上のセッションがあったものの、気候変動をテーマとしていたのはこの1つだけであった。気候変動に関する研究会(気候変動・サステナビリティ研究会)は、2023年5月に新設されたこともあり、初期段階の研究が多いということかと思われるが、これまでの記録を更新する暑さが続く等、気候変動の影響が眼に見えて高まっている中では、少ないようにも感じられた。
その内容としては、大気と海洋、陸面などの相互作用をシステムとしてとらえて計算機でシミュレーションする気候モデルに関する調査、気候変動シナリオに基づき将来の影響を予測するシナリオ分析に関する情報収集、および気候変動が人間の生死や健康に与える影響を定量的に把握するための気候インデックスに関する研究などが含まれていた。
たとえば気候インデックスについては、洪水や土砂災害などの急性リスクについては目に見えて分かりやすいが、長期にわたる環境変化が及ぼす慢性リスクについては、影響をどのようにして定量的に把握するのかは難しい問題となっていることから、北米や豪州での研究事例を参照しつつ、日本の特性に合わせた気候インデックスの開発を試みようというものであり、多くの資源を投入して研究が進められている印象を受ける報告だった。
しかしながら、年次大会では30以上のセッションがあったものの、気候変動をテーマとしていたのはこの1つだけであった。気候変動に関する研究会(気候変動・サステナビリティ研究会)は、2023年5月に新設されたこともあり、初期段階の研究が多いということかと思われるが、これまでの記録を更新する暑さが続く等、気候変動の影響が眼に見えて高まっている中では、少ないようにも感じられた。
◆ 海外のアクチュアリー会における研究の状況
そこで比較のために、海外のアクチュアリー会における研究の状況を概観できる、同じく直近の年次大会における報告の状況を確認してみた。
まず、米国のアクチュアリー会SOAでは、年次大会(2024 SOA ImpACT Conference)の約120セッションのうち9つが気候変動をテーマとして取り上げていた。
また、英国のアクチュアリー会の年次大会(IFoA Life Conference 2024)の約80セッションのうち5つが気候変動をテーマとして取り上げていた。
具体的に、いくつかの発表テーマをピックアップすると、次のようなものであった。
2024 SOA ImpACT Conference
(1) Integrating Economic and Climate Scenarios 経済シナリオと気候シナリオの統合
(2) Climate risks and mortality 気候リスクと死亡率
(3) Integrating Climate Risks into Investment Management 投資管理への気候リスクの統合
(4) Climate Risk Management: Strategies for Insurance Resilience 気候リスク管理: 保険会社の回復戦略
IFoA Life Conference 2024
(1) Mitigating greenwashing and climate litigation risk in a changing world of regulatory, public, and private scrutiny 規制、公的機関、民間企業の監視が変化する世界におけるグリーンウォッシングと気候訴訟リスクの軽減
(2) redefining climate scenarios for a sustainable future 持続可能な未来のための気候シナリオの再定義<
(3) Overview of climate change disclosures: current requirements and wider considerations 気候変動開示の概要(現在の要件と幅広い考慮事項)
幅広い分野で多数の研究が進められている。リソースや文化の差が表れている面もあるかもしれないが、気候変動の与える影響がより深刻に認識されて、積極的に議論されていることが分かった。
まず、米国のアクチュアリー会SOAでは、年次大会(2024 SOA ImpACT Conference)の約120セッションのうち9つが気候変動をテーマとして取り上げていた。
また、英国のアクチュアリー会の年次大会(IFoA Life Conference 2024)の約80セッションのうち5つが気候変動をテーマとして取り上げていた。
具体的に、いくつかの発表テーマをピックアップすると、次のようなものであった。
2024 SOA ImpACT Conference
(1) Integrating Economic and Climate Scenarios 経済シナリオと気候シナリオの統合
(2) Climate risks and mortality 気候リスクと死亡率
(3) Integrating Climate Risks into Investment Management 投資管理への気候リスクの統合
(4) Climate Risk Management: Strategies for Insurance Resilience 気候リスク管理: 保険会社の回復戦略
IFoA Life Conference 2024
(1) Mitigating greenwashing and climate litigation risk in a changing world of regulatory, public, and private scrutiny 規制、公的機関、民間企業の監視が変化する世界におけるグリーンウォッシングと気候訴訟リスクの軽減
(2) redefining climate scenarios for a sustainable future 持続可能な未来のための気候シナリオの再定義<
(3) Overview of climate change disclosures: current requirements and wider considerations 気候変動開示の概要(現在の要件と幅広い考慮事項)
幅広い分野で多数の研究が進められている。リソースや文化の差が表れている面もあるかもしれないが、気候変動の与える影響がより深刻に認識されて、積極的に議論されていることが分かった。
◆ 今後に向けて
日本と米英の研究発表状況の比較からは、米英のアクチュアリーが気候変動の重要性についてより高い認識をもって研究活動を行っていることがうかがわれた。
リスク評価と管理の専門家として、この分野でアクチュアリーが取り組む余地は、米英における研究発表の巾からもうかがえるように、相当に大きいと考えられる。たとえば、気候インデックスは、気候変動によってリスクがどのように変化するのかを理解したい、あるいは追跡したいという公的政策立案者、企業、一般市民等からのニーズにも応えることができ、広く活用が可能なツールだろう。アクチュアリーが保険会社経営を超えて幅広い分野で世の中に貢献できる可能性を示すものと思われる。
どれほどの貢献ができるか自信はないが、筆者自身も一アクチュアリーとして、この課題に取り組むことの重要性を再認識して、多くの専門家と協力しながら研究を前進させていきたいと思った。
リスク評価と管理の専門家として、この分野でアクチュアリーが取り組む余地は、米英における研究発表の巾からもうかがえるように、相当に大きいと考えられる。たとえば、気候インデックスは、気候変動によってリスクがどのように変化するのかを理解したい、あるいは追跡したいという公的政策立案者、企業、一般市民等からのニーズにも応えることができ、広く活用が可能なツールだろう。アクチュアリーが保険会社経営を超えて幅広い分野で世の中に貢献できる可能性を示すものと思われる。
どれほどの貢献ができるか自信はないが、筆者自身も一アクチュアリーとして、この課題に取り組むことの重要性を再認識して、多くの専門家と協力しながら研究を前進させていきたいと思った。
(2025年02月28日「研究員の眼」)
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浅川 真広
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