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- 今年の夏休みも暑い予想-ところで昨年2023年7月はいったいどのような暑さだったのか
コラム
2024年06月25日
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夏休みが近づき、旅行やイベントが楽しみな時期ですが、昨年の猛暑を覚えている方も多いでしょう。そのような中、6月25日に気象庁から発表された新しい3ヵ月予報(7~9月)によると、今年の夏休みも暑くなるようです。「平均気温が高い見込み」とのことですが1、具体的にはどのくらい暑くなるのでしょうか。多少の暑さは、夏休みらしくて結構なことのように思われます。しかし、昨年の夏のような暑さはとても耐え難く、ちょっとご勘弁願いたいところです。夏休みを楽しむためには、しっかりと暑さ対策を講じることも必要ですので、暑くなるとしても、その程度が気になるところです2。
ところが、予報の具体的内容としては、平均気温が低い確率が10%、平年並みの確率が30%、高い確率が60%とのことで(東日本太平洋側)、暑くなる可能性は示されていますが、その具体的な程度は読み取れず3、残念ながら今年の暑さの程度は分かりませんでした。そこで、念のため昨年起こったことが今年も続くかもしれないと思って心構えだけはしておこうかと思い、昨年の夏はどの程度厳しい暑さだったのか、東京都心の2023年7月について、いくつかのデータを調べてみました。
1 https://www.data.jma.go.jp/cpd/longfcst/kaisetsu/?region=010000&term=P3M
2 なお、6月10日にはエルニーニョ現象収束と、夏以降のラニーニャ現象発生の可能性が気象庁から発表されている。(エルニーニョ監視速報(No.381)https://www.data.jma.go.jp/cpd/elnino/kanshi_joho/kanshi_joho1.html)ラニーニャ現象が発生すると猛暑になりやすいと言われており、この面からも今年の夏が暑くなることが予想されている。
3 平年並みの範囲は-0.3~+0.7度(東日本、7月)を表すことから、平均気温が高い確率が60%ということは、平均気温が平年値より0.7度を超えて高くなる確率が60%ということが表わされている。
ところが、予報の具体的内容としては、平均気温が低い確率が10%、平年並みの確率が30%、高い確率が60%とのことで(東日本太平洋側)、暑くなる可能性は示されていますが、その具体的な程度は読み取れず3、残念ながら今年の暑さの程度は分かりませんでした。そこで、念のため昨年起こったことが今年も続くかもしれないと思って心構えだけはしておこうかと思い、昨年の夏はどの程度厳しい暑さだったのか、東京都心の2023年7月について、いくつかのデータを調べてみました。
1 https://www.data.jma.go.jp/cpd/longfcst/kaisetsu/?region=010000&term=P3M
2 なお、6月10日にはエルニーニョ現象収束と、夏以降のラニーニャ現象発生の可能性が気象庁から発表されている。(エルニーニョ監視速報(No.381)https://www.data.jma.go.jp/cpd/elnino/kanshi_joho/kanshi_joho1.html)ラニーニャ現象が発生すると猛暑になりやすいと言われており、この面からも今年の夏が暑くなることが予想されている。
3 平年並みの範囲は-0.3~+0.7度(東日本、7月)を表すことから、平均気温が高い確率が60%ということは、平均気温が平年値より0.7度を超えて高くなる確率が60%ということが表わされている。
◆ 平均気温
まず、平均気温については、28.7度4で平年プラス+3.0度であり、観測史上過去最高でした。気象に詳しい方ならば、月平均気温が±1度変動するだけでも大きな変動なので+3.0度だと本当にすごいことだ、などの感覚はあるかもしれませんが、素人には平年プラス+3.0度だと暑さの厳しさを感覚的には掴みにくいものかもしれません。
観測史上過去最高についてはどうでしょうか。観測記録のある1875年以降の最高なので、かなり大変なことのようにも感じられます。もっとも、観測期間が百数十年なので、たまには過去最高もありそうです。たとえば、200年に一度の暑さでも、1万年に一度の暑さであっても、いずれでも観測史上過去最高になりえます。200年に一度のものと、1万年に一度のものではかなりレアさに差があるので、観測史上過去最高だけでは、やはりそのすごさについてピンと来ないように思えます。
(ちなみに、世界の平均気温については、2023年7月は過去12万年で過去最高という報道もありました5。こちらはさすがにすごい記録だと思いますが、過去十万年も精緻な記録が連綿とあるわけではなく推測であるため、信憑性に疑問を持つ人もいると思います。)
4 気象庁HP 過去の気象データ検索(https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php)による。以下、気温については、特記無い限り同様。
5 執筆日現在閲覧可能なものとしては https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73196930R30C23A7MM0000/ がある。
観測史上過去最高についてはどうでしょうか。観測記録のある1875年以降の最高なので、かなり大変なことのようにも感じられます。もっとも、観測期間が百数十年なので、たまには過去最高もありそうです。たとえば、200年に一度の暑さでも、1万年に一度の暑さであっても、いずれでも観測史上過去最高になりえます。200年に一度のものと、1万年に一度のものではかなりレアさに差があるので、観測史上過去最高だけでは、やはりそのすごさについてピンと来ないように思えます。
(ちなみに、世界の平均気温については、2023年7月は過去12万年で過去最高という報道もありました5。こちらはさすがにすごい記録だと思いますが、過去十万年も精緻な記録が連綿とあるわけではなく推測であるため、信憑性に疑問を持つ人もいると思います。)
4 気象庁HP 過去の気象データ検索(https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php)による。以下、気温については、特記無い限り同様。
5 執筆日現在閲覧可能なものとしては https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73196930R30C23A7MM0000/ がある。
◆ 猛暑日、真夏日、夏日、熱帯夜
つぎに、猛暑日の13日、真夏日の29日、夏日の31日および熱帯夜の17日についてはどうでしょうか6。
ほぼ全ての日で最高気温が30度以上(真夏日)だったのだから、大変だったなあとは思いますが(例外は7月1日(27.8度)と7月5日(28.7度)だけ)、どの程度すごいかという点ではやはりはっきりしないように思われます。
猛暑日、真夏日および夏日の日数はいずれも観測史上過去最高(猛暑日、真夏日は単独1位)ですが、観測史上過去最高からは、平均気温と同様にどの程度すごいのかピンとこないように思われます。
6 猛暑日は最高気温35度以上の日、真夏日は最高気温30度以上の日、夏日は最高気温25度以上の日、熱帯夜は最低気温25度以上の日。
ほぼ全ての日で最高気温が30度以上(真夏日)だったのだから、大変だったなあとは思いますが(例外は7月1日(27.8度)と7月5日(28.7度)だけ)、どの程度すごいかという点ではやはりはっきりしないように思われます。
猛暑日、真夏日および夏日の日数はいずれも観測史上過去最高(猛暑日、真夏日は単独1位)ですが、観測史上過去最高からは、平均気温と同様にどの程度すごいのかピンとこないように思われます。
6 猛暑日は最高気温35度以上の日、真夏日は最高気温30度以上の日、夏日は最高気温25度以上の日、熱帯夜は最低気温25度以上の日。
◆ 偏差値
学校のテストなどでよく使われる偏差値で見るとどうでしょうか。
まず、平均気温28.7度については、偏差値では697になります。発生する確率は2.7%となり、クラスで一番の秀才と同じ程度の確率です。相当頭がいい子だけど、学校全体や日本全体で見るとそこそこの人数がいるレベルという感じです。発生周期という目で見ると、38年に1回程度発生する程度ということになります。イメージが浮かびやすいですが、あまりレアという感じはなく、耐え難かった昨年の暑さを十分表現できていないように感じられます。
次に、猛暑日13日については、偏差値1588になります。これは偏差値としては見たことのない数字でしょう。日本に一人いるかどうかの途轍もない天才です。理論上、発生する確率は0.000035%です。発生周期では3億年に1回しか発生しないことなので、昨年7月の暑さの厳しさが表れているように感じられます。
偏差値は気温の本当の分布が、過去と変わらない正規分布であると仮定して算出されるので、気候の温暖化で平均気温が徐々に上昇してきているとすると、偏差値158や3億年に1回は過大評価であるかもしれません。しかし、それを考慮しても、すごさが実感されやすい見方であると思います。
7 標準偏差は気象庁HP過去の気象データ検索から得られた1991年から2020年までの30年間のデータから筆者が算出した。(以下同様)平均25.7度、標準偏差1.55度
8 平均1.70回、標準偏差1.95回
まず、平均気温28.7度については、偏差値では697になります。発生する確率は2.7%となり、クラスで一番の秀才と同じ程度の確率です。相当頭がいい子だけど、学校全体や日本全体で見るとそこそこの人数がいるレベルという感じです。発生周期という目で見ると、38年に1回程度発生する程度ということになります。イメージが浮かびやすいですが、あまりレアという感じはなく、耐え難かった昨年の暑さを十分表現できていないように感じられます。
次に、猛暑日13日については、偏差値1588になります。これは偏差値としては見たことのない数字でしょう。日本に一人いるかどうかの途轍もない天才です。理論上、発生する確率は0.000035%です。発生周期では3億年に1回しか発生しないことなので、昨年7月の暑さの厳しさが表れているように感じられます。
偏差値は気温の本当の分布が、過去と変わらない正規分布であると仮定して算出されるので、気候の温暖化で平均気温が徐々に上昇してきているとすると、偏差値158や3億年に1回は過大評価であるかもしれません。しかし、それを考慮しても、すごさが実感されやすい見方であると思います。
7 標準偏差は気象庁HP過去の気象データ検索から得られた1991年から2020年までの30年間のデータから筆者が算出した。(以下同様)平均25.7度、標準偏差1.55度
8 平均1.70回、標準偏差1.95回
◆ おわりに
もし、今年の夏も昨年並みの暑さとなると、前項の偏差値のような見方からは3億年に1回の猛暑が2年連続して発生したことになります。3億年に1回が2年連続ということは現実的にはあり得ないことですから、今の気温の分布が過去と同様という仮定がおかしい、すなわち温暖化の進行が確かなことで、また非常に激しいことが身に染みて実感できることになるのだろうと思います。
現在、国や企業をはじめ、あらゆるレベルでさまざまな温暖化対策が取り組まれています。消費行動など私たち一人一人の行動も重要だと言われていますが、結構大きな努力や犠牲を伴うものもあり、その必要性を十分理解せずに取り組むには難しいこともあると思います。
以上より、もし今年の夏休みが昨年並みの暑さとなってしまっても、酷暑でつらい目にあったと思うだけではなく、(少々やせがまんをして、)それはそれで気候変動対策の必要性を心から理解する意義深い経験ができた夏休みになったと思う、そのように心構えをしておくことにしました。
現在、国や企業をはじめ、あらゆるレベルでさまざまな温暖化対策が取り組まれています。消費行動など私たち一人一人の行動も重要だと言われていますが、結構大きな努力や犠牲を伴うものもあり、その必要性を十分理解せずに取り組むには難しいこともあると思います。
以上より、もし今年の夏休みが昨年並みの暑さとなってしまっても、酷暑でつらい目にあったと思うだけではなく、(少々やせがまんをして、)それはそれで気候変動対策の必要性を心から理解する意義深い経験ができた夏休みになったと思う、そのように心構えをしておくことにしました。
(おまけ)
前々項までの通り、昨年の暑さの厳しさを表すためには、平均で見るよりも、猛暑日という極端な日の多さを見た方が実感に合う場合があるようです。
このように極端な気象が発生する動向を表す指標として気候指数というものがあります。もともとは海外で研究が進んでいたものですが、近年日本でも算出されるようになっています9。それによると、(東京都心ではなく)関東甲信の2023年7月の高温に関する偏差値は82程度10でした。この偏差値は気候指数が標準正規分布に従うと仮定すると発生確率では0.0765%、発生周期では1300年に一回発生する事象に相当します。
気候指数は、温暖化の影響で長期間にわたって徐々に環境を破壊していく慢性的なリスクを定量化して、事業への影響等を把握しようとして開発されたものですが、暑さの厳しさを人間の実感に合った形で表現できる指標になっている、ともいえるのではないかと思います。
ここからは筆者が所属するニッセイ基礎研究所の宣伝になります。当研究所ではこの気候指数の日本版の開発および社会活動への活用方法の研究を行っており、研究成果をレポートとして無料で公開しています(脚注9等)。たとえば、関東甲信の2023年7月だけではなく、日本各地および日本全体について1971年からの長期の状況をグラフなどで公表しており、日本各地の温暖化の進行状況が分かりやすく示されています。また、この気候指数の長期の予測を今後公表する方向で準備を進めています。極端な気候が多くなっていることが気になっている方、それが定量的にはどの程度のものなのかご興味のある方は、是非、一読いただければ幸いです。
9 「気候変動指数化の海外事例-日本版の気候指数を試しに作成してみると…」篠原拓也(基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72284?site=nli)、「気候指数 [全国版] の作成-日本の気候の極端さは1971年以降の最高水準」篠原拓也(基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74427?site=nli)、「気候指数 2023年データへの更新-日本の気候の極端さは、1971年以降の最高水準を更新」篠原拓也(基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=78151?site=nli)等
10 気候指数は平均0,標準偏差1の指数で表記されるが、このレポート内では、話の流れに合わせて偏差値(平均50,標準偏差10)に換算して記載している。
このように極端な気象が発生する動向を表す指標として気候指数というものがあります。もともとは海外で研究が進んでいたものですが、近年日本でも算出されるようになっています9。それによると、(東京都心ではなく)関東甲信の2023年7月の高温に関する偏差値は82程度10でした。この偏差値は気候指数が標準正規分布に従うと仮定すると発生確率では0.0765%、発生周期では1300年に一回発生する事象に相当します。
気候指数は、温暖化の影響で長期間にわたって徐々に環境を破壊していく慢性的なリスクを定量化して、事業への影響等を把握しようとして開発されたものですが、暑さの厳しさを人間の実感に合った形で表現できる指標になっている、ともいえるのではないかと思います。
ここからは筆者が所属するニッセイ基礎研究所の宣伝になります。当研究所ではこの気候指数の日本版の開発および社会活動への活用方法の研究を行っており、研究成果をレポートとして無料で公開しています(脚注9等)。たとえば、関東甲信の2023年7月だけではなく、日本各地および日本全体について1971年からの長期の状況をグラフなどで公表しており、日本各地の温暖化の進行状況が分かりやすく示されています。また、この気候指数の長期の予測を今後公表する方向で準備を進めています。極端な気候が多くなっていることが気になっている方、それが定量的にはどの程度のものなのかご興味のある方は、是非、一読いただければ幸いです。
9 「気候変動指数化の海外事例-日本版の気候指数を試しに作成してみると…」篠原拓也(基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72284?site=nli)、「気候指数 [全国版] の作成-日本の気候の極端さは1971年以降の最高水準」篠原拓也(基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74427?site=nli)、「気候指数 2023年データへの更新-日本の気候の極端さは、1971年以降の最高水準を更新」篠原拓也(基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=78151?site=nli)等
10 気候指数は平均0,標準偏差1の指数で表記されるが、このレポート内では、話の流れに合わせて偏差値(平均50,標準偏差10)に換算して記載している。
(2024年06月25日「研究員の眼」)
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浅川 真広
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/02/28 | 気候変動問題に関連するアクチュアリーの研究活動について | 浅川 真広 | 研究員の眼 |
2024/06/25 | 今年の夏休みも暑い予想-ところで昨年2023年7月はいったいどのような暑さだったのか | 浅川 真広 | 研究員の眼 |
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