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新設された5歳児健診とは?-法定健診から就学までの期間における発達障がいや虐待リスクに対応、その後のフォローアップ体制には課題も-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛
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他にも「情緒・行動に関する設問」では、癇癪度合いや集中力などの状況を確認することで、衝動性や不注意な行動特性が日常生活にどれほど影響を与えているかを評価している。仮に、それらの行動特性が酷い場合には、心理発達相談などの専門職への相談や児童精神科への診察へつなぐこともあるため、家庭や保育場面などと合わせて注意深く聞き取りを実施している。
さらに、「メディアの視聴や睡眠に関する設問」では、テレビやスマホの視聴時間や入眠前の視聴有無、睡眠への影響について確認し、家族を含めたメディアリテラシーについて評価を実施している。
ある研究報告では6、幼児期のテレビの視聴量(時間)が多いほど7歳時点でのADHD(注意欠如・多動性障害)に関連する問題が多いことを示す結果も存在する。また、文部科学省の研究報告によると7、メディアによる暴力・残虐描写については幼児や小学生など低年齢の子どもの方が影響を受けやすいと言われており、視聴時間やタイミングだけでなく、攻撃的な内容になっていないか、人権的に問題があるものでないかを含めて確認を進めている。
と上記までは子どもの発達特性に関する評価であったが、「親や子育ての状況」では、子どもに影響を及ぼし得る養育者の状態や子育ての状況を確認している。特に、育てにくさにより対応に苦慮していないかどうか、あるいは育児協力者の有無や子育て支援広場等の利用状況を把握し、必要時にその他の適切なサポートにつなげる必要がある。また、「子どもが大人同士の喧嘩を見る機会がある」などの項目は、児童虐待防止法における心理的虐待の一種である「面前DV」に該当する。東京都目黒区では8、面前DVに関する子どもへの影響などもHP上に公開しており、憂慮すべき重要な項目として位置づけられている。 2020年三重県の「面前DV」に関する認知度調査では9、「言葉を知っており児童虐待であることも知っている」は11.6%、「言葉を知らないが、児童虐待であることは知っている」48.5%と合わせて認知度は6割程度とされているものの、9割近くが「面前DV」という言葉を知らないのが実態である。そのため、5歳児健診では、日頃の子どもへの養育態度が適切な方法となっているのかを振り返る機会に加えて、どの様な対応が児童虐待に該当するのかを知る重要な機会となろう。
3 令和3年度~5年度 子ども家庭科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業「5歳児健診マニュアル」研究分担者:小枝達也・小倉加恵子、研究協力者:是枝聖悟
4 転居や家庭の事情で、集団生活をあまり経験していない場合やしりとりを経験していない場合にも、初見でルールが理解できずに回答ができない例もあり、教えるとすぐに対応できる場合もあることに留意。
5 筆者の経験では、聴力に問題はないが、中耳炎の悪化や耳垢塞栓症で一時的に聞こえくいことで回答がしにくい場面があったため、必ずしも知的能力だけの問題にとどまらずに多角的に評価する必要がある。
6 Christakis, D.A., Zimmerman., DiGiuseppe. D.L., & McCarty, C.A. (2004). Eary television exposure and subsequent attentional problems in children, Pediatrics,113,708-713.
7 平成28年度 文部科学省委託調査 「青少年を取り巻くメディアと 意識・行動に関する調査研究」 ―メディアによって表現された暴力的有害情報が 青少年に与える影響に関する文献調査―
8 目黒区「子どもの前での夫婦げんかは、子どもへの心理的虐待にあたります」 https://www.city.meguro.tokyo.jp/kateishien/kosodatekyouiku/kosodate/menzendvboushi.html
9 三重県子ども・福祉部子育て支援課「「配偶者等からの暴力に関するアンケート」の実施結果報告」
https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/001052292.pdf
4――5歳児健診後の諸課題
このたびの5歳児健診の新設により、切れ目のない支援体制が期待されているが、地域行政の発達支援の体制にはいくつかの課題が存在していると筆者は考えている。一般的な地域行政の発達のスクリーニングは、法定健診である1歳6か月児健診や3歳児健診、そして今回新設された5歳児健診が重要な機会となるが、乳幼児健診で発達状況の再評価や専門機関の診断へつなげる(紹介)必要となる場合は、健診に併設された心理検査の枠から漏れたり、別日に設定された心理相談の枠も継続フォローの予約が先行するため数か月先になることがある。
上述した通り、5歳児の大半は既にいずれかの集団組織に所属し、親はそれを前提にスケジュールを組み立てているため、わざわざ休暇を取得して改めて来訪することは容易ではない。さらに、現時点で地域行政が設置している発達フォロー教室なども平日の日中に実施していることが多い。(一部で土日の開催を実施している自治体も存在する)行政側が段階的な発達支援教室の整備をしていても、5歳児健診にてフォローが必要と判断された親子が参加するにはスケジュールが合わない可能性が非常に高いことが懸念される。
専門家の発達フォローや行政の発達支援教室につながったとしても、就学に向けて児童精神科への受診や、療育機関への所属にも高いハードルが待ち受けている。一般的に、行政のスクリーニングから児童精神科へ予約し、初診に至るまで数か月~1年ほど要すると言われている10。これは、自閉症スペクトラムに関する認知度が上昇したことや、不登校・自殺企図など子どもが抱える精神疾患が多様化したことでニーズが格段に上昇したことが理由とされている。また、児童精神科は、診療時間も通院期間も他の診療科と比較して非常に長いことが知られている。診断結果を導くだけでも複数の検査を経る必要があり、ひとつの検査だけで1時間ほど要するものもあり、再検査を実施することもある。
また、療育を担う施設は、2012年には2,106か所であったのが、2020年には7,722か所へ増加しているが、利用者数自体も2012年の47,074人から2020年の118,850人へと増加していることが報告されている11。5歳児健診新設による切れ目のない支援を実施するには、スムーズな受診体制の確立や、専門機関における診療枠や療育施設などの受け皿の確保も重要な視点となる。
10 神奈川県立こども医療センター,児童思春期精神科「当科外来の現状について」より参照
https://kcmc.kanagawa-pho.jp/department/psychiatry.html
11 植田紀美子(2023)「療育と児童発達支援の現状と課題」社会保障研究,Vol8,NO1,p4-p16.
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/sh28080102.pdf
地域行政によるスクリーニングや発達支援教室、専門機関での診断や療育を経た後にも、就学に向けた各教育機関との連携が必要となる。一般的に、何らかの身体的・精神的障がいを有する子どもは、その状態に応じて特別支援学校への入学、教育機関に併設される特別支援学級への通級、普通学級への入学、あるいは普通学級に在籍した上で特別支援学級へ通級するなど様々なパターンが存在する。また、就学を希望する教育機関に在籍期間中に対応可能な人材が揃っているか否か(人員配置や資格の有無)などの受入体制に左右されることもある。子ども側の行動特性を考慮した配慮の必要性や、医療処置の有無などによる追加配置の必要性なども影響し、受け入れ体制を一律に規定することもできない。この度の5歳児健診の新設を契機に、その後のフォローアップ体制の整備や受け皿の拡充、教育機関との連携体制の強化も併せて検討していく必要があるだろう。
(2025年02月10日「基礎研レポート」)
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03-3512-1847
- 【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)
【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者
【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会
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