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インバウンド消費の動向(2024年10-12月期)-2024年の消費額は8.1兆円、訪日客数は3,687万人で過去最高

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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4――訪日外国人旅行消費額の内訳~円安による割安感と中国人観光客の回復傾向で買い物代は約3割
次に訪日外国人旅行消費額の内訳について見ると、中国人の「爆買い」が流行語となった2015年4頃は「買い物代」の割合が約4割を超えて高くなっていた(図表7)。しかし、その後コロナ禍前までの間は、中国政府による関税引き上げや、サービス消費志向の高い欧米からの訪日客の増加に伴い、「買い物代」の割合は低下し、「宿泊費」や「飲食費」、「娯楽等サービス費」の割合が高まる傾向にあった(図表7)。
さらに、5類引き下げ以降、インバウンドが再開して当初は、訪日中国人観光客の回復が遅れ、欧米からの訪日客が増加したことで「買い物代」の割合は約4分の1まで低下した。しかし、円安による割安感が高まるとともに、訪日中国人観光客の回復が進み、「買い物代」の割合は再び上昇し、2024年4-6月期には30.9%となり、3割を超えた。直近の半年間ではやや低下しているものの、約3割を維持している。
なお、インバウンド消費額が世界最大である米国(2022年に1,369億米ドルで首位:国土交通省「観光白書(令和6年版」)では、2023年の「娯楽等サービス費」は13.5%を占めて体験消費が多い傾向がある(図表8)。一方、日本では5.1%と3分の1程度にとどまり、要因としては特にナイトタイムエコノミー(夜間消費)に関連するサービスの少なさが指摘されている5。また、夜間消費の拡大は1人当たり消費額のさらなる拡大を考える上で、一定の潜在余地があるだろう。
4 「爆買い」は2015年のユーキャン新語・流行語大賞における年間大賞。
5 久我尚子「インバウンドで考えるナイトタイムエコノミー-日本独自の夜間コンテンツと街づくりの必要性?」、ニッセイ基礎研究所、研究員の眼(2024/7/24)や観光庁「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」など。
ここで、改めてインバウンド消費全体に大きな影響を与える訪日中国人観光客の消費内訳を見ると、コロナ禍前の2019年には「買い物代」が52.9%と過半数を占めていた(図表9)。2022年以降は調査時期によって「買い物代」の割合にばらつきが見られるが、これは中国政府による日本旅行規制の影響(日本行き海外旅行商品の販売中止措置や年収による観光ビザの発給制限など)によるものと考えられ、従来の訪日客とは異なる属性が見られる時期もあったためである。それでも、「買い物代」は4割前後で推移しており、インバウンド全体と比較するとモノを購入する志向が依然として高い様子がうかがえる。
2024年の訪日外国人旅行消費額の内訳を国籍・地域に見ると、アジア諸国ではモノ消費が、欧米諸国ではコト消費が多い傾向が見られる(図表10)。
モノ消費の割合が最も高いのは中国(43.0%)で、次いで台湾〈36.6%〉、香港(35.8%)、フィリピン(33.3%)、タイ(31.3%)までが3割台で全体平均を上回っており、いずれも「買い物代」の割合が他の費目を上回って最も高くなっている。
一方、コト消費(「宿泊費」「飲食費」「交通費」「娯楽サービス費」)の割合が最も高いのはドイツ(86.6%)で、次いでイタリア(86.6%)、英国(85.3%)、スペインおよびオーストラリア(85.0%)といずれも85%を超えている。なお、コト消費のうち、「宿泊費」の割合はドイツ(45.4%)で高く、「飲食費」は韓国(27.1%)で、「交通費」はスペイン(18.4%)やイタリア(18.2%)で、「娯楽サービス費」はオーストラリア(7.9%)で多い傾向がある。
5――おわりに~「おもてなし」やコストを考慮した価格設定へと見直し、システムや人材への十分な投資を
また、引き続き、2024年10-12月期の訪日外国人消費額の増加率(+90.5%)は、外客数の増加(2019年同期比+33.8%)と比べてはるかに大きく、1人当たりの消費額(23万7,002円)はコロナ禍前の1.3倍に増加した。特に欧米からの訪日客では、消費額が2倍近くに増えた国も多く見られた。なお、消費額の内訳は、前期同様、モノ消費(「買い物代」)が3割、サービス消費が7割を占めた。
2024年10-12月期の特徴としては、訪日外客数の首位が再び韓国となったことだ。コロナ禍前に圧倒的な存在感を示していた訪日中国人観光客の回復基調も強まっているものの、韓国人観光客の増加基調が上回り、訪日客全体の約4分の1を占めるようになっている。ただし、韓国人観光客は宿泊日数が平均4日と短いため、消費額としては宿泊日数が長く購買意欲が強いと見られる中国人の存在感が勝っている。なお、中国人観光客ではモノ消費が4割を占めて、全体平均を上回る。
2025年もインバウンドの勢いが増すと見られる中で、オーバーツーリズムへの対応は喫緊の課題だ。観光業に限らず、日本の労働市場全体で人手不足が深刻化し、中長期的にも重大な課題となっている。この状況下で、デジタル活用による生産性向上に一層取り組むことは不可欠であるが、同時に、本来のサービスの質やコストに見合う価格設定への見直しを進め、システムや人材への十分な投資を可能にするための原資を確保することが重要である。
インバウンドにおいては、地元民と訪日客に対する二重価格が問題視されることもある。不当な高額料金等は論外だが、多言語対応や宗教的配慮、訪日客向けの専属ガイドなど、実際に付加的な対応が求められるサービスについては、正当な理由に基づく価格転嫁が可能である。また、日本文化の美徳として、「おもてなし」を価格に含めず、それを当然のものとして提供する傾向がある。これは消費者にとって高品質なサービスとして評価される一方で、近年は原材料費や光熱費、人件費の高騰が利益を圧迫している。こうした状況を踏まえ、「おもてなし」を前提とした価格設定について、他国のインバウンド市場の動向も参考にしながら、グローバル基準で再検討する時期に来ていると言える。
このほか、訪日客の単価を引き上げる施策としては、サービス消費の拡大に大きな余地がある。前述のように、訪日外国人の消費に占める娯楽などのサービス費用(現地ツアー、テーマパーク、舞台・音楽鑑賞、スポーツ観戦、美術館、温泉・エステ・マッサージ、医療費など)の割合は、インバウンド大国である米国と比べて半分以下にとどまっている。
以前から、特にナイトタイムエコノミーに関連するサービスや、富裕層向けの質の高いサービスの不足が指摘されており、新たなサービス需要の開拓は、日本の成熟した消費市場のさらなる発展にも寄与するだろう。
インバウンド市場が10兆円規模に達すれば、日本経済や労働市場への期待も一層高まる。一方で、現在の供給体制では、観光地によってはすでに負担が限界に達しており、持続可能な観光を実現するためには、単なる供給拡大ではなく、単価を引き上げることで成長を促す方向性が求められる。そのためには、適切な価格転嫁に加え、日本ならではの付加価値の向上も不可欠だ。例えば、文化芸術や地域文化の伝承を核としたサービスの提供なども競争力の強化につながるだろう。
訪日客向けに付加価値の高いサービスを充実させることは、日本人の消費拡大にもつながり、国内市場の活性化にも寄与する。インバウンドと国内消費の相乗効果を生み出しながら、観光・サービス産業全体が持続可能な発展を目指すことが求められる。
(2025年02月06日「基礎研レポート」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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