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- 2025年はどんな年? 金融市場のテーマと展望
2025年02月07日
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(執筆時点:1月22日)
1―2025年年初の市場は様子見ムード
(1)トランプ政権の政策発動とその影響
まず、最も注目されるのは、今月20日に発足した「トランプ米政権による政策発動とその経済への影響」だ。
トランプ氏は主要な経済政策として、関税引き上げ、大規模な減税や規制緩和、不法移民の強制送還などを掲げてきたが、それぞれ輸入物価の押し上げ、需要喚起、人手不足といったインフレ促進的な要素を内包するだけに、これらが実現すれば米国のインフレが再燃するリスクがある。インフレが再燃すれば、段階的な利下げ路線を辿っているFRBの利下げ停止(あるいは利上げ再開)も加わって景気の下押し要因になる。
また、関税の引き上げが相手国の景気を圧迫するのみならず、報復関税を招き、貿易摩擦の激化を通じて米国も含む世界経済全体の逆風となりかねない。
このため、今年、トランプ氏の掲げる政策が一定程度実現する場合には、インフレ再燃とFRBの利下げ停止が米金利上昇を通じて日本の長期金利の上昇要因になる。ドル円にとっては、基本的には米金利の上振れを通じて円安ドル高要因になると考えられるが、インフレや金利の高止まり、関税引き上げによる米・世界経済減速懸念や、減税に伴う米財政悪化懸念が意識される場合にはドル売りとリスクオフ的な円買いが相まって円高ドル安要因になる。日本株にとっては、円安と減税による米景気回復期待が追い風になる可能性はあるものの、インフレに伴う米利下げ停止、関税引き上げによる米・世界経済減速懸念が下押し材料になる。トータルで見ると、下振れリスクの方が大きいだろう。
いずれにせよ、トランプ政権の政策が「いつ」、「どの順序で」、「どのレベルで」発動されるかによって、相場の展開は大きく変わることになる。
まず、最も注目されるのは、今月20日に発足した「トランプ米政権による政策発動とその経済への影響」だ。
トランプ氏は主要な経済政策として、関税引き上げ、大規模な減税や規制緩和、不法移民の強制送還などを掲げてきたが、それぞれ輸入物価の押し上げ、需要喚起、人手不足といったインフレ促進的な要素を内包するだけに、これらが実現すれば米国のインフレが再燃するリスクがある。インフレが再燃すれば、段階的な利下げ路線を辿っているFRBの利下げ停止(あるいは利上げ再開)も加わって景気の下押し要因になる。
また、関税の引き上げが相手国の景気を圧迫するのみならず、報復関税を招き、貿易摩擦の激化を通じて米国も含む世界経済全体の逆風となりかねない。
このため、今年、トランプ氏の掲げる政策が一定程度実現する場合には、インフレ再燃とFRBの利下げ停止が米金利上昇を通じて日本の長期金利の上昇要因になる。ドル円にとっては、基本的には米金利の上振れを通じて円安ドル高要因になると考えられるが、インフレや金利の高止まり、関税引き上げによる米・世界経済減速懸念や、減税に伴う米財政悪化懸念が意識される場合にはドル売りとリスクオフ的な円買いが相まって円高ドル安要因になる。日本株にとっては、円安と減税による米景気回復期待が追い風になる可能性はあるものの、インフレに伴う米利下げ停止、関税引き上げによる米・世界経済減速懸念が下押し材料になる。トータルで見ると、下振れリスクの方が大きいだろう。
いずれにせよ、トランプ政権の政策が「いつ」、「どの順序で」、「どのレベルで」発動されるかによって、相場の展開は大きく変わることになる。
(2)地政学リスクの動向
二つ目の注目材料は、上記のトランプ政権による政策にも絡むが、「地政学リスクの動向」だ。昨年は、ウクライナや中東での戦闘・戦争が継続し、たびたび市場を揺るがした。今年に入って、ガザでの停戦が合意・発効したが、恒久的な終戦はまだ見通せない。
トランプ大統領は、ウクライナや中東での戦闘・戦争終結に意欲と自信を見せてきたが、同氏特有の圧力を用いたディール(取引)外交が功を奏して戦いの終結に持ち込めるのか、それとも対立の火に油を注ぐことになるのかが注目される。
地政学リスクが鎮静化すれば、世界経済の下振れリスクが軽減され、日本株にとってはプラスに働く。ドル円への影響は限定的ながら、リスクオンの円売りに繋がる可能性がある。日本の長期金利には、リスクオンの債券売りが金利上昇圧力となる。ただし、原油の供給懸念後退による原油安が金利低下圧力となり、影響が相殺される可能性が高い。
二つ目の注目材料は、上記のトランプ政権による政策にも絡むが、「地政学リスクの動向」だ。昨年は、ウクライナや中東での戦闘・戦争が継続し、たびたび市場を揺るがした。今年に入って、ガザでの停戦が合意・発効したが、恒久的な終戦はまだ見通せない。
トランプ大統領は、ウクライナや中東での戦闘・戦争終結に意欲と自信を見せてきたが、同氏特有の圧力を用いたディール(取引)外交が功を奏して戦いの終結に持ち込めるのか、それとも対立の火に油を注ぐことになるのかが注目される。
地政学リスクが鎮静化すれば、世界経済の下振れリスクが軽減され、日本株にとってはプラスに働く。ドル円への影響は限定的ながら、リスクオンの円売りに繋がる可能性がある。日本の長期金利には、リスクオンの債券売りが金利上昇圧力となる。ただし、原油の供給懸念後退による原油安が金利低下圧力となり、影響が相殺される可能性が高い。
(3)国内景気と日銀利上げの行方
国内の材料で注目されるのは、「国内景気と日銀利上げの行方」だ。
日本の景気回復の足取りは鈍く、特に実質賃金の低迷が個人消費の重石となっている。従って、現在本格化している春闘で高い賃上げが実現し、実質賃金が持続的に上昇に向かうかが注目される。
この点は日銀の金融政策の行方も左右する。日銀は「(日銀が示している)経済・物価の見通しが実現していくとすれば、引き続き政策金利を引き上げる」方針を維持している。従って、高い賃金上昇率が持続し、賃金コストの価格転嫁が進むことで賃金と物価の好循環が進めば、「経済・物価が見通し通りに動いており、物価目標達成の確度が高まっている」として段階的に利上げを実施するだろう。
高い賃上げを受けて日本の景気が堅調に推移するもとで、日銀が段階的に利上げを実施すれば、日本の長期金利には上昇圧力になり、ドル円にとっては金利上昇を通じて円高ドル安要因になるだろう。日本株に対しては、利上げが重荷になるものの、その背景にある日本経済の回復自体は追い風になる。
国内の材料で注目されるのは、「国内景気と日銀利上げの行方」だ。
日本の景気回復の足取りは鈍く、特に実質賃金の低迷が個人消費の重石となっている。従って、現在本格化している春闘で高い賃上げが実現し、実質賃金が持続的に上昇に向かうかが注目される。
この点は日銀の金融政策の行方も左右する。日銀は「(日銀が示している)経済・物価の見通しが実現していくとすれば、引き続き政策金利を引き上げる」方針を維持している。従って、高い賃金上昇率が持続し、賃金コストの価格転嫁が進むことで賃金と物価の好循環が進めば、「経済・物価が見通し通りに動いており、物価目標達成の確度が高まっている」として段階的に利上げを実施するだろう。
高い賃上げを受けて日本の景気が堅調に推移するもとで、日銀が段階的に利上げを実施すれば、日本の長期金利には上昇圧力になり、ドル円にとっては金利上昇を通じて円高ドル安要因になるだろう。日本株に対しては、利上げが重荷になるものの、その背景にある日本経済の回復自体は追い風になる。
(4)参院選と国内政局の行方
さらに、国内では7月頃に実施される「参院選と政局の行方」も注目だ。現在は与党である自民・公明党の議席数が全体の過半を占めているが、仮に、過半を割り込むことになれば、衆参ともに「過半数割れ」となり、政権運営にさらなる支障が出ることになる。
石破政権が参院選時点まで続いているかは定かではないが、続いていたとしても参院選で敗北すれば、退陣を迫られる可能性が高いだろう。その後は、「次期首相が誰になるか」、「政権の枠組みがどのような形になるか」によって、市場への影響が変わってくる。
次期首相ないし政権が財政拡張的であれば、日本株には景気回復期待によって追い風に、長期金利には国債増発観測によって上昇圧力になる一方、ドル円への影響は限られそうだ。また、次期首相・政権が日銀の利上げに否定的であれば、長期金利には低下圧力に、ドル円には円安圧力に、日本株には株高要因になると考えられる。
さらに、国内では7月頃に実施される「参院選と政局の行方」も注目だ。現在は与党である自民・公明党の議席数が全体の過半を占めているが、仮に、過半を割り込むことになれば、衆参ともに「過半数割れ」となり、政権運営にさらなる支障が出ることになる。
石破政権が参院選時点まで続いているかは定かではないが、続いていたとしても参院選で敗北すれば、退陣を迫られる可能性が高いだろう。その後は、「次期首相が誰になるか」、「政権の枠組みがどのような形になるか」によって、市場への影響が変わってくる。
次期首相ないし政権が財政拡張的であれば、日本株には景気回復期待によって追い風に、長期金利には国債増発観測によって上昇圧力になる一方、ドル円への影響は限られそうだ。また、次期首相・政権が日銀の利上げに否定的であれば、長期金利には低下圧力に、ドル円には円安圧力に、日本株には株高要因になると考えられる。
3―メインシナリオ
以上、今年の主な注目材料を取り上げてきたが、最後に主な材料と市場の行方について、中心的なシナリオを考える。その際、最も重要な材料は世界経済の行方を大きく左右するトランプ政権による政策発動となる。
トランプ政権による政策については今後も不透明感が極めて強いものの、弊社では、2025年の前半に、対中国で一部追加関税が発動されるとともに、年間数十万人規模での不法移民の強制送還が開始されると想定している。
これに伴い、今年後半には米国の物価上昇率が押し上げられるため、FRBは年前半に2回の利下げを実施した後、年後半は利下げを停止すると予想している。一方、国内では、今春闘でも5%台の高い賃上げが実現し、年後半には実質賃金の前年比上昇率が安定的にプラスになると予想。日銀は年初に続いて7月にも追加利上げを実施すると見込んでいる。米利下げ停止によるドル高圧力が、過度の円安進行への警戒を通じて日銀に利上げを促す面もある。
以上の想定を基に今年の相場展開を考えると、まず、日本の長期金利は日銀による段階的な利上げ継続と国債買入れ減額によって緩やかな上昇トレンドを辿ると見ている。年末の水準は1.3%台と予想している。
ドル円については、年前半はFRBの利下げが継続される一方、日銀が利上げを実施することが円高ドル安圧力となるものの、トランプ政権による一部政策発動を受けてインフレ再燃・FRB利下げの停止観測が台頭し、ドルの下値を支える形となり、1ドル150円台での推移となる。年後半には、実際に米国で物価が上振れ、利下げも見送られることがドルを支えるが、関税引き上げ等の影響が現れることで米国・世界経済の減速懸念が高まるほか、減税延長による米財政悪化懸念も燻ることで、やや円高に振れると見ている。年末の水準は150円程度と予想している。
日本株については、年前半はFRBの利下げ継続に伴う米経済の下支え期待や春闘での高い賃上げ実現による国内景気の回復期待によって上昇に向かう可能性が高いと見ている。一方、年後半には米国で関税引き上げ等の影響が現れ、利下げも見送られることで米国・世界経済の減速懸念が高まり、やや下落すると見ている。年末の日経平均は40000円前後を予想している。
以上が中心的なシナリオとなるが、トランプ政権の出方次第の面が強いうえ、日本の政局も流動的で見通しに反映させづらい。従って、投資にあたっては、情勢の変化を読み取り、見通しを機動的に再検討する姿勢が求められる。
トランプ政権による政策については今後も不透明感が極めて強いものの、弊社では、2025年の前半に、対中国で一部追加関税が発動されるとともに、年間数十万人規模での不法移民の強制送還が開始されると想定している。
これに伴い、今年後半には米国の物価上昇率が押し上げられるため、FRBは年前半に2回の利下げを実施した後、年後半は利下げを停止すると予想している。一方、国内では、今春闘でも5%台の高い賃上げが実現し、年後半には実質賃金の前年比上昇率が安定的にプラスになると予想。日銀は年初に続いて7月にも追加利上げを実施すると見込んでいる。米利下げ停止によるドル高圧力が、過度の円安進行への警戒を通じて日銀に利上げを促す面もある。
以上の想定を基に今年の相場展開を考えると、まず、日本の長期金利は日銀による段階的な利上げ継続と国債買入れ減額によって緩やかな上昇トレンドを辿ると見ている。年末の水準は1.3%台と予想している。
ドル円については、年前半はFRBの利下げが継続される一方、日銀が利上げを実施することが円高ドル安圧力となるものの、トランプ政権による一部政策発動を受けてインフレ再燃・FRB利下げの停止観測が台頭し、ドルの下値を支える形となり、1ドル150円台での推移となる。年後半には、実際に米国で物価が上振れ、利下げも見送られることがドルを支えるが、関税引き上げ等の影響が現れることで米国・世界経済の減速懸念が高まるほか、減税延長による米財政悪化懸念も燻ることで、やや円高に振れると見ている。年末の水準は150円程度と予想している。
日本株については、年前半はFRBの利下げ継続に伴う米経済の下支え期待や春闘での高い賃上げ実現による国内景気の回復期待によって上昇に向かう可能性が高いと見ている。一方、年後半には米国で関税引き上げ等の影響が現れ、利下げも見送られることで米国・世界経済の減速懸念が高まり、やや下落すると見ている。年末の日経平均は40000円前後を予想している。
以上が中心的なシナリオとなるが、トランプ政権の出方次第の面が強いうえ、日本の政局も流動的で見通しに反映させづらい。従って、投資にあたっては、情勢の変化を読み取り、見通しを機動的に再検討する姿勢が求められる。
(2025年02月07日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1870
経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
上野 剛志のレポート
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