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気候変動と食品ロス・廃棄物削減-消費者がすぐに貢献できる気候変動対策のポテンシャルは大きい

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
ただ、地球温暖化を緩和するための温室効果ガスの排出量削減などといっても、一般消費者の立場ですぐに貢献できることは限られる。例えば、SAF(Sustainable Aviation Fuel, 持続可能な航空燃料)や電気自動車・水素自動車関連のシステム(充電施設・水素ガスステーション等)の普及がまだ限られている日本の現状では、「気候変動対策として化石燃料を用いる飛行機や自動車の利用を控えよう」と言われても、多くの人々にとっては絵空事に過ぎない。また、ESG投資として、グリーンボンド(環境に配慮した事業に資金使途を限定して発行される債券)への投資を考えるにしても、一部の大資産家でもない限り、一般の市民にとっては縁遠い話だ。
そのようななかで、誰でも、いますぐに貢献できる気候変動対策がある。食品ロス・廃棄物の削減だ。食事に関してであれば、少し意識や行動を変えるだけで取り組むことができる。この取り組みに関して、国連は食品ロス指数や食品廃棄物指数を作成、公表するなど、啓発を進めている。本稿では、食品ロス・廃棄物の面から、気候変動問題について見ていくこととしたい。
2――食品ロスと食品廃棄物の定義
(1) 国連での食品ロス (Food loss)
国連では、食品ロスは、食料の生産やサプライチェーン段階でのロスをいう。ロスには、食品の加工時に、食べられる量が減少する非食用部分も含まれる。食品ロスは、サプライチェーンにおける小売りの手前までの段階で出たものであり、主に供給サイドの問題として、国連食糧農業機関(FAO)が担当している。FAOは、食品ロス指数を作成、公表している。
(2) 国連での食品廃棄物 (Food waste)
一方、国連では、食品廃棄物は、小売り、外食・中食、家庭での消費段階での廃棄物をいう。廃棄物には、食べられる部分と食べられない部分が含まれる。食べられない部分は、動物の骨やオレンジの皮など、一般的に食べられない部分を指す。ただし、両者の線引きは明確ではない。また、飼料として用いられる場合は、廃棄物には当たらない。食品廃棄物は、主に需要サイドの問題として、国連環境計画(UNEP)が担当している。UNEPは、食品廃棄物指数を作成、公表している。
(1) 日本での食品ロス
日本では、食品ロスは、まだ食べられるのに捨ててしまう部分のロスをいう。食品ロスは、食品製造業や食品卸売業段階等での規格外品、返品、売れ残りや、食品小売業、外食産業、家庭段階等での直接廃棄1、過剰除去2、食べ残し3に分けられる。
1 賞味期限切れ等により料理の食材又はそのまま食べられる食品として使用・提供されずにそのまま廃棄したもの。
2 調理時にだいこんの皮の厚むきなど、不可食部分を除去する際に過剰に除去した可食部分。
3 料理の食材として使用又はそのまま食べられるものとして提供された食品のうち、食べ残して廃棄したもの。
一方、日本では、食品廃棄物は、食品ロスに加えて、動物の骨、貝殻、野菜の芯など、通常食べられない部分も含む。食品廃棄物には、ふすま(小麦粒の外皮や胚芽)や大豆ミール(大豆から油を絞った後の残り)といった飼料・肥料の材料として活用できるもの(有価物)が含まれる。
日本では、食品製造業、食品卸売業、食品小売業、外食産業を事業系とし、そこでの食品ロスの削減を農林水産省が担当している。一方、家庭系の食品ロスの削減は、主に環境省や消費者庁が担当している。
以上のとおり、食品ロスと食品廃棄物は、国連と日本とで定義が異なる。ただ従来、飢餓・貧困問題や栄養問題に関連させてとらえられてきたという点は類似している。
近年、気候変動問題への注目度が高まる中で、食品ロス・廃棄物が焼却時や埋め立て時に温室効果ガスである二酸化炭素やメタンガスを排出するなど、地球温暖化問題としてもとらえられるようになった。また、大気汚染や生物多様性の喪失といった環境問題にも影響を及ぼすことが懸念されている。食品ロス・廃棄物は、単に、「食べられるのに捨ててしまうのはもったいない」というだけではなく、地球環境への影響が危惧される問題に拡大したといえる。
3――食品ロス・廃棄物の現状と温室効果ガス
また、食品ロスによる温室効果ガス排出量は1,046万トン(CO2換算)となり、食品ロスを8%減らすと、エアコン設定温度を27℃から28℃に変更した場合と同等のCO2削減効果があるとしている。4
4 「食品ロスによる経済損失及び温室効果ガス排出量の推計結果」(消費者庁)より。
一方、日本は全体で998.7万トンで、3年前に比べて約10%減少している。
5 3位はインド(7.3%)、4位はEU27ヵ国(6.7%)、5位はロシア(4.8%)。日本は8位で2.2%。(“GHG Emissions of All World Countries”(JRC Science for Policy Report, European Commission, 2023)より)
(2025年02月04日「基礎研レター」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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