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「人生会議」とは何か?~アドバンス・ケア・プラニング(ACP)は、最期まで自分らしく生き抜くためのキーワードか~

社会研究部 取締役 部長 鈴木 寧
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1――はじめに
命の危険が迫った状態になると、約70%の人が医療やケアなどを自分で決めたり、希望を伝えたりすることが困難になると言われている。そこで将来の変化に備え、将来の医療・ケアについて、本人を主体に、その家族等及び医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人の意思決定を支援するプロセスのことをACP1という。
ところが、既に6年が経過しているが、世間に十分に認知されているとは言えない状況だ。厚生労働省の令和4年度調査2によると、「人生会議(ACP)について知っていたか」という質問に対して、一般国民で「よく知っている」と回答したのは、わずかに5.9%(前回平成29年度調査では3.3%)であり、「聞いたことはあるがよく知らない」が21.5%(同19.2%)、「知らない」が72.1%(同75.5%)となっており、一般の人にとってほとんど認知は進んでいない。一方で、医療・介護関係者においては、「よく知っている」と回答した割合は医師で45.9%(同22.4%)、看護師で45.8%(同19.7%)、介護支援専門員で47.5%(7.6%)となっており、未だ認知状況は半分程度ではあるものの、直近5年間で急速に理解は進んでおり、今後、一般の人との認知度のギャップを急速に埋めていく必要があると思われる。
誰しも自身の人生の最終段階を想定して予め医療・介護の受け方を決めることは、気の進まない作業であり、また、いくら想定してみたところで実際に医療を受ける段階では、当初の想定と実際の病状は異なる可能性もある。それでも、人生会議を行うことが必要とされる背景と、その内容について紹介したい。
1 日本医師会「終末期医療 アドバンス・ケア・プラニング(ACP)から考える」https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20180307_31.pdf
2 厚生労働省「令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査の結果について(報告)」https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001235008.pdf
2――人生会議(ACP)とは
このような課題を踏まえて、政府では高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を進めてきており、そのなかで自宅や介護施設などにおける看取りが増加することへの対応も進めている。令和3年度介護報酬改定では、看取り期の本人・家族との十分な話し合いや医療・介護関係者との連携を一層充実させるために、厚生労働省は看取り介護加算への対応と合わせて、医療・介護機関に対しては「人生の最終段階5における医療・ケアの決定プロセスにおけるガイドライン」に沿った対応を求める取扱いとしている。
3 総務省統計局 人口推計(2023年10月1日現在)https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2023np/index.html
4 厚生労働省「令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査の結果について(報告)」
5 厚生労働省は、2015年に最期まで尊厳を尊重した人間の生き方に着目した医療を目指すことが重要であるとの考え方から、従来「終末期医療」と表記していたものを「人生の最終段階における医療」へ変更。
それでは、人生会議(ACP)を進めるにあたり、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスにおけるガイドライン」(以下、ガイドライン)では、どのような対応を求めているのかを確認してみよう。ガイドラインは、2007年に制定されたが、2018年改訂では、看取りへの対応として、近年、英米諸外国を中心に研究・取り組みが行われているACPの概念を盛り込むとともに、地域包括ケアシステムの構築にも対応したものとして改訂が行われた。とりわけ、当改訂では、(1)本人の意思は変化し得るものであることから医療・ケアの方針についての話し合いは繰り返すことが重要であること、(2)本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることを踏まえて、家族等の本人の意思を推定しうる信頼できる者を予め定めて、繰り返し話し合い、その内容をその都度、文書にまとめて本人、家族等と医療・ケアチームで共有することが重要、であることを記載している。
では、人生の最終段階における医療への対応として、具体的にどのように対応されることを想定しているのであろうか。ガイドラインでは、先ずは「医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで医療・ケアを進めることが最も重要な原則」としている。そして、本人の意思は変化しうるものであることを踏まえ、本人の意思が尊重されるよう医療・ケアチームと繰り返し話し合いを行うことの重要性にも言及している。
さらに、ガイドラインでは、具体的な場面を想定して、(1)本人の意思が確認できる場合、(2)本人の意思が確認できない場合、さらには家族等の信頼できる人がいる場合といない場合、における医療・ケアの方針の決定手続きをケース分けして示している(図表4)。
一方、(2)本人の意思の確認ができない場合は、(2)-①家族等が本人の意思を推定できる場合は、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とするが、(2)-②家族等が本人の意思を推定できない場合は、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針が決定される。更に、(2)-③家族等がいない、家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとっての最善の方針が医療・ケアチームで決定される。尚、医療・ケアの内容の決定が困難な場合や、本人と医療・ケアチームとの話し合いで合意形成ができない場合は、複数の専門家で構成する話し合いの場を別途設置し、方針の検討や助言が行われることとなっている。
このように、ガイドラインでは、本人、家族等と医療・ケアチームが丁寧な話し合いを通じて、最期まで本人の希望する生き方を実現できるような合意のプロセス組み込まれているといえる。
(2025年01月21日「基礎研レター」)

03-3512-1774
- 【職歴】
1988年 日本生命保険に入社
日本生命にて国際保険部、米国日本生命(ニューヨーク支店、ロサンゼルス支店)、官公庁、外資系企業等の法人営業部門等を経て、2020年ニッセイ基礎研究所入社。
2024年4月より現職
鈴木 寧のレポート
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