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プロジェクト2025の気候変動へのスタンス-米国の気候変動対策はどうなっていくのか-

保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 磯部 広貴
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3――プロジェクト2025の気候変動へのスタンス
大統領就任後に詳細として何がありえるかを探るため、プロジェクト2025のうちclimate change(気候変動)が登場した箇所を中心に、主なスタンスを見てきたい。
1)国家安全保障会議は軍隊における昇進に際し、軍務の中核的役割や責任を優先し、社会工学や防衛に関係のない事項によってはならないとしつつ、その筆頭例として気候変動を挙げている。
2)バイデン政権の極端な気候変動対策が新興国を苦しめていると指摘した上で、海外援助プログラムからパリ協定を推進するための気候変動対策を撤回する。
3)農業では食料の生産性と入手しやすさが第一であり気候変動のような付随的問題を優先させない。国連などによる持続可能な発展スキームから米国の食糧生産を切り離す。
4)新たなエネルギー危機が資源の不足ではなく、気候変動とESGによって生まれており、庶民のエネルギーコストを引き上げていると非難した上で、
・連邦エネルギー管理プログラムは気候変動のためにコストが高く信頼性の低いエネルギー資源に頼るべきではない。
・気候変動対策とグリーン補助金への注力を終わらせる。
・気候変動のような漠然たる「社会の利益」を進めるためのコスト投入を正当化しない。
・気候変動のような環境問題が液化天然ガス計画を止める理由にはならない。
5)気候変動の恐怖を煽ることで非効率で自由を奪う規制を押し付け、私有財産権を抑圧し、多大なコストを求めてきたと非難した上で、温室効果ガス報告プログラムから中小企業などを除外し負荷を軽減する。
6)気候変動対策を廃止し予算請求から除外する。
7)温室効果ガス排出抑制に注力してきたESG要素をエリサ法4から排除する。これまで石油・ガス業界への投資が抑制され、生産量の減少に繋がっていたためだ。
8)海洋大気研究所のうち気候変動に関する研究組織の大部分は解散すべきである。
9)バイデン政権において財務省はトップ5の優先事項に気候変動を位置付け「気候ハブ」という新組織を作った。新政権はこれを廃止し、米国の繁栄に反する国連気候変動枠組条約とパリ協定から脱退すべきである。
10)証券取引委員会が、投資家の経済的リスクにもリターンにも影響を及ぼさない社会的、イデオロギー的、政治的または人的資本に関する情報開示を発行者に要求することを禁止する。提案中の気候変動に関する規則は、上場企業のコストを4倍に引き上げるもので特に問題である。
3 トランプ大統領(当時)が離脱を表明したのは2017年6月だが、国連の規定により公式の離脱は2020年11月であった。再加盟は自由であり、バイデン大統領は2021年1月の就任日に再加盟を発表し、同年2月19日に米国の正式復帰が認められた。
4 Employee Retirement Income Security Act(従業員退職所得保障法)の略称。同法は退職給付制度の受託者責任を定めているが、2023年1月、バイデン政権は受託者責任においてESG要素の考慮を認める規則を施行した。前トランプ政権時代に金銭的要素のみを考慮するよう求める規則が定められていたことを受けてのもの。
4――おわりに(一過性と言えるか)
しかしトランプ氏が去っても保守主義者がいなくなるわけではない。
他方、4年後に民主党が大統領職を奪還できるだろうか。昨年の大統領選には様々な分析があるだろうが、トランプ氏が強かったというより民主党が弱過ぎたという側面5は否定できない。候補者であったハリス副大統領個人の資質を問うよりも、むしろ民主党が「庶民とは関係のないセレブの皆さま」になりつつあることを指摘する声も大きい。かつてのオバマ氏のようなニューヒーローの登場など民主党が党勢を挽回しない限り、トランプ氏でなくとも共和党の候補が勝利を続ける可能性は十分にある。
即ち、プロジェクト2025で述べられた気候変動へのスタンスが、米国でこれから8年さらには12年続くこともありえる。その可能性を念頭に置いた上で、わが国の気候変動対策も考えていくことが求められよう。
5 CNNによれば、全米得票数でトランプ氏が約7,730万票と前回(2020年)選挙時より約307万票上乗せした一方、ハリス副大統領は約7,502万票と前回(2020年)選挙時のバイデン大統領得票数から約627万票減少させた。尚、トランプ氏は代議員数で勝利を得た前々回(2016年)選挙時でさえ、全米得票数では民主党のヒラリー・クリントン氏より少なく、民主党候補を上回ったのは今回選挙が初めてとなる。
(2025年01月07日「基礎研レポート」)

03-3512-1789
- 【職歴】
1990年 日本生命保険相互会社に入社。
通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。
【加入団体等】
日本FP協会(CFP)
生命保険経営学会
一般社団法人 アフリカ協会
一般社団法人 ジャパン・リスク・フォーラム
2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版
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