2024年12月09日

アンケート調査から読み解く企業の物流戦略の現状と課題(1)~「物流2024年問題」への対策は着手するも、まだ十分でないと認識。トラックドライバーおよび倉庫内作業人員の確保が課題に~

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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(2)「物流2024年問題」への対策(「物流業務」に関する対策)
「物流業務に関する対策」について荷主企業に質問したところ、「輸送・配送ルートや納品スケジュールの見直し」(75%)が最も多く、次いで「運送事業者との連携強化」(73%)、「ドライバーの待機時間、荷役作業時間等の見直し」(57%)の順に多かった(図表―10)。

物流企業では、「ドライバーの待機時間、荷役作業時間等の見直し」(77%)が最も多く、次いで「輸送・配送ルートや納品スケジュールの見直し」(73%)、「運送事業者との連携強化」(64%)の順に多かった。

物流の現場では、慣行としてドライバーが荷物の積み下ろしや積み込みを行っており、労働時間の長期化を招いていることが従来から問題となっている。物流施設に到着し入荷する際に、待機時間が長く発生していることも問題視されている。また、本来、ドライバーに支払われる運賃は、運送の対価に限定するべきところ、積み下ろしや荷待ち等の運送以外の役務の対価の範囲が不明確になっているケースもみられた8

国土交通省「R3年度トラック輸送状況の実態調査」(実施時期:令和4年1~2月)によれば、荷積み・荷下ろしの際の荷待ちについて、実運送事業者の約7割が「発生している」と回答した。また、全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題2024」によれば、大型トラックドライバーの年間労働時間(2023年)は2,544時間と、全産業平均(2,136時間)を約2割上回っている。ドライバーの長時間労働の主な要因として、荷待ち時間や荷役作業等が指摘されている9

こうした背景から、「物流2024年問題」への対応を契機に、輸送ルートやスケジュールの見直しとともに、「荷待ち時間」等の短縮に取り組む企業が多いようだ。

また、ドライバー不足やCo2排出量削減の観点から、より少ないトラックで多くの貨物を運ぶ「共同配送10」の必要性が高まっている。本調査でも、「共同配送による積載率の向上」(荷主企業48%・物流企業41%)との回答も上位にあがっている。
図表-10 「物流2024年問題」への対策(「物流業務」に関する対策)
 
8 上記の状況を受けて、国土交通省は、2017 年11 月に標準貨物自動車運送約款の改正を行った。約款の改定により、トラック運賃が運送の対価のみであることが明確化され、積込みや荷待ち時等を行った場合は対価が発生することとなった。
9 国土交通省総合政策局物流対策課(令和5年7月)「貨物輸送の現状について(参考データ)」
10 複数の荷主が、同じ配送先の荷物を持ち寄り、共同で配送を行う取り組み。
(3)「物流2024年問題」への対策(「物流施設」に関する対策)
「物流施設に関する対策」について荷主企業に質問したところ、「保管施設の増設」(30%)が最も多く、次いで「保管施設の集約」(29%)、「配送拠点の集約」(27%)の順に多かった(図表―11)。
図表-11 「物流2024年問題」への対策(「物流施設」に関する対策)
物流企業では、「中継拠点の増設」(44%)が最も多く、次いで「保管施設の増設」(41%)、「配送拠点の増設」(23%)の順に多かった。​

トラックドライバーの拘束時間短縮を目的として「中継輸送」(1つの輸送行程を複数のドライバーで分担し貨物を輸送する形態)が注目されるなか、中継拠点の整備も進んでいるようだ(図表-12)。

また、物流企業では、「配送拠点」、「保管施設」、「中継拠点」、「共同配送拠点」いずれも、「増設」が「集約」を大きく上回った。「物流2024年問題」への対応を契機に、物流拠点を拡大(増設)したいと考える物流企業が多いようだ。
図表-12 「物流2024年問題」に伴う中継拠点の整備事例

5.おわりに

5.おわりに

本稿では、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で実施したアンケート調査の一部を紹介し、企業の物流戦略の現状と課題について概観した。

企業の物流体制に関して、多くの企業は都市圏毎に、輸送・配送範囲を広域でカバーする物流施設を配置しており、一部の大手物流企業や商社・卸売企業等は、よりきめ細やかな物流サービスを実現するため、地域ごとに物流施設を配置している。また、物流企業では、物流拠点を拡大(増加)する意向が強いことが確認された。荷主企業では、物流業務の外部委託が進展しており、今後も緩やかに拡大する見通しである。

また、物流業務において、荷主企業、物流企業ともに、トラックドライバーの確保が喫緊の課題となっている。また、倉庫内作業人員の不足も大きな課題となっているようだ。

「物流2024年問題」は当初、荷物が運べなくなることが懸念されていたが、足元では、人手不足等に伴う輸送コストの上昇が課題として強く意識されている。2024年4月の時間外労働時間の上限規制適用を経て、対策が進められているものの、その対応状況は十分でないとの認識を持つ企業が多いと言える。

「物流2024年問題」の対策として、輸送ルートやスケジュールの見直しとともに、「荷待ち時間」等の短縮に取り組む企業が多い。また、物流企業では、トラックドライバーの拘束時間短縮を目的として「中継輸送」を行うべく、中継拠点等を拡大(増設)したい意向が強い模様だ。
 
政府は、「物流2024年問題」等の対応に向け、2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を公表し、我が国の物流を支えるための環境整備を進めている。

次回は、上記の政策パッケージに示された具体的な施策が物流業務に与える影響や、物流戦略の中期計画の策定状況、物流戦略に影響を与える社会潮流等を概観したうえで、企業の物流戦略の方向性等について考察する。
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年12月09日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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