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- 副業・兼業で広がるキャリア戦略-会社視点の働き方改革から生き方改革へ
2024年12月06日
1―副業・兼業による柔軟な働き方の実現
日本では2016年に政府により「働き方改革実現会議」が設置されて以来、働き方の改善に向けて様々な取組みが行われている。
働き方改革実現会議では、「経済成長の隘路の根本は、人口問題という構造的な問題に加え、イノベーションの欠如による生産性向上の低迷、革新的技術への投資不足」と指摘している。また、現在の日本の労働制度と働き方にある課題として(1)正規、非正規の不合理な処遇の差、(2)長時間労働、(3)単線型の日本のキャリアパスを挙げた。この上で、「日本経済の再生を実現するためには、投資やイノベーションの促進を通じた付加価値生産性の向上と、労働参加率の向上を図ることが必要」とし、その実現に向けて、現在も様々な「働き方改革」の推進が続けられている。
こうした働き方改革の一環として政府は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、副業・兼業を推進している。副業・兼業の促進により「柔軟な働き方がしやすい環境」を整備することで、日本の労働に関する諸問題の背景となっている硬直的な労働環境を変えることが期待される。副業・兼業は労働者自身が持つスキルや知見を一企業にとらわれず幅広く社会で発揮することにつながるためだ。
日本では、特に地方・中小企業での人手不足が深刻と言われる一方で、東京・大企業では自分の能力を活かせる場に恵まれず人材が滞留していることも考えられる。副業・兼業により、自らの希望する働き方を選びやすい環境を作っていくことは、都市部の人材を地方で活かすことによる地方創生や中小企業、スタートアップの活性化など社会全体の発展につながり得る。
労働者自身にとっても、副業・兼業は現在の日本の慣習や制度による単線的なキャリアを変え、自律的なキャリア形成を促し生産性向上や技術革新を促進していくことが期待される。
企業にとっては副業・兼業により柔軟な人材活用を行うことでの高度人材の活用や、自社で不足しているスキルの獲得を行いやすくなるというメリットが期待される。
働き方改革実現会議では、「経済成長の隘路の根本は、人口問題という構造的な問題に加え、イノベーションの欠如による生産性向上の低迷、革新的技術への投資不足」と指摘している。また、現在の日本の労働制度と働き方にある課題として(1)正規、非正規の不合理な処遇の差、(2)長時間労働、(3)単線型の日本のキャリアパスを挙げた。この上で、「日本経済の再生を実現するためには、投資やイノベーションの促進を通じた付加価値生産性の向上と、労働参加率の向上を図ることが必要」とし、その実現に向けて、現在も様々な「働き方改革」の推進が続けられている。
こうした働き方改革の一環として政府は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、副業・兼業を推進している。副業・兼業の促進により「柔軟な働き方がしやすい環境」を整備することで、日本の労働に関する諸問題の背景となっている硬直的な労働環境を変えることが期待される。副業・兼業は労働者自身が持つスキルや知見を一企業にとらわれず幅広く社会で発揮することにつながるためだ。
日本では、特に地方・中小企業での人手不足が深刻と言われる一方で、東京・大企業では自分の能力を活かせる場に恵まれず人材が滞留していることも考えられる。副業・兼業により、自らの希望する働き方を選びやすい環境を作っていくことは、都市部の人材を地方で活かすことによる地方創生や中小企業、スタートアップの活性化など社会全体の発展につながり得る。
労働者自身にとっても、副業・兼業は現在の日本の慣習や制度による単線的なキャリアを変え、自律的なキャリア形成を促し生産性向上や技術革新を促進していくことが期待される。
企業にとっては副業・兼業により柔軟な人材活用を行うことでの高度人材の活用や、自社で不足しているスキルの獲得を行いやすくなるというメリットが期待される。
2―副業・兼業の普及が進む
こうした中、副業・兼業の送り出し・受け入れを行う企業の割合は増加が続いている。経団連の調査によれば、副業・兼業の送り出しを行う企業の割合は2012年以前の24.4%から2022年には53.1%まで増加している[図表1]。受け入れを行う企業の割合は2012年以前の6.5%から2022年には16.4%まで増加している[図表2]。特に、コロナ禍の発生によりリモートワークの普及をはじめ働き方の変化が進んだ2020年以降、増加が加速している。ただし、2022年時点で送り出し企業が53.1%に対して、受け入れ企業は16.4%にとどまっており、副業・兼業の送り出しが進む一方で、受け入れが進んでいない状況も示されている。
副業・兼業者を受け入れるにあたっては、業務の切り出しや関連法規といったノウハウ・知識が必要となるが、特に初めて副業・兼業者を受け入れる企業ではこうした知識の不足が障壁となる。
こうした課題があるが、同調査によれば、従業員三百人未満の企業は全回答企業の平均と比べて、副業・兼業の受け入れている割合が高いことが示されている。中小企業では、大企業と比べて副業・兼業を活用し人材を獲得するメリットが大きいと考えられる。
副業・兼業の受け入れについて、経済産業省は「社内にない技術やノウハウを補えるため、一度利用した企業はリピートすることが多い」と指摘している。
副業・兼業者を受け入れるにあたっては、業務の切り出しや関連法規といったノウハウ・知識が必要となるが、特に初めて副業・兼業者を受け入れる企業ではこうした知識の不足が障壁となる。
こうした課題があるが、同調査によれば、従業員三百人未満の企業は全回答企業の平均と比べて、副業・兼業の受け入れている割合が高いことが示されている。中小企業では、大企業と比べて副業・兼業を活用し人材を獲得するメリットが大きいと考えられる。
副業・兼業の受け入れについて、経済産業省は「社内にない技術やノウハウを補えるため、一度利用した企業はリピートすることが多い」と指摘している。
3―副業・兼業を推進する上での課題
副業・兼業を行う人や企業が増えているが、企業が副業・兼業を受け入れるにあたっては労働時間管理や健康管理といった点が課題となる。しかし、現状の規則では企業は労働者の労働時間について、労働者の自己申告などで副業・兼業先での労働時間を把握した上で煩雑な対応が必要であり、企業が副業・兼業への対応を敬遠する要因にもなっている。このことから、「副業・兼業時の労働時間の通算解説資料」や「副業・兼業の場合における労働時間管理の解釈通達」、「モデル就業規則」を公表している。
副業・兼業時の労働時間の通算においては、法定労働時間を超過した場合の割増賃金の支払について、労働時間を合計し、法定労働時間を超える部分がある場合は、後から労働契約を締結した企業が割増賃金を支払う。
また、副業・兼業の促進に関するガイドラインでは、管理の手間を軽減するために「管理モデル」と呼ぶ方法を紹介している。ガイドラインでは、管理モデルについて「使用者A(先に労働契約を締結した企業)は自らの事業場における法定外労働時間の労働について、使用者B(後に労働契約を締結した企業)は自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払うこととするものであること」としている。
つまり、(1)「後に労働契約を締結した企業は自社での労働時間全てについて割増賃金を支払う」ことにより、(2)「先に労働契約を締結した企業は労働者が兼業を開始した後も自社での労働時間が法定労働時間内は通常賃金での支払いが可能となる」こととなる。これにより、兼業者と労働契約を結ぶ2社は、他社での兼業者の労働時間の把握が不要となるという仕組みである。しかし、後に労働契約を締結した企業は当該兼業者の全ての労働時間について割増賃金を支払わなければならないという欠点がある。副業・兼業に関する労働時間管理は現状では煩雑さなどの課題点が残されており、改善が望まれる。
副業・兼業時の労働時間の通算においては、法定労働時間を超過した場合の割増賃金の支払について、労働時間を合計し、法定労働時間を超える部分がある場合は、後から労働契約を締結した企業が割増賃金を支払う。
また、副業・兼業の促進に関するガイドラインでは、管理の手間を軽減するために「管理モデル」と呼ぶ方法を紹介している。ガイドラインでは、管理モデルについて「使用者A(先に労働契約を締結した企業)は自らの事業場における法定外労働時間の労働について、使用者B(後に労働契約を締結した企業)は自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払うこととするものであること」としている。
つまり、(1)「後に労働契約を締結した企業は自社での労働時間全てについて割増賃金を支払う」ことにより、(2)「先に労働契約を締結した企業は労働者が兼業を開始した後も自社での労働時間が法定労働時間内は通常賃金での支払いが可能となる」こととなる。これにより、兼業者と労働契約を結ぶ2社は、他社での兼業者の労働時間の把握が不要となるという仕組みである。しかし、後に労働契約を締結した企業は当該兼業者の全ての労働時間について割増賃金を支払わなければならないという欠点がある。副業・兼業に関する労働時間管理は現状では煩雑さなどの課題点が残されており、改善が望まれる。
4―会社視点の働き方改革から生き方改革へ
このように、現状では企業が副業・兼業の導入には課題が残されている。しかし、副業・兼業の導入は、従業員が働きやすい環境を実現することで、離職率の改善などが期待できる。ソフトウェア開発を行うサイボウズでは長時間労働などによる従業員の離職や知名度の不足による採用難に陥っていた。しかし、副業・兼業の自由化を含む働き方改革を行ったことで、離職率を28%から4%まで大幅に改善した。同社の働き方改革は「都合に合わせて働く場所と時間帯を選べるウルトラワーク」、「最大6年の育児休暇」、「副業(複業)の自由化(誰でも会社に断りなく副業可)」といった非常に大胆な内容となっている。
同社では「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」との方針のもと、従業員一人一人の個性が異なることを前提として、一人一人が望む働き方や報酬を実現させることを目指した。
この結果として、従業員は収入を増やすだけでなく人脈を広げスキルを高めモチベーションを維持・向上できるといったメリットが得られたとしている。現在では様々な人が働くようになっているため、画一的な制度ではなく一人一人の状況に合った施策を行うことが、従業員の満足度やエンゲージメントの向上につながる。
現在では、働く人のライフスタイルや働き方が多様化する中で、企業の人材戦略もそれに適応していくことが求められている。日本の従来型の労働制度や慣習のもとでは、労働者は受動的な長時間労働を強いられることも多い一方で、それ以外の選択肢も少ない状況が続いてきたと考えられる。しかし、現在では、副業・兼業をはじめ様々な働き方を選択できる環境に変化しつつあるかもしれない。
こうした中、食品メーカーのカゴメは「世間で言ういわゆる働き方改革は『会社視点』である」と指摘している。働き方改革を考える際に意識されているのは、会社がいかに「生産性を上げられるか」だが、個人は自身のquality of life(QOL)の向上を考えるため、ギャップが生まれる。全ての人が家族との時間や自己研鑽など自身のやりたいことを犠牲にせず充実した生活をおくることができることを目指す「生き方改革」が望ましいとしている。
働き方改革を推進していく上で、企業や政府による環境整備だけではなく労働者自身が能動的に自分自身の働き方や暮らし方を考え、選択していくことが個人のQOLの向上につながると考えられる。
また、働き手の確保が難しくなるとともにその考え方や性質が変化している現在において、企業は人材戦略を柔軟に再構築していくことが求められる。
多くの人が副業・兼業により自身が望む働き方と生き方を実現、活躍していく事がイノベーションの創造や高い生産性を実現し社会を変えていく事につながるかもしれない。副業・兼業に関する動向に引き続き注目したい。
同社では「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」との方針のもと、従業員一人一人の個性が異なることを前提として、一人一人が望む働き方や報酬を実現させることを目指した。
この結果として、従業員は収入を増やすだけでなく人脈を広げスキルを高めモチベーションを維持・向上できるといったメリットが得られたとしている。現在では様々な人が働くようになっているため、画一的な制度ではなく一人一人の状況に合った施策を行うことが、従業員の満足度やエンゲージメントの向上につながる。
現在では、働く人のライフスタイルや働き方が多様化する中で、企業の人材戦略もそれに適応していくことが求められている。日本の従来型の労働制度や慣習のもとでは、労働者は受動的な長時間労働を強いられることも多い一方で、それ以外の選択肢も少ない状況が続いてきたと考えられる。しかし、現在では、副業・兼業をはじめ様々な働き方を選択できる環境に変化しつつあるかもしれない。
こうした中、食品メーカーのカゴメは「世間で言ういわゆる働き方改革は『会社視点』である」と指摘している。働き方改革を考える際に意識されているのは、会社がいかに「生産性を上げられるか」だが、個人は自身のquality of life(QOL)の向上を考えるため、ギャップが生まれる。全ての人が家族との時間や自己研鑽など自身のやりたいことを犠牲にせず充実した生活をおくることができることを目指す「生き方改革」が望ましいとしている。
働き方改革を推進していく上で、企業や政府による環境整備だけではなく労働者自身が能動的に自分自身の働き方や暮らし方を考え、選択していくことが個人のQOLの向上につながると考えられる。
また、働き手の確保が難しくなるとともにその考え方や性質が変化している現在において、企業は人材戦略を柔軟に再構築していくことが求められる。
多くの人が副業・兼業により自身が望む働き方と生き方を実現、活躍していく事がイノベーションの創造や高い生産性を実現し社会を変えていく事につながるかもしれない。副業・兼業に関する動向に引き続き注目したい。
(2024年12月06日「基礎研マンスリー」)
03-3512-1860
経歴
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
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