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- 子育て世帯にとっての「いい住まい」とは何か~子育て世帯が求めるコミュニティの構築に向けて~
2024年11月29日
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1――東京都子育て支援住宅認定制度の概要とコミュニティに関する基準の運用状況
1|東京都子育て支援住宅認定制度の概要
「東京こどもすくすく住宅認定制度」1は、2016年に東京都が導入した「東京都子育て支援住宅認定制度」を継承し、2023年に開始された子育て世帯に適した住環境を提供するための認定制度である。この認定制度では、居住者の安全性や家事のしやすさなどに配慮された住宅で、子育てを支援する施設やサービスの提供など、子育てしやすい環境づくりのための取組みを行っている優良な住宅を東京都が認定する制度であり、子どもの成長に寄与する安全で快適な住まいを普及させ、家族が安心して暮らせる住宅を推進することを目的としている。認定の対象は、都内に新築された共同住宅や既存共同住宅のリフォーム物件で、認定基準に基づいて評価が行われる。認定を受けた物件の事業者には、東京都から住宅及び子育て交流促進施設の新築または整備に係る費用の一部が補助金として交付される仕組みとなっている。
この制度の認定基準では、住宅の性能や設計が子育て世帯にどのように安心・快適な環境を提供できるかを多角的に評価している。具体的には、保育園や学校・公園・医療施設などの生活インフラが近くに揃う「立地」条件、階段や角のない設計・窓やベランダの高さや柵の設置など事故防止のための「住戸内」の設計・性能、転落防止や防犯・防災など安全対策が講じられた「共有部分」の設備、子どもが自由に遊べる「子育て支援施設やキッズルーム」の設置、さらに近隣住民とのコミュニティ形成が可能な環境・親同士の交流や子どもたちの友達作りをサポートするためのコミュニティ活動の「管理・運営」などの項目が認定基準として設けられている。
そして、これら認定基準の適合度合い(認定基準の必要適合項目数)2に応じて、子どもの安全確保に特化した「セーフティモデル」、事業者の特色を生かした設備等の選択が可能な「セレクトモデル」、設備等の充実に加え、コミュニティ形成などソフト面も重視した「アドバンストモデル」の3モデルに分類されている。「アドバンストモデル」の基準では、住宅の面積が50m2以上、「セレクトモデル」と「セーフティモデル」については、45m2以上の面積3が必要とされている。
認定モデルごとに補助限度額が異なる仕組みになっており、新築賃貸住宅の場合、「セーフティモデル」は基本的な必須項目のみの基準を満たすもので補助限度額は50万円、「セレクトモデル」は必須項目に加えて選択項目を満たすもので補助限度額は100万円、そして「アドバンストモデル」は更に多くの必須・選択項目の基準を求められ、補助限度額も200万円4となっている。事業者にとっては、より高い基準を満たした住宅を建築することにより、より多くの補助金を受けることが可能となっており、認定制度を活用するインセンティブともなっている。これにより、住宅市場全体の質向上にも寄与することが期待されている。
2024年9月末時点で、認定を受けた住宅の総数は新築集合住宅92件、既存集合住宅9件、改修集合住宅1件であり、全住戸数は5,044戸である5。この内訳を詳しく見ると、新築分譲住宅は2,572戸、新築賃貸住宅は1,745戸、既存賃貸住宅は642戸、既存賃貸住宅の改修は85戸が含まれている。認定住宅をモデル別にみると、「アドバンストモデル」は3,653戸で全体の約72.4%を占めており、続いて、「セレクトモデル」が898戸で17.8%、「セーフティモデル」が493戸で9.8%となっており、事業者は最上位の基準を中心に取り組んでいることが分かる。
1 東京こどもすくすく住宅認定制度
https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/child-care-seido.html
2 詳細は東京こどもすくすく住宅認定制度ページを参照してください。
3 ただし、居間、食堂、台所その他の住戸の部分について、共同して利用するために十分な面積を有するスペースを設置する場合は40㎡以上でも認められる。
東京こどもすくすく住宅認定制度実施要領
https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/pdf/child-care-seido_11_2410.pdf
4 詳細は東京こどもすくすく住宅認定制度パンフレットを参照してください。
5 東京こどもすくすく住宅認定制度>認定を受けた住宅一覧
https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/child-care-nintei.html
「東京こどもすくすく住宅認定制度」1は、2016年に東京都が導入した「東京都子育て支援住宅認定制度」を継承し、2023年に開始された子育て世帯に適した住環境を提供するための認定制度である。この認定制度では、居住者の安全性や家事のしやすさなどに配慮された住宅で、子育てを支援する施設やサービスの提供など、子育てしやすい環境づくりのための取組みを行っている優良な住宅を東京都が認定する制度であり、子どもの成長に寄与する安全で快適な住まいを普及させ、家族が安心して暮らせる住宅を推進することを目的としている。認定の対象は、都内に新築された共同住宅や既存共同住宅のリフォーム物件で、認定基準に基づいて評価が行われる。認定を受けた物件の事業者には、東京都から住宅及び子育て交流促進施設の新築または整備に係る費用の一部が補助金として交付される仕組みとなっている。
この制度の認定基準では、住宅の性能や設計が子育て世帯にどのように安心・快適な環境を提供できるかを多角的に評価している。具体的には、保育園や学校・公園・医療施設などの生活インフラが近くに揃う「立地」条件、階段や角のない設計・窓やベランダの高さや柵の設置など事故防止のための「住戸内」の設計・性能、転落防止や防犯・防災など安全対策が講じられた「共有部分」の設備、子どもが自由に遊べる「子育て支援施設やキッズルーム」の設置、さらに近隣住民とのコミュニティ形成が可能な環境・親同士の交流や子どもたちの友達作りをサポートするためのコミュニティ活動の「管理・運営」などの項目が認定基準として設けられている。
そして、これら認定基準の適合度合い(認定基準の必要適合項目数)2に応じて、子どもの安全確保に特化した「セーフティモデル」、事業者の特色を生かした設備等の選択が可能な「セレクトモデル」、設備等の充実に加え、コミュニティ形成などソフト面も重視した「アドバンストモデル」の3モデルに分類されている。「アドバンストモデル」の基準では、住宅の面積が50m2以上、「セレクトモデル」と「セーフティモデル」については、45m2以上の面積3が必要とされている。
認定モデルごとに補助限度額が異なる仕組みになっており、新築賃貸住宅の場合、「セーフティモデル」は基本的な必須項目のみの基準を満たすもので補助限度額は50万円、「セレクトモデル」は必須項目に加えて選択項目を満たすもので補助限度額は100万円、そして「アドバンストモデル」は更に多くの必須・選択項目の基準を求められ、補助限度額も200万円4となっている。事業者にとっては、より高い基準を満たした住宅を建築することにより、より多くの補助金を受けることが可能となっており、認定制度を活用するインセンティブともなっている。これにより、住宅市場全体の質向上にも寄与することが期待されている。
2024年9月末時点で、認定を受けた住宅の総数は新築集合住宅92件、既存集合住宅9件、改修集合住宅1件であり、全住戸数は5,044戸である5。この内訳を詳しく見ると、新築分譲住宅は2,572戸、新築賃貸住宅は1,745戸、既存賃貸住宅は642戸、既存賃貸住宅の改修は85戸が含まれている。認定住宅をモデル別にみると、「アドバンストモデル」は3,653戸で全体の約72.4%を占めており、続いて、「セレクトモデル」が898戸で17.8%、「セーフティモデル」が493戸で9.8%となっており、事業者は最上位の基準を中心に取り組んでいることが分かる。
1 東京こどもすくすく住宅認定制度
https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/child-care-seido.html
2 詳細は東京こどもすくすく住宅認定制度ページを参照してください。
3 ただし、居間、食堂、台所その他の住戸の部分について、共同して利用するために十分な面積を有するスペースを設置する場合は40㎡以上でも認められる。
東京こどもすくすく住宅認定制度実施要領
https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/pdf/child-care-seido_11_2410.pdf
4 詳細は東京こどもすくすく住宅認定制度パンフレットを参照してください。
5 東京こどもすくすく住宅認定制度>認定を受けた住宅一覧
https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/child-care-nintei.html
2018年に新築集合住宅として認定を受けた「アドバンストモデル」物件Aでは、子育て支援施設の設置はないものの、一部の住戸はサービス付き高齢者向け住宅と併設されており、複合型賃貸住宅として多世代間の交流が可能な住環境を提供している。住民専用の交流スペースを設け、納涼祭や苗植会、収穫祭、クリスマスパーティなどの定期的なイベントのほか、NPOとの連携による地域交流イベントも積極的に行われており、コミュニティ醸成のための様々な取り組みが実施されている7。
また、2019年に既存集合住宅として認定を受けた「アドバンストモデル」物件Bでは、子育て支援施設として認定こども園、小児クリニックを建物内に設置し、さらに敷地内に屋内遊び場やじゃぶじゃぶ池が整備されている。この屋内遊び場は会員に登録すれば、月額800円(税込み)で遊び放題となっており、0歳から小学2年生までの子どもが対象であるため、入居者だけでなく地域の子どもや遠方からの利用者も多く、様々なイベントを通じて子育て世帯間の交流が促進されている。更に、コミュニティ醸成のための取り組みとして、NPO法人が主催するサマーフェスティバルやハロウィン、クリスマスパーティなど、季節ごとの親子向けイベントも開催されている。
このように、両物件ともに認定制度を利用して特徴ある設備の設置、運営が行われているが、外観に「東京都子育て支援住宅認定物件」である表記が行われておらず、利用者や近隣住民には必ずしも認定物件として認知されやすい状況とはなっていないようだ。
6 子育て支援施設、キッズルーム、集会室や交流スペース、屋外スペースはいずれも「アドバンストモデル」、「セレクトモデル」の「選択」項目である。一方、コミュニティの醸成のための配慮事項である「入居者間の交流の機会の創出」は「アドバンストモデル」の「必須」項目と規定されている。
7 物件の認定基準チェックシートより。
また、2019年に既存集合住宅として認定を受けた「アドバンストモデル」物件Bでは、子育て支援施設として認定こども園、小児クリニックを建物内に設置し、さらに敷地内に屋内遊び場やじゃぶじゃぶ池が整備されている。この屋内遊び場は会員に登録すれば、月額800円(税込み)で遊び放題となっており、0歳から小学2年生までの子どもが対象であるため、入居者だけでなく地域の子どもや遠方からの利用者も多く、様々なイベントを通じて子育て世帯間の交流が促進されている。更に、コミュニティ醸成のための取り組みとして、NPO法人が主催するサマーフェスティバルやハロウィン、クリスマスパーティなど、季節ごとの親子向けイベントも開催されている。
このように、両物件ともに認定制度を利用して特徴ある設備の設置、運営が行われているが、外観に「東京都子育て支援住宅認定物件」である表記が行われておらず、利用者や近隣住民には必ずしも認定物件として認知されやすい状況とはなっていないようだ。
6 子育て支援施設、キッズルーム、集会室や交流スペース、屋外スペースはいずれも「アドバンストモデル」、「セレクトモデル」の「選択」項目である。一方、コミュニティの醸成のための配慮事項である「入居者間の交流の機会の創出」は「アドバンストモデル」の「必須」項目と規定されている。
7 物件の認定基準チェックシートより。
2――世帯別住まいに対するニーズの検証~子育て世帯と一般世帯の比較
国土交通省が平成30年(2018年)に実施した「住生活総合調査」では、市民に対して住宅や居住環境の各要素についての重要度を尋ねている。ここでは、長子が12歳未満の子育て世帯、長子が12歳以上の子育て世帯、65歳未満の夫婦のみ世帯、65歳以上の夫婦のみ世帯、単身世帯および全世帯を対象に、住宅に求める要素に関する世帯別の意識を比較分析した。
1|住宅に求める要素の比較
「東京こどもすくすく住宅認定制度」では、「住戸内に関する基準」として、段差解消、防犯対策、界壁や開口部の防音性、玄関の耐震性、トイレ、浴室、台所などの広さ・利便性、居室の収納スペースの確保などが定められており、「共有部分に関する基準」では、防犯対策、防災対策、省エネ対策などが規定されている。
「住生活総合調査」において同様の要素である、高齢者への配慮(段差がない等)、防犯性、遮音性、地震時の安全性、広さや間取り、収納の多さ、使い勝手などの項目に関しては、子育て世帯、高齢者世帯、単身世帯、そして全世帯において、その重要度に大きな差異は見られない(図表1)。
子育て世帯においては、住宅の広さや間取り、収納の多さ・使い勝手、防犯性、地震時の安全性が特に重視されているが、他の世帯においても同様な傾向が見られる。これらの要素は、住宅の基本的な要素として子どもの成長に必要であるだけでなく、すべての居住者の安全性や生活利便性に大きく影響を与えることを反映しているといえよう。
一方で、高齢者への配慮(段差がない等)、省エネ性、遮音性に関しては、いずれの世帯8においても相対的に重要度が高くはないことが確認された。これらの要素は、住まいの快適性や持続可能性には貢献するものの、日常的な生活の利便性に直結する他の要素に比べると、具体的な影響を感じにくいことから、優先順位が低く後回しにされがちであると考えられる。
また、水回りの広さ・使い勝手については、長子が12歳未満の子育て世帯における重要度が他の世帯と比較してやや高いことも確認されている。これは、乳幼児から小学校低学年を育児中の家庭では子どもの入浴や料理の準備など、水回りの機能性が日常生活の中心的な要素であることと推察される。
「東京こどもすくすく住宅認定制度」では、「住戸内に関する基準」として、段差解消、防犯対策、界壁や開口部の防音性、玄関の耐震性、トイレ、浴室、台所などの広さ・利便性、居室の収納スペースの確保などが定められており、「共有部分に関する基準」では、防犯対策、防災対策、省エネ対策などが規定されている。
「住生活総合調査」において同様の要素である、高齢者への配慮(段差がない等)、防犯性、遮音性、地震時の安全性、広さや間取り、収納の多さ、使い勝手などの項目に関しては、子育て世帯、高齢者世帯、単身世帯、そして全世帯において、その重要度に大きな差異は見られない(図表1)。
子育て世帯においては、住宅の広さや間取り、収納の多さ・使い勝手、防犯性、地震時の安全性が特に重視されているが、他の世帯においても同様な傾向が見られる。これらの要素は、住宅の基本的な要素として子どもの成長に必要であるだけでなく、すべての居住者の安全性や生活利便性に大きく影響を与えることを反映しているといえよう。
一方で、高齢者への配慮(段差がない等)、省エネ性、遮音性に関しては、いずれの世帯8においても相対的に重要度が高くはないことが確認された。これらの要素は、住まいの快適性や持続可能性には貢献するものの、日常的な生活の利便性に直結する他の要素に比べると、具体的な影響を感じにくいことから、優先順位が低く後回しにされがちであると考えられる。
また、水回りの広さ・使い勝手については、長子が12歳未満の子育て世帯における重要度が他の世帯と比較してやや高いことも確認されている。これは、乳幼児から小学校低学年を育児中の家庭では子どもの入浴や料理の準備など、水回りの機能性が日常生活の中心的な要素であることと推察される。
8 図表1が示す通り、65歳以上の夫婦のみ世帯においては、高齢者への配慮が重要度の4位に位置付けられている。
(2024年11月29日「基礎研レポート」)

03-3512-1794
経歴
- 【職歴】
2018年 早稲田大学 アジア太平洋研究科 博士(学術)
2018年 ニッセイ基礎研究所 入社
【資格】
環境プランナー、国際環境リーダー
【加入団体等】
日本NPO学会、Nonprofit Management & Leadership(米)
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