2024年11月22日

保険と年金基金における各種リスクと今後の状況(欧州 2024.10)-EIOPAが公表した報告書(2024年10月)の紹介

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――はじめに

EIOPA(欧州保険・企業年金監督機構)から、ほぼ四半期に一度のペースでリスクダッシュボードが発表されている。2024年10月30日に年金基金分野、10月31日に保険分野についてそれぞれ公表された1。これはその時々のソルベンシーII関連データに基づいて、EU内の年金基金と保険それぞれにおける主なリスク2と脆弱性を要約したものである。
 
1 (年金分野) Institutions for occupational retirement provision(IORPs) risk dashboard(2024.10.30 EIOPA)
https://irdai.gov.in/web/guest/document-detail?documentId=1624671
(保険分野)Insurance Risk Dashboard October 2024 (2024.10.31 EIOPA)
https://www.eiopa.europa.eu/assets/insurance-risk-dashboard/EIOPA_BoS%2024-429%20October%202024-Insurance-risk-hboard.html
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
各リスクの内容は、その名称からほぼ直感的に想像はつくと思われるが、具体的な説明については、前回の報告(下記)を参照頂きたい
保険分野「保険分野における各種リスクと今後の動向(欧州2024.2)」(ニッセイ基礎研究所2024.2.29)
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/77763_ext_18_0.pdf?site=nli
年金基金分野「年金基金を取り巻く各種リスクと今後の見通し(欧州2024.2)」(ニッセイ基礎研究所 2024.3.12)
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/77855_ext_18_0.pdf?site=nli

2――各リスクの状況

2――各リスクの状況

1保険分野

〇マクロリスクは、GDP成長率の予測が1.3%(前四半期 1.3%)と改善を示しており、世界のインフレ率予測も2.1%(同 2.2%)と若干低下した。各国の政策金利は平均でわずかに低下するなど金融政策は緩和の方向にある。

〇信用リスクに関しては中程度のレベルで、引き続き安定している。

〇市場リスクは、依然として高い水準にある。保険会社の債券と株式のボラティリティは落ち着いており、保険会社の資産構成比は、債券51%、株式6%程度で安定している。2023年の投資収益と保証金利の差は、市場収益率の上昇により、プラスを維持している。

〇流動性と資金調達のリスクは引き続き安定している。

〇収益性と支払能力のリスクは、引き続き安定している。ソルベンシーマージン比率はわずかに低下している(保険グループ平均214%→200%)が、生命保険会社の投資収益率は、市場収益の好調により、改善している。

〇相互関連と不均衡リスクは、引き続き安定している。

〇保険引受リスクは、中程度レベルで安定している。生命保険、損害保険とも、指標の一つである保険料増加率はプラスである。

〇市場受容リスクは、中程度で安定している。株価の上昇率をみると、生命保険会社全体・損害保険会社全体とも市場平均を上回っている。外部格付けとその見通しはおおむね安定しており、プラス方向の要素もある。

〇ESGリスクも中程度で安定している。保険会社の気候関連資産へのエクスポージャーの中央値はわずかに増加し、保険会社はグリーンボンド発行残高の約6.4%の投資で安定して推移している。気候変動の物理的リスクに関する指標をみると、リスクエクポージャーが洪水に関しては変化ないが、暴風に関するエクスポージャーが高くなっている。

〇デジタル化とサイバーリスクは、現時点では中程度のレベルにとどまっているとしているが、サイバー攻撃への懸念は増大しており、引き続き今後リスクが増大する方向にあると考えられる。
 
保険分野の各リスクの状況
2年金基金分野

年金基金分野のリスクは保険分野とほぼ同じではあるが、貯蓄性が強いことや、特に確定給付年金においては、責任準備金を対応する資産でカバーできていることが重視されるなど、異なる視点があるので、多少違いがある。
 
〇マクロリスクは、中程度の水準でGDP成長率はプラス方向に動いている。年金基金の主要地域の平均GDP成長率は、2024年第2四半期は1.5%(前四半期も1.5%)と予想されている。

〇信用リスクに関しては中程度のレベルにとどまっている。

〇市場と資産の収益リスクは、引き続き高水準のままである。債券のボラティリティが9月頃に低下したとはいえ、歴史的には債券・株式市場のボラティリティが高い水準にある。

〇流動性(資金調達)リスクは中程度である。

〇準備金と資金調達のリスク(確定給付型)は中程度である。確定給付型基金の財務状況は、金利の上昇により、2024第1四半期も堅調に推移した。2024年第Ⅱ四半期の資産の負債超過率は21.1%(前四半期 19.0%)(中央値)である。

〇集中リスクは中程度である、地理的集中度の低下により減少傾向にあったが、現時点では横這いとする(と認識を変更する)。

〇ESGリスクも中程度で安定している。株式・社債のうち気候関連資産のエクスポージャーの中央値は若干上昇(0.6%→0.8%)、加重平均は8%(前四半期 7.3%)とわずかに上昇した。グリーンボンドへの投資は2024年第1四半期の6.6%から2024年第2四半期7.2%へと増加した。

〇デジタル化とサイバーリスクは中程度で安定しているが、地政学的な緊張により、保険分野と同じく、引き続き主要な懸念事項ではありつづけると考えられる。年金基金分野では唯一、今後12か月に増加傾向と予想されるリスクである。

3――おわりに

年金基金分野の各リスクの状況

3――おわりに

今回も特段大きな変化もなく、緊急に対応を要するような事態はないようだが、地政学的な状況の変化など急激な変化もありうる項目がある。あるいはサイバーリスクのように、今後の動向が不透明で、現在のところは常に懸念事項としてあり続けるような項目もあるようだ。
 

(2024年11月22日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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