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EUのAI規則(4/4-最終回)-イノベーション支援、ガバナンス、市販後モニタリング等

保険研究部 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登
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(1)EU2019/1020(市場調査と商品の規制遵守規則。下記注記3参照)は本規則により規制されるすべてのAIシステムに適用される(74条1項)。
3 EU域内の消費者が、一般的な安全衛生、消費者の保護、環境の保護、公共の安全等の公共の利益を高水準で保護する要件を満たす適合製品のみを入手できるようにすることを目的とした市場の監視を実施するとした規則
(3) AIシステムが汎用AIモデルに基づいており、当該モデルと当該システムが同一の提供者によって開発されている場合、AIオフィスは、当該AIシステムが本規則に基づく義務を遵守していることを監視及び監督する権限を有する。監視・監督業務を遂行するため、AIオフィスは、本条項および規則(EU)2019/1020(市場調査と商品の規制遵守規則)に規定される市場監視当局のすべての権限を有するものとする(75条1項)。
(4) 市場監視当局は、実環境における試験が本規則に従っていることを確認する権限と権限を有する(76条1項)。
(5) 付属書III(前々回のレポートに掲載)で指定される高リスクAIシステムの使用に関連して、基本的権利を保証するEU法上の義務の尊重を監視または監督する国の公的機関または団体は、管轄権の範囲内でその任務を効果的に遂行する目的で文書へのアクセスが必要な場合においては、本規則に基づいて作成・保持される文書について、アクセスしやすい言語および形式でアクセスすることを要請し、かつアクセスする権限を有するものとする。当該公的機関または団体は、そのような要請があるときには、当該加盟国の市場監視当局に通知するものとする (77条1項)。
(6) 欧州委員会、市場監視当局、被通知団体(適合性審査期間)、およびこの規則の適用に関与するその他の自然人または法人は、EU法または国内法に従い、その任務と活動を遂行する上で得た情報およびデータの機密性を尊重しなければならない(78条1項)。
(注記)規則(EU)2019/1020は、EU域内で提供される様々な製品を包括的に規制するもので、事業者にはEU適合宣言書と技術文書作成などの義務が課せられ、市場監視当局が各製品を監視することが定められている。同規則(規則 EU2019/1020)には、EU域内で商品を市場投入する際に、EUの調和法(Union harmonization legislation)に商品が準拠していることを確保するための運営者(本規則では提供者や認定代理人など)を設置しなければならないことが定められている。AIシステムであって本規則の下にあるものは、同規則の適用を受ける。そして同規則によってAIシステムの提供者などは各国に設置された市場監視当局の監視を受けることとなる。この点、前文では「本規則に従って指定された市場監視当局は、本規則および規則EU2019/1020に規定されたすべての執行権限を有し、独立、公平かつ偏見なくその権限を行使し、義務を遂行すべきである。大半のAIシステムは、本規則に基づく特定の要件および義務の対象とはならないが、市場監視当局は、AIシステムが本規則に基づくリスクを提示している場合、すべての当該AIシステムに関して措置を講じることができる」(前文156)とされている。
(1) リスクをもたらすAIシステムは、人の健康もしくは安全、または基本的権利に対するリスクを示す限りにおいて、規則(EU)2019/1020(市場調査と商品の規制遵守規則)の3条19項に定義される「リスクをもたらす製品」と理解されるものとする(79条1項)。
(2) 加盟国の市場監視当局が、AIシステムが本条1項にいう「リスクをもたらす」とみなす十分な根拠を有する場合、当該AIシステムについて、本規則に規定されるすべての要件及び義務の遵守に関する評価を実施しなければならない。特に、社会的弱者にリスクをもたらすAIシステムに注意を払うものとする(同条2項)。
当該評価の過程において、市場監視当局が、AIシステムが本規則に規定される要件及び義務に適合していないと判断した場合、市場監視当局は、関連する事業者に対し、AIシステムを適合させるために適切な是正措置をすべて講じること、AI システムを市場から撤去すること、又は市場監視当局が定める期間内に当該 AI システムを回収することを、過度の遅滞なく、市場監視当局が定める期間内に、かつ、いかなる場合においても、15営業日以内、または、関連するEU調整法に規定される期間内のいずれか短い方の期間内に行うよう、要求しなければならない(同項)。
(3) AIシステムの事業者が本条2項で言及された期間内に適切な是正措置を講じない場合、市場監視当局は、当該AIシステムが自国の市場で入手可能になること、または使用開始されることを禁止または制限し、当該製品または単体のAIシステムを当該市場から撤去し、または回収するためのあらゆる適切な暫定措置を講じなければならない。当該当局は、過度の遅滞なく、欧州委員会および他の加盟国にこれらの措置を通知しなければならない。(同条5項)。
(注記)規則(EU)2019/1020で定義される「リスクをもたらす」製品に該当すると加盟国の市場監視当局が判断した場合、本規則(=AI規則)で定められた義務を果たしているかどうか確認し、その結果をもって本文にあるような措置を取ることとされている。これは、AIシステムの提供者等が本規則の規定に違反するAIシステムを、故意または過失の有無にかかわらず、市場投入した場合の、各加盟国の市場監視当局の権限を定めた規定である。なお、リスクをもたらすAIシステムが「高リスクAIシステム」あるいは「禁止されるAIリスク」に該当することとなる場合は次条(80条)以降が適用される。
(1) 市場監視当局が、第6条第3項に従って提供者が非高リスクと分類したAIシステムが実際に高リスクであると考える十分な理由がある場合、市場監視当局は、6条3項に定める条件及び欧州委員会のガイドラインに基づき、高リスクAIシステムとして分類することに関する当該AIシステムの評価を実施しなければならない(80条1項)。
(2) 1項の評価の過程において、市場監視当局が当該AIシステムは高リスクであると判断した場合、市場監視当局は、当該AIシステムを本規則に定める要件及び義務に適合させるために必要な全ての措置を講じるとともに、市場監視当局が定める期間内に適切な是正措置を講じるよう、当該提供者に対し、過度の遅滞なく要求するものとする(80条2項)。
(注記)本条は提供者が高リスクでないとして市場投入されたAIシステムが高リスクAIシステムに該当する場合の手続を定めたものである。
(3) 79条5項に定める加盟国(A国)の市場監視当局からの通知を受け取ってから3ヶ月以内、または、第5条に定める禁止されるAIの行為の禁止を遵守していない場合には30日以内に、他の加盟国(B国)の市場監視当局が、A国の市場監視当局が講じた措置に対して異議を申し立てた場合、または、欧州委員会がその措置をEU法に反すると見なした場合、欧州委員会は、不当に遅延することなく、A国の市場監視当局および事業者と協議を行い、国内措置を評価する。その評価結果に基づき、欧州委員会は、79条5項にいう通知から6ヶ月以内(第5条にいうAIの行為の禁止が遵守されていない場合は60日以内)に、A国の国内措置が正当であるかどうかを決定し、その決定をA国の市場監視当局に通知しなければならない。欧州委員会はまた、その決定を他のすべての市場監視当局に通知しなければならない(81条1項)。
(注記)本条は、ある国の市場監視当局が是正命措置を要求した場合、あるいは禁止されるAIシステムであると判断した場合において、①他国が異議を述べた場合、②欧州委員会がある国が求めた措置がEU法に反するとみなした場合の意見調整の手続を定めた規定である。なお、A国、B国は文意が明らかになるように筆者が付したものである。
(4) 79条に基づく評価(リスクをもたらすAIシステム)を実施した結果、ある加盟国(A国)の市場監視当局が、高リスクAIシステムが本規則に適合したと認定した場合であっても、他の国(B国)の市場監視当局が人の健康又は安全に対するリスクをもたらしていると認める場合、あるいは基本的権利、又は公益保護の他の側面に対するリスクがあると判断した場合において、B国の市場監視当局は、当該AIシステムが市場に投入され、又は使用開始されたときに、不当に遅延することなく、当該リスクをもたらさないようにするためのあらゆる適切な措置を、当該事業者(operator)が、所定の期間内に講じるよう求めるものとする(82条1項)。
(注記)本条は、A国において、高リスクAIシステムとしての規定を遵守していると判断されたAIシステムについて、B国の市場監視当局がリスク抑止として不十分であると判断した場合の規定である。国の市場監視当局はリスクをもたらさないように事業者に是正を要求することができる。ここでもA国、B国は文意が明らかになるように筆者が付したものである。
(1) 本規則の規定の侵害があったと考える根拠を有する自然人または法人は、関連する市場監視当局に苦情を提出することができる(85条1項)。
(2) 付属書III(前々回のレポートに掲載)に列挙されたシステム(同第2項に列挙されたシステム(重要インフラのAIシステムを除く)であって、その者の健康、安全又は基本的権利に悪影響を及ぼすと考えられる方法で法的効果を生じさせ、又は同様にその者に重大な影響を及ぼすものは、配備者から、意思決定手続におけるAIシステムの役割及び下された決定の主な要素に関する明確かつ有意義な説明を受ける権利を有する (86条1項)。
(注記)前文では「EU法および国内法はすでに、AIシステムの使用によって権利と自由が悪影響を受ける自然人および法人に対して、効果的な救済手段を提供している。これらの救済措置を損なうことなく、本規則の侵害があったと考える根拠を有する自然人または法人は、関連する市場監視当局に苦情を申し立てる権利を有するべきである」(前文170)とする。市場監視当局による効果的な事務執行にあたって、市場監視当局に対する苦情申し立ての権利を認める条文である。
また、86条は配備者に対して、権利侵害を受ける可能性のある者が説明を受ける権利を保証するものである。
(1) 欧州委員会は、94条(=汎用AI モデル提供者の権利)に基づく手続保障を考慮しつつ、Ⅴ章(51条~56条。汎用AIモデルに関する規定)を監督し執行する独占的権限を有する。欧州委員会は、条約に基づく欧州委員会の組織権限および加盟国と同盟国との間の権限分担を損なうことなく、これら(=Ⅴ章)の任務の実施をAIオフィスに委ねるものとする(88条1項)。
市場監視当局は、本規則に基づく任務の遂行を支援するために必要かつ適切な場合には、欧州委員会に対し、本項に定める権限の行使を要請することができる(同条2項)。
(注記)前文では汎用AIモデルの監視権限について「AIオフィスは、、規則(EU)2019/1020(市場調査と商品の規制遵守規則)の意味における市場監視当局の権限を有するべきである。それ以外の場合は、各国の市場監視当局が引き続きAIシステムの監督に責任を負う。ただし、高リスクに分類される少なくとも1つの目的のために提供者が直接使用できる汎用AIシステムについては、市場監視当局はAIオフィスと協力してコンプライアンス評価を実施し、理事会および他の市場監視当局に適宜報告すべきである。」(前文161)とする。すなわち、汎用AIモデルの監視権限はAIオフィスにあり、高リスクAIシステムである汎用AIモデルについては加盟国の市場監視当局とAIオフィスが共同で監視にあたり、理事会等へ報告することとされている。
(2) AIオフィスは、本条に基づき割り当てられた業務を遂行するため、承認された実践規範の遵守を含め、汎用AIモデルの提供者による本規則の効果的な実施及び遵守を監視するために必要な措置をとることができる(89条1項)。
(注記)前文では「中央集権化された欧州連合の専門知識と欧州連合レベルでのシナジーを最大限に活用するため、監督と規制の権限はEUに属する」とし、そしてAIオフィスは、「汎用AIモデルに関して、本規則の効果的な実施を監視するために必要なすべての行動を実施できるべきである。汎用AIモデルの提供者に関する規則違反の可能性については、監視活動の結果に基づき、または本規則に定める条件に従い、市場監視当局からの要請に基づき、AI事務局が自発的に調査できるようにすべきである」(前文162)とする。是正措置要求権限はAIオフィスが主導することが規定されている。
(3) 川下供給者は、本規則の侵害を主張する苦情を申し立てる権利を有する(同条2項)。
(注記)前文では「AIオフィスの効果的な監視を支援するため、汎用AIモデル・システムの提供者に対する規則違反の可能性について、川下の提供者(=汎用AIモデルを組み込んだAIシステムの提供者)が苦情を申し立てる可能性を規定すべきである」(前文162)とある。汎川下事業者から汎用AIモデルの提供者への苦情はAIオフィスの効率的運用に資するとされている。
(4) 科学パネルは、AIオフィスに対し、以下(図表13)のような疑いを抱く理由がある場合、適格な警告を行うことができる(90条1項。図表13)。
(5) 欧州委員会は、当該汎用AIモデルの提供者に対し、当該提供者が53条(技術文書)および55条(テスト結果を記した文書等)に従って作成した文書、または当該提供者が本規則を遵守しているかどうかを評価するために必要な追加情報の提供を求めることができる(91条1項)。汎用AIモデルの提供者又はその代理人は、要求された情報を提供しなければならない(91条5項)。
(注記)前文では 欧州委員会の権限を果たすAIオフィスが、「本規則に規定された汎用AIモデルの提供者に対する義務の効果的な実施と遵守を監視するために必要な措置をとることができるべきである」とし、さらに「汎用AIモデルの提供者に対する措置の要求だけでなく、文書や情報の要求、評価の実施など、本規則に規定された権限に従って、違反の可能性を調査することができるべきである」(前文164)とする。欧州委員会の汎用AIモデルの監視・是正権限を定めた条文である。
(2024年11月06日「基礎研レポート」)

03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
2025年4月 取締役保険研究部研究理事
2025年7月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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