2024年10月30日

訪日外国人消費の動向(2024年7-9月期)-9月時点で2023年超えの5.8兆円、2024年は8兆円も視野

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~2024年上期で3.9兆円、2024年は過去最高の2023年(5.3兆円)を大幅超過か

インバウンドの勢いはますます強まっている。前稿1では2024年4-6月期までの状況を確認したが、コロナ禍前の同時期と比べ、訪日外客数は約1割増加し、消費額は円安による割安感や国内の物価上昇によって1.7倍に増加した結果、四半期として初めて消費額が2兆円を越えた(2兆1,402億円)。2024年上期の合計消費額は3兆9,102億円となり、このペースでの増加が続けば、過去最高であった2023年(5兆3,065億円)を大きく上回る見通しが示された。

また、2024年4-6月期では訪日中国人観光客も回復基調にあり(外客数は韓国に次いで2位、コロナ禍前の75%程度まで回復)、国別消費額では首位に返り咲き、全体の約2割を占めていた(コロナ禍前の95%程度まで回復)。

本稿では、観光庁「インバウンド消費動向調査(2024年7-9月期)」を中心にインバウンド消費の現状を捉えていく。

2――訪日外客数

2――訪日外客数~2024年9月は287.2万人で2019年より26.4%増、7-9月期は首位に中国が復活

訪日外客2数は2022年後半から回復し始め、2023年10月以降はコロナ禍前を上回る勢いで増加傾向が続いている(図表1)。最新の統計である2024年9月には推計値で287万2,200人に達しており、これは2019年9月の227万2,883人と比較して+26.4%増加している(図表1)。
図表1 月別訪日外客数の推移
国籍・地域別に見ると、コロナ禍前の2019年7-9月期(778万4,206人)において、最も多かったのは中国(36.9%)で、次いで台湾(16.1%)、韓国(13.8%)、香港(7.2%)、米国(5.2%)が続き、東アジア諸国が全体の7割以上を占めていた(図表2)。
図表2 国籍・地域別訪日外客数
一方、新型コロナウイルス感染症が5類に引き下げられた後の2023年7-9月期(666万2,326人、2019年同期比▲112万1,880人、減少率▲14.4%)では、韓国(26.5%、同+12.7%pt)が最も多く、次いで台湾(18.1%、同+2.0%pt)、中国(15.1%、同▲21.8%pt)、香港(8.6%、同+1.4%pt)、米国(7.4%、同+2.2%pt)と続き、東アジア諸国で全体の7割弱を占めるが、中国の比率が大幅に低下する一方で、他の上位国の比率が伸びていた。

さらに、最新の2024年7-9月期(909万7,802人、2019年同期比+243万5,476人、増加率+16.9%)では、最多が中国(23.9%、同▲13.0%pt)に戻り、次いで韓国(22.3%、同+8.5%pt)で、台湾(17.7%、同+1.6%pt)、香港(7.6%、同+0.4%pt)、米国(6.8%、同+1.6%pt)と続き、中国の比率が改善したことで、再び東アジア諸国が全体の7割以上を占めるようになっている。

また、訪日外客数の上位国を中心に、2019年7-9月期に対する2024年同期の増減率を見ると、韓国は89.1%増加し、ほぼ2倍に達している。米国(+53.6%)や豪州(+43.3%)も約1.5倍、台湾(+27.9%)や香港(+23.6%)も約4分の1増加している。一方で中国からの訪日外客数は依然として2019年同期比で24.2%減少しており、大幅減の状態が続いているものの回復傾向にある(2019年同期と比べた増減率は2023年4-6月期▲80.9%→同年7-9月期▲65.0%→同年10-12月期▲62.3%→2024年1-3月期▲38.8%→同年4-6月期▲26.4%→同年7-9月期▲24.2%)。また、中国からの訪日客数の減少分(▲69万5,493人)は、韓国の増加分(+95万4,822人)で補って余りある状況にある。

2024年7-9月期の時点では、コロナ禍前の外客数を下回っている国もあるものの、いずれも2023年と比較すれば増加傾向にある。その背景には、前稿でも述べた通り、円安や他国と比べて低いインフレ率により、日本旅行の割安感が依然として続いていることが影響していると考えられる。
 
2 訪日外客とは、外国人正規入国者から日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のこと。駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は訪日外客に含まれる。

3――訪日外国人旅行消費額

3――訪日外国人旅行消費額~コロナ禍前の1.6倍超、円安効果で1人当たり消費額が2倍の国も

訪日外国人旅行消費額は、外客数と同様に2022年後半から回復し始め、2023年7-9月期以降はコロナ禍前を上回るようになり、2024年4-6月期に四半期で初めて2兆円を突破した(図表3)。最新の統計である2024年7-9月期は1兆9,480億円(一次速報)であり、2019年同期の1兆1,818億円と比べて64.8%増加している。また、この消費額の増加率(+64.8%)は訪日外客数の増加率(+16.9%)を大きく上回っており、このことから訪日客1人当たりの消費額が増加していることが分かる。
図表3 四半期別訪日外国人旅行消費額の推移
一般客31人当たりの消費額を見ると、2019年7-9月期では16万2,860円であったが、2023年同期には20万9,228円(2019年同期比+4万6,368円、増加率+28.5%)、2024年同期には22万3,195円(同+6万335円、増加率+37.0%)へと増加傾向にある。なお、2024年7-9月期の訪日客の平均宿泊日数は9.5日であり、2019年同期の10.4日と比べて約1泊減少しているため、1人・1泊当たりの消費額が増えていることが分かる。なお、2023年同期は10.6日で2019年同期と同様である。

1人・1泊当たりの消費額を見ると、2019年7-9月期は1万5,735円であったが、2023年同期には1万9,807円(2019年同期+4,072円、増加率+25.9%)、2024年同期には2万3,410円(同+7,675円、増加率+48.8%)へと増加傾向にあり、現在では2019年同期と比べて約1.5倍に膨らんでいる。

訪日客の消費額が増えている背景には、外客数の増加について述べた通り、円安および他国と比較した際の日本の低いインフレ率の影響が挙げられる。各国通貨の対米ドル為替レートの推移を見ると、2022 年以降、日本円や韓国ウォン、タイバーツは通貨安の傾向にある中、特に日本円の下落が顕著である(図表4)。一方、ユーロやオーストラリアドルなどは通貨高の傾向を示している。また、各国の消費者物価指数(CPI)を見ると、総じて上昇傾向にあるものの、2024 年5月時点で は日本のCPI上昇率は2019 年と比較して約7%にとどまる(図表5)。一方、豪州や欧米では20%前後の上昇が見られ、大きな差が生じている。
図表4 各国通貨の対米ドル為替レートの推移/図表5 各国の消費者物価指数の推移
国籍・地域別に見ると、2019年7-9月期の訪日外国人旅行消費額の内訳では、中国(41.6%)が圧倒的に多く、次いで台湾(11.5%)、韓国(7.9%)、香港(7.1%)、米国(6.7%)が続き、東アジア諸国が全体の約7割を占めていた(図表6)。
図表6 国籍・地域別訪日外国人旅行消費額
一方、2023年7-9月期では、中国(20.1%、2019年同期比▲21.5%pt)が最多であるものの、その割合は2019年同期と比較してほぼ半減している。これに次いで台湾(15.2%、同+3.7%pt)、韓国(13.9%、同+6.0%pt)、米国(10.5%、同+3.8%pt)、香港(9.6%、同+2.5%pt)が続いており、中国の比率の低下により東アジア諸国の割合は全体の6割を下回っているが、他の上位国の比率が伸びていた。

さらに、最新の2024年7-9月期では、中国(26.6%、同▲15.0%pt)が再び最多となり、次いで台湾(14.6%、同+3.1%pt)、韓国(11.7%、同+3.8%pt)、米国(9.57%、同+2.8%pt)、香港(8.6%、同+1.5%pt)と続き、中国の比率が改善したことで、再び東アジア諸国で6割を超える構成となっている。

また、消費額の上位国を中心に、2019年7-9月期に対する2024年同期の増減率を見ると、韓国(+145.2%)や米国(+135.1%)は約2.5倍、豪州(+118.3%)や台湾(109.6%)、香港(+98.9%)で約2倍に大幅に増加している。いずれも消費額の増減率が外客数の増減率をはるかに上回っており、各国で訪日客1人当たりの消費が増加していることが分かる。なお、中国からの訪日は回復途上にあるものの、2024年7-9月期には2019年同期を上回り、5.2%の増加を示している。

なお、各国籍・地域の訪日外客数と消費額の割合の関係を見ると、訪日外客数が多い国籍・地域ほど消費額が多い傾向が見受けられるが、宿泊日数や購買意欲の違いなどが影響しているようだ。宿泊日数に関しては、近隣のアジア諸国と比べて欧米からの旅行客は長い傾向がある。例えば、韓国は2024年7-9月期に訪日外客数は中国に次いで2位(全体の22.3%)であるものの、平均宿泊日数(全目的で4.1日、観光・レジャー目的で3.7日)は全体(同9.5日、同7.1日)と比較して半分弱と短いため、消費額は3位(全体の11.7%)にとどまっている。一方、米国からの訪日外客数は5位(全体の6.8%)であるが、平均宿泊日数(同12.8日、同10.9日)が比較的長いため、消費額の割合(9.5%)がやや高くなる傾向がある。

また、国籍・地域別に1人当たりの旅行支出額を見ると、2019年7-9月期ではフランスが最多(25万5,267円)で、次いでスペイン(22万1,568円)、豪州(21万8,474円)、イタリア(20万8,944円)、中国(20万3,576円)と20万円以上で続いた(図表略)。

一方、2024年7-9月期ではイタリア(40万275円、2019年同期+19万1,331円、増減率+91.6%)が最多で、スペイン(38万2,904円、同+16万1,336円、同+72.8%)、ロシア(35万1,620円、同+16万3,447円、同+86.9%)、フランス(33万3,857円、同+7万8,590円、同+30.8%)、英国(33万1,812円、同+15万4,204円、同+86.8%)、豪州(32万8,074円、同+10万9,600円、同+50.2%)、ドイツ(32万6,843円、同+13万6,976円、同+72.1%)、米国(30万2,087円、同+10万3,351円、同+52.0%)が30万円を超えており、2019年同期と比較して1.3~2倍に大幅に増えている(図表略)。
 
3 訪日外客からクルーズ客の人数(法務省の船舶観光上陸許可数に基づき観光庁推計)を除いたもの

(2024年10月30日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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