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金融システム、特に保険と年金基金のリスクと脆弱性に対する助言等の公表(欧州 2024秋)-EIOPA等の合同報告書の紹介

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――合同報告書の発行
今回は、特に地政学上の不確実性を中心に経済の不確実性は引き続き高く、各国監督当局、金融機関、市場参加者それぞれに対し継続的な警戒を呼びかけている。その中で特に、保険や年金基金に関する状況を紹介する。
1 Joint Committee Report on Risks and Vulnerabilities in the EU Financial System(August 2024)
https://www.eiopa.europa.eu/document/download/ad6dd665-9ac2-4f17-ba3b-ff1e522101ad_en?filename=Joint%20Committee%20Report%20on%20risks%20and%20vulnerabilities%20in%20the%20EU%20financial%20system%20-%20Autumn%202024.pdf
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2――経済環境の認識
3――保険・年金基金の現状
2023年の保険会社の収益性は保有ポートフォリオからのリターンが増加したため、改善した、インフレと金利上昇は資産価値や利息収入の増減により、保険会社に大きな影響を与えるが、平均して資産利回りが負債コストを超える超過利益率が上昇した。しかし将来的には欧州の保険会社のポートフォリオの利益率はマイナスになる可能性がある。特に不動産やプライベートクレジットを含むオルタナティブのエクスポージャーの高い保険会社は要注意であろう。保険会社の収益性は金利の変動によってもたらされる可能性も高いが、現在のところ、資産と負債のデュレーションギャップが縮小しているので、利下げ時の潜在的な悪影響は軽減されている状況にある。
SCR比率は、生命保険会社(中央値)243%、総合保険会社で225%と前年から改善し、損害保険会社215%と安定した水準を維持している。
2|年金基金の状況
年金セクターは引き続き堅調である。インフレの動きは地政学的な事象と金融政策の決定により、年金基金は充分な資金を保有する方向に資金配分されてきた。金利デリバティブに基づくデュレーションの不一致に対するヘッジプロセスを確実にするための流動性レベルは中段することなく機能している。年金による退職資金準備が充分でないこと(年金ギャップ)の動向に対する懸念は依然として高い。
年金基金の総資産の増加は主にポートフォリオ内の債券と株式の増加によってもたらされたものであるが負債の増加が資産の増加を上回り年金基金の財務、状況が若干悪化している。
4――今後の注視すべきリスクについての分析
今回の報告においては、銀行、保険、年金基金、証券すべての業態における、信用リスクの状況に特に焦点があてられている。2022年以降の金利上昇によって、借入コストあるいは債務返済コストが大幅に増加していることが背景にある。
このうち保険と年金基金についてみれば、負債に対応した資産運用の中で、信用リスクが財務健全性の重要な要素となっており、保険契約者への保険金等支払義務をはたすことや、支払能力の維持に直接影響をおよぼすものとなっている。保険会社と年金基金においては、債券投資に重点が置かれており、投資資産の半分以上が債券で、それに比べれば貸付は限定的(投資資産の数%)である。オルタナティブ資産にもかなりの資金配分を行なっており、これらは厳重に監視され続けている。
2|地政学リスク
地政学的な不安定性が、保険会社のリスク評価、保険料率算定、保険商品の提供(補償内容)に悪影響を与える可能性がある。経済状況を悪化させ、保険商品の需要を弱め、保険会社のソルベンシーと収益性に悪影響を及ぼし、収益性にもマイナスである。投資ポートフォリオの内容も悪化させる。
こうしたリスクはストレステストを通じても、回復力の評価も含め、定期的に評価されている。
3|サイバーリスクなど
サイバー攻撃は増加してきており、残念ながら成功したものも少なくない。方法も巧妙なものに進化している。またこれとは別にシステム運用会社による例えばアップデート処理の失敗などによるオペレーショナルリスクへの脆弱性も見えてきた。金融セクターの会社と監督者がリスク管理、インシデント報告、システムへの侵入テストの実施、監督者間の協力などあらゆる方策により、総合的な対処を行うべきである。さらにAIのような新しいテクノロジーの中でもたらされる課題を見つけ出し、準備しなければならない。
2024年7月に発生した、既に広く利用されているサイバーセキュリティ企業のソフトウェア更新の失敗により、世界的なIT混乱が引き起こされた事態でわかる通り、サイバーリスクあるいはその対応から生じる可能性のある業務と、金融安定性に関するリスクに、引き続き警戒する必要がある。
5――提言内容
・金融機関と各国監督当局は、高金利の継続が実態経済に及ぼす影響に引き続き備える必要がある。
・信用リスクについては、その顕在化の可能性が依然として懸念されるため、引き続き監視し、慎重に管理していく必要がある。これは、担保評価を慎重でかつ最新に保ちながら、適切な引当金方針を定め、その水準を維持する必要を特に強調するものである。
・金融機関は、短期的で多面的な予期せぬ課題の発生に対処するため、柔軟性と機動性を備え、適切な計画と対応プロセスを整備しておく必要がある。
・金融機関と監督当局は、インフレが金融商品開発に与える影響について、引き続き警戒する必要がある。
特に保険セクターで言えば、保険料の値上などはタイムリーに実施されなければならないし、保険金水準をうまくインフレとマッチさせることが望まれる。でなければ、顧客あるいは保険ビジネスに悪影響を与えることになる。インフレは基本的な要素として監督あるいは保険商品開発の際に考慮しておく必要がある。
また消費者がインフレと実質リターンを認識できるよう、保険会社や監督者が留意すべきである。このことは保険年金だけでなく、貯蓄や投資一般についていえることではある。
また年金基金においては、確定給付型においては、負債の監督とインフレとの連動を常に監視しておくのが重要であるし、確定拠出の場合、投資の最終パフォーマンスが退職時所得の減少に直結するなど、基金加入者にリスクがあることに留意する必要がある。
・金融機関と監督当局は、サイバーリスクから生じる可能性のある業務と金融安定性に関するリスクに引き続き警戒する必要がある。
6――おわりに
評価・対処といった点をみることができる。引き続き状況をみていくこととしたい。
(2024年10月25日「保険・年金フォーカス」)
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03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
安井 義浩のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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