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- 初公開された将来世代の男女別平均年金額
2024年09月04日
2024年7月に、5年ぶりとなる新しい公的年金の将来見通し(財政検証結果)が公表された。今回の将来見通しでは、これまで公表されてきた法定のモデル年金や所得代替率に加えて、厚生年金加入期間の変化を反映した将来世代の平均年金額や年金額の分布が、初めて公表された。年金額分布の推計は、将来の低年金者に対する懸念などから、社会保障審議会年金数理部会などの有識者が以前から要望していた。今回は、2020年の法改正時に、同部会の指摘に基づいて検討を求める附帯決議が参議院で行われたことを受けて、公表された。
これまで公表されてきた法定のモデル年金は、40年間保険料を納めた場合の基礎年金の2人分と、現役男子の平均的な給与や賞与で40年間厚生年金に加入した場合の厚生年金(報酬比例部分)の合計になっている。平易な例を挙げれば、夫が40年間平均的な賃金で正社員として働き、妻が40年間国民年金のみの加入者であるような同年齢の夫婦世帯が該当する。所得代替率は、各年の65歳のモデル年金の月額を、その時点の現役男子の平均的な手取り収入(年間の給与と賞与の1/12)で割った比率である。
所得代替率は2004年に法定される以前から給付水準の指標として使われてきたため、上記のように加入期間が40年に固定されている。しかし、近年は女性や高齢者を中心に就業率が上昇しており(図表1)、これに伴って厚生年金の加入期間も延びてきている。将来見通しにおいても独立行政法人 労働政策研究・研修機構が推計した将来の就業率を使っており、これを将来の年金額にも反映したのが、今回公表された平均年金額になる。加えて、男女別・世代別・年齢別の給与履歴も反映されている点で、個人にとってはモデル年金よりも有益な情報となる。
これまで公表されてきた法定のモデル年金は、40年間保険料を納めた場合の基礎年金の2人分と、現役男子の平均的な給与や賞与で40年間厚生年金に加入した場合の厚生年金(報酬比例部分)の合計になっている。平易な例を挙げれば、夫が40年間平均的な賃金で正社員として働き、妻が40年間国民年金のみの加入者であるような同年齢の夫婦世帯が該当する。所得代替率は、各年の65歳のモデル年金の月額を、その時点の現役男子の平均的な手取り収入(年間の給与と賞与の1/12)で割った比率である。
所得代替率は2004年に法定される以前から給付水準の指標として使われてきたため、上記のように加入期間が40年に固定されている。しかし、近年は女性や高齢者を中心に就業率が上昇しており(図表1)、これに伴って厚生年金の加入期間も延びてきている。将来見通しにおいても独立行政法人 労働政策研究・研修機構が推計した将来の就業率を使っており、これを将来の年金額にも反映したのが、今回公表された平均年金額になる。加えて、男女別・世代別・年齢別の給与履歴も反映されている点で、個人にとってはモデル年金よりも有益な情報となる。
「過去30年投影ケース」の男性の平均年金額を見ると(図表2左)、2024年度時点(現在65歳の世代)でモデル年金の夫分を下回る。この理由は、この世代の男性の厚生年金の平均加入期間が33.7年と、モデル年金の40年より短いことが主因だと考えられる。将来世代を見ると、2044年度(現在45歳の世代)までモデル年金の夫分と男性の平均の差が広がる。これは、モデル年金の夫分よりも厚生年金の平均加入期間が短い影響で、年金全体に占める基礎年金の割合がモデル年金の夫分よりも大きく、基礎年金のマクロ経済スライドが続く影響がモデル年金の夫分よりも大きく現れるためだと考えられる。また、現在55歳から45歳の世代は就職氷河期世代にあたるため、他の世代より現役時代の平均給与が低い可能性もある。しかし、2044年度以降は厚生年金加入期間が延びる影響などがマクロ経済スライドの影響に勝り、さらに2057年度以降はマクロ経済スライドの適用が停止するため、男性の平均年金額は上昇していく。
女性の平均年金額は、2024年度時点(現在65歳の世代)でモデル年金の妻分を上回る。この理由は、モデル年金の妻分は基礎年金のみであるのに対し、この世代の女性の厚生年金の平均加入期間が17.2年あるためである。将来世代を見ると、モデル年金の妻分が低下する一方で、女性の平均は上昇を続ける。モデル年金の妻分は2057年度までマクロ経済スライドの影響で低下するが、女性の平均は厚生年金加入期間が延びる影響などが大きく、マクロ経済スライドの影響に勝るためである。このような女性の厚生年金の平均加入期間が延びる影響は、平均年金額より保守的な見方である現役世代の賃金の伸びと比べた年金額の伸び率で見ても、多くの世代でプラスの効果をもたらす(図表2右)。
このように、厚生年金加入期間の進展はマクロ経済スライドによる年金の目減りを補い、平均的な女性においては年金の実質的な増加をもたらす。女性や高齢者の就業率が近年のペースを維持して上がっていくことを、期待したい。
女性の平均年金額は、2024年度時点(現在65歳の世代)でモデル年金の妻分を上回る。この理由は、モデル年金の妻分は基礎年金のみであるのに対し、この世代の女性の厚生年金の平均加入期間が17.2年あるためである。将来世代を見ると、モデル年金の妻分が低下する一方で、女性の平均は上昇を続ける。モデル年金の妻分は2057年度までマクロ経済スライドの影響で低下するが、女性の平均は厚生年金加入期間が延びる影響などが大きく、マクロ経済スライドの影響に勝るためである。このような女性の厚生年金の平均加入期間が延びる影響は、平均年金額より保守的な見方である現役世代の賃金の伸びと比べた年金額の伸び率で見ても、多くの世代でプラスの効果をもたらす(図表2右)。
このように、厚生年金加入期間の進展はマクロ経済スライドによる年金の目減りを補い、平均的な女性においては年金の実質的な増加をもたらす。女性や高齢者の就業率が近年のペースを維持して上がっていくことを、期待したい。
(2024年09月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
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