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子育て世帯の定額減税に対する意識-控除額の多い多子世帯で認知度高、使途は生活費の補填、貯蓄

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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岸田政権の少子化対策に「期待できる」「やや期待できる」と回答した層に対して、その理由を尋ねたところ(複数選択)、全体で最も多いのは「家計の負担軽減が期待できるから」(46.5%)であり、次いで「教育費の負担が軽減されるから」(32.5%)、「長期的に子育てが支援される安心感があるから」(30.5%)、「経済的に厳しい家庭でも子供を育てやすくなるから」(27.1%)、「子育てと仕事の両立がしやすくなるから」(22.1%)、「働く親にとって負担が減るから」(21.4%)、「所得制限がなくなり、すべての家庭が支援を受けられるから」(21.0%)までが2割台で続き、特に、経済的な支援策に対して期待が強い様子がうかがえるく(図表4)。
属性別に見ても、いずれも「家計の負担軽減が期待できるから」が首位であり、次いで「教育費の負担が軽減されるから」が続く。
男女を比べると、男性では「包括的な支援が社会全体の意識改革につながるから」(男性16.9%、女性11.5%、男性が女性より+5.4%pt)や「働く親にとって負担が減るから」(同23.4%、同19.2%、同+4.2%pt)が、女性では「経済的に厳しい家庭でも子供を育てやすくなるから」(同25.5%、同28.8%、女性が男性より+3.3%pt)や「働きやすい環境が整うことで、女性も働きやすくなるから」(同10.8%、同13.8%、同+3.0%pt)がやや高い傾向がある。
一方、若い年代ほど、「家庭と職場のサポートが増えることで、子育ての不安が解消されるから」や「子育てと仕事の両立がしやすくなるから」(20歳代でどちらも25.6%)が高い傾向がある。このほか20歳代では「長期的に子育てが支援される安心感があるから」(35.9%、全体より+5.4%pt)や「子育て支援の質が向上するから」(23.1%、同+11.4%pt)、「充実した支援が受けられるから」(15.4%、同+8.5%pt)、「長期的な政策の安定性が期待できるから」(12.8%、同+6.9%pt)、「配偶者も育児に参加しやすくなるから」(15.4%、同+5.7%pt)も高い。
つまり、年齢が高い方が少子化対策に対して経済面の負担軽減を評価する傾向が強いとともに、育休の取りやすさや女性の働きやすさを評価する傾向がある。この理由としては、50歳代などは教育費がかさむ時期であることに加えて、現在ほど仕事と家庭の両立環境が整っていない時期に育児をしてきた世代であることも影響しているのだろう。一方、若い世代の方が経済面というよりも環境面の支援等を評価する傾向が強く、子育ての不安解消や両立のしやすさ(配偶者もあわせて)、質の向上などを期待する様子が読み取れる。
子どもの人数別に見ると、全体的に3人以上で選択割合が高い項目が多いが、特に「家庭と職場のサポートが増えることで、子育ての不安が解消されるから」(21.2%、全体より+8.0%pt)と「配偶者も育児に参加しやすくなるから」(15.3%、同+5.6%pt)で高くなっている。
世帯年収別には、世帯年収が少ないほど「経済的に厳しい家庭でも子供を育てやすくなるから」や「家計の負担軽減が期待できるから」などの経済面に対する負担軽減策の選択割合が高い傾向がある。一方、世帯年収が多いほど「家庭と職場のサポートが増えることで、子育ての不安が解消されるから」や「包括的な支援が社会全体の意識改革につながるから」などが高い傾向がある。年代による違いで見られるほどではないが、世帯年収が少ない方が少子化対策に対して経済面の評価を、世帯年収が多い方が経済面というよりも環境面の支援による意識の変化を評価する傾向が強いようだ。
なお、「子育てと仕事の両立がしやすくなるから」(32.7%、全体より+10.6%pt)や「所得制限がなくなり、すべての家庭が支援を受けられるから」(29.7%、同+8.7%pt)、「職場での理解が進み、育児への取り組みが評価されるから」(16.8%、同+6.2%pt)など、世帯年収700~1,000万円未満を中心に選択割合が高まる項目も多い。この理由としては、当該層は、2人以上の未就学児を育てているなど子育てに比較的手のかかる層が多いために(当調査では、世帯年収700~1,000万円未満の層に占める長子が未就学児の割合は48.9%↔全体では51.0%、子どもの人数が2人以上は64.2%↔全体では58.0%)、特に両立環境のしやすさを評価する傾向が強いことが考えられる。
5――おわりに~一時的ではなく継続的な所得増が個人消費の改善、少子化抑制にもつながる
その結果、定額減税の実施については過半数が減税額まで認知しており、減税額までは知らない層をあわせると、認知度は7割を超えていた。なお、子どもの人数が多いほど、控除額が増えて家計へのインパクトが大きいためか認知度は高い傾向があった。また、日頃からの政策に対する期待感の高さを背景に、岸田政権の少子化対策に期待できると回答した層の認知度は約9割に上った。
定額減税によって増えた所得の使途については「特に考えていない」との回答が3割を超えて目立ったが、使途が決まっている場合には生活費の補填や貯蓄が上位にあがり、娯楽費よりも必需性の高い目的に充てられる傾向が見られた。また、子どもの人数が多いほど使途に対する意識が高い傾向があった。なお、世帯年収700万円以上の層でも生活費の補填が首位には上がったが、「レジャー」などの娯楽費が貯蓄の選択割合を上回ることが特徴的であった。
岸田政権の少子化対策については期待できるとの回答は約2割にとどまったが、多子世帯や高所得世帯で多い傾向があった。この理由としては、多子世帯は子育てに関わる経済支援策の拡充において恩恵が大きいこと、高所得世帯は所得制限が撤廃されることで対象に含められるようになることなどが考えられる。また、少子化対策に期待する理由の上位には家計や教育費の負担軽減といった経済支援策が上がったが、若い世代や多子世帯では子育てにおける不安解消や両立しやすさ(配偶者もあわせて)といった環境面の支援策を評価する傾向もあった。
6月に実施された定額減税は、「デフレ完全脱却のための環境面総合経済対策5」の一環として行われた。政府は、今年の春闘による賃上げが給与に反映される時期に定額減税の実施を重ねることで、国民が手取りの増加を実感し、それが消費活性化につながり、最終的にデフレからの完全脱却を目指すシナリオを描いている。実際に2024年6月の実質賃金は、賞与等を含む「現金給与総額」を見ると2年3カ月ぶりにプラスへと転じ(図表5)、定額減税と合わせて所得が増えた世帯も多いと見られる。
しかしながら、個人消費は依然として低迷しているが、この原因には、可処分所得の増加が一時的なもので、継続的なものと認識されていないことがあげられる。定額減税は一回限りの措置であり、実質賃金においては、主に基本給から成る「きまって支給する給与」が依然として前年を下回っている。裏を返すと、基本給が底上げされ、可処分所得の増加が継続的なものであるとの認識が広がれば、個人消費が改善へと向かう期待できる。加えて、将来を担う若者世代の所得が継続的に増え、経済基盤が安定化していくことは、これまでも述べてきたように6、少子化抑制といった構造的な課題の解決にもつながる。
5 内閣府「デフレ完全脱却のための総合経済対策~日本経済の新たなステージにむけて~(令和5年11月2日)」など。
6 久我尚子「求められる将来世代の経済基盤の安定化-非正規雇用が生む経済格差と家族形成格差」(2023/3/27)など。
(2024年08月30日「基礎研レポート」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/22 | 家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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2025/04/08 | 2025年の消費動向-節約一服、コスパ消費から推し活・こだわり消費の広がり | 久我 尚子 | 基礎研マンスリー |
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