2024年08月21日

訪日外国人消費の動向(2024年4-6月期)-円安効果で四半期で初の2兆円超え、2024年は8兆円台が視野に

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~2024年は過去最高の2023年(5兆3,065億円)を優に超える見込み

インバウンドの勢いが増している。前稿1では2024年1-3月までの状況を見たところ、訪日外国人旅行消費額は1兆7,505億円(1次速報値)で、2019年同期のおよそ1.5倍を示していた。単純に計算すれば2024年の消費額は7兆円にのぼり、過去最高値の2023年の5兆3,065億円を優に超える。円安による割安感から宿泊日数が伸び、日本国内の物価高の影響も相まって、1人当たりの消費額が増えていた。また、以前は圧倒的な存在感を示した訪日中国人観光客は回復途上だが(外客数は2019年同期の6割程度で韓国や台湾に次ぐ3位)、消費額は首位に返り咲き、全体の2割を占めていた。

本稿では、観光庁「訪日外国人消費動向調査(2024年4-6月期)」を中心にインバウンド消費の状況を捉える。

2――訪日外客数

2――訪日外客数~2024年6月は313.6万人で2019年より+1割、首位は韓国、中国は2位で改善傾向

訪日外客2数は2022年後半から回復し始め、2023年10月(251万6,623人、2019年同月比+0.8%)からコロナ禍前を超えて増加傾向が継続しており、統計の最新値である2024年6月では313万5,600人(推計値)にのぼる(2019年6月:288万41人と比べて+8.9%)(図表1)。

国籍・地域別に見ると、コロナ禍前の2019年4-6月(857万9,817人)で最も多いのは中国(27.5%)で、次いで韓国(20.8%)、台湾(15.0%)、香港(6.9%)までが5%以上で続き、東アジアが7割を占める(図表2)。一方、2024年4-6月(921万8,703人で2019年同期+63万8,886人、増減率+7.4%)で最多は韓国(22.8%、同+2.0%pt)で、次いで中国(18.9%、同▲8.6%pt)、台湾(16.3%、同+1.3%pt)、米国(8.4%、同+2.5%pt)、香港(7.1%、同+0.2%pt)までが5%以上で続き、東アジアが7割弱を占めるが、中国の比率が低下する一方、他の上位国の比率が伸びている。

また、訪日外客数の上位国を中心に2019年4-6月に対する2024年同期の増減率を見ると、米国(+53.6%)で外客数が1.5倍に増えているほか、韓国(+18.0%)や台湾(+16.2%)、香港(+10.1%)でも1割以上、増加している。
図表1 月別訪日外客数の推移
図表2 国籍・地域別訪日外客数
一方で中国(▲26.4%)は4分の1減と大幅に減っているが、この要因には、2023年8月に中国政府による規制(日本行きの海外旅行商品の販売中止措置、年収による観光ビザの発給制限等)は緩和されたが、その直後に東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が開始されたことに対して中国政府が反発したことに加えて、中国経済の低迷などがあげられる。ただし、中国人外客数は改善傾向にある(2019年同期と比べた増減率は2023年4-6月▲80.9%→同年7-9月▲65.0%→同年10-12月▲62.3%→2024年1-3月▲38.8%→同年4-6月▲26.4%)。なお、訪日中国人外客数の減少分(▲62万3,237人)を中国以外の東アジアと米国からの訪日外客数の増加分が上回っており(+85万9,925人)、中国人の減少は他の訪日上位国による増加で打ち消されている。

また、米国や豪州等の訪日外客数も増えているが、前稿でも述べた通り、円安による日本旅行に対する割安感が継続している影響と見られる。
 
2 訪日外客とは、外国人正規入国者から日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のこと。駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は訪日外客に含まれる。

3――訪日外国人旅行消費額

3――訪日外国人旅行消費額~コロナ禍前の1.7倍、円安効果で1人当たり消費額が2倍超の国も

訪日外国人旅行消費額は、外客数と同様に2022年後半から回復し始め、2023年7-9月以降はコロナ禍前を上回るようになり、2024年4-6月(2兆1,370億円:1次速報値)では四半期で初めて2兆円を越えている(2019年同期:1兆2,319億円に対して+68.6%)(図表3)。

ところで、この消費額の増減率(+68.6%)は訪日外客数の増減率(+7.4%)と比べて大幅に高いため、訪日客1人当たりの消費額が増えていることになる。一般客31人当たりの旅行支出額を見ると、2019年4-6月では平均15万4,967円だが、2024年同期では平均23万8,722円(2019年同期+8万3,755円、増減率+54.0%)へと大幅に増えている。

訪日客1人当たりの消費額の増加は、平均宿泊日数が若干増えた影響もあるが(2019年4-6月:8.0日、2024年同期:8.5日で+0.5日、増加率+6.3%)、何より1人・1日当たりの旅行支出額が1.5倍に増えたことが影響している(同:1万9,371円、同:2万8,085円で+8,714円、増減率+45.0%)。2019年6月末と2024年6月末を比べると、1米ドル107.79円から161.07円、1ユーロ122.49円から172.33円へと大きく円安が進行したことによる割安感から、宿泊料や買い物代などの消費額が増えたのだろう。また、国内の消費者物価上昇の影響もあげられる。総務省「消費者物価指数」によると、総合指数は2019年6月では99.8だったが2024年6月108.2(+8.4%)へと上昇している。
図表3 四半期別訪日外国人旅行消費額の推移
国籍・地域別に見ると、2019年4-6月で圧倒的に多いのは中国(36.7%)で、次いで台湾(11.2%)、韓国(9.7%)、米国(7.4%)、香港(7.1%)までが5%以上で続き、東アジアが7割弱を占める(図表4)。一方、2024年4-6月で最多は中国(20.7%、2019年同期▲16.0%pt)で、次いで米国(13.0%、同+5.6%pt)、台湾(12.3%、同+1.1%pt)、韓国(10.4%、同+0.7%pt)、香港(8.2%、同+1.1%pt)までが5%以上で続き、東アジアが約半数を占め、外客数と同様に中国の比率は低下する一方、他の上位国の比率が伸びている。ただし、外客数では中国は韓国、台湾に次ぐ3位であったが、消費額では首位を占める。

また、消費額の上位国を中心に2019年4-6月に対する2024年同期の増減率を見ると、米国(+194.6%)で約3倍、香港(+94.3%pt)や台湾(+86.6%pt)、韓国(+81.6%pt)で2倍前後に大幅に増えている。なお、いずれも消費額の増減率は外客数の増減率をはるかに上回って増加しているが、やはり1人当たりの旅行支出額や平均宿泊日数(台湾以外)が増えている。

一方で中国(▲16.0%)は減少しているが、外客数と同様に改善傾向にある(2019年同期と比べた増減率は2023年4-6月▲66.8%→同年7-9月▲43.8%→同年10-12月▲40.2%→2024年1-3月▲16.9%→同年4-6月16.0%)。

なお、各国籍・地域の全体に占める訪日外客数と消費額の割合の関係を見ると、訪日外客数が多い国籍・地域ほど消費額が多い傾向はあるが、宿泊日数や購買意欲の違いなどの影響が大きいようだ。
図表4 国籍・地域別訪日外国人旅行消費額
宿泊日数については、近隣のアジア諸国と比べて欧米からの旅行客は宿泊日数が長い傾向があるのだが、例えば、韓国は、2024年4-6月の訪日外客数は最多(全体の22.8%)だが、平均泊数(全目的で3.7日、観光・レジャー目的で3.4日)は全体(同8.5日、同7.4日)と比べて半分弱と短いため、消費額は4位(全体の10.4%)にとどまる。一方、米国の訪日外客数は4位(全体の8.4%)だが平均泊数(同12.4日、同10.5日)が比較的長いため、消費額に占める割合(13.0%)がやや高くなる。

また、国籍・地域別に1人当たりの旅行支出額を見ると、2019年4-6月で最多はフランス(24万2,437円)で、次いで英国(23万7,353円)、豪州(23万3,424円)、中国(22万4,174円)、スペイン(21万7,993円)、イタリア(20万7,203円)と20万円以上で続く(図表略)。

一方、2024年4-6月で最多はフランス(41万7,536円、2019年同期+17万5,099円、増減率+72.2%)で、次いで英国(41万6,647円、同+17万9,294円、同+75.5%)、豪州(39万9,862円、同+16万6,438円、同+71.3%)、イタリア(38万2,448円、同+17万5,245円、同+ 84.6%)、スペイン(36万1,187円、同+14万3,194円、+65.7%)、米国(36万1,117円、同+17万2,053円、同+91.0%)、カナダ(35万9,217円、同+17万1,242円、同+91.1%)、ドイツ(34万5,696円、同+14万6,936円、同+73.9%)、ロシア(34万4,393円、同+18万1,930円、同+112.0%)、シンガポール(32万3,781円、同+15万3,357円、同+90.0%)までが30万円を超えて続き、2019年同期と比べて各国とも2倍前後に大幅に増えている(図表略)。
 
3 訪日外客からクルーズ客の人数(法務省の船舶観光上陸許可数に基づき観光庁推計)を除いたもの

(2024年08月21日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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