2024年08月13日

いわゆる身元保証サービスとは何か(1)~高齢者等終身サポート事業者ガイドライン制定の背景~

社会研究部 取締役 部長 鈴木 寧

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1――はじめに

我が国では、急速な高齢化と核家族化の進展に伴い、高齢者の単独世帯が増加している。高齢者の単独世帯の増加にともない懸念されているのは、身寄りのない高齢者に対する支援の確保である。身寄りのない高齢者には、単に頼れる子ども、親戚など親族がいない人達だけではなく、何らかの事情があり、親族に頼れない人達も含まれる。

そのなかで、これら身寄りのない高齢者に対して、親族の代わりとして医療施設への入院時費用の連帯保証や日常生活支援を行う身元保証サービス事業者(以下、事業者)が増加している。一方で、事業者との契約については、契約内容が複雑で費用体系も明確でない、といったトラブルもかねてから指摘されている。そこで今年6月に政府は「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(以下、ガイドライン)を策定し、公表した。当ガイドラインでは、事業の特徴を踏まえて事業者が適正にサービスを提供し、利用者が安心して事業者を選択できる基準をチェックシートとともに示している。

本稿では、これら事業者が増加するなかで、ガイドラインが策定された背景とその内容について、2回にわけて紹介する。先ず第1回では、身元保証事業の概要とガイドラインが制定される背景について説明する。

2――身元保証サービス事業者増加の背景

2――身元保証サービス事業者増加の背景

1単身高齢者世帯の増加
国立社会保障・人口問題研究所の調査1によると、世帯主が65歳以上の単独の高齢者世帯は2020年の738万世帯(全世帯の13.2%)から2050年には1,084万世帯(同20.6%)にまで増え、およそ5世帯に1世帯が65歳以上の独居の高齢者世帯となることが予測されている(図表1)。
(図表1)65歳以上単独世帯数と65歳以上、75歳以上、85歳以上の単独世帯の一般世帯総数に対する割合
更に、75歳以上の後期高齢者数も着実に増加しており、75歳以上、85歳以上の単独高齢者世帯についても、それぞれ13.4%、5.3%へと増加する見込みであり、認知症の発症率が急激に上昇する80歳以降の独居高齢者が増加することは生活に支障をきたす高齢者の増加に直結する。未婚化と兄弟人数の減少による小家族化と高齢化の影響により、家族以外の人によるこれら独居高齢者の生活支援ニーズが高まっている。
 
1 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)-令和6年推計-」
2|身元保証サービスとは
わが国では、賃貸住宅の契約や就職の際など、様々な場面で身元保証人を求められることがある。医療機関に入院する際も、身元保証人がいないことにより入院を拒否されることはないが2、厚労省が平成29年に公表した調査研究報告書3によると、回答のあった医療機関の6割超が入院時に身元保証人等を求めていた。医療機関は、これら身元保証人に医療費の支払い、緊急時の連絡、死亡時の遺体・遺品引き取り等の役割を求めている。

つまり、身寄りのない単身高齢者が増加するなかで、家族の役割を果たす機能が求められ、これを代替するかたちで民間の事業者がサービス提供を行っている。
 
2 医師法第19条
3 「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」https://www.mhlw.go.jp/content/000734017.pdf

3――身元保証サービスに関するトラブルについて

3――身元保証サービスに関するトラブルについて

ところが、近年、事業者にまつわるサービスについて「契約内容がよくわからない」「思ったより高額な契約になった」4など、消費者トラブルが発生し、たびたび問題となっている。とりわけ、認知症等により判断能力の低下した高齢者にとっては、サービス範囲が多岐にわたる複雑な契約内容を理解するのが難しいことも原因だ。
 
4 独立行政法人国民生活センター「身元保証などの高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルにご注意」(2019年5月30日)https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20190530_1.html
1|日本ライフ協会の問題
身元保証サービスに関するトラブルのなかでも、2015年に起きた公益財団法人日本ライフ協会(以下、ライフ協会)の問題は記憶に新しい。

ライフ協会の事案を簡単に整理すると、同協会では高齢者や障がい者のための「みまもり家族」事業等を実施しており、(1)入院・福祉施設入居時の身元保証、(2)買い物の付添い等、日常生活の支援、(3)死亡後の知人への連絡、葬儀・納骨支援、等を行っていた。(3)については、利用者が予め支払った預託金を財源として提供を行うこととしていた。ところが、ライフ協会では、この預託金を流用し、約3億円の不足額が発生する事態に至った。そこで2016年1月に内閣府公益認定等委員会が預託金の保全と適正な運営確保に向けた勧告をライフ協会に行ったが、結果的に破綻した、というものだ。この事件の背景にあるのは、明らかにライフ協会内におけるガバナンス問題であるが、それに加えて、このような身元保証事業を監督する監督官庁が存在しない、ことも問題となった。
2|ライフ協会の問題を受けた政府の対応
以上のようなライフ協会等のトラブル増加を受けて、2017年1月に内閣府消費者委員会が消費者庁及び消費者委員会設置法に基づき、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)、厚生労働大臣及び国土交通大臣に対し、建議を行った。

建議では、少なくとも「身元保証サービス」又は「死後事務サービス」を提供するものを「身元保証等高齢者サポート事業」と定義し、(1)身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の取組み、(2)病院・福祉施設等への入院・入所における身元保証人等の適切な取扱い、(3)消費者への情報提供の充実、することを求めた。

この消費者委員会の建議を受けて、厚労省は2018年4月に「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」5を各都道府県の医療機関へ徹底、2018年8月には厚労省と消費者庁が「身元保証等高齢者サポートサービスの利用に関する啓発資料(ポイント集)」6を作成し、消費者に対して事業者選定時の注意点等の注意喚起を行っている。その後も、2019年5月には国民生活センターが「身元保証などの高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルにご注意」7、2019年6月には厚労省が「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」8を発出し、消費者への注意喚起や医療機関への指導を行ってきた。
 
5 厚労省「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」https://www.mhlw.go.jp/content/000516183.pdf
6 消費者庁、厚労省「身元保証等高齢者サポートサービスの利用に関する啓発資料(ポイント集)」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_018/pdf/caution_018_180905_0002.pdf
7 国民生活センター「身元保証などの高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルにご注意」https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20190530_1.html
8 厚労省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/000516181.pdf

(2024年08月13日「基礎研レター」)

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社会研究部   取締役 部長

鈴木 寧 (すずき やすし)

研究・専門分野
社会研究部統括

経歴
  • 【職歴】
    1988年 日本生命保険に入社
    日本生命にて国際保険部、米国日本生命(ニューヨーク支店、ロサンゼルス支店)、官公庁、外資系企業等の法人営業部門等を経て、2020年ニッセイ基礎研究所入社。
    2024年4月より現職

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