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キャプティブ保険会社の監督についての意見(欧州)-EIOPA意見の公表 主としてキャッシュプーリングについて
保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
1――はじめに
1 OPINION ON THE SUPERVISION OF CAPTIVE(RE)INSURANCE UNDERTAKINGS(2024.7.2 EIOPA)
https://www.eiopa.europa.eu/document/download/71e1ff0c-31d6-4226-b1de-80975299a86d_en?filename=EIOPA-BoS-24-176%20-%20Opinion%20on%20Supervision%20of%20Captives.pdf
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2――報告書の内容
キャプティブ保険会社やキャプティブ再保険会社(以下まとめてキャプティブと表記)の監督については、取り扱う事業の性質、規模、複雑さを反映して、監督に関する情報の簡略化など適切な方法によるべきこと(プロポーショナリティ)は、既にソルベンシー II 指令においても一部規定化されている。そうしたさらなる特殊な側面を考慮して監督を行うことへの期待と、プロポーショナリティの適用方法を検討する必要があることから、今般EIOPA はこの意見を発表することとした。EU内で監督の統合が必要となる一方で、各国監督当局がこの意見に基づいた規則を導入する際には、各国のキャプティブの事情を考慮する余地も必要と考えられている。
ソルベンシー IIは基本的に原則主義であり、その上でプロポーショナリティを考慮する。キャプティブのソルベンシー資本の算出方法など、既にいくつかの簡略化は認められており、さらに見直しが検討されている。今回のこの意見の目的は、
・特にグループ内取引、特にキャッシュプーリング(後述)に焦点を当てて、そうした見直しをサポートすること
・プルーデントパーソンルール(この業務に関わる専門家が、思慮深さをもって行動すべきという原則)を一貫して適用することの確認
・ガバナンス関連で、主要な機能のアウトソーシングに関連した留意点の指摘。(キャプティブが自社スタッフを雇用するのは、コスト面の負担が重過ぎるのが現状であり、代わりに、親会社や専門のキャプティブマネージャー会社に依頼することになる現状を受けたもの)
〇キャッシュプーリングの取扱いと、プルーデントパーソンルールの徹底について
今回焦点をあてる「キャッシュプーリング」というのは、効率的な現金マネジメントを行うために、グループ会社間で現金等(の流動性)を共有する取扱いのことを指している。グループ内で、資金余剰がある会社は、資金不足の会社から利子を受け取って資金を提供する。
キャッシュプーリングに期待される長所は、外部資金への依存を減らせることに加え、例えば、より高い金利での資金運用(現金余剰の場合)または資金調達コストの削減(現金不足の場合)である。他方、短所としては、例えば
・集中リスク、デフォルトリスク、他の参加者が破産した場合の流動性リスク
・アームスレングスルール(独立企業間原則)の金利を反映していない報酬を受け取るリスク
などが考えられる。実際、親会社の財務状況が悪化した場合には、キャプティブにそれが伝播する可能性がある。
こうした状況を踏まえて、各国監督当局が確認すべき点としては最初に挙げられるのは、
・キャプティブが、ソルベンシー IIで使用する貸借対照表の中でのキャッシュプーリングの取り扱いにおいて、ソルベンシー資本要件 (SCR)に関わる適切な計算をしているかどうか
次に、キャッシュプーリングにおける資産分類にはローンである場合と銀行預金である場合がある。
資産分類がローンである場合、スプレッドリスクと集中リスクを含む市場リスクを考慮する必要がある。(実態としては多くの場合、キャッシュプーリングの資産はローンに分類されているようだ。)
キャッシュプーリングの資産の分類がローンではなく、銀行現金として分類されるときは、取引相手のデフォルトリスクを考慮する必要がある。
この点に関しては、各国監督当局は、以下のことを確認すべき、とする。
・取引相手の信用格付けを正しく適用しているか。例えば、取引相手のデフォルトリスクを評価する場合、信用リスクのランクは「格付けなし」のものとすべきであり、親会社のものではない。
・キャプティブが、資産の可用性(換金、解約などの際の時間制限があるかといった特性)や、カウンターパーティの財政状態の(悪化)状況を考慮していること
また、キャッシュプーリングには、現実に銀行口座などの契約がある物理的なプーリングと、仮想的にグループ合算値などを計算するのみの名目上のプーリングの2つのケースがある。
この点については、物理的なキャッシュプーリングの場合、すべての銀行口座や契約が(法的に)実在するので、ソルベンシーIIにおける計算は先に挙げた資産区分の種類に応じて行えばよい。
名目上のキャッシュプーリングの場合、プールメンバー会社のキャッシュポジションを計算上統合するだけ(法的契約ではない)なので。経済的および法的実質的な位置づけがどうなっているかを詳しく検討する必要がある。
その他にプルーデントパーソンル-ルの徹底も含めて、以下のような事項を考慮する必要がある。
〇収益性:マクロ経済下におけるキャッシュプーリングの状況を考慮する収益性の評価。グループの集中管理システムを有効に活用することで、グループメンバーの会社は、より高い金利を得ることが期待される。
〇資産・負債管理: キャッシュプーリングのルールを考慮した、デュレーションマッチングとキャッシュフローマッチングの評価
〇利益相反: そもそも、こうした取り扱いにより、保険契約者の最善の利益が確保されているかどうかの評価
〇ポートフォリオの分散:資産タイプ、取引相手とそのエクスポージャー、通貨、国、セクターなどの多様化を評価した結果、ポートフォリオの分散の程度が適切であること。
〇情報提供 資産分類(例:預金や現金、あるいは企業間ローンを生み出す現金プール)の詳細な情報とその法的根拠などを提供できているか、またキャッシュプーリングに関わる既存の協定の重要な修正があれば、遅滞なく各国監督当局に提出されていること
〇重要な機能のアウトソーシング
先に触れたように、キャプティブの機能のために大規模な組織を充てることはコストの面で問題があるので、アウトソーシング等は合理的な選択肢ではある、とする。しかしこの場合には、全体的責任を明確にするために、グループ内の関連事項に関して十分な知識と経験を有する担当者が、適格かつ適正に任命され、委託関係を明確にしておく必要がある。
3――おわりに
わが国でもリスク管理上のキャプティブの需要は増大するかもしれないが、法的規制が異なるために全面的には採用できないとしても、基本的な動向は、参考になる点が今後でてくる可能性がある。
(2024年08月09日「基礎研レター」)
03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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