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2023年度 生命保険会社決算の概要(全社集計確報と、トピックス追加版)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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これらの表の中の「基礎利回り」とは、基礎利益のうち、資産運用損益が貢献する部分の利回り換算であり、主に債券利息や株式配当金などの収入からなる(ヘッジコストもここで控除する算出ルールとなっている。)。これを、契約者に保証している利率(予定利率)と比べて、上回る場合に利差益と呼び、下回る場合は利差損といってもいいが、一般には逆ざやと呼ぶ。
2012年度まで逆ざやであったものが、2013年度から利差益に回復し、2023年度は7,269億円へと増加した(なお、一部の会社ではまだ逆ざや)。
多くの会社で円安の恩恵をうけるなどして、利息配当金収入は増加したが、ヘッジコストが高止まりしているようで、基礎利回りはむしろ低下している。
運用資産の中核である国内債券に関しては、金利がこのまま徐々にでも上がってくれば、負債に適した投資対象として復活してくるので、今後期待が持てるところだろう。
その一方で、新型コロナ禍からの経済環境の回復もあって、株式配当金や投資信託の分配金などの増加は、基礎利回りを支える有力な収入となっていると推測される。
一方、「平均予定利率」は、過去に契約した高予定利率契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、そこに向けて、より緩やかになってはいるが、今後も低下傾向は続くだろう。
基礎利益の動向は、危険差益や費差益では大幅な好転が見込めない中、利差益の増加に依存しているのがここ数年の現状だが、経済環境に大きく左右されることもあり、将来にむけて楽観はできない。2024年度の予想としては、危険差も、利差も減少ないし横ばいとしている会社が多い。
基礎利益(①)は大幅に増加、キャピタル損益(②+③)は合計で減少し、その合計で21,478億円と対前年度+3,651億円の増加となった。また、「⑧その他」のほとんどを占めるのが、追加責任準備金の繰入額であり、9社中8社が、個人年金や終身保険など貯蓄性の高い商品を対象として繰入を行なっている。
これは逆ざや負担に備えるため、予定利率よりも低い評価利率を用いて責任準備金を高めに評価したことによる差額積み増し分である。これが平均予定利率を下げる効果を発揮し、逆ざや解消の早期化に貢献してきた。
危険準備金や価格変動準備金の繰入・戻入は、基本的には保険業法に基づく統一の積立ルールに沿っているとはいえ、そのルールの範囲内での政策的な積み増しの判断の余地はある。それを見るため、これらを繰入・戻入する前のベースに修正した「当期利益」(表中(A))は前年度より+4,497億円増加して15,853億円となっている。同じく政策要素の強い追加責任準備金を積み立てる前の状態に、さらに戻せば、18,875億円(A')と前年度より+3,208億円増加している。
さてこうした利益の使途であるが、上記の危険準備金、価格変動準備金などの合計である内部留保は増加している(内部留保の増加(B))。これに、追加責任準備金繰入を加算した実質的な内部留保の増加額(B’)は12,492億円と、これも前年度より+2,253億円増加している。
一方、配当であるが、6,382億円が還元(株式会社の契約者配当を含む)されることとなり、対前年955億円増加している。
このような見方をすれば、2023年度は「実質的な利益」の66%が内部留保に、残り34%が契約者への配当にまわっているとみることができ、利益が増加した分、引き続き内部留保の充実も着実に行われている一方で、配当も増加し例年並みには配当へも配分されている。(なお、ここで算出した「内部留保」からは、いずれ株主配当も支出されることも、剰余の使い方として区別する必要があろうが、持ち株会社形態の場合どう評価するかなどの考慮が必要なので、こうした表においては無視した。)
2023年度は、また当期利益の使途でもふれたように、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)が増加した。さらにそれ以上にその他有価証券の含み益が大きく増加したことで、マージン(=分子)は増加した。
一方、リスク(=分母)の方では、資産運用リスクが増加している(さらなる詳細は不明だが、有価証券の時価上昇によるリスク対象資産額の増加によるものか)。こうしてマージンとリスクがともに増加して、ソルベンシー・マージン比率は、ほぼ横ばいで高水準を維持している。
これまで現行方式によるソルベンシー・マージン比率の内訳をみることにより、保有リスクとそれに対する準備金等の対応状況は、ある程度窺い知ることができていたが、前回2022年度の決算発表から、経済価値ベースのソルベンシー指標(ESR :Economic Solvency Ratio)を、大手4社グループなど一部の会社が開示し始めている。
これは新たな算出方法(例えば資産、負債とも経済価値、いわば時価ベースで評価するなど)による、会社のリスク量に対する自己資本の率である。開示された大手社の数値はおよそ200%~250%程度で前年度から大きな変動はみられない。全社が開示するのは2025年度とされている。
かんぽ生命の資産運用は、有価証券については、国債・地方債・社債がほとんどを占めており、中でも国債の構成比が有価証券全体の76%となっている(前年度は74%)。株式への投資は、もともとほぼゼロであったものが、近年構成比を高めているが、まだ小さい。こうした点は、他の伝統的な大手中堅生保とは異なっており、安全性を重視した運用ポートフォリオとなっている(一方、9社計では、有価証券中の国債の構成比は近年40%程度)。
そうしたこともあり、基礎利回りが低い反面、ソルベンシー・マージン比率については、2021年度は1,016.80%と若干上昇し、高水準である(前年度は1,003.7%)。こうした高水準は、リスク性資産の構成割合が従来から低いことに加え、内部留保が厚いことに起因する。例えば、民営化前の旧簡易保険契約(貯金・簡易生命保険管理機構からかんぽ生命が受再している形態)を含め約1.7兆円の危険準備金を保有している。かんぽ生命を除く民間生保約40社の合計額が、ここ数年増加してきてはいても6.0兆円程度であることからも、水準の厚さがうかがえる。また逆ざやに備えるための追加責任準備金が累計で4.9兆円と、引き続き厚い水準にある。
(2024年07月30日「基礎研レポート」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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