2021年09月07日

2020年度 生命保険会社決算の概要

基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.294]

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1―保険業績(全社)

全生命保険会社の2020年度決算が6月中に発表された。全社合計では、年換算保険料ベースで新契約は▲17.8%減少、保有契約は▲1.3%減少となった。これらを、伝統的生保(16社)、外資系生保(13社)、損保系生保(4社)、異業種系生保等(8社)、かんぽ生命に分類し、業績を概観した。[図表1]
主要業績
基礎利益は、全体では5.5%増加した。基礎利益が増加したのは42社中24社である。
 
新契約年換算保険料[図表2]は、41社(かんぽ生命を除く)合計で、個人保険は対前年▲6.9%減少し、個人年金は、▲33.5%減少となった。2019年度に引き続き、主に外貨建保険の販売減少によるものと考えられる。
新契約年換算保険料の状況

2―大手中堅9社の収支状況

まず、2020年度までの資産運用環境は、図表3の通りである。
運用環境
こうした状況を反映して、国内大手中堅9社の有価証券含み益は、国内債券で▲2.6兆円減少、国内株式で6.0 兆円増加、外国証券含み益は、債券で減少、株式で増加し、合計1.0兆円増加した。有価証券合計では4.7兆円の増加となった。[図表4]
有価証券含み損益
1|基礎利益は微増
そうした中、2020年度の基礎利益は23,623億円、対前年度0.4%の微増と基礎研レポートなった。[図表5]
基礎利益の状況
うち、危険差益・費差益等の保険関係収支は、15,582億円、▲1.5%の減少となった。
 
2|利差益は、逆ざや解消以降最高水準を、引き続き更新
利差益について、図表6に示した。
利差益状況の推移
多くの会社で利息配当金収入が減少したため、「基礎利回り」は低下した。国内債券に関しては、ゼロ近くの金利が続いているので、保有年限にもよるが、利回りは低下傾向にあり、利息収入に引き続き悪影響をもたらすことになるだろう。今回はそれに加えて、新型コロナ感染拡大などによる経済環境の悪化などもあって、株式配当金も増加していないと推定される。こうした中、外債利息や投信分配金の増加などが、利回り低下を補っているのが現状であろう。
 
一方、「平均予定利率」は、過去に契約した高予定利率契約の減少により、毎年緩やかに低下し続けている。現在、新規契約は予定利率1%未満のものが主流であることから、より緩やかにはなるとしても、低下傾向は続くだろう。
 
以上の結果、利差益は、ほぼゼロ金利の状況にあっても、2020年度も逆ざや解消後最高水準を更新し、8,041億円、4.3%の増加となった。基礎利益の動向は、危険差益や費差益の大幅な好転が見込めない中、利差益の増加に依存している現状だが、経済環境に大きく左右されることもあり、将来にむけて楽観はできない。
 
3|当期利益は実質増加~内部留保重視、配当も安定的な水準
基礎利益はほぼ横ばい、キャピタル損益は大きく増加し、その合計額は25,901億円と対前年度6,337億円の増加となった。危険準備金、価格変動準備金、追加責任準備金などの調整を行った実質的な利益は、23,538億円と前年度から大幅に増加した。[図表7]
当期利益とその使途
2020年度は、実質的に、利益の72%が内部留保に、残り28%が契約者への配当にされているとみることができ、例年より内部留保の割合が少し高いとはいえ、比較的安定している。
 
配当については、9社中3社が、危険差益関係で引き上げた。一方利差益関係では1社が引き下げており、運用環境の先行き不安を反映している。一方で、内部留保の貢献度に応じた配当、あるいは団体保険における健康経営配当など、独自の配当が新設される動きもあった。
 
4|ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持
ソルベンシー・マージン比率(9社合計)は998.4%とほぼ横ばいであり、引き続き高水準にある。[図表8]
ソルベンシーマージン比率
2020年度は、資産運用リスクが大幅な増加に転じた。国内株式の時価上昇によるリスク対象資産額の増加や、外貨建資産の増加(後述のトピックス2参照)によるものと思われるが、マージンの方も、その他有価証券含み益の増加や、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)が引き続き増加して、リスクの増加をほぼ相殺している。

3―トピックス

1|新型コロナウィルス感染拡大の影響
生命保険では、まず新型コロナウィルス感染症で亡くなったケースでは死亡保険金が支払われる。しかもこれは「災害」に該当するとされ、もし「災害割増特約」といった割増支払いの保険に加入していた場合には、上乗せの保険金が支払われることになる。
 
今般の新型コロナウィルス感染症は、当初は規定がなかったため、災害割増の対象となっていなかったが、感染拡大にあわせて支払対象とするように各社の取扱いが拡大されてきた。
 
また、入院した場合に給付金が支払われるのは、従来通りだが、その他にも、自宅または病院と同等とみなされる施設(ホテルなど)での治療も、入院給付金支払の対象とされた。
 
こうして、保険金・給付金の支払い対象を急遽拡大して、契約者への便宜を図ったきたわけが、2020年度決算では軽微な影響に留まっている。国内大手社であれば、通常時でも数千億円の保険金・給付金支払いがある中で、新型コロナウィルス感染症関係の支払いは数億~数十億円と1%にも満たない規模であり、生命保険会社の収支状況をすぐに悪化させるほどではなかった。
 
ただし、2021年夏以降の感染者数の再拡大、特に自宅療養者の急増により、入院給付金の支払が増加してきている。そのため、今後の収支への影響を注視しておく必要がある。
 
2|外貨建資産の動向
2020年度においても、外貨建資産は金額、構成比とも伸びた。[図表9]
 
保険販売業績としては、外貨建保険販売は好調ではなかったものの、低金利などの状況下における、より高い収益性を求める意図で、外貨建資産に重点的に投資したことが推察される。
 
外貨建て資産の金額と構成比
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年09月07日「基礎研マンスリー」)

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