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保険会社の破綻処理案に対する業界の反応(欧州)-欧州保険協会が、基本的には賛成しつつ、意見表明

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――保険会社の再生と破綻処理案について
EUにおける立法者である欧州理事会と議会は、2023 年 12 月、保険会社の再生と破綻処理指令(IRRD)の暫定合意に達した。保険業界は基本的にはこれを歓迎しているが、その中で例えば欧州保険協会(Insurance Europe(IE))は、既に現行の規制やセーフガードがあるのに、さらにこのような広範な規制を導入する必要性について疑問視している、という懸念も示されている。
そうした点につき、以下で、欧州保険協会の挙げるそうした懸念点を中心に紹介する。これは2024年4月22日に公表されたもの1である。
1 Insurance Recovery & Resolution Directive(IRRD) - development of Technical Standards and Guidelines (Insurance Europe 2024.4.22) https://insuranceeurope.eu/mediaitem/5d4c2685-55c5-45e8-899f-bfce8da9ec2d/Insurance%20Recovery%20&%20Resolution%20Directive%20(IRRD)%20%E2%80%94%20development%20of%20Technical%20Standards%20and%20Guidelines.pdf
2――欧州保険協会の指摘する懸念点
IRRD 開発の次の段階は、具体的な技術基準とガイドラインの作成である。
この具体的な技術基準やガイドラインには、重要な機能の定義や、再生・破綻処理計画を予め策定しておく必要のある対象会社は具体的にどのような条件を満たす保険会社なのかなど、フレームワークの基本的な側面に関する重要な情報が含まれることになる。
この中で、EIOPA(欧州保険・企業年金監督機構)の役割は、具体的な技術基準やガイドラインを作成して、欧州委員会に提出し、その適用スケジュールを設定することにある。
これに対して、欧州保険協会は、EIOPA および 欧州委員会と協力して、これらの具体的な規則の開発に取り組もうとはしている。しかし現段階では、「欧州委員会等の関係者がこれらの規則案を最終決定し、各国の管轄区域で IRRD を実施するためのスケジュールには明確さが欠けている」としている。
技術基準とガイドライン開発の初期段階において、欧州保険協会は、以下の点を重視している。
・技術的手段の開発のための明確で包括的なスケジュールを確立すること
・利害関係者が相談に応じるために十分な時間を提供すること
欧州保険協会は、IRRD の実施と EIOPA の権限行使の期間に予定されるスケジュールの厳しさを懸念している。できれば規則の適用日等は延期されるべきであるとしている。それが不可能な場合でも、「指令の実施に影響を与えるガイドラインや技術標準の策定が、(スケジュールが厳しくならざるをえないほど)いかに重要なものか。従って日程が厳しいのはやむを得ないことなのだ」ということを明らかにするべきである。としている。
加盟国は、指令がEU官報に発表されてから 24 か月後にこの指令を施行する。しかしEIOPA が作成する規則のいくつかは、指令の発表後 24 か月または 30 か月後に発表される必要がある。なかでも技術基準のうち最も早く必要になるものは、指令の発行から 18 か月以内に開発する必要があり、仮に欧州委員会が規則を承認しないか、修正が必要なことになった場合は、早くもスケジュールに無理が生じる懸念がある。
技術的基準の記載文書には、重要な機能の定義や、ケースによっては簡素化できる義務の資格の有無など、IRRD の重要な部分の詳細を定める。上で取り上げたスケジュールの立て込みによって、これらの重要な詳細が、適用時点に集中して(ほぼ同時に)最終決定されるような厳しいスケジュールとなる。
EIOPAは、欧州システミックリスク理事会(ESRB)と部分的に協力して、シナリオの範囲と事前の再生計画で考慮すべき定性的・定量的指標を指定するためのガイドラインを発行することになっている。影響を受ける保険会社は、こうした指標に沿って、予防的再生計画を準備し、シナリオに基づいてシミュレーション等を実施し、監視プロセスを実行するための情報を提出することが必要である。
重要な機能は、指令の主要な定義の 1 つである。現時点では、重要な機能がどのように定義されるべきかについてのコンセンサスはない。EU内には、同様の法律が既に制定されている国もあるが、重要な機能の定義にあたっては、異なるアプローチがありうる(例えばフランスとオランダとでは異なる、など)。重要な機能にはおおよそ以下のようなものを決める必要があると考えられる。
・破綻処理計画と事前再生計画の範囲
・破綻処理計画の内容で特に考慮すべき要素
・代替措置の適用の中で考慮すべき点
・破綻処理目標
・破綻処理ツールの適用が制限される可能性
これらの基準により、事前の再生・破綻処理計画の内容を定義する必要がある。つまり、計画を作成および修正する際の、保険会社と各国保険監督当局による作業負荷は、これらの規則に従うことによっておそらく増加するだろう。保険会社と各国保険監督当局は、人的リソースと ITリソースを適切に割り当てるために、作業負荷に関わる情報を事前に把握しておく必要がある。
場合によっては簡素化されるような規定・義務は、必要とする計画や各国保険監督当局から要求される情報量を削減または簡素化するものであり、これにより、規定に基づく取り組みの負担を大幅に軽減できる可能性がある。
従ってその適用条件については、早急に条件・範囲を定めることにより、結果として簡素化される保険会社までもが事前準備に大きな作業負荷をかけることのないようにすべきである。
EIOPAは、破綻処理計画に記載された情報の提供とその内容の特定のため、手順および標準フォームおよびテンプレートに関して、必要最小限のセットを指定するための技術標準を作成することになっている。これについても、影響を受ける保険会社と 国の保険監督者は、人的リソースと IT リソースを確保するために、事前にこの情報を入手しておく必要がある。
IRRD の影響を受ける保険会社の多くは、事前の再生計画の策定も含め、新しい IRRD 要件に関する経験が全くないのが普通である。したがって、これらの保険会社は、新しい規制に対応するのに十分な時間を必要とする。その間に研修スタッフによる研修や適切なリソースの割り当てを行う必要がある。同様に、新たに規則を創設する予定のそれぞれの国の破綻処理当局も、リソース、研修スタッフなどの体制を整備するのに時間がかかるだろう。
準備段階では、対象となるすべての保険会社がフィードバックを提供する時間と能力を確保するために、詳細な協議文書、広範な業界の関与、および適切な協議スケジュールが必要となる。また、最終的な技術基準とガイドラインは簡潔で理解しやすいものでなければならない。
欧州の規制当局がこれらの問題に対処しない場合、企業と国の監督者両方の作業負荷が無駄に増加するという重大なリスクが生じ、ひいては、指令を実施する際の計画作業やリソース割り当てにおいて、潜在的な非効率性や重複を引き起こす可能性がある。
3――おわりに
EU全体で規則ができてしまうと、特に「事前の再生計画」というのは、現時点で破綻の兆候がなくとも平時から早速作成する必要があり、ここには「喫緊でない大きな負荷」がすぐにでも発生することになり、それは相当程度困難であるということを感じとっているということだろうか。
(2024年07月12日「基礎研レター」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
安井 義浩のレポート
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