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2024年07月02日
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1――はじめに
2024年6月6日と7日の2日間にわたり、イタリアのローマで欧州アクチュアリー会議(ECA2024)が欧州アクチュアリー会(AAE)とイタリア・アクチュアリー会(ISOA)によって開催された。欧州アクチュアリー会議は今回で5回目の開催であり、ECA2022以降2 年ぶりの開催となった。
当会議では、4つの全体セッションの他、幅広いアクチュアリーに関するトピックを扱う35の個別セッションが行われた。
当会議では、4つの全体セッションの他、幅広いアクチュアリーに関するトピックを扱う35の個別セッションが行われた。
この分類を見ると、数理モデルに関するものが最も多いが、プログラム名に数理モデルを扱っているような記載があれば分野に関わらず「数理モデル」に含めたこと、また確率・統計を専門としているアクチュアリーの性質を考えると自然な結果と考えられる。
個別のテーマの中でセッション数が多く見受けられたのは「AI・データサイエンス関係」と「サイバー・リスク関係」であった。特に「サイバー・リスク関係」に関するセッションが前回に比べて増加していた。AIの機運が高まりアナログから離れれば離れるほど、サイバー・リスクの脅威が高まっていくということかもしれない。
また、「商品関係」も増加してはいるが、高インフレという現代の課題に着目したセッションや、継続的に深刻な課題である「高齢化問題」を企図したのか「年金」をテーマにしたセッションの増加が散見された。ただしカバー範囲の広いテーマであるため、具体的な要因があっての増加かは定かではない(前回が少なかったという見方もある)。
「その他」が減少している点に関しては、COVID-19に関するセッションを「その他」に含めたため、COVID-19の落ち着きが反映されたものと言えるだろう。
1 筆者による分類であり、複数分野にまたがるものは重複してカウントしている。
2 括弧内は前回のセッション数
個別のテーマの中でセッション数が多く見受けられたのは「AI・データサイエンス関係」と「サイバー・リスク関係」であった。特に「サイバー・リスク関係」に関するセッションが前回に比べて増加していた。AIの機運が高まりアナログから離れれば離れるほど、サイバー・リスクの脅威が高まっていくということかもしれない。
また、「商品関係」も増加してはいるが、高インフレという現代の課題に着目したセッションや、継続的に深刻な課題である「高齢化問題」を企図したのか「年金」をテーマにしたセッションの増加が散見された。ただしカバー範囲の広いテーマであるため、具体的な要因があっての増加かは定かではない(前回が少なかったという見方もある)。
「その他」が減少している点に関しては、COVID-19に関するセッションを「その他」に含めたため、COVID-19の落ち着きが反映されたものと言えるだろう。
1 筆者による分類であり、複数分野にまたがるものは重複してカウントしている。
2 括弧内は前回のセッション数
3――欧州ならではのセッション
次のようなセッションもあった。日本国内では一般に男女別の保険料率が適用されているが、EU諸国内ではEU司法裁判所の判決により2012年12月21日以降の契約において、保険料に性別を理由とした格差を設けることが禁止されている。いわゆる「男女同一保険料」が義務付けられている。
男女の死亡率・生存率に統計的な差が認められる中で保険料を同一とすることは、(死亡率が相対的に高い)男性は死亡保険に保険料率的なメリットを感じて加入し、逆に(死亡率が相対的に低い)女性は保険料率的に相対的なデメリットを感じる死亡保険を避けて年金保険にばかり加入するという、いわゆる「逆選択」が生じてしまう懸念が保険数理上はある。
11年経過した今、上記の懸念が思い過ごしであったのかどうか、保険種類ごとの加入割合がどのような状況になっているのか、さらには男女同一保険料の導入は正解だったのかなどを今日的視点で振り返る、というセッションだ。
当セッションを取り上げたネット記事3によれば、過去20年間で性別における保険加入の割合に大きな影響はなかったということだ。統計的な発生率と保険料率に優位な差異があっても、それだけで逆選択が起きるとは限らないという点が興味深い。
また、今日的視点という意味では、ジェンダーの定義の複雑さは年々増していると言っていいだろう。男か女かの二元論での在り方は遅かれ早かれ疑問符を呈されていたと考えれば、10年以上も前に先んじて「男女同一保険料」に踏み切ったことで、現在ジェンダーに関する問題に直面していないことを「幸運だったのかもしれない」と評価・表現している。
上記のほかにもAIをアクチュアリーがどのように活用していくか、AIの活用方法を模索しているセッションが目を引いた。AIの活用はアクチュアリーにとって必須のものとなっていくのかもしれない。
3 https://www.insuranceerm.com/news-comment/eca-2024-unisex-pricing-rules-were-lucky-in-hindsight.html
男女の死亡率・生存率に統計的な差が認められる中で保険料を同一とすることは、(死亡率が相対的に高い)男性は死亡保険に保険料率的なメリットを感じて加入し、逆に(死亡率が相対的に低い)女性は保険料率的に相対的なデメリットを感じる死亡保険を避けて年金保険にばかり加入するという、いわゆる「逆選択」が生じてしまう懸念が保険数理上はある。
11年経過した今、上記の懸念が思い過ごしであったのかどうか、保険種類ごとの加入割合がどのような状況になっているのか、さらには男女同一保険料の導入は正解だったのかなどを今日的視点で振り返る、というセッションだ。
当セッションを取り上げたネット記事3によれば、過去20年間で性別における保険加入の割合に大きな影響はなかったということだ。統計的な発生率と保険料率に優位な差異があっても、それだけで逆選択が起きるとは限らないという点が興味深い。
また、今日的視点という意味では、ジェンダーの定義の複雑さは年々増していると言っていいだろう。男か女かの二元論での在り方は遅かれ早かれ疑問符を呈されていたと考えれば、10年以上も前に先んじて「男女同一保険料」に踏み切ったことで、現在ジェンダーに関する問題に直面していないことを「幸運だったのかもしれない」と評価・表現している。
上記のほかにもAIをアクチュアリーがどのように活用していくか、AIの活用方法を模索しているセッションが目を引いた。AIの活用はアクチュアリーにとって必須のものとなっていくのかもしれない。
3 https://www.insuranceerm.com/news-comment/eca-2024-unisex-pricing-rules-were-lucky-in-hindsight.html
4――おわりに
欧州の話からは逸れるが、来る2026年11月8日から13日の6日間、「国際アクチュアリー会議(International Congress of Actuaries:ICA2026)」が日本の東京国際フォーラムで開催されることが決まっている。
前回シドニーで開催されたICA2023以来3年ぶり4となる国際アクチュアリー会議であり、日本での開催は50年ぶり2度目とのことである。前回のICA2023では、Youtubeで公開されている動画5によると170を超えるセッションが行われており、非常に大きな会議である。世界中のアクチュアリーが日本に参集し、議論を交わす国際アクチュアリー会議に、今後も注目していきたい。
4 従来は4年周期だが、COVID-19の流行のため、2022年の開催を2023年に延期したため、今回は3年間隔となっている。(前々回のベルリン開催の国際アクチュアリー会議は2018年開催)
5 https://www.youtube.com/playlist?list=PL7hf5Gb3pq_-8Vejv4dk_axj8XwgHsyNi
前回シドニーで開催されたICA2023以来3年ぶり4となる国際アクチュアリー会議であり、日本での開催は50年ぶり2度目とのことである。前回のICA2023では、Youtubeで公開されている動画5によると170を超えるセッションが行われており、非常に大きな会議である。世界中のアクチュアリーが日本に参集し、議論を交わす国際アクチュアリー会議に、今後も注目していきたい。
4 従来は4年周期だが、COVID-19の流行のため、2022年の開催を2023年に延期したため、今回は3年間隔となっている。(前々回のベルリン開催の国際アクチュアリー会議は2018年開催)
5 https://www.youtube.com/playlist?list=PL7hf5Gb3pq_-8Vejv4dk_axj8XwgHsyNi
(2024年07月02日「保険・年金フォーカス」)
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03-3512-1777
経歴
- 【職歴】
2007年 日本生命保険相互会社入社
2024年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・年金数理人
植竹 康夫のレポート
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