2024年07月01日

日銀短観(6月調査)~景況感は小動きだが消費関連に弱さも、企業の物価見通しは上振れ

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

文字サイズ

4.売上・利益計画:24年度は引き続き減益計画

2023年度収益計画(実績・全規模全産業)は、売上高が前年比3.0%増(前回は2.7%増)、経常利益が同12.4%増(前回は6.9%増)と、それぞれ上方修正され、増収増益で着地した。

例年、経常利益計画は初回の3月調査時点で保守的に見積もられて前年比で小幅なマイナス圏でスタートし、次の6月調査で比較対象となる前年度分の上方修正などを受けてやや下方修正されるが、9月調査以降は、景気が悪化していない限り、上方修正が続く傾向が強い。

今回も同様のパターンとなり、もともと保守的ぎみであった想定を実績が上回ったことが上方修正に繋がったとみられる。

なお、2023年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は141.58円と、前回(140.36円)から1円余り円安方向に修正された。前回調査時点では、年度平均レートの実績(144.6円)と比べてかなり円高の水準に留まっていたため、実績に合わせる方向への修正が入った。
 
また、2024年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比1.9%増(前回は1.0%増)に上方修正される一方、経常利益は7.5%減(前回は同3.0%減)と下方修正された。経常利益については23年度の実績が大きく上方修正されたことが前年比の伸び率を押し下げており、水準としては前回調査とほぼ変わらない。

例年、経常利益計画は初回の3月調査時点で保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナス圏でスタートした後、6月調査では、比較対象となる前年度分の上方修正などを受けて、さらに伸び率がやや下方修正される傾向が強い。今回も同様のパターンとなった。今後は賃上げ等に伴う景気回復が期待される一方で、海外経済の減速や物価高による消費抑制などの下振れリスクも気がかりのため、とりあえず保守的な計画のまま様子見している企業も多いと推測される。

なお、2024年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は144.77円(上期144.96円、下期144.59円)と、前回(141.42円)から3円余り円安方向に修正されたが、基準日時点の実勢(157円付近)からは大幅に円高の水準に留まっている。前回調査以降、速いペースで円安が進んだが、短観の想定為替レートは修正に時間がかかる傾向があるうえ、輸出企業などでは保守的に円高気味の想定を据え置いているとみられる。今後もドル円レートが想定を上回れば、輸出企業を中心に収益計画の上方修正要因になり得る。
(図表6)売上高計画
(図表7)経常利益計画
(図表8) 経常利益計画(全規模・全産業)

5.設備・雇用

5.設備・雇用:設備投資計画は堅調維持、人手不足感は極めて強い状況続く

生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から横ばいの▲1となった。設備の需給は概ね均衡ながら、若干不足ぎみの状況が続いている。

一方、雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から1ポイント上昇の▲35となった。DIのマイナス幅は、1991年以来約33年ぶりのマイナス幅を記録した前回からは若干縮小したが、ほぼ変わらない。人手を多く要する対面サービス需要の回復や少子化の影響を受けて人手不足感が極めて強い状況が続いている。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断DIが▲4、雇用人員判断DIが▲40とそれぞれ、3ポイント、5ポイントの低下が見込まれている。先行きに対する警戒感の表れからか、設備・雇用ともに不足感がさらに強まる見通しになっている。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)
2023年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比10.6%増となり、前回3月調査(10.7%増)からほぼ横ばいとなった。

例年、6月調査(実績)では、大企業において下方修正が入ることで、全体として下方修正される傾向があるが4、今回は下方修正幅がごくわずかに留まった。例年と比べて、次年度への先送り分も限定的になったとみられる。
 
一方、2024年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比8.4%増と前回3月調査(3.3%増)から大きく上方修正された。前回からの上方修正幅は5.1%ポイントと例年5をやや下回ったものの、既述の通り、例年よりも前年度実績が下振れなかったことで、前年比のハードルが上がった面があり、特に問題はない。

例年6月調査では年度計画が固まってくることで投資額が上乗せされる傾向が強いうえ、資材価格や人件費の上昇を受けて、名目の投資額が嵩みやすくなっている面も押し上げ材料になったようだ。ただし、実態としても、既往の収益回復を受けた投資余力の改善に加え、脱炭素・DX・省力化・サプライチェーンの再構築等に伴う投資需要を背景とした堅調な投資計画が示されたと評価している。

一方、今年度からの建設業の労働規制の強化もあって、人手不足による設備投資の制約が強まる恐れがあるだけに、堅調な計画が実績に繋がるか、フォローしていく必要がある。
 
2023年度設備投資計画(全規模全産業で前年比10.6%増)は市場予想(QUICK 集計7.0%増、当社予想も7.0%増)を上回る結果だった。一方、2024年度設備投資計画(全規模全産業で前年比8.4%増)は市場予想(QUICK 集計11.3%増、当社予想は12.6%増)を下回る結果だった。
 
2023年度のソフトウェア投資額(全規模全産業)は前回(11.0%増)から下方修正されたものの、前年度比10.0%増と増勢は明確であった。また、2024年度の計画(全規模全産業)も前年比14.0%増(前回は6.6%増)へと上方修正され、高い伸びが示されている。

企業において、オンライン需要への対応や生産性向上・省力化等に向けた業務のIT化が加速している証左とみられ、前向きな動きと言える。
(図表10)設備投資計画とソフトウェア投資計画
(図表11)設備投資計画(全規模・全産業)/(図表12)設備投資計画(大企業・全産業)
(図表13)ソフトウェア投資計画(全規模・全産業)
 
4 直近10年間(2013~22年度)における6月調査(実績)での修正幅は平均で▲2.0%ポイント。
5 直近10年間(2014~23年度)における6月調査での修正幅は平均で+6.5%ポイント
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年07月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【日銀短観(6月調査)~景況感は小動きだが消費関連に弱さも、企業の物価見通しは上振れ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

日銀短観(6月調査)~景況感は小動きだが消費関連に弱さも、企業の物価見通しは上振れのレポート Topへ