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少子化で減り続ける若手社員~膨らむミドルシニア社員の活用が企業の課題に

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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次に、企業や団体で正社員・正規職員として働く人の年齢階級分布をみたものが図表4である。過去30年で、契約社員やパート従業員などの非正規雇用が増えたことにより、正社員・正規職員の人数自体は約200万人減少した。年齢階級分布は、やはり、より中高年寄りになっている。ただし女性に限ると、過去30年で、正社員・正規職員の人数は約80万人増えた。2-2で述べたように、出産を機に退職する女性が減ったほか、全年齢階級で、働く女性が増えたためである。
改めて、年齢階級ごとの分布の変化を見ると、まず1992年の正社員・正規職員人口の塊は、団塊世代が含まれる「40~44歳」と、団塊ジュニアが含まれる「20~24歳」から「25~29歳」の2か所にあったが、2022年には団塊ジュニアを含む50歳前後を中心とした1か所のみとなっている。団塊ジュニアより若い階級では、概ね正社員・正規職員は人口減少傾向にある。
2002年に、逆階段状に減っていく若年層のうち「25~29歳」だけが飛び出ているのは、上述した女性の増加がけん引しているためである。女性の「25~29歳」は188万人で、すべての年齢階級の中で最大となった。しかし男性は、40歳代前半以下のすべての年齢階級で、正社員・正規職員の人数が減少したため、男女合わせた全体でも、40歳代前半以下のすべての年齢階級でマイナスとなっている。
シニアの領域を見ると、2-2でみたように、70歳以上の労働力人口は2022年時点でも500万人を超えていたが、シニアの雇用形態は契約社員やパートが多いことから、正社員・正規職員に限れば、「65歳以上」は男女合わせても約120万人にとどまっていた。
これまで見てきたことをまとめると、30年前は、人口の年齢階級別分布は、団塊世代の中年層と団塊ジュニアの若年層に塊があり、労働力人口や正社員・正規職員の人口ピラミッドも概ね同様の傾向があった。企業からみれば、将来的に組織の支え手となる若い人材を、どんどん採用し、必要な部署に、必要な人数を配置できた時代だっただろう。
しかし現在は、総人口は30年前からほぼ変わらないものの、分布は高年層と中年層が厚く、若いほど、どんどん薄くなっている。例えば、50歳代前半の人口は5歳区分で約1,000万人弱いるが、20歳代前半はその約3分の2の約600万人に減り、さらに10歳未満だと半数の500万人以下に減るなど、顕著に減少している。
これを土台とした労働力人口はどうかと言うと、働く女性や高齢者が増加したことにより、全体では、過去30年で約300万人増えたが、分布を見ると、50歳前後に塊があり、それより下は、やはり、概ね若いほど細っていく。結婚・出産期にあたる20歳代後半から30歳代前半を中心として、女性の労働力人口は大幅に増えたが、少子化の影響はそれより大きいと言える。
正社員・正規職員として働く人の人口分布を見ても、やはり、50歳前後に塊があり、若いほど概ね先細り傾向である。働き続ける女性の増加により、20歳代後半のみ少し伸びたが、若年層全体の減少を補うほどではない。従って企業から見れば、50歳代は層が厚いが、若手は足りない、離職したら補充できない、将来の幹部候補が足りない—―、というような状況ではないだろうか。
また、人口分布を見れば分かるように、10歳代以下になるとさらに少子化が進み、人口そのものが5歳刻みで500万人前後に減少する。近い将来、労働力人口も正社員・正規職員人口も、さらに若年層は縮小していくと考えられる。企業単位で見れば、新卒採用を前提とした人事マネージメントが難しくなり、配置にも困難を生じるケースが増えていくのではないだろうか。
3――おわりに
このような状況の中で、これから企業が持続可能性を維持していくためには、DX化などによる業務効率化だけではなく、人事マネージメント自体を見直す必要があるのではないだろうか。すなわち、採用や教育などで、若年層に集中的に投資するのではなく、ボリュームゾーンのミドルシニアを、十分活用するための新たな投資が必要ではないだろうか。
具体的に言えば、ミドルシニアに対する研修拡充による再教育、重要な職務の割り当て、一律の役職定年の見直しなどが考えられる。管理職登用についても、若手にもチャンスを与えると同時に、例えば50歳代の社員にも門戸を開放することが考えられる。これらは、本人の年齢ではなく、意欲と能力、仕事の成果に合わせて人事マネージメントを行うものであり、高齢者雇用にも適用できる考え方ではないだろうか。
「ミドルシニアの活用」という考え方は、根拠がない訳ではない。定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年 10 月に行ったアンケート「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」では、大企業で働く女性社員のうち、管理職昇進を希望している人が、50歳代前半で24.8%、50歳代後半で17.7%に上ることが分かった。つまり、50歳代の女性であっても、仕事への意識が高い人が一定おり、企業は、発掘と活用に取り組む余地があると言える。
ミドルシニア社員から見たら、何歳になっても、能力と意欲、仕事の成果次第で、スキルアップやキャリアアップを続ける機会があり、評価や待遇に反映されれば、やりがいを持って働き続けることができるのではないだろうか。
冒頭で述べたように、経済界全体で、「学生の売り手市場」、「若手の人材不足」という課題は共通認識になっていると考えられる。しかし、それ以上に重大な課題は、長期的な少子化による、若年労働力人口自体の減少である。今の10歳代の人口の薄さを考えれば、この問題は、今後さらに深刻化していくだろう。従って企業にとっては、組織における年代別構成の変化を踏まえて、各層の人材活用を見直していくことが求められるのではないだろうか。
また、本稿で説明してきたように、政府や経済界による、仕事と家庭の両立支援策や女性政策は、働き続ける女性を増加させたが、少子化というより大きな課題をカバーするには至っていない。日本の経済社会の維持のために、未婚化への対応など、根本的な少子化対策を講じる必要があるだろう。
(2024年06月24日「基礎研レポート」)

03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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