- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 経済予測・経済見通し >
- 東南アジア経済の見通し~輸出と製造業が持ち直し、緩やかな景気回復へ
2024年06月21日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
2-4.フィリピン
フィリピン経済は、2023年は物価高と金利上昇を受けて景気の減速傾向が続いて通年の成長率が同+5.5%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により好調だった2022年の同+7.6%から低下した。しかし、2024年1-3月期の成長率は前年同期比+5.7%と、2023年10-12月期の同+5.5%から上昇し、景気の底堅さが示された(図表11)。
1-3月期は輸出の回復により成長率が上昇した。外需は、電子部品(同+15.6%)や化学(同+16.2%)、水産品(同+28.3%)などの輸出品の出荷が好調で、財貨輸出(同+5.8%)が5四半期ぶりにプラスの伸びとなった。また輸出全体の5割弱を占めるサービス輸出(同+8.9%)はインバウンド需要の回復により順調に伸びているものの、増勢が鈍化した。一方、内需は消費と投資が減速した。民間消費(同+4.6%)は雇用改善の動きが鈍って家計の購買力が低下したため鈍化した。総固定資本形成(同+2.3%)は大規模インフラ整備計画を拡大により建設投資(同+6.8%)は堅調だったが、金利上昇や企業復興税優遇法(CREATE)による税優遇措置の縮小により企業の投資意欲が冷え込み、設備投資(同▲4.8%)が急減した。
先行きのフィリピン経済は積極的なインフラ投資と輸出の回復に支えられて堅調を維持すると予想する。まず外需は、世界的な製造業の調整局面が一巡して財輸出の増加傾向が続くだろう。サービス輸出は外国人観光客の回復により持続的な拡大が続くとみられる。一方、輸入も内需拡大に伴い増加傾向が続くものとみられ、外需の成長率への影響は限定的となりそうだ。また内需は堅調を維持すると予想する。消費は昨年の所得税減税の効果が薄れるが、インフレ鈍化により実質所得の目減りが和らぐほか、労働需給の引き締まりによる賃金上昇、ペソ安に伴う海外フィリピン人労働者(OFW)の海外送金の増加を背景に底堅く推移しよう。2024年度国家予算ではマルコス政権のインフラ整備計画「Build Better More」プログラムに1.4兆ペソ(前年度比+6.6%)が割り当てられており、公共投資の拡大は引き続き景気下支えとなるだろう。設備投資は輸出の底打ちにより上向くが、金融引締め策の累積効果(累計利上げ幅4.5%)が重石となり勢いに欠ける展開となりそうだ。
金融政策はフィリピン中銀が22年5月から金融引き締めを開始、昨年10月にはインフレ再燃を警戒して追加利上げを実施して政策金利(翌日物借入金利)を6.5%まで引き上げている(図表12)。5月の消費者物価上昇率は前年同月比+3.9%と、商品市況の高止まりやペソ安による輸入インフレを受けて上昇している。先行きのインフレ率は短期的には賃金上昇や公共料金の値上げが上昇圧力となるものの、コメの輸入関税の引下げや金融引締め策により物価目標圏内に収まるだろう。フィリピン中銀はインフレ圧力の後退と米利下げ転換を受けて年内に利下げを実施すると予想する。
実質GDP成長率は2024年が前年比+5.7%(2023年:同+5.5%)と小幅に上昇するが、2024年の政府の成長率目標(+6.0%~7.0%)を下回ると予想する。
フィリピン経済は、2023年は物価高と金利上昇を受けて景気の減速傾向が続いて通年の成長率が同+5.5%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により好調だった2022年の同+7.6%から低下した。しかし、2024年1-3月期の成長率は前年同期比+5.7%と、2023年10-12月期の同+5.5%から上昇し、景気の底堅さが示された(図表11)。
1-3月期は輸出の回復により成長率が上昇した。外需は、電子部品(同+15.6%)や化学(同+16.2%)、水産品(同+28.3%)などの輸出品の出荷が好調で、財貨輸出(同+5.8%)が5四半期ぶりにプラスの伸びとなった。また輸出全体の5割弱を占めるサービス輸出(同+8.9%)はインバウンド需要の回復により順調に伸びているものの、増勢が鈍化した。一方、内需は消費と投資が減速した。民間消費(同+4.6%)は雇用改善の動きが鈍って家計の購買力が低下したため鈍化した。総固定資本形成(同+2.3%)は大規模インフラ整備計画を拡大により建設投資(同+6.8%)は堅調だったが、金利上昇や企業復興税優遇法(CREATE)による税優遇措置の縮小により企業の投資意欲が冷え込み、設備投資(同▲4.8%)が急減した。
先行きのフィリピン経済は積極的なインフラ投資と輸出の回復に支えられて堅調を維持すると予想する。まず外需は、世界的な製造業の調整局面が一巡して財輸出の増加傾向が続くだろう。サービス輸出は外国人観光客の回復により持続的な拡大が続くとみられる。一方、輸入も内需拡大に伴い増加傾向が続くものとみられ、外需の成長率への影響は限定的となりそうだ。また内需は堅調を維持すると予想する。消費は昨年の所得税減税の効果が薄れるが、インフレ鈍化により実質所得の目減りが和らぐほか、労働需給の引き締まりによる賃金上昇、ペソ安に伴う海外フィリピン人労働者(OFW)の海外送金の増加を背景に底堅く推移しよう。2024年度国家予算ではマルコス政権のインフラ整備計画「Build Better More」プログラムに1.4兆ペソ(前年度比+6.6%)が割り当てられており、公共投資の拡大は引き続き景気下支えとなるだろう。設備投資は輸出の底打ちにより上向くが、金融引締め策の累積効果(累計利上げ幅4.5%)が重石となり勢いに欠ける展開となりそうだ。
金融政策はフィリピン中銀が22年5月から金融引き締めを開始、昨年10月にはインフレ再燃を警戒して追加利上げを実施して政策金利(翌日物借入金利)を6.5%まで引き上げている(図表12)。5月の消費者物価上昇率は前年同月比+3.9%と、商品市況の高止まりやペソ安による輸入インフレを受けて上昇している。先行きのインフレ率は短期的には賃金上昇や公共料金の値上げが上昇圧力となるものの、コメの輸入関税の引下げや金融引締め策により物価目標圏内に収まるだろう。フィリピン中銀はインフレ圧力の後退と米利下げ転換を受けて年内に利下げを実施すると予想する。
実質GDP成長率は2024年が前年比+5.7%(2023年:同+5.5%)と小幅に上昇するが、2024年の政府の成長率目標(+6.0%~7.0%)を下回ると予想する。
2-5.ベトナム
ベトナム経済は、2023年は欧米市場向けを中心とした輸出の落ち込みにより成長率が前年比+5.0%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により好調だった2022年の同+8.1%から低下し、政府目標の6.0%~6.5%を下回った。しかしながら、年末にかけて輸出が回復して2023年10-12月期の成長率は同+6.7%まで上昇している。2024年1-3月期の成長率は前年同期比+5.7%と4四半期ぶりに鈍化して足踏みもみられるが、概ね回復基調にある(図表13)。
1-3月期はサービス業と製造業が引き続きGDPを牽引した。サービス業(同+6.1%)は観光業の回復や付加価値税の減税(23年7月)により堅調を維持した。運輸・倉庫業(同+10.6%)や宿泊・飲食業(同+8.3%)、文化スポーツ(同+7.3%)、卸売・小売業(同+6.9%)が順調だったほか、不動産業(同+1.7%)が低成長ながらも2四半期連続のプラス成長となった。また製造業(同+7.0%)は電話機・部品やコンピュータ・電子部品など主力の輸出品の出荷が改善しており好調だった。
先行きのベトナム経済は、世界的な製造業の調整局面が一巡して財輸出が増加すると共に、積極的な金融財政政策が追い風となり企業の生産活動や消費が回復するなかで、堅調な成長が続くだろう。多国籍企業のサプライチェーンを多様化する動きやシリコンサイクルの回復を背景に、1-5月累計の海外直接投資(FDI)実行額は前年同期比+7.8%と順調に伸びているが、国内の政情不安やグローバル・ミニマム課税の影響からFDI認可額(同+2.0%)はやや勢いを失っている。製造業は財輸出の回復により引き続き経済の牽引役となるだろうが、伸び悩む可能性もあるだろう。
サービス業は堅調に推移するだろう。ベトナム政府は付加価値税の2%減税を今年6月まで半年間延長しており、同年7月には最低賃金が平均+6%引き上げられるなど積極的な財政金融政策が実施されている。またビザ優遇政策や観光促進策により観光業が引き続き回復すると予想される。観光業や製造業を中心に雇用・所得環境が改善するほか、不動産市場が持ち直しに向かうとみられる。もっとも足元の物価上昇は消費者の購買力を低下させるため、依然として懸念材料である。
金融政策は、ベトナム中銀が22年9月と10月に累計+2%の利上げを実施したが、景気減速により昨春に政策金利を累計1.5%引き下げ、その後は4.5%で据え置いている(図表14)。5月の消費者物価上昇率は前年同月比+4.4%と上昇傾向にあるが、コアインフレは同+3%程度で落ち着いている。先行きのインフレ率は電気料金の値上げや最低賃金引上げ、ドン安による輸入インフレなどから上昇するだろうが、通年では政府の上限目標(+4.0%~4.5%)の範囲内に収まるだろう。従って、ベトナム中銀は景気と物価の動向を注視しつつ、年内は金融政策を維持すると予想する。
実質GDP成長率は2024年が前年比+5.9%(2023年:同+5.0%)と上昇するが、政府の成長目標(+6.0%~6.5%)を若干下回ると予想する。
ベトナム経済は、2023年は欧米市場向けを中心とした輸出の落ち込みにより成長率が前年比+5.0%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により好調だった2022年の同+8.1%から低下し、政府目標の6.0%~6.5%を下回った。しかしながら、年末にかけて輸出が回復して2023年10-12月期の成長率は同+6.7%まで上昇している。2024年1-3月期の成長率は前年同期比+5.7%と4四半期ぶりに鈍化して足踏みもみられるが、概ね回復基調にある(図表13)。
1-3月期はサービス業と製造業が引き続きGDPを牽引した。サービス業(同+6.1%)は観光業の回復や付加価値税の減税(23年7月)により堅調を維持した。運輸・倉庫業(同+10.6%)や宿泊・飲食業(同+8.3%)、文化スポーツ(同+7.3%)、卸売・小売業(同+6.9%)が順調だったほか、不動産業(同+1.7%)が低成長ながらも2四半期連続のプラス成長となった。また製造業(同+7.0%)は電話機・部品やコンピュータ・電子部品など主力の輸出品の出荷が改善しており好調だった。
先行きのベトナム経済は、世界的な製造業の調整局面が一巡して財輸出が増加すると共に、積極的な金融財政政策が追い風となり企業の生産活動や消費が回復するなかで、堅調な成長が続くだろう。多国籍企業のサプライチェーンを多様化する動きやシリコンサイクルの回復を背景に、1-5月累計の海外直接投資(FDI)実行額は前年同期比+7.8%と順調に伸びているが、国内の政情不安やグローバル・ミニマム課税の影響からFDI認可額(同+2.0%)はやや勢いを失っている。製造業は財輸出の回復により引き続き経済の牽引役となるだろうが、伸び悩む可能性もあるだろう。
サービス業は堅調に推移するだろう。ベトナム政府は付加価値税の2%減税を今年6月まで半年間延長しており、同年7月には最低賃金が平均+6%引き上げられるなど積極的な財政金融政策が実施されている。またビザ優遇政策や観光促進策により観光業が引き続き回復すると予想される。観光業や製造業を中心に雇用・所得環境が改善するほか、不動産市場が持ち直しに向かうとみられる。もっとも足元の物価上昇は消費者の購買力を低下させるため、依然として懸念材料である。
金融政策は、ベトナム中銀が22年9月と10月に累計+2%の利上げを実施したが、景気減速により昨春に政策金利を累計1.5%引き下げ、その後は4.5%で据え置いている(図表14)。5月の消費者物価上昇率は前年同月比+4.4%と上昇傾向にあるが、コアインフレは同+3%程度で落ち着いている。先行きのインフレ率は電気料金の値上げや最低賃金引上げ、ドン安による輸入インフレなどから上昇するだろうが、通年では政府の上限目標(+4.0%~4.5%)の範囲内に収まるだろう。従って、ベトナム中銀は景気と物価の動向を注視しつつ、年内は金融政策を維持すると予想する。
実質GDP成長率は2024年が前年比+5.9%(2023年:同+5.0%)と上昇するが、政府の成長目標(+6.0%~6.5%)を若干下回ると予想する。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年06月21日「Weekly エコノミスト・レター」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/16 | インド消費者物価(25年3月)~3月のCPI上昇率は+3.3%、約6年ぶりの低水準に | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
2025/04/08 | ベトナム経済:25年1-3月期の成長率は前年同期比6.93%増~順調なスタート切るも、トランプ関税ショックに直面 | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
2025/03/21 | 東南アジア経済の見通し~景気は堅調維持、米通商政策が下振れリスクに | 斉藤 誠 | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/13 | インド消費者物価(25年2月)~2月のCPI上昇率は半年ぶりの4%割れ | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
新着記事
-
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~ -
2025年04月30日
「スター・ウォーズ」ファン同士をつなぐ“SWAG”とは-今日もまたエンタメの話でも。(第5話) -
2025年04月30日
米中摩擦に対し、持久戦に備える中国-トランプ関税の打撃に耐えるため、多方面にわたり対策を強化 -
2025年04月30日
米国個人年金販売額は2024年も過去最高を更新-トランプ関税政策で今後の動向は不透明に-
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【東南アジア経済の見通し~輸出と製造業が持ち直し、緩やかな景気回復へ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
東南アジア経済の見通し~輸出と製造業が持ち直し、緩やかな景気回復へのレポート Topへ