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- 英国金融政策(6月MPC公表)-7会合連続の据え置き、利下げの確度は高まる
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1.結果の概要:7会合連続で政策金利据え置きを決定
【金融政策決定内容】
・政策金利を5.25%で据え置き(7対2で、2名は0.25%の引き下げを支持)
【議事要旨等(趣旨)】
・8月の見通し作成の一環として、委員会は利用可能なすべての情報と、それらがインフレの持続性に関するリスクが解消するという評価に対しどのように影響するかを考慮する
・(据え置きに投票した委員のうちタカ派の意見)サービスインフレの上振れは、2次的効果の基調的なインフレ率への持続的な上昇圧力が維持されているとの見解を支持する
・(据え置きに投票した委員のうちハト派の意見)サービスインフレの5月報告書対比での上振れニュースは経済が進んでいるディスインフレの方向性を大きく変えるものではない
・(据え置きに投票した委員のうちハト派の意見)4月の全国生活賃金の引き上げによる賃金上昇率への影響は将来的にはそれほど大きくならない
2.金融政策の評価:次回利下げの確度が高まる
前回5月会合でベイリー総裁が、今後数四半期内の利下げが必要だろうこと、6月の金利変更を排除しないことに言及していたため、今後のインフレや労働統計への注目度が高まっていた。特に賃金については、賃金決定が年初に集中する傾向があるため重要な指標になると指摘されていた。
MPCはこれらのデータについて、CPI上昇率は4月が中銀見通し対比でやや上振れたものの5月はほぼ見通し通り、賃金上昇率も2-4月期で概ね見通し通りだったと評価している。ただし、インフレ率ではサービスインフレがやや見通しより上振れており、賃金も全国生活賃金(最低賃金に相当)の引き上げの影響など、上振れリスクを示唆するデータが散見されるとしている。
こうした状況を受け、議事要旨では据え置きを決定した7名の意見も大きく2つに割れていることが明らかになっている。タカ派グループはサービスインフレの高さや賃金の上振れリスクを重視し、金融政策の制限度を緩和する前により多くのインフレ圧力の解消が必要としている。もう一方のハト派寄りのグループは、最近のサービスインフレの上振れや賃金データはディスインフレの方向性を大きく変える内容ではないと評価する。
今回は声明文で、見通しが作成される8月に向けてインフレの持続性リスクを再評価するとして、時期を明記することで、従来から一歩踏み込んだ表現に変更した。次回利下げの確度は高まったと考えられる。引き続きインフレデータや賃金データが注目されるが、据え置きに投票した委員のうちハト派よりのグループはサービスインフレの上振れは一時的な要因も大きいと見ており、今後のデータが引き続き中銀の想定通りにディスインフレ傾向を辿るのであれば、利下げ決定のハードルは高くないと思われる。
3.金融政策の方針
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
- 委員会は政策金利(バンクレート)を据え置き、5.25%とする(7対2で決定1)、2名は0.25%ポイント引き下げ5.00%とすることを主張した
- CPIインフレ率は5月に前年比2.0%と3月の3.2%から低下し、5月の金融政策報告書の見通しと近かった
- 短期的なインフレ期待の指標もまた、特に家計では緩和している
- CPIインフレ率は年後半にはエネルギー価格の前年比下落の効果が外れるためやや上昇すると見られている
- 英国のGDPは今年前半に予想よりも強く成長したようだ
- しかしながら、企業向け調査は、前期比0.25%前後の引き続き基調的な成長率の鈍化と整合的な結果となっている
- ONSの雇用統計の推計には大きな不確実性があり、労働市場の評価を計測することが非常に難しい
- 広範囲の指標をもとに、MPCは、労働市場が引き続き緩和しているが、引き続き歴史的標準と比較してひっ迫していると判断した
- 最新データによれば、賃金総額の広範な指標を総合すると、伸び率は引き続き緩和している
- サービスインフレは5月に5.7%と3月の6.0%から低下したが、5月報告書の見通しよりいくぶん高い
- この強さの一部は、指数連動価格もしくは規制価格で、典型的には年1回に更新される物価や、変動の大きい要素を反映している
- MPCの責務が、英国の金融政策枠組みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
- この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
- 金融政策により、CPIインフレ率が中期的に2%目標に安定して戻るようにする
- 今回の会合で、委員会は政策金利を5.25%に維持することを決めた
- ヘッドラインのCPIインフレ率は、2%目標に戻った
- 制限的な金融政策姿勢は実体経済の重しとなり、労働市場を緩和させ、インフレ圧力を押し下げている
- インフレの持続性に関する主要な指標は、引き続き緩和しているものの、依然として高止まりしたままである(「予想通り緩和している」から表現を修正)
- 金融政策は、MPCの責務であるインフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すため、引き続き十分な期間(sufficiently long)、制限的にする必要がある
- 委員会は昨年秋以降、インフレ率が2%目標を超えて定着するリスクが消失するまで、十分な期間にわたり(for an extended period of time)、制限的にされる必要があると判断してきた
- MPCは引き続き、2%目標に安定的に戻すために金融政策姿勢を経済状況に応じて調整する用意がある
- そのため、引き続き、基調的な労働市場のひっ迫感を示す一連の指標、賃金上昇率、サービス物価インフレの動向といった、経済全体におけるインフレ圧力の持続性と回復力について、引き続き注視する
- 金融政策は、委員会の責務にもとづき、インフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すため、十分な期間にわたり十分に制限的にされる必要がある
- 8月の見通し作成の一環として、委員会のメンバーは利用可能なすべての情報と、それらがインフレの持続性に関するリスクが解消するという評価に対しどのように影響するかを考慮する(「8月の見通し作成の一環として」と追記し、次回の検討として具体化)
- この点に基づき、委員会は政策金利をどの程度の期間、現在の水準で維持するかの検討を続ける
1 今回反対票を投じたのは、ディングラ委員およびラムズデン委員(副総裁)で0.25%の利下げを主張した。前回も同じ2名が0.25%の利下げを主張していた。
4.議事要旨の概要
(通貨・金融情勢)
- 英国では、4月のCPIがMPCや市場参加者の見通しを上回ったことを受けて市場観測の政策金利期待が上昇した
- 中銀の市場参加者調査(MaPS)ではすべての参加者が今回の会合での金利据え置きを予想していた
- 市場参加者調査の回答者はすべて、次回の政策金利の変更は利下げだと予想しており、8月以降に年内0.50%ポイントの引き下げを想定、5月時点の0.75%ポイントからは引き下げ幅が削減された
- これは市場観測の政策金利パスが、11月に初めて0.25%ポイントの利下げを予想しているのとはやや対照的であった
(供給、費用、物価)
- 民間部門の週当たり平均定期賃金(AWE)の上昇率は、23年11月-24年1月期の6.1%から2-4月期には5.8%に低下し、5月の金融政策報告書の予想に沿っていた
- 4月は伝統的に賃金設定の重要な月であり、全国生活賃金(National Living Wage、最低賃金に相当)の引き上げに伴って、年間賃金設定の約40%がなされる
- 賃金上昇率の広範な指標を総合すると、緩和を続けており、更新された24年4-6月期の中銀スタッフの見通しは5%を若干上回るもので、5月報告書の見通しに引き続き沿っている
- しかしながら、いくつかのデータは短期的な賃金上昇率が5月報告書の見通しより緩和の度合いが小さいリスクを示唆している
- 中銀エージェントは最近の24年の賃金交渉結果は、2月報告書でエージェントが公表した年次賃金調査の平均的な記録をやや上回っていると報告している
- 全国生活賃金の影響が大きい消費者向け事業では、総じて高い妥結賃金を報告している
- 3-5月期の意思決定者パネル(DMP)調査は企業の1年先の年間賃金伸び率予想が4.5%に緩和するとしているが、依然として高止まっている
- これらの上方リスクの対極として、KPMG/RECの月次賃金指標は引き続き将来の賃金伸び率の下方リスクを示唆している
(政策金利決定)
- 委員会は7月4日に実施される総選挙の時期が、今回の会合での決定とは無関係であり、決定は通常通り、中期的に安定した2%目標の達成に必要とされる判断に基づいて実施されることに留意した
- 7人の委員が、今回の会合で政策金利を5.25%に維持することが妥当であると判断した
- ヘッドラインインフレ率は2%目標に戻った
- 制限的な金融政策は実態経済の活動を抑制しており、労働市場の緩和とインフレ圧力の低下をもたらしている
- インフレの持続性に関する主要な指標は概ね予想通りに緩和しているものの、引き続き高い状態にある
- 引き続き、政策金利の変更に必要と見られる証拠の程度や、今後のデータがインフレの持続性の評価をどの程度更新するかという期待度合いについては見解の開きがあった
- このグループの何人かのメンバーにとって、ヘッドラインインフレ率の2%への回帰は歓迎されるものの、必ずしも要求されている持続的な目標への回帰を示すものではなかった
- サービスインフレが高水準で上振れのニュースが続いていることは、2次的効果の基調的なインフレ率への持続的な上昇圧力が維持されているとの見解を支持するものである
- 賃金上昇は引き続きモデルによる推計を上回り続けている
- 国内需要の指標は予想よりも強く、経済活動に対するリスクは上方に傾いている
- これらのメンバーにとっては、金融政策の制限度を緩和する前により多くのインフレ圧力の解消が必要だった
- このグループの他のメンバーにとっては、サービスインフレの5月報告書対比での上振れニュースは経済が進んでいるディスインフレの方向性を大きく変えるものではなかった
- この見解は、サービスインフレの最近の強さが規制や指数連動の要素と、変動の大きい要素によるという証拠に支持されている
- 4月の全国生活賃金の引き上げによる賃金上昇率への影響は将来的にはそれほど大きくならないだろう
- これらの要因は中期的なインフレ圧力を押し上げるものではない
- これらのメンバーにとっては、今回の政策決定は微妙なバランスだった
- 2名のメンバーは政策金利を0.25%ポイント引き下げることを希望した
- これらのメンバーは、政策姿勢を円滑かつ段階的に伝達させ、かつ伝達の遅れを考慮すると、現段階で政策金利の制限度合いを緩和する必要があるとした
- CPIインフレ率はここのところ確固たる低下基調にあり、5月には2%に戻った
- 短期的に2%近くにとどまると予想され、将来の労働市場の緩和、フォワードルッキングなインフレ率と価格転嫁の指標、低下が継続しているインフレ期待と整合的である
- 需要見通しの低迷を前提とすれば、中期的に見たインフレ率の安定的な目標維持に対するリスクは下方にある
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年06月21日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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