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地方のインフラを支える外国人留学生-ネパール人留学生の事故死から考える

代表取締役社長 手島 恒明
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1――はじめに
亡くなったネパール人のうち一人は半年ほど前に来日していて日本語学校で勉強中、もう一人は日本語学校で2年間学んだ後で、自動車整備士の資格取得に向けて専門学校で学び始めたばかりであった。留学生は、昼間は語学学校や専門学校で学び、午後7時にネパール人、バングラデシュ人約40人を乗せたバスに乗って仙台を出発して岩手県一関市の大手メーカーの工場に向かい、夜9時頃から朝6時頃までアルバイトをして、朝の8時頃に仙台に戻り、そのまま通学する予定であった。
外国人留学生は、週28時間までしか働くことができないという制限があり、なるべく時給の高いアルバイトを求める。宮城県の最低賃金は時給923円であるが、こうした夜間のアルバイトは時給1,300円程度であるため、多くの留学生が夜間のアルバイトを選んでいる。夜間のメーカーの工場での作業、野菜の加工工場での総菜づくり、物流施設での荷物の仕分け作業などの単純労働は日本語が理解できなくても従事できる。東北地方は若者の人口流出が続いており、こうした夜勤労働者は働き手が不足しており、こうした外国人留学生が地方のインフラを支える担い手となっている。
2――増加するネパール人留学生
ネパールは、アジア最貧国の一つで、最低賃金は2023年末時点で月額換算17,300ルピー(約18,000円)であり、GDPの約27%は出稼ぎ労働者等からの母国送金に依存している。ネパール人は以前は中東などへの出稼ぎが多かったが、治安の悪化や劣悪な労働条件をみて、安全で社会的にインフラが整っている日本での労働希望者が増加してきている。日本は、他の国に比べて、学費が低廉であり、アルバイトを週28時間という制限はあるものの認められているということも裕福ではない留学生にとっては魅力的である。
3――ネパール人留学生の声
彼は子どもの頃から日本に来ることを希望し、ネパールでも日本語を少し学んでから来日した。
昼間は専門学校で学び、夜間はアルバイトをしている。彼の夢は、日本の大手自動車メーカーの自動車整備士になることで、日本で家族を持ち、ずっと日本で暮らしたいと希望している。彼のTikTokのフォロワーは1万人以上いて、日本に行くことを希望するネパール人に日本の暮らしぶりなどの情報を発信している。多くのネパール人が日本での生活にあこがれて、情報を求めているという。
一方で良いことばかりではないという。
多くのネパール人は、来日時に渡航費用や語学学校に支払う費用(学費、前払い家賃等)などの多額の借金を背負って来日する。借金が100万円を超えるネパール人も多い。残念ながらそうしたビジネスで多額の利益を得ている留学斡旋業者もあると聞く。ネパール人がアルバイトで稼ぐ給与は、生活費・学費に加えて、こうした借金の返済、母国への仕送りなどに充てられている。そのため、限られた労働時間でなるべく高い時給を求めて働くことになる。
また来日したネパール人が最も困るのは住居の確保だという。日本語学校が用意する留学生寮は、4人部屋などでプライバシーが保てず住環境はあまり良くないという。そのためアパートを借りようとしても、日本語が理解できないため、重要事項説明などを聞いても理解できず、連帯保証人がいないことや家賃の保証会社の保証が受けられないという問題も抱えている。一方でアパートの貸主側も、一度ネパール人を受け入れたものの、例えば日本語で書かれたゴミ出しマニュアルが理解できず、近隣の住民とのトラブルを起こしてしまうネパール人もいて、家主から今後はネパール人お断りとされるケースも多い。そのためネパール人が借りられるアパートが限定され、なかなか良い住環境を得るのが難しいという。こうした問題を解決するためには、ネパール人の生活を丁寧にサポートする必要があると思われるが、来日するネパール人が急増していて、そうしたサポートがなかなか届かないのが現状である。
4――終わりに
日本では政府が率先して少子化対策に取り組んでいるものの、インフラを支える人手不足は特に地方でかなり深刻となってきている。日本に来てもらえる外国人に支えてもらわないといけないという事実にしっかり向き合い、彼らにいかに日本でよい人生を歩んでもらえるのかを、私たちは、しっかりと考えなければいけない時期にきているのではないだろうか。
(2024年06月07日「研究員の眼」)
代表取締役社長
手島 恒明
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