コラム
2024年11月25日

中小企業のBCPとしての経営セーフティ共済と法人生命保険

代表取締役社長 手島 恒明

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1――はじめに

大地震、洪水などの大災害の発生、新型コロナのようなパンデミックの発生など、企業活動に甚大な影響を与える予測困難な事象の発生が増加している。こうした事態に遭遇しても企業の事業活動を続けていくために、BCP(事業継続計画)を日頃から検討しておくことは、ますます重要となっている。一般的にBCPというと、大災害などの発生時に、被害の状況の把握と企業の基幹事業の再開、必要に応じて代替策の施行などのオペレーションが中心となるが、ここでは、中小企業の財務面からのBCPについて考えてみたい。

大企業であれば、手元資金を積み増しておくことや、銀行との間でコミットメントライン(借入枠)の設定などを行うことにより、一定程度、こうした緊急時の資金需要には対応できるものと考えられるが、なかなか中小企業においては、そこまで対応をすることは難しい。

まず大災害については損害保険に加入しておくことが考えられるが、地震保険については、個人向けの地震保険は国が再保険している一方で、企業の事業物件に対する地震保険は損害保険会社が直接リスクを引き受けるため、引き受けに制限がかけられることや、保険料率が高額となることが多い。そのため、中小企業では加入を見合わせることが多いのが現状である。従って、損害保険だけでこうした予測困難なリスクのBCPとして備えることは難しいと考えられる。

ここでは、財務面からのBCPとして、経営セーフティ共済と法人生命保険について取り上げてみたい。

2――経営セーフティ共済

財務面からのBCPとして中小企業が第一に検討したい手段として経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)がある。経営セーフティ共済は、独立行政法人である中小企業基盤整備機構が運営するもので、取引先が倒産して代金が回収できなくなった場合に備えて加入する共済である。毎月20万円を上限に掛け金を支払い、累計の掛け金上限は800万円で、掛け金は全額損金算入することができるので、その年度の法人税の削減(いわゆる節税効果)にもなる。取引先の倒産等が起きたときには、掛け金の10倍まで、最高8,000万円まで借り入れることができる。また、いつでも任意解約して解約手当金を受け取ることもできる。任意解約の場合、12か月以上掛けると掛け金の80%以上、40か月以上で掛け金の全額が戻ってくる。もちろん解約時の返戻金は受け取った年度の益金に算入されるが、こうした大災害が発生した場合には、損失も発生している可能性が高いため、その年度の法人税の負担は少なくなると考えられる。

なお、令和6年度の税制改正により、令和6年10月以降は、経営セーフティ共済について、任意解約してから2年間は、再加入しても掛け金を損金算入できないようになっており、過度な節税行為には一定歯止めがかけられている。

3――法人生命保険

つぎに経営セーフティ共済に加えて、さらに財務面をサポートする手段として、経営者など事業のキーマンを被保険者として長期定期保険などの法人生命保険に加入することが考えられる。

こうした法人生命保険は、キーマンが死亡した場合に備える目的と、キーマンが退職した際の退職慰労金などの資金原資の確保を目的として加入することが一般的である。キーマンが大災害などで死亡した場合は、会社に死亡保険金が支払われる。一方でキーマンが無事であった場合でも、不測の事態の発生により、売り上げの急減、事業活動再開のための費用、取引先の倒産などの資金確保のために、法人生命保険を解約して、解約払戻金を受け取ることができる。(なお、保険会社によっては、解約払戻金の一定割合で、契約者貸し付けを受けられる制度もあり、一時的な資金需要に応えることもできる。)

長期定期保険は、以前は支払った保険料は法人税基本通達9-3-5を適用して全額損金としていた時代もあったが、生命保険会社が保険期間中の貯蓄性を高めた保険商品を開発するたびに、国税当局が個別通達を出して、損金算入枠を制限するといったいたちごっこが続いていた。こうした問題に決着をつけるべく令和元年6月28日に「法人基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)が出されて、保険期間中の最高返戻率に基づく税制の取り扱いが明確となった。これによると、最高返戻率が50%以下の場合の保険料は全額損金算入、50%超70%以下の場合は保険期間開始から4割が経過するまでの期間は「支払保険料の6割」を損金算入、70%超85%以下の場合は保険期間開始から4割が経過するまでの期間は「支払保険料の4割」を損金算入、85%超の場合は保険期間開始後10年間は「支払保険料-支払保険料×最高返戻率×0.9」を損金算入することに決まった。

もちろん保険料相当額を預金として積み立てておくこともできるが、中小企業の場合、日々の資金繰り等の目的で積み立てていた預金を使ってしまいがちである。損金算入枠が制限されたとはいえ、少しは節税効果を得ながら、着実に積み立てを行い、キーマンに万が一の場合の保障を確保しつつ、企業の事業継続に支障が生じた場合に、必要な資金を即時に確保できる機能を持つ法人生命保険は中小企業の財務面からのBCPの手段として有効であると考えられる。

また中小企業は2期連続赤字になると、銀行から折り返しや追加の融資を受ける際の審査が厳しくなるといったリスクも抱えている。大災害やパンデミックの発生などで欠損が見込まれる状況になった場合に、法人生命保険を解約することで、受け取った解約払戻金と資産として計上している保険料積立金との差額を益金として計上することで黒字を確保して、銀行などとの取引関係を円滑に維持するという効果も期待できる。

一方、生命保険会社は過度な節税をうたい文句にすることなく、企業の事業リスクにしっかりと向き合って法人生命保険を販売していくことが求められると考える。

4――終わりに

私は、2011年3月の東日本大震災の発生直後に日本生命保険相互会社の仙台支社長として赴任し、お客様の安否確認と死亡保険金のお支払いなどの対応にあたった。その時に、多くのお取引先の企業から法人生命保険の解約のお申し出をいただいた。もちろん迅速に解約払戻金のお支払いを行ったが、その資金がその後のお取引先の企業の復旧、復興にお役立ていただいたものと考えている。改めて、BCPとしての法人生命保険の必要性を実感することになった。

多くの中小企業でこうしたBCPとしての経営セーフティ共済と法人生命保険について考えていただければ幸いである。

(2024年11月25日「研究員の眼」)

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