2024年06月05日

人口戦略会議・消滅可能性自治体と西高東低現象~ソフトインフラの偏在から検討する~

大阪経済大学経済学部教授 小巻 泰之

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(2)人口数、高齢化率
都道府県別の人口数及び高齢化率における地域間の偏在ついては、先行研究等では指摘されないが、1960年代からの状況を確認すると、両データとも地域偏在がみられる。都道府県別人口について、各地域の分布をもとに比較すると、西日本より東日本の人口数が多く、その差異(東高西低)は統計学的に有意な差が確認できる(図表4-1)。
図表4-1:都道府県別人口比率(平均の差の検定)
他方、都道府県別の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)については、人口数と異なり、2010年まで西日本の方が高い状況が続き、その差異(西高東低)は統計学的に有意な差が確認できる。ただし、2023年は、両地域の高齢化率における差異は統計学的に有意な差となっていない(図表4-2)。
図表4-2:都道府県別高齢化率(平均の差の検定)
したがって、人口動態的にみれば、東日本の方が概して人口数は多く、高齢化率は西日本の方が高い状況にあると考えられる。
(3)医師数
医師数については、森(2013)、日本経済新聞(2022)等が指摘するように、大学医学部の所在地に医師が多く、「西高東低」の傾向にある。つまり、医師養成機関の設置場所が西日本に多いことにより医師数が偏在する要因と指摘する見方が多い(図表5-1、5-2)。
図表5-1:都道府県別医師数(人口10万人当たり)
図表5-2:都道府県別医師数(平均の差の検定)
また、医師数の絶対数も少ないとの見方から、医学部入学定員は1980年代以降抑制されていたが、「骨太の方針 2008」を踏まえて2009年に増員に転じ、この効果は2015年以降に顕在することとなった。また、2004 年に導入された新医師臨床研修制度の下で、初期研修医が大学病院以外の病院を選ぶケースが増え、大学病院が主導する地域の医療機関への医師の派遣が中止された。この結果、医師の偏在が深刻化するとともに、医師不足が顕在化する可能性を指摘する見方もある(前田2022)。

厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」をもとに、1994年以降の状況をみると、一貫して医師数は西高東低傾向にあることが統計学的に有意に確認できる。しかし、新医師臨床研修制度の導入や定員増の効果等から小幅であるが東日本と西日本における偏在傾向は縮小傾向にある。

Okada, et al(2018)によれば、医者の勤務地の選択は卒業した地域への就職ではなく、さまざまな要素で決定されることを示している。医者の勤務地の移動により、医学部の設置場所による格差の一部分は是正されていると指摘している。また、勤務先としての病院や病床数の多さも影響している可能性が考えられる(谷本、2019)。
(4)看護師・准看護師数
医師数と同様に、看護師・准看護師数についても、西日本の方が有意に多い「西高東低」傾向にあることが確認できる(図表6-1、図表6-2)。大石・内藤・根岸(2001)では、看護従事者の地域偏在は老齢人口(65歳以上の高齢者)割合、病床数及び医師数に影響されていると指摘している。特に、老齢人口割合が高い場合には、准看護師を増加させる。この点については、3-(2)でみたように、西日本の方で高齢化率が高いので、准看護師を西日本で増加させる要因となっている。また、医師数と病床数であれば、病床数の方が影響を与えているとしている。
図表6-1:都道府県別看護師・准看護師数
図表6-2:都道府県別看護師・准看護師数(平均の差の検定)
上(2017)は、2006年度の診療報酬改定で「7対1入院基本料」が導入2されたことにより、看護師を不足とする地域では看護師需要が高まり、地域偏在につながったと指摘している。看護師の配置基準と診療報酬の連動し、病床数の多い地域で看護師需要が高まったと考えられる。
 
2 入院患者7人に看護師1人以上を配置している病院に対して、一患者あたり一日1万5550円が診療報酬として支払われることになった。
(5)一人当たり医療費
一人当たり医療費については、「西高東低」現象が長期にわたって継続している。厚生労働省「医療費の地域差分析」をもとに、1999年度以降の状況をみると、2022年度(最新値)まで、一人当たり医療費は西日本の方が統計学的に有意に高い状況にある(図表7-1、図表7-2)。土居(2018)での指摘のように、2014年に地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(医療介護総合確保推進法)が成立し、改正医療法に「地域医療構想」が位置づけられた。
図表7-1:都道府県別1人当たり医療費(年齢調整後、2022年度)
図表7-2:都道府県別1人当たり医療費(平均の差の検定)
その後、2015年の「地域医療構想策定ガイドライン」を参考に、各地域の構想地域での病床の機能区分にしたがった病床数の必要量が試算された。この試算に基づき、各都道府県では当該構想区域における将来の医療提供体制のあり方を検討した。さらに、これを踏まえ各都道府県が策定する「第7次医療計画」が2018年度から6か年計画でスタートしている。しかし、2018年度以降の地域差をみると必ずしも偏在の是正は進んでいない。特に、2020年以降の新型コロナ感染症への対応が影響しているのかもしれないが、2022年度には医療費の地域差が逆に拡大しているように伺える。

この背景には、西日本では人口に比して概ね、病床数が多いこと、入院患者の割合(入院受療率)が高いことが指摘されている。日本医師会総合政策研究機構(2017)では、病床数の地域差は高度経済成長期の人口移動を経て形成されたと指摘されている。また、人口10万対病床数が多い地域では中小病院が多く、また中小病院が多い地域では民間病院が多いとしている。

(2024年06月05日「基礎研レポート」)

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