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- 市民後見人とは何か~後見制度の担い手として期待される役割~
2024年05月28日
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2|市民後見人の活動方法
続いて、市民後見人の具体的な活動方法について見てみよう。市民後見人としての活動は、主に(1)個人受任での活動、(2)法人の支援員としての活動、の2通りがある(図表4)。
(1) 個人受任での活動
これは、家庭裁判所から選任された市民後見人が、個人で市町村等の支援を受けながら後見業務を行う方式だ。更に、個人受任での活動のなかでも、専門職等による活動支援の有無により、(1)単独選任型、(2)複数選任型、(3)監督人選任型の3つのスタイルに分かれる。
(1) 単独選任型:市民後見人が単独で選任されるスタイル
(2) 複数選任型:市民後見人の他に専門職や社会福祉協議会等の後見人等が複数人で選任されるスタイル
(3) 監督人選任型:市民後見人が後見人、専門職や社会福祉協議会等が監督人に選任されるスタイル
それぞれのスタイルにおいて、メリット、デメリットはあるが、(1)単独選任型では後見人1人が本人の全ての身上保護と財産管理を担うため、後見人自身の性格等、特長を活かした柔軟な後見業務を迅速に行うことができる反面、後見業務の責任の重さを全て一人で背負うことになるので、後見人にとっては負担感も大きく、また財産管理の面では監督機能が十分に果たせなくなる可能性が懸念される。
また、(2)複数選任型では、後見業務の負担を複数人で分担し、また必要に応じて専門職の支援が得られることから、本人が介護、財産管理を行うなかで当初は予期していなかったような事態が発生した場合でも、専門職の支援を得ながら安定した後見業務を継続することができる。その反面、複数の後見人間で後見業務の方針について意見が対立した場合などは、意見調整が必要となり、迅速な対応が出来なくなる場面が懸念される。
最後に(3)監督人選任型については、(1)単独選任型、(2)複数選任型それぞれのメリットを取り入れ、必要に応じて監督人である専門職や社会福祉協議会等の支援を得ながら後見人が柔軟に後見業務を行うことができる。また、これら監督人の配置により、後見業務全般の監督機能を高めることも期待できる。一方で、後見人にとっては、監督人への報告業務の負荷や活動に一定の制約が発生することがデメリットとなる。
続いて、市民後見人の具体的な活動方法について見てみよう。市民後見人としての活動は、主に(1)個人受任での活動、(2)法人の支援員としての活動、の2通りがある(図表4)。
(1) 個人受任での活動
これは、家庭裁判所から選任された市民後見人が、個人で市町村等の支援を受けながら後見業務を行う方式だ。更に、個人受任での活動のなかでも、専門職等による活動支援の有無により、(1)単独選任型、(2)複数選任型、(3)監督人選任型の3つのスタイルに分かれる。
(1) 単独選任型:市民後見人が単独で選任されるスタイル
(2) 複数選任型:市民後見人の他に専門職や社会福祉協議会等の後見人等が複数人で選任されるスタイル
(3) 監督人選任型:市民後見人が後見人、専門職や社会福祉協議会等が監督人に選任されるスタイル
それぞれのスタイルにおいて、メリット、デメリットはあるが、(1)単独選任型では後見人1人が本人の全ての身上保護と財産管理を担うため、後見人自身の性格等、特長を活かした柔軟な後見業務を迅速に行うことができる反面、後見業務の責任の重さを全て一人で背負うことになるので、後見人にとっては負担感も大きく、また財産管理の面では監督機能が十分に果たせなくなる可能性が懸念される。
また、(2)複数選任型では、後見業務の負担を複数人で分担し、また必要に応じて専門職の支援が得られることから、本人が介護、財産管理を行うなかで当初は予期していなかったような事態が発生した場合でも、専門職の支援を得ながら安定した後見業務を継続することができる。その反面、複数の後見人間で後見業務の方針について意見が対立した場合などは、意見調整が必要となり、迅速な対応が出来なくなる場面が懸念される。
最後に(3)監督人選任型については、(1)単独選任型、(2)複数選任型それぞれのメリットを取り入れ、必要に応じて監督人である専門職や社会福祉協議会等の支援を得ながら後見人が柔軟に後見業務を行うことができる。また、これら監督人の配置により、後見業務全般の監督機能を高めることも期待できる。一方で、後見人にとっては、監督人への報告業務の負荷や活動に一定の制約が発生することがデメリットとなる。
(2) 法人の支援員としての活動
これは、先ず地域における社会福祉協議会やNPO法人等が法人として後見業務を受任し、市民後見人はこれらの法人と契約をして支援員として活動する方式だ。法人の支援員として活動することにより、複数の支援員や専門職のチームで後見業務を行うことができるため、安定した業務遂行が可能となる。また、後見業務を行うにあたっては金融機関への対応も不可欠となるが、法人の支援員の方が個人よりも金融機関等から認知を得やすい点も活動しやすさのなかでメリットとなる。一方で、デメリットとしては後見業務の方針は法人の意向に従う必要があるため、市民後見人の裁量に一定の制限がかかることがあげられる。
個人受任、法人の支援員いずれの活動方式についてもメリット、デメリットはあるが、本人の権利擁護のために、どのような方法が地域の実情に応じた最適解なのか、市町村では検討・取組みが行われている。
これは、先ず地域における社会福祉協議会やNPO法人等が法人として後見業務を受任し、市民後見人はこれらの法人と契約をして支援員として活動する方式だ。法人の支援員として活動することにより、複数の支援員や専門職のチームで後見業務を行うことができるため、安定した業務遂行が可能となる。また、後見業務を行うにあたっては金融機関への対応も不可欠となるが、法人の支援員の方が個人よりも金融機関等から認知を得やすい点も活動しやすさのなかでメリットとなる。一方で、デメリットとしては後見業務の方針は法人の意向に従う必要があるため、市民後見人の裁量に一定の制限がかかることがあげられる。
個人受任、法人の支援員いずれの活動方式についてもメリット、デメリットはあるが、本人の権利擁護のために、どのような方法が地域の実情に応じた最適解なのか、市町村では検討・取組みが行われている。
ここで注目すべきことは、実際に後見人として活動することを希望する登録者数は、養成者数の35.2%となるわずか8,202人であり、更に実際に後見人として受任している者は養成者の8.2%となる1,904人しかいないことだ。法人後見の支援員として従事している2,608人と合わせても、養成者数全体の2割弱しか後見人として活動をしていないのが実態で、残念ながら養成者を十分に活かしきれていない状況だ。
このように、市民後見人の活用が進まない背景には、未だ自治体において市民後見人の養成に十分に取り組めていないことが挙げられる。厚労省の調査8によると、市町村1,741団体のうち、2023年度における市民後見人の養成等の実施有無を尋ねたところ、わずか418団体(24.0%)しか実施していなかった。
また、第二期成年後見制度利用促進基本計画では、全国どの地域においても必要な人が成年後見制度を利用できるよう、地域連携ネットワーク9づくりを進めているが、そのなかで市町村の役割として、地域連携ネットワークのコーディネート機能を担う中核機関の整備・運営に主体的に取り組むことを求めている。しかしながら、中核機関の整備状況10をみると、全国の自治体1,741団体のうち、2023年4月1日時点で既に整備している自治体は1,070団体(61.5%)であり、2025年整備予定を含めても1,293団体(74.2%)となっている。とりわけ、自治体の人数規模による整備状況の格差は大きく、50万人以上の自治体では既に100%が整備済だが、1万人未満の自治体では49.7%(2025年予定でも59.2%)に留まっている。
このように、市民後見人の活用が進まない背景には、未だ自治体において市民後見人の養成に十分に取り組めていないことが挙げられる。厚労省の調査8によると、市町村1,741団体のうち、2023年度における市民後見人の養成等の実施有無を尋ねたところ、わずか418団体(24.0%)しか実施していなかった。
また、第二期成年後見制度利用促進基本計画では、全国どの地域においても必要な人が成年後見制度を利用できるよう、地域連携ネットワーク9づくりを進めているが、そのなかで市町村の役割として、地域連携ネットワークのコーディネート機能を担う中核機関の整備・運営に主体的に取り組むことを求めている。しかしながら、中核機関の整備状況10をみると、全国の自治体1,741団体のうち、2023年4月1日時点で既に整備している自治体は1,070団体(61.5%)であり、2025年整備予定を含めても1,293団体(74.2%)となっている。とりわけ、自治体の人数規模による整備状況の格差は大きく、50万人以上の自治体では既に100%が整備済だが、1万人未満の自治体では49.7%(2025年予定でも59.2%)に留まっている。

8 厚生労働省「令和5年度成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果(概要)」
9 地域連携ネットワークとは、地域の社会資源をネットワーク化し、各地域において、相談窓口を整備するとともに、支援の必要な人を発見し、適切に必要な支援につなげる地域連携の仕組みをいう。地域連携ネットワークは(1)権利擁護支援チーム(本人に身近な親族、保健・福祉・医療・法律等の専門職等)、(2)協議会(専門職団体、関係団体等)、(3)中核機関(市町村による直営、または委託等。例えば、社会福祉協議会、NPO法人、公益法人等)から成る。
10 厚生労働省「令和5年度成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果(概要版)」
4|市民後見人の今後の期待
今後、高齢化の進展とともに認知症患者数が増加し、後見制度の担い手不足の課題を解消できなければ、それは高齢者にとって希望する生活を放棄せざるを得ない現実に直結することになる。この課題を解決するには、地域にいる志をもった市民の力を最大限に活用することが有意義であることは間違いない。
一方で、後見業務を行うにあたっては、成年後見制度、介護保険制度、民法等の基本的な知識に加えて、認知症により判断能力が低下した人とのコミュニケーション能力、本人の意思決定支援のための技術、財産管理を行うための事務能力など、幅広い能力が求められる。更に、高齢者の生活では、疾病、ケガ等の予期せぬ事態の発生により、住まいも含めた生活全般が激変する事態も発生しやすく、これらの対応として重大な判断を求められるなど精神的な重圧も大きい。
従って、市民後見人を担い手不足解消の切り札として活用していくには、市民後見人が専門職を含めたチームによる支援を受けて安心して働ける環境を自治体側が整備できるかにかかっていると言えよう。そのような環境が整備できれば、担い手不足の解消だけでなく、現在は想定していないような多少難度の高い案件等への対応へも広げることが出来るものと思われる。
今後、高齢化の進展とともに認知症患者数が増加し、後見制度の担い手不足の課題を解消できなければ、それは高齢者にとって希望する生活を放棄せざるを得ない現実に直結することになる。この課題を解決するには、地域にいる志をもった市民の力を最大限に活用することが有意義であることは間違いない。
一方で、後見業務を行うにあたっては、成年後見制度、介護保険制度、民法等の基本的な知識に加えて、認知症により判断能力が低下した人とのコミュニケーション能力、本人の意思決定支援のための技術、財産管理を行うための事務能力など、幅広い能力が求められる。更に、高齢者の生活では、疾病、ケガ等の予期せぬ事態の発生により、住まいも含めた生活全般が激変する事態も発生しやすく、これらの対応として重大な判断を求められるなど精神的な重圧も大きい。
従って、市民後見人を担い手不足解消の切り札として活用していくには、市民後見人が専門職を含めたチームによる支援を受けて安心して働ける環境を自治体側が整備できるかにかかっていると言えよう。そのような環境が整備できれば、担い手不足の解消だけでなく、現在は想定していないような多少難度の高い案件等への対応へも広げることが出来るものと思われる。
4――さいごに
本稿では、成年後見の担い手不足が課題となるなかで、市民後見人の現状と課題について各種調査結果等を用いながらとりまとめた。
そのなかでは、市民後見人という制度はありつつも、自治体での活用に向けた体制整備が間に合っていない状況もあり、その貴重な資源を十分に活かしきれていない現状も見えてくる。市民後見人の養成講座受講者は、市民後見人以外でも自治会・マンション管理組合等の役員、民生委員・児童委員、介護サービス相談員など、幅広い分野で活躍しているとの調査結果11もあり、地域貢献への高い志を持った市民を活かせる機会はまだまだありそうだ。そしてこれら市民を地域で増やしていくことが、地域における権利擁護意識の向上にもつながり、認知症の人が尊厳と希望を持って認知症とともに生きる、また、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きることのできる共生社会の根幹を創ることにもなるだろう。
認知症高齢者の増加が見込まれるなかで、成年後見制度の普及は待ったなしだが、市民後見人の一層の活用と合わせて任意後見制度の普及、受け皿となる専門職、民間身元保証会社などの選択肢の充実も必要だ。人生の「ラストワンマイル」において、自身の生活の質を左右するのは財産の多寡だけではなく、後見を含めた支援者の存在であることは間違いない。現在、一人暮らしでなく、夫婦二人暮らしであっても、いずれかはどちらかが一人になることを想定し、誰が自身にとって人生の最終支援者になるのか、考えてみることは必要だろう。
11 特定非営利活動法人 地域共生政策自治体連携機構「市民後見人養成研修カリキュラム及び市民後見人の活躍推進に関する調査研究事業報告書」(令和5年3月)
そのなかでは、市民後見人という制度はありつつも、自治体での活用に向けた体制整備が間に合っていない状況もあり、その貴重な資源を十分に活かしきれていない現状も見えてくる。市民後見人の養成講座受講者は、市民後見人以外でも自治会・マンション管理組合等の役員、民生委員・児童委員、介護サービス相談員など、幅広い分野で活躍しているとの調査結果11もあり、地域貢献への高い志を持った市民を活かせる機会はまだまだありそうだ。そしてこれら市民を地域で増やしていくことが、地域における権利擁護意識の向上にもつながり、認知症の人が尊厳と希望を持って認知症とともに生きる、また、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きることのできる共生社会の根幹を創ることにもなるだろう。
認知症高齢者の増加が見込まれるなかで、成年後見制度の普及は待ったなしだが、市民後見人の一層の活用と合わせて任意後見制度の普及、受け皿となる専門職、民間身元保証会社などの選択肢の充実も必要だ。人生の「ラストワンマイル」において、自身の生活の質を左右するのは財産の多寡だけではなく、後見を含めた支援者の存在であることは間違いない。現在、一人暮らしでなく、夫婦二人暮らしであっても、いずれかはどちらかが一人になることを想定し、誰が自身にとって人生の最終支援者になるのか、考えてみることは必要だろう。
11 特定非営利活動法人 地域共生政策自治体連携機構「市民後見人養成研修カリキュラム及び市民後見人の活躍推進に関する調査研究事業報告書」(令和5年3月)
参考文献
・地域後見推進プロジェクトホームページ https://kouken-pj.org/about/citizen/
・厚生労働省 成年後見はやわかりホームページ https://guardianship.mhlw.go.jp/
(2024年05月28日「基礎研レター」)
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03-3512-1774
経歴
- 【職歴】
1988年 日本生命保険に入社
日本生命にて国際保険部、米国日本生命(ニューヨーク支店、ロサンゼルス支店)、官公庁、外資系企業等の法人営業部門等を経て、2020年ニッセイ基礎研究所入社。
2024年4月より現職
鈴木 寧のレポート
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2024/05/28 | 市民後見人とは何か~後見制度の担い手として期待される役割~ | 鈴木 寧 | 基礎研レター |
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