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「権利の上に眠る者はこれを保護せず」という考え方はローマ法以来の法理のようである。法的安定性を保ち法秩序を維持していく上では、まことにもっともな法理であるが、世の中がこれだけ複雑になってくると、自分がどのような権利を持っているかが把握しきれないといった事情も生じてきているように思える。
それはそれとして、権利を行使しないのはその上に眠っている人だけではない。権利を行使したくてもそうした能力がないかあるいは不十分な人が存在する。典型的な例は未成年者であり、これには親権者の制度があるが、成年者であっても権利を行使する能力に欠ける人はいる。この問題に対応するために、我が国の民法では、古くから禁治産者、準禁治産者という制度を設けてきたが、その人格否定的な名称や戸籍記載の必要性からか、実際の利用はごく限られたものにとどまってきた。
そして時代は移り、高齢化が進み世の中が複雑になる中で、認知症などで権利行使に際してのサポートを必要とすることがごく一般的になりつつある。そうしたことから、禁治産者、準禁治産者の制度は改められ、成年後見制度が2000年からスタートした。
この成年後見制度と同じ2000年にスタートした介護保険制度は、身体面・日常生活面で高齢者をサポートするものであるが、高齢者が尊厳を保ちつつ安んじて天寿を全うするためには、それに加えて、経済取引面、資産管理面をサポートする成年後見制度も重要である。
しかしながら、成年後見制度の普及状況は必ずしも芳しくないようだ。法務省の資料によれば、成年後見の開始件数は2007年までの8年間で約15万件に過ぎない。これに対して、認知症高齢者は既に200万人を超え増加の一途を辿っている。現時点では判断能力に問題がなくても、一人暮らしの高齢者など将来に不安を抱く人は多く、こうしたサポートに対する潜在的なニーズは膨大なものであろう。
こうしたニーズに対して、担い手は圧倒的に不足している。現在の後見人の属性は親族8割、専門職(司法書士など)2割といったところのようだが、今後増大するニーズに応えていく上では市民の参加が欠かせない。公的介護保険の先達であるドイツでは、専門職後見人に加え100万人の市民が後見活動を展開しているという。我が国でも、最近、一部の大学や自治体、NPOによる市民後見人養成講座がようやく始まりつつあるが、こうした仕事は団塊の世代など退職者の社会貢献(&一定の収入の確保)の手段として適しているのではないか。
介護現場における担い手不足ばかりが叫ばれるが、「経済取引・資産管理面の介護」も重要である。市民後見人の早急な養成に期待したい。
(2009年05月25日「基礎研マンスリー」)
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