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2024年05月16日
欧州大手保険Gの2023年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況-
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1―はじめに
欧州大手保険グループの2023年決算数値が、2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Reportの形で公表された。
前回のレポート1では、生命保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について報告した。
ここ数年における新たな規制への対応や金利環境下で、各社とも貯蓄・年金商品等の伝統的な利率保証付商品から、ユニットリンク型商品や保障・医療商品へのシフトを志向してきた。こうした状況は、グループ全体として基本的には同じ方向に向かっているが、その実態は地域毎に若干異なっていた。これらは、各地域の保険市場や金融資本市場の状況やそれらを反映した保険商品の収益性等に関係している。
今回のレポートでは、2023年の生命保険事業の新契約業績について、商品タイプ別、地域別の販売動向及び新契約マージン等の数値を通じて、欧州大手保険グループの商品シフトの現状及び収益性の状況を報告する。なお、これまでの欧州大手保険Gの2023年決算に関するレポートで述べてきたように、2023年からは新たな保険契約会計基準であるIFRS第17号が適用されており、これに伴い、開示情報の見直し等が行われ、昨年まで公表されていた数値が公表されなくなったり、また公表された場合も2022年数値の再計算等も行われていたり、しているので、これまでのこのレポートで報告してきた数値の継続性は必ずしも維持されていないことには注意を要する。ただし、過去からの傾向を見る上では参考になることから、2021年以前の数値も過去のベースでそのまま掲載している(以下の図表では、例えば二重線を境に計算基準等が変更されている)場合もある。
1 基礎研レポート「欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2023年決算数値等に基づく現状分析-」(2024.4.25)
前回のレポート1では、生命保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について報告した。
ここ数年における新たな規制への対応や金利環境下で、各社とも貯蓄・年金商品等の伝統的な利率保証付商品から、ユニットリンク型商品や保障・医療商品へのシフトを志向してきた。こうした状況は、グループ全体として基本的には同じ方向に向かっているが、その実態は地域毎に若干異なっていた。これらは、各地域の保険市場や金融資本市場の状況やそれらを反映した保険商品の収益性等に関係している。
今回のレポートでは、2023年の生命保険事業の新契約業績について、商品タイプ別、地域別の販売動向及び新契約マージン等の数値を通じて、欧州大手保険グループの商品シフトの現状及び収益性の状況を報告する。なお、これまでの欧州大手保険Gの2023年決算に関するレポートで述べてきたように、2023年からは新たな保険契約会計基準であるIFRS第17号が適用されており、これに伴い、開示情報の見直し等が行われ、昨年まで公表されていた数値が公表されなくなったり、また公表された場合も2022年数値の再計算等も行われていたり、しているので、これまでのこのレポートで報告してきた数値の継続性は必ずしも維持されていないことには注意を要する。ただし、過去からの傾向を見る上では参考になることから、2021年以前の数値も過去のベースでそのまま掲載している(以下の図表では、例えば二重線を境に計算基準等が変更されている)場合もある。
1 基礎研レポート「欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2023年決算数値等に基づく現状分析-」(2024.4.25)
2―欧州大手保険グループ各社の新契約業績動向等
この章では、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業(医療保険を含む)について、新契約の年換算保険料(Annual Premium Equivalent :APE)、新契約保険料現在価値(Present Value of New Business Premiums:PVNBP又はPresent Value of Expected Premiums:PVEP)、新契約価値(New Business Value:NBV又はValue of New Business:VNB)や新契約利益(New Business Profit:NBP)及び新契約マージン(New Business Margin又はNew Business Value Margin)等の状況について、商品タイプ別、地域別に報告する。なお、これらの用語の定義や名称等は、その分母及び分子の考え方等について各社各様である。このレポートにおいては、各社が公表している資料に基づいて、これらの数値やその説明等の内容について、筆者の解釈に従って報告している2。また、各社によって、開示情報の内容等がかなり異なっていることから、以下のレポートで各社に割かれているページ数にはかなりの差異があることを述べておく。
2 新契約価値の地域別状況等については、前回のレポートも適宜参照していただきたい。
2 新契約価値の地域別状況等については、前回のレポートも適宜参照していただきたい。
1|AXA
(1) 全体の状況3
2023年の新契約価値(NBV)4は、2022年に比べて0.3 %減少(為替レートや範囲等を同一とした「比較ベース」では2.8%増加、以下同様)、金額で7百万ユーロ減少して、2,281百万ユーロとなった。
新契約マージン(NBV Margin)5(=新契約価値/新契約保険料現在価値(PVEP))は、主にビジネスミックスの悪化による保障商品の影響で、2022年に比べて0.3%ポイント低下(0.2%ポイント低下)して、5.0%となった。
新契約保険料現在価値(PVEP)6は、2022年に比べて5.9%(7.7%)増加して、45,856百万ユーロとなった。これは、主に香港での保障商品の販売量の増加と、フランスとイタリアでの軽資本勘定貯蓄商品の販売増加によるもので、これに加えて金利低下が主に欧州とフランスでの割引に好影響を及ぼした。
(1) 全体の状況3
2023年の新契約価値(NBV)4は、2022年に比べて0.3 %減少(為替レートや範囲等を同一とした「比較ベース」では2.8%増加、以下同様)、金額で7百万ユーロ減少して、2,281百万ユーロとなった。
新契約マージン(NBV Margin)5(=新契約価値/新契約保険料現在価値(PVEP))は、主にビジネスミックスの悪化による保障商品の影響で、2022年に比べて0.3%ポイント低下(0.2%ポイント低下)して、5.0%となった。
新契約保険料現在価値(PVEP)6は、2022年に比べて5.9%(7.7%)増加して、45,856百万ユーロとなった。これは、主に香港での保障商品の販売量の増加と、フランスとイタリアでの軽資本勘定貯蓄商品の販売増加によるもので、これに加えて金利低下が主に欧州とフランスでの割引に好影響を及ぼした。
なお、2023年の新契約CSM7(税引前) は2,218百万ユーロで、新契約価値(NBV)の2,281百万ユーロへの調整は、その他のNBVで+806百万ユーロ、税で ▲744百万ユーロ、となっている。
3 ここでの具体的な数値は、(2)以下の図表等も参照していただきたい(以下、同様)。
4 AXAは、NBVについて、以下のように説明している。
「NBVは、当年度中に新たに発行された契約の価値を表しており、これは、(i)新契約のCSM、(ii)予想される更新を考慮した、生命保険会社が保有する期間中に新規に発行された短期契約の将来利益の現在価値、(iii) IFRS第9号に基づいて会計処理された純粋な投資契約の将来利益の現在価値、の合計から、(iv)再保険費用、(v)税金、(vi)少数株主利益を控除したもの、で構成される。」
5 これを翻訳すると「新契約価値マージン」となるが、ここでは他社に合わせて「新契約マージン」としている。
6 AXAは、PVNBPではなく、「予想保険料現在価値(Present Value of Expected premium:PVEP)」と称している。
7 CSM(Contractual Service Margin)は「契約上のサービスマージン」で、将来利益の現在価値に相当している。
3 ここでの具体的な数値は、(2)以下の図表等も参照していただきたい(以下、同様)。
4 AXAは、NBVについて、以下のように説明している。
「NBVは、当年度中に新たに発行された契約の価値を表しており、これは、(i)新契約のCSM、(ii)予想される更新を考慮した、生命保険会社が保有する期間中に新規に発行された短期契約の将来利益の現在価値、(iii) IFRS第9号に基づいて会計処理された純粋な投資契約の将来利益の現在価値、の合計から、(iv)再保険費用、(v)税金、(vi)少数株主利益を控除したもの、で構成される。」
5 これを翻訳すると「新契約価値マージン」となるが、ここでは他社に合わせて「新契約マージン」としている。
6 AXAは、PVNBPではなく、「予想保険料現在価値(Present Value of Expected premium:PVEP)」と称している。
7 CSM(Contractual Service Margin)は「契約上のサービスマージン」で、将来利益の現在価値に相当している。
(2) 新契約マージン(対PVNBP)等の地域別状況
PVNBP、NBV及び新契約マージン(対PVNBP)の地域別状況は、次ページの図表の通りとなっている。
これによれば、PVNBP(PVEP)では、自国のフランスが47%を占めているが、NBVではフランスは29%で、アジア・国際が46%を占めている。この結果として、新契約マージンについて、グループ全体では5.0%だが、アジア・国際が7.7%と高く、フランス以外の欧州が5.4%であるのに対して、フランスは3.0%と低い水準になっている。なお、図表には示されていないが、新契約マージンを生命保険と医療保険に分けた場合、グループ全体(生命保険5.3%、医療4.0%、以下同様)、フランス(3.7%、1.8%)、フランス以外の欧州(5.9%、3,3%)、アジア・アフリカ・EME-LATM8(6.7%、12.5%)となっている。
PVNBP、NBV及び新契約マージン(対PVNBP)の地域別状況は、次ページの図表の通りとなっている。
これによれば、PVNBP(PVEP)では、自国のフランスが47%を占めているが、NBVではフランスは29%で、アジア・国際が46%を占めている。この結果として、新契約マージンについて、グループ全体では5.0%だが、アジア・国際が7.7%と高く、フランス以外の欧州が5.4%であるのに対して、フランスは3.0%と低い水準になっている。なお、図表には示されていないが、新契約マージンを生命保険と医療保険に分けた場合、グループ全体(生命保険5.3%、医療4.0%、以下同様)、フランス(3.7%、1.8%)、フランス以外の欧州(5.9%、3,3%)、アジア・アフリカ・EME-LATM8(6.7%、12.5%)となっている。
また、商品タイプ別の内訳は、以下の図表が示しているように、グループ全体では、保障と医療が66%(2022年は68%、以下同様)、ユニットリンクが14%(13%)、軽資本一般勘定が16%(19%)等となっている。
(2023年は該当数値が公表されていないが)2022年までに公表されてきた数値によれば、商品タイプ別の構成比は、地域別に大きく異なっている。欧州では保障と医療がそれぞれ3割程度、一般勘定貯蓄、ユニットリンクがそれぞれ2割程度となっていたが、アジアではユニットリンクの構成比は低く、保障が6割以上で、その他に医療及び一般勘定貯蓄が一定割合を占めていた。
これをさらに各国別で見てみると、欧州やアジア諸国間でも状況は一律ではなく、それぞれの国の保険市場の特徴が反映された形になっている。
(2023年は該当数値が公表されていないが)2022年までに公表されてきた数値によれば、商品タイプ別の構成比は、地域別に大きく異なっている。欧州では保障と医療がそれぞれ3割程度、一般勘定貯蓄、ユニットリンクがそれぞれ2割程度となっていたが、アジアではユニットリンクの構成比は低く、保障が6割以上で、その他に医療及び一般勘定貯蓄が一定割合を占めていた。
これをさらに各国別で見てみると、欧州やアジア諸国間でも状況は一律ではなく、それぞれの国の保険市場の特徴が反映された形になっている。
8 アジア、アフリカ、欧州・中東・中南米からの15カ国以上で構成されている。
2|Allianz
(1)全体の状況
2023年の新契約価値(VNB)9は、2022年に比べて2.2%増加して3,985百万ユーロとなった。これは主に、フランスにおける保証型貯蓄と年金の利ざやの増加と、Allianz Reinsuranceにおける保障と医療に関する大規模な再保険契約によるもので、ドイツでの一時払保険料の売上減少によって部分的に相殺された。
新契約マージン(New Business Margin)(=新契約価値/新契約保険料現在価値(PVNBP))は、2022年に比べて横ばいの5.9%となった。全ての商品ラインは強いマージンを有しており、新契約マージンは目標レベルの5%を上回っている、としている。
また、新契約保険料現在価値(PVNBP)は、売上の好調な勢い(+42億ユーロ、+6%)が為替変動(▲9億ユーロ、▲1%)と主に金利の上昇による割引効果での経済的影響(▲27億ユーロ、▲4%)により一部相殺されたが、1.6%増加して67,281百万ユーロとなった。
(1)全体の状況
2023年の新契約価値(VNB)9は、2022年に比べて2.2%増加して3,985百万ユーロとなった。これは主に、フランスにおける保証型貯蓄と年金の利ざやの増加と、Allianz Reinsuranceにおける保障と医療に関する大規模な再保険契約によるもので、ドイツでの一時払保険料の売上減少によって部分的に相殺された。
新契約マージン(New Business Margin)(=新契約価値/新契約保険料現在価値(PVNBP))は、2022年に比べて横ばいの5.9%となった。全ての商品ラインは強いマージンを有しており、新契約マージンは目標レベルの5%を上回っている、としている。
また、新契約保険料現在価値(PVNBP)は、売上の好調な勢い(+42億ユーロ、+6%)が為替変動(▲9億ユーロ、▲1%)と主に金利の上昇による割引効果での経済的影響(▲27億ユーロ、▲4%)により一部相殺されたが、1.6%増加して67,281百万ユーロとなった。
なお、2023年の新契約CSMは4,515百万ユーロで、新契約価値(VNB)の3,985百万ユーロへの調整は、対象契約で+107百万ユーロ、非帰属費用で▲637百万ユーロ、となっている。
9 Allianzは、VNBについて、以下のように説明している。
「VNBは、新契約の引受けによって生じる株主への追加価値であり、新契約費用のオーバーラン又はアンダーラン及び非帰属費用を調整した税引前の将来利益の現在価値からリスク調整を引いたものとして決定される。」
9 Allianzは、VNBについて、以下のように説明している。
「VNBは、新契約の引受けによって生じる株主への追加価値であり、新契約費用のオーバーラン又はアンダーラン及び非帰属費用を調整した税引前の将来利益の現在価値からリスク調整を引いたものとして決定される。」
(2024年05月16日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/05/02 | 曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- | 中村 亮一 | 研究員の眼 |
2025/04/25 | 欧州大手保険グループの2024年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/14 | 欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/01 | 欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
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